おときき通信

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クラウドワークスなどで、ウェブライターとして活動している大学生。 ロック、メタル、ジャズ、フュージョン、ブラックミュージックなどなど… 自分の好きな音楽を発信します。 ギターもやってます。愛機はフェンダーアメリカンスタンダードテレキャスターです。 お気軽にコメントください。 よろしくお願いします!


昨日予告した通り、今回ご紹介するのはジェネシスが76年に発表した7枚目のアルバム、『A Trick of the Tail (トリック・オブ・ザ・テイル)』。

ジェネシスにとっては非常に大きなターニングポイントとなった作品です。

前作『The Lamb Lies Down on Broadway』のツアー中、変人カリスマボーカリストとしてグループの顔役を務めてきたピーター・ガブリエルが脱退を決意。

前作の制作中に生じたメンバーとの摩擦や、プライベートな事情もあっての脱退でしたが、当時勢いのあったバンドにとっては、彼の脱退は相当な痛手となりました

その影響はメンバーのみならずファンにとっても大きく、脱退発覚後はジェネシス終了説まで囁かれるほど、グループは窮地に立たされるのでした。

並のバンドならここでジ・エンドですが、そこは才人揃いのジェネシス。残ったメンバーはバンドの継続を決意し、再び曲を書き始めます。

そうなると当然新しいボーカリストが必要となり、彼らはメロディメイカー紙に匿名でメンバー募集記事を掲載。

「ジェネシスのようなグループのシンガー募集」という名目で募集をかけたところ、400件ほどの応募が来たそうです。

その中からミック・スティックランドという人物を選んだものの、いざ歌わせてみると曲のキーが合わず、結局断念。

最終的に、ドラマーであるフィル・コリンズがボーカルを務めることになり、本作は完成します。

人気バンドの個性派ボーカルの後釜ということで、フィルへのプレッシャーは相当なものであったことは容易に想像できますが、実際彼はボーカリストになるのは嫌がっていたそうです

後に世界的なポップスターになるフィルも、この頃は自分がフロントマンになることに不安を抱いていたんですね。

さて、そんなグループの存続危機を乗り越え発表された本作ですが、脱退後にスタジオを訪れたピーガブがそのクオリティに驚いたと語っている通り、非常に質の高い楽曲が揃っています




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ジャケットデザインはお馴染みヒプノシス
彼らのファンタジックな音楽性にとてもマッチしています。



☆参加メンバー

・Mike Rutherford
 – 12-string guitar, bass, bass pedals
・Tony Banks – pianos, synthesizers, organ, Mellotron, 12-string guitar, backing vocals
・Phil Collins – drums, percussion, lead and backing vocals
・Steve Hackett – electric guitar, 12-string guitars




アルバムの冒頭を飾るのは①『Dance on a Volcano』。
それまでのジェネシスには無かったハードな曲調、特にフィルのドラムは躍動感に満ち溢れています。
ドラムと共に彼のボーカルも堂々としており、それでいてピーガブに寄せて上手く歌っていますね。
特に目立っているのはフィルですが、トニー・バンクスのシンセ、スティーヴ・ハケットのギターによる速弾きやユニゾンを織り交ぜたテクニック全開の演奏も聴きどころ。
ピーガブが抜けた影響をまるで感じさせない、正に噴火寸前のような緊張感に満ちた衝撃的なオープニングですね。




ド派手な①とは打って変わって、②『Entangled』は12弦ギターを活かした従来のジェネシスらしい繊細な音世界。
コーラスが際立ったサビは、プログレという枠にとらわれないボーダーレスな美しさです。
声質は似ていながらも、少し神経質な感じが好みの分かれるであろうピーガブよりも、よりソフトで受け入れられやすいフィルの声は、こういう曲調にとても合っています。
メロトロンの使い方も流石の一言で、メロディーには更に叙情性を、演奏には4人とは思えない厚みを加えてますね。
個人的にジェネシスはトニー・バンクスのバンドだと思う所以は、彼が作りだすこういうサウンドメイクにあります。

骨太なビートに乗せて、北アメリカに伝わる伝説の動物スクォンクについて歌う③『Squonk』は、中期ジェネシスのライブでは定番の人気曲。
マイク・ラザフォードのベースとフィルのドラムのコンビネーションは、ブルースロック的なパワフルなグルーヴを生み出しています。
トニーによれば、中盤はレッド・ツェッペリンの『Kashimir』を意識したらしく、どっしりとした雰囲気が確かに似てますね。
シンプルな展開ながら、ブリティッシュロックらしい奥行きのある良曲

後にフィルはライヴエイドというチャリティーコンサートでレッド・ツェッペリンと共演しますが、その時の評判は芳しくないですね…(笑)
本人も乗り気ではなかったようですし、やはりツェッペリンの再結成は2007年の時が一番ですかね。




切なく胸を締め付けるバラード④『Mad Man Moon』においても、トニーの編曲能力の素晴らしさが示されています。
ピアノやメロトロン、マリンバ風のシンセなど、様々な鍵盤楽器を盛り込みながらもアレンジには統一感を持たせていて、キーボードだけで殆ど成り立たせているような活躍ぶり
メロディーは甘やかで美しく、曲の展開も良く練られていますが、やはりこの曲の主役は彼のキーボードです。

どこかコミカルで表情豊かなボーカルが楽しめる⑤『Robbery, Assault, and Battery』。
フィルの子役時代の経験が活かされているというこの曲、どうしてもボーカルよりも彼のドラミングに耳が行きます。
変拍子を混ぜながら叩きまくるドラムは、当時のフュージョン系プレイヤーにも劣らないハイテクぶりで、マイク・ポートノイをはじめとする後の多くのテクニカルドラマーに影響を与えただけあります。
彼のドラマーとしての全盛期は、本作も含む70年代後半じゃないでしょうか
プログレ界ではビル・ブルーフォードと並ぶ実力派だと言えますが、個人的にはよりダイナミックなフィルのドラムの方が好きですね。




⑥『Ripples』もまた名曲です。
この曲も12弦ギターの瑞々しい響きが空間を満たし、幻想的で美しいせせらぎに身を浸すよう。
②と同じタイプで、フィルの伸びやかなボーカルがあってこそのパワーがあります。
また、ハケット先生のさり気ないギターがあることによって、やはりプログレ感が出るんですよね。
目立つプレーは少ないものの、彼の脱退後はサウンドが大きく変わったことからも、唯一無二の個性を持ったプレイヤーなんだなと分かります。




タイトルトラックである⑦『A Trick of the Tail』は、本作でも特に聴きやすいポップなナンバー。
とは言っても、後のフィル主導のポップさとは全く違う少し霧がかかったような質感なんですが。
メロディーラインに寄り添うマイクのベースが何とも気持ちよく、キャッチーなメロディーを更に印象付けています。
リズムのアレンジはビートルズの『Getting Better』を意識したらしく、原曲の弾むようなグルーヴをジェネシスなりに再現。
この曲に関してはピーガブのボーカルの方が雰囲気的に合っているんじゃないかと思っていたのですが、実際にこの曲は『Foxtrot』に向けて書かれたものらしく、やっぱりと腑に落ちる感じがしました。




アルバムの最後を飾るのは、バンドの演奏力を存分に発揮したインスト⑧『Los Endos』。
フィルの前のめりなドラム・パーカッションや、マイクの荒れ狂うベースラインがグングンバンドを牽引します。
③『Squonk』、そして①『Dance on a Volcano』も再び登場し、最後はジェネシスお得意の壮大な締めくくりに。
終わり掛けには名曲『Supper's Ready』の一部分も歌われますが、これはピーガブに向けたもののようで、彼らの思いやりが示されています

76年のツアーではビル・ブルーフォードと、それ以降はチェスター・トンプソンとのツインドラムで、ライブでは定番の曲でした。
鬼のような手数で叩きまくるフィルを見ると、「俺はドラマーだ!」という彼のプライドが伝わってきます。




♪まとめ

フロントマンの脱退という事件がプラスに働いたのか、本作はセールス・評価ともに大きな成功を収めました。
ピーガブの離脱を当時は受け入れられなかったファンもいたかもしれませんが、ジェネシス、そしてピーガブのその後の活躍ぶりを見ると、このタイミングでの別離は正解だったのかもしれません。
さて、この4人態勢は次作までで、それ以降はハケットが抜けた3人で続いていきます。
多くのポップスファンからすると、3人のジェネシスが一番馴染み深いかもしれませんね。
次回はそんな3人時代の作品をご紹介しますが、本作を未聴の方は是非聴いてみてください。
ポップスファンも退屈させない傑作揃いのアルバムですよ。



トリック・オブ・ザ・テイル(紙ジャケット仕様)
ジェネシス
ユニバーサルミュージック
2013-05-29


本作発表後のツアーの様子を収めたライブ盤。
プログレのライブアルバムの中では屈指の名盤です。


久方ぶりの更新となってしまいましたが、皆さんはお元気でしょうか。
とは言っても、コロナウイルスの影響でとても平穏とは言えない状況ですが…

さて、最近改めてジェネシスを聴き直していることもあり、フィル・コリンズのソロ含め彼らの魅力に再びドはまり中です。

以前投稿した『Selling England by the Pound』の記事以来ですね。 

というわけで、この記事も含め、しばらくはジェネシスの作品を集中的にご紹介しようと思います。我慢してね(笑) 

そして今回選んだ作品は、彼らの4枚目のアルバムである『Foxtrot (フォックストロット)』。

前作『Nursery Cryme』でプログレバンドとして注目を集めるようになった彼らですが、本作の成功によって彼らはプログレを代表するバンドの仲間入りを果たすのでした

尤も、本作の発表以前から、ベルギーやイタリアでは既に高い人気を獲得していたのですが、本国イギリスではセールス的に成功はしていなかったようです。

しかし、本作はイギリスのアルバムチャートで最高12位に達し、本国におけるジェネシス人気を築き上げるきっかけとなりました。

当然ながら作品の内容は非常に充実しており、本作を最高傑作として挙げるファンの方も少なくありません

プログレの名盤特集にも、必ずと言っていいほど次作『Selling England by the Pound』と並んで紹介される名作です。




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キツネの顔をした婦人が印象的なファンタジックなジャケット。
本作のツアー中、ピーター・ガブリエルはドレスにキツネの被り物という、ジャケットを再現した姿でステージに立っていたようです。



☆参加メンバー

Tony Banks
 – Hammond organ, Mellotron, electric and acoustic pianos, 12-string guitar, backing vocals
・Steve Hackett – electric guitar, nylon guitar, 12-string guitar
・Phil Collins – drums, backing vocals, assorted percussion
・Peter Gabriel – lead vocals, flute, bass drum, tambourine, oboe
・Michael Rutherford – bass guitar, bass pedals, cello
, 12-string guitar, backing vocals



トニー・バンクスの重厚なメロトロンによるイントロから始まる①『Watcher of the skies』は、後のシンフォニックロックにも多大な影響を与えたであろう名曲
このメロトロンはキング・クリムゾンから買ったものらしく、正にメロトロン=プログレというイメージそのままですね。
フィルの変則的なドラムやトニーのオルガンが特徴的で、各パートによるアンサンブルが見事な一曲。
フィルによれば、この曲の複雑なリズムはイエスからの影響だそうで、プログレバンド同士の関係が垣間見えますね
バタバタとした序盤・中盤から一気に壮大なエンディングに収束する展開は、豊かなストーリー性に満ちていて、7分半ほどの曲でありながら組曲のようなスケールの大きさを感じさせます。

タイトルはジョン・キーツの詩からの引用、そして歌詞はアーサー・C・クラークの『幼年期の終り』等からの影響を受けたらしく、SF的な要素のある楽曲
高校時代に『幼年期の終り』は読みましたが、どうにもその面白さは分かりませんでした。
クラークのようなハードSFはド文系の僕にはどうにも理解が難しく、楽しく読めたのは『宇宙のランデヴー』くらい…
少し前に好きになったディックのように、僕にとっては時間がかかる作家かもしれません。




プログレらしい複雑な①で幕を開けましたが、②『Time Table』はトニーのピアノが美しいポップな楽曲で、作曲も彼の手によるもの。
変拍子もなく、ジャケットのような光射す海を航海するかの如き爽やかさが感じられます。
ジェネシスというバンドが他のプログレバンドと大きく異なるのは、この曲にも見られるような非凡なポップセンスでしょう。
イエスやクリムゾン、ピンク・フロイドではこのような曲はあり得ませんし、メインストリームのポップスにも通ずるキャッチーなメロディーラインを作ることにかけては、同期のライバルの中でも群を抜いています。
そこが一部から軽んじられる原因なのかもしれませんが、僕はジェネシスが一番好きですね。




③『Get 'Em Out by Friday』はピーガブの演劇的な側面が強く出た楽曲。
3人の主人公による物語を音楽に乗せ、登場人物ごとにボーカルスタイルを変えて歌っています。
こういうミュージカルのような試みはピーガブ時代ならではで、やはり初期ジェネシスの顔は彼なんだなと再確認
この曲の主役はピーガブですが、楽器隊の活躍も中々のモノで、これまで目立たなかったスティーヴ・ハケットのギターはエレキ、アコギ共に曲に広がりを与えています。
縁の下の力持ち、マイク・ラザフォードのベースも珍しくアグレッシブなプレーで主張しており、フィルのドラムとドライブしまくりでカッコいい!
しかしながら、難解な歌詞のせいで、この曲のトラック制作には苦労したとか。

④『Can-Utility and the Coastliners』は、イングランド、デンマーク、そしてノルウェーの王として帝国を築き上げたクヌート1世を題材にした一曲。
トラッドフォークのような出だしから始まり、フィルのドラムと共に次第に激しさを増していく展開がドラマチックです。
この曲に限らず、ハケットのスタイルは前任のギタリストであるアンソニー・フィリップスを意識していますね。
アンソニーの存在はバンドの音楽性にとっても非常に大きかったようで、在籍期間は短いながらもジェネシスサウンドの核を作り上げた人物でもありました。
また、この曲でもトニーの鍵盤は大活躍していて、叙情的な雰囲気を醸し出すメロトロン、クラシカルなオルガンから彼の音楽的な素養が伝わってきます。

ハケットの味わい深いソロギターが楽しめる⑤『Horizons』は、高校時代に初めて聴いた時からお気に入りの曲。
バッハの『無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV1007』にインスパイアされたという、優しく心地良いメロディーラインを持った隠れた逸品です。
ハケットによればメンバーがこの曲を好意的に受け入れ、且つアルバムに収録すると決めたことに驚いたみたいですね。
あまりテクニカルな面を出さないギタリストですが、これを聴けば彼のセンスと技巧を疑う人はまずいない筈。

前菜の⑤が終わり、いよいよご馳走の登場ということで⑥『Supper's Ready』が静かに始まります。
23分にわたるジェネシス最大の大作で、プログレ史に残る一大傑作
全7パートによって構成されるこの曲は、聖書における『ヨハネの黙示録』や、ピーガブと彼の奥さんが体験した現象が基になっているらしいのですが、まあハッキリ言って歌詞の意味は分かりません(笑)
と、いうことで各パートごとに音楽についてのみ書いていくことにしましょう。



パート1:"Lover's Leap"はハケット、マイク、トニーの3人が奏でる12弦ギターをバックに、ピーガブが怪しげなメロディーを静かに歌い上げます。
ギタリスト、ベーシスト、キーボーディストが揃ってギターを弾くってのも何とも珍しい(笑)
途中で離脱したトニーが奏でるホーナーピアネットのソロによって幻惑されながらも、少しづつパート2に向けて森の奥に分け入っていくように深く進んでいきます。

パート1から徐々に高まってきたテンションがパート2:"The Guaranteed Eternal Sanctuary Man"にて解放され、曲のキーとなるメロディーが登場。
フィルのドラムもここで力強いビートを叩き始め、一気に曲が勢いづき始めます。
ここの壮大な美メロでリスナーは惹きつけられるわけですが、やはり構成が上手いですね
序盤のパートでしっかり心を掴むことで、長い曲にも関わらず飽きさせないわけです。
そして早くもクライマックスかと思わせたところで、突然リスナーは放り出されます。

再び12弦ギターとピーガブによるフルートの絡みから始まるパート3:"Ikhnaton and Itsacon and Their Band of Merry Men"の見せ場は、やはりハケットのギターソロが炸裂するインストパートでしょうか。
トニーのオルガンとのユニゾンでは見事なタッピングを披露し、これが実に爽快
ヴァン・ヘイレンよりもだいぶ前に取り入れているのは、彼の先進性を如実に示しています。
前半の山場となる本パートですが、ここでの盛り上がりは何度聴いても素晴らしいですね~。
そして、そこからのパート4に繋ぐためのクールダウンも上手い。

直前から打って変わって吸い込まれそうな空間に囲まれるパート4:"How Dare I Be So Beautiful?"
ここのバックの音はフェードアウトさせたピアノのコードだそうで、演奏だけでなく編集の巧みさも重要なピースだと分かりますね
当然ライブでは再現できないのでオルガンで代用しているのですが、スタジオ版ほどの幻想性は出ていません。
そんな中、たゆたうようなピーガブの歌にボーっとしていると、唐突にパート5へ。

パート5:"Willow Farm"は、ギルバート・オサリバンあたりを彷彿とさせる、英国らしいポップセンスが発揮されたキャッチーなメロディーが特徴
実際この部分はシングルカットもされたようですが、ちょっと強引ですね(笑)
ライブではピーガブが花を模した被り物をするなど、コミカルで楽しい一面もあります。
後半では彼のフルートソロもフィーチャーされ、正にピーガブ大活躍なパートです。
そして、ここからいよいよプログレファン歓喜の変拍子ゾーンに突入!

パート6:"Apocalypse in 9/8 (Co-Starring the Delicious Talents of Gabble Ratchet)"の主役は何と言ってもフィルのドラムでしょう!
タイトル通りの複雑な拍子を刻みながら手足をフルに使ったバタバタドラムを披露し、バンドを牽引。
そこに乗っかるトニーのオルガンも、全体のリズムから独立しながら荘厳なソロを奏で、正にアポカリプスという言葉に相応しい世界を見せてくれます。
どのパートも好き勝手やってるようで実際はカッチリと組み合わさっているという、彼らの緻密なアレンジ能力が存分に味わえる最高のインストパートですね
そんな長い変拍子の嵐を抜けると、遂に物語は大団円を迎えます。

チューブラーベルズが高らかに始まりを告げるパート7:"As Sure As Eggs Is Eggs (Aching Men's Feet)"では、パート1、2のメロディーがゆったりと再び繰り返されます。
この、最後に最初に戻ってくるという構成はジェネシスを象徴するもので、その他の彼らの作品においても同じ手法を使っていますね。
実際、何度聴いてもこのパートは感動的で、特にピーガブの熱唱には心を揺さぶられます。
徐々にフェードアウトする終わり方も晴れやかな余韻に満ちていて、良い映画を見た直後のような気持ちの良い満足感に包まれること間違いなし
イエスの『Close to the Edge』などと同じく、大曲のエンディングはこうでなくてはというお手本のような素晴らしい幕引きですね。

と、いう訳で名曲『Supper's Ready』について書いてきましたが、やはり傑作です。
構成や演奏のクオリティは勿論、全編に渡ってとにかくメロディーが良い!
プログレの大曲って苦手…という方にも、この曲は気に入ってもらえるんじゃないかと思います。



♪まとめ

本作と次作をピーガブ時代の最高傑作とする声が多いのも納得できる質の高さ。
複雑さの中にもキラリと光るポップセンスは、世界中にフォロワーを生み出しました。
特に⑥は、以降これほどの大作を発表しなかったことからも、メンバー全員の力を総結集し作り上げた奇跡の一曲であると言えるでしょう。
また、他の曲も実に聴きやすいキャッチーなメロディーを備えていて、英国ポップ好きにも十分アピールできる内容となっています。
後にポップスとしても頂点を取るジェネシスですが、その萌芽は既に本作から見られるのでした。
さて、明日はフィル時代の傑作『A Trick of the Tail』を紹介する予定です。
ジェネシスほど外れの無いバンドも珍しいですね!


フォックストロット
ジェネシス
ユニバーサル ミュージック
2018-06-20






しばらくの間、更新をお休みしていました。

前回の記事を投稿したのは4月ということで、あの時の気温がどのようなものだったか思い出せない程、暑い日々が続いてますね~。

だいぶ期間が空いてしまいましたが、これからも時間を見つけて更新を続けていこうと思います。

さて、久しぶりの更新ということで、今回は僕の世界一好きなミュージシャンであるジェームス・テイラーの記事。

彼の作品の中でも人気の高い、『Gorilla (ゴリラ)』というアルバムをご紹介します。

1975年発表の本作は、『Mexico』や『How Sweet It Is』といった代表曲を収録し、セールス面でも成功した、ジェームス全盛期の名盤

前作『Walking Man』は、ニューヨークの一流セッションミュージシャンを起用し、初期の素朴な作品よりも洗練された仕上がりとなりましたが、その出来栄えとは裏腹に評価、売り上げ共にパッとしませんでした。

そんな前作が澄んだ冷たさをイメージさせるとしたら、本作の特徴はぼやけた温かさといったトコロでしょうか。

再び馴染みのミュージシャンを呼び戻し、西海岸らしいリラックスした雰囲気の作品となっています。




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☆参加メンバー

・ James Taylor - acoustic guitar, vocals, electric guitar, high-string acoustic guitar, ukulele
・ Arthur Adams - electric guitar
・ George Bohanon - trombone
・ David Crosby - vocals
・ Nick DeCaro - organ, strings, accordion
・ Victor Feldman - percussion
・ Chuck Findley - trumpet
・ Lowell George - slide guitar, vocals
・ Valerie Carter - vocals
・ David Grisman - mandolin
・ Milt Holland - percussion, wind chimes
・ Jules Jacob - clarinet, oboe
・ Jim Keltner - drums
・ Danny Kortchmar - electric guitar
・ Russ Kunkel - drums, percussion, shaker, tambourine, congas
・ Gayle Levant - harp
・ Clarence McDonald - piano, ARP String Ensemble synthesizer, Fender Rhodes electric piano
・ Graham Nash - vocals
・ Randy Newman - hornorgan
・ Andy Newmark - drums
・ Al Perkins - pedal steel guitar
・ David Sanborn - saxophone
・ Carly Simon - vocals
・ Lee Sklar - bass
・ Willie Weeks - bass

腕利きのメンバーが揃った大所帯は、次作『In the Pocket』にも引き継がれます。




テイラーのアコギで軽やかに幕を開けるMexico』、これまでの彼には無かった、実にカラッとした作風のカントリー風ポップスです。
歌詞は当然メキシコについて歌っていますが、実はメキシコには行ったことが無いと終盤で明かされるという、ちょっととぼけた内容。
マリンバやパーカッション、ニック・デカロの華麗なアレンジが合わさり、想像上のメキシコを夢のように飾り立てます
グラハム・ナッシュデヴィッド・クロスビーのコーラスも入ったこの曲、ジェームスの代表作の一つとなり、多くのミュージシャンにもカヴァーされている名曲です。




本作には魅力的な曲ばかりが収録されていますが、個人的にはこのMusic』と⑦はジェームスの曲の中でも最高級のクオリティーだと思います。
エレピやグロッケンの柔らかな音色と、ジェームスの優しく繊細なヴォーカルの組み合わせが素晴らしく、分かり易いメロディーでは無いのにも関わらず強く心に残る曲です。
音楽への愛を歌いながら不安な心情も覗かせる歌詞に、どこまでも寄り添うバック…
これほどの名曲が何故あまり注目されないのか分かりません。




大ヒットしたHow Sweet It Is (To Be Loved by You)』は、マーヴィン・ゲイが1964年にヒットさせたモータウンの名曲のカヴァー。
キーが高くドラムが目立つアレンジだった原曲と比べ、全体的に歌いやすくマイルドになったかなという感じですね。
何気にツイン・ドラムという編成になっており、ジム・ケルトナーラス・カンケルの互いを労わるようなビートがとても心地良い。
原曲には無かったデヴィッド・サンボーンのサックス、そしてリー・スクラー師匠のベースも素晴らしく、オリジナルとはまた違った高い完成度を持っています。
当時の妻だったカーリー・サイモンがハーモニーを付けているのには、若干ノロケを感じますが(笑)

この曲、年代を追うごとにライブではパワーアップしていき、特に『Live』に収録されているバージョンは必聴です。




ポップで凝った曲が多い中でも、Wandering』のようにジェームスの歌とアコギをじっくりと楽しめる曲もあります。
トラディショナルソングのカヴァーらしいですが、ここでは歌詞を一部変更、追加するなど、割と自由にやっていますね。
Sweet Baby James』の『Oh, Susannah』や、『One Man Dog』の『One Morning in May』のように、ジェームスのトラディショナルソングへの愛が伺える選曲でしょう。
彼の美しいハーモニーも聴きどころです。

彼の曲の中でも異色と呼べるのが、Gorilla』。
アコギやウクレレ、マンドリンが奏でる呑気なバックに乗って、ジェームスののんびりした歌が気だるげにゴリラについて語ります。
勿論、ただゴリラの説明をしているだけではなく、そこには彼の悩みなども反映されているんですね。
一聴すると、とぼけた箸休めの曲かと思いますが、実は深いテーマがある歌詞なのでした。

You Make It Easy』も人気が高そうな一曲。
ストリングスが全体をドラマチックに彩りながら、後ろめたさを抱える主人公を描写します。

アレンジは完全にAORらしく、ダニー・コーチマーのメローなギタープレーにウットリ。
比較的明るい雰囲気の本作の中でも、歌詞の内容も含めシリアスなナンバーですが、宝石のように美しいクロスオーバーサウンドに心惹かれます。

②と同じく、超が付く程の名曲だと思っているのがI Was a Fool to Care』です。
恋人に裏切られた男について歌っていると思われる寂し気な歌詞、どこか自嘲的な哀しみに包まれたサウンドとジェームスのヴォーカルの相性、曲の全ての要素が完璧に結びついています
特に、アコギと絡むベースラインの心地よさは、流石のリー・スクラー師匠と言わざるを得ません。
ソフトロックとして正に一級品の出来だと思うのですが、やはり彼の曲の中だとマイナーな方なのが残念。

しかし、最近ではマック・デマロがカヴァーしたことで少し知名度が上がったみたいですね。




①と同じく、クロスビーとナッシュが見事なコーラスワークを披露するLighthouse』も、ライブで人気の爽やかな良曲
2人の清涼感あふれるバッキングヴォーカルも特徴ですが、この曲にはランディ・ニューマンも参加しており、hornorganと呼ばれる謎の楽器でバックの厚みを出しています。

リトル・フィートローウェル・ジョージが参加しているAngry Blues』は、サザンロックファンも要チェック
アンディ・ニューマークウィリー・ウィークスのファンキーなリズム隊の上を、お馴染みのスライドギターで闊歩します。
アンディとウィリーのコンビは人気があるようで、ジョージ・ハリスンの名盤『George Harrison』での活躍が有名です。
この重さとエネルギーは、セクションの面々とはまた異なる趣がありますね~。


郷愁を誘うような少し長めのイントロから始まるLove Songs』は、曲調や歌詞に彼の幸福感が表れています
日向の中にいるような温かみのある演奏は、次作の『Shower the People』のようで微笑んでしまいますね。
クラリネットの音色が特徴的な、耳に優しいソフトロック

Sarah Maria』は生まれたばかりの娘、サリー・テイラーについて歌った弾き語り。
前作でも『Daddy's Baby』という曲でサリーへの想いを歌っていましたが、本作でも娘への愛情の深さを感じさせます。
『Daddy's~』は神聖とも言えるほど澄み切った曲でしたが、ここではもう少しリラックスした優しさを覗かせていますね。

サリーも後にシンガーソングライターとしてデビューしますが、慈善活動家としても活躍しているようです。




♪まとめ

ジェームス・テイラーというアーティストの人柄を反映したような、聴きやすく優しい雰囲気の作品ですね。
本作と次作について思うのですが、ニック・デカロが作品のアレンジ面に大きく関わっている点が特徴でしょう。
彼のストリングスやアコーディオンが入っているこの2作は、初期や後の作品には無いソフトな感覚があります
数多いジェームスの作品の中でも、アレンジの完成度が特に高いと感じる名作ですね。
In the Pocket』とセットで楽しむ、2枚組のような内容と言えるでしょう
リスナーを幸せにする、何とも素敵なアルバムです。


ゴリラ(紙ジャケット仕様)
ジェイムス・テイラー
ワーナーミュージック・ジャパン
2010-04-07


In the Pocket
James Taylor
Rhino Flashback
2008-07-15


The Essential James Taylor
James Taylor
Rhino
2015-09-11


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