August 17, 2012

"思うように弾けない" について

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              (撮影者:ぴょんきち君)

《イメージはあるのに、ピアノが思うように弾けない》
生徒ちゃんは良いけれど、プロさえもが口にする。

イメージがあれば必ず弾けるのヨって答える。
イメージとは "何となく思い浮かぶ" ことではないから。

イメージが散漫に拡散して実際的でなく、茫洋とした "何となく" の重なりに過ぎぬ場合、思うように音にならないのは至極当然に思う。

イメージの隅々がクリアで正当性と根拠を携えていること。
音楽の骨格となるまでイメージが地固めされていること。

  其うであればイメージ通りに弾ける筈。
  楽曲に支えられたイメージは楽曲を助ける筈。

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ジャン・クリストフ9巻、少し長い文だけど大切なところの気がするから引用してみましょう。お読みになってどう感じられるでしょうか。


《四月の大気は暖かで、靄がこめていた。
銀色の霞の生暖かなおおいを通すようにして、小さな緑色の葉が、まだ堅くまるまっているその新芽の襞をほぐしひろげ、姿の見えない小鳥が、隠れた太陽に向って歌っていた。
オリヴィエは思い出の紡錘(つむ)をたぐっていた。

子供の姿の自分が目の前に浮かんできた。
故郷の小さな町から、霧の中を、汽車で運ばれていた。
一緒の母は泣いていた。アントワネットは車窓の向うのすみに、一人ですわっていた・・・ほっそりした横顔、そして美しい風景が、目の底に描き出されてきた。

美しい詩句がひとりでに浮かんできて、
その綴りや音楽的なリズムをととのえた。

彼はテーブルのそばにいた。腕をのばしさえすれば、ペンを取り、その詩的な幻影を書きとめることができるのだった。

だが、彼には意志の力が欠けていた。疲れていたのだ。

それに彼は、自分の夢想の芳香は、この夢想を書きとめようとするとたちまち蒸発してしまうことを知っていた。

いつもそうなのだった。
自分のいちばんいいものは表現されることができなかった。
彼の精神は花の咲き乱れた谷間だった。
だがだれもそれに近づくことはできなかった。
そしてその花は、摘むやいなや萎れてしまった。
ただわずかばかりの花が、力なく生き残ることができた。

それは、幾編かの力弱い短編小説と幾編かの詩劇で、甘い、たえ入りそうな吐息をもらしていた。

こうした芸術上の無力が、長いあいだ、オリヴィエの最も大きな悲しみの一つだった。自分のうちに多くの生命を感じながら、それを救うことができないとは! 》

             (新庄嘉章様訳)

**

オリヴィエに対してどういったご感想が多いんだろう。
共感? それとも・・・

私は共属意識を持つことができなかった。
あとに続くクリストフの科白に深く共感した。

夢想を書き留めよう、または繰り返そうとすると霧散してしまうと嘆くオリヴィエにクリストフは言うの。

《そいつはいけない》
《きみは自分の思想を何の役に立ててるんだね?
きみは自分のものを捨ててばかりいる。
それでは永久に失われてしまう。》


**

オリヴィエは、自分の一番良いものが表現されないと考える。

私は、表現されない段階だからこそ、取るに足らないものを一番良いものと錯覚することができたに過ぎないのだと、ページを進みながら思っていた。

もしもオリヴィエの思いが本当に描かれるべき美しい詩句なら
簡単には消散しない筈だと思わされた。

オリヴィエは、書き留めようとすると花は萎えると嘆く。
果たしてそうだろうか。
書くべき形には未熟過ぎる絵空事だから萎えるのではないか。


現実が浪漫を萎えさせる風に感じるオリヴィエは、《純粋な浪漫を現実が育てる》と論じるディドロと正反対だった。

  *浪漫主義と現実主義

未熟な妄想から歩を進め、足場を確かにし、虚像に命を吹き込むことなしに、生きた花など摘めるわけがない!
私は激しくそう感じ、オリヴィエに共感しなかった。

イメージとは、オリヴィエが思うほど脆弱なものじゃない。
イメージは、霞がかかる虚事ではない。
現実を支える力あるものだ。

楽曲も演奏もイメージを持つのはとても大切だと思う。
確固たるイメージを得るべくすべき事が今日も積上ってる。

大切なイメージを幾千の書物、幾万の体験から吟味し
血肉として取り入れるには一生の時間が足りない気がして。


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lasalledeconcert at 06:20││  思い浮かぶままに5 

この記事へのコメント

1. Posted by 金平糖   August 17, 2012 11:41
5 初めてコメントさせていただきます。
金平糖と申します。

読んでいて、そうなんですそうなんですと
泣きたいくらい共感しました。
先生の言われる通り、
私も学生時代から、演奏には良い書物が欠かせないと考え、
自分の師匠にも常にそう言われました。
(大学では文芸部で、無類の活字好きでしたので読む苦痛は全く無かったです)

書物や絵画、音楽、見聞きする、
たとえ、つまらないと思える情報であっても、
それすらも美しい財産へといつか形を変えると拝します。

感性を具体的な形へと変換するのは経験であり、
生まれたひとつの「音」を丁寧に縫い合わせ、
その具体的な表現を支えるのが
日々の鍛錬だとしたら…
一日が24時間であること、それをなぞる走馬灯は余りにも短くて悔しいですね。

長々と失礼しました。

同時に先生のレッスンを受けたいと思いました(*^^*)
2. Posted by Ariette   August 17, 2012 16:11
こんにちは
今取り組んでいる曲のイメージがなかなかつかめなくて、先生が弾いてくださる部分は伝わるのですが、自分ひとりになるとあいまいになってしまっていました。それが、ある日突然ふっと曲に入り込めました。どうしてか不思議だったのですが、今日の記事を拝見して、今までのいろいろなことが熟成されて、そのとき初めて、はっきりとしたイメージを描くことができたのかもしれないと思い当たりました。

初心ですが、俳句を作るときには、同様のことを感じておりました。表現したいイメージや、考え、思いが明確でないときには、17文字を構成する言葉の繋がりに必然性がなく、響きや字面から言葉を選びがちになります。そういう句は人の心につたわりませんし、自分でもどこか納得できない感じが残ります。

”未熟な妄想から歩を進め”るべく、日々学び続けて生きたいと思います。

3. Posted by うたねこ   August 17, 2012 22:48
何かの曲を「歌わねばならない」時。つまりこの曲をいついつに歌ってください、というような依頼。もしくはもっと簡単に、レッスンで与えられた課題とか。
自分が感動して選んだのでないような曲を歌うとき。今言われているようなイメージがとらえられず、苦しむことがあります。歌詞があるんだから、イメージできるでしょ?と言われますが、それは違う。泣いた、と書いてあるから悲しい曲と想像して歌ったらしっくり来ない。どんなにがんばっても声が出ない。音の運び、言葉の処理、時代背景、小さな部品を探し当て、設計図をつくり、はじめて全体図が見える。見えてきたものをもとに組み立てていくと、ある瞬間カチンと音がして、その曲心が流れ込んでくることがあります。ああ、喜びの涙でしたか、こんな風にあふれるようなおもいだったんですね、と。それをまた全て表すためにはテクニックも練習も必要ですが、練習はイメージがないまま歌っているときより数倍楽しい作業となります。器楽とは少しアプローチが違うかもしれないですが。
4. Posted by S   August 17, 2012 23:03
金平糖様
はじめまして^^
書物がお好きなお方のお書き込み、とても嬉しいです^^
文芸部とは素敵ですネ。
音は作曲者の言葉であるという事も大切な部分ですよね...
音が示す語りや曲中の色彩映像の世界を提示されたとき、受取り手の私たちの感覚や、理解を支える言語感覚が劣っていますのでは作曲者への礼節を守れない気がするのです。
書物は本当に沢山のことを教えてくれますね^^ 各国の四季が異なることも河の流れが一様でないことも...。文学は作曲家の母国の感覚を本当に多く伝えてくれるので大好きです・・・♪
レッスンご希望の際は、ブログ左欄にございますお教室アドレスからお気軽にご相談くださいませネ。
お書き込みありがとうございました^^
5. Posted by S   August 17, 2012 23:13
Ariette様
いらっしゃいませ、こんばんは^^
はっきりとイメージを描くことは本当は重労働なのだと感じますね。練り重ね、知識がこなれる時を待って補強してゆくのは大変な時間がかかりますものネ。
俳句もなさっているのですね。創造の作業には常に共通項が見つかるものですよね。
Ariette様がどんな曲をどんなイメージで弾きなさっているか、空想しますと楽しいです^^
6. Posted by S   August 17, 2012 23:35
うたねこ様
こんばんは。
それは話題の段階以前の、ごく基本の作業ですよネ!
本日の記事は、プロが腰をおろして怠っていてはならないと判断されるラインとして書いております。アマチュアの方々がそれぞれのお悩みや私事をご紹介下さりお読みする楽しさと、楽曲掌握に自覚をもって信頼に応えるべきプロの発言は別物と考えます。それ自体が本テーマなのですが。
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