落合桜　パリの風:音　パリの風14

音　パリの風14

February 16, 2021

異世界のド♭

こんな風に月の光を弾く日が来るなんて考えもしなかったな...

と、録音してから感慨深く思った。

昔感じてたこの曲に別の世界があったような喜びを覚えた。

月の光はある時を境に時の方向を失い、ここからは他のもっと多くを手放していく。

失われたものの温かい音楽のように。

「ここから」とは今日の音源箇所 59小節目の左手にdo♭が響く、'これまでとは違った' 空気になる箇所。

1小節目と9小節目で聴こえた fa -- la♭-- re♭の柔らかな響きは
51小節目で fa -- la♭-- do と硬さが加わる。
トリプルピアノで奏でるやや硬い閉じられたハーモニーに。

51小節目の do は 59小節目で do♭に、もの言いたげに半音下がる。

私たちが既に知ってる「あの響き」に。
印象的だった27小節目に右手に現れた音。

安穏を破る音調。少しの緊張感。不穏なものが潜んでいるのか、何かが張り詰めてミステリアスな... そうは感じてもそれ以上を知らされぬまま un poco mosso で素早く運ばれてしまう。見たことのない、少し不安な景色の中で響いてた音。

lasalledeconcert at 17:28｜Permalink│

February 10, 2021

時の方向

50小節目で内声だけがディミヌエすると、音量を変えない re♭-- mi が星の光が僅か際立ったように聴こえる瞬間が好き。

51小節目からのトリプルピアノは「時間の方向を失う」ことに重きを置きたい。

楽曲は時間と共に一定方向に進むが、この部分の揺蕩いは50小節までとは異なる時間軸をイメージします。

分とか秒とかいった時間の刻みからふと外れて、

私たちの La vie を包括しての「夜空と共にある時間」---- とイメージした時点でそれは「私たちから見た夜空」に置き換わってしまうものでもある ---- という軸じゃなく、

lasalledeconcert at 18:37｜Permalink│

February 03, 2021

ベト5と月の光

昨日のおしゃべり知り過ぎたメロディーはの続きです。

月の光の頭が休符になっているのは、例えばベト5第一主題冒頭が休符なのとは意味が違ってる。

ベト5は休符と次音 (クラと5体の弦の) の立ち上がりが完全に等価になるもので、謂わば「リズムカウント1/4、音声カウントゼロ」の休符だ。音を伴わない「符」であって「空白」じゃあない。無 (む) なるものではない。

しかし月の光の頭は「数の読まれる空白 ---- 'カウントされる' または '数えられる' という表現はここでは能動的すぎると思う。結果として数が合ってくる形での空白 ---- 」だ。

lasalledeconcert at 18:41｜Permalink│

January 03, 2021

シーンに添える音

お天気のいいお昼間におうちで寛ぐ図。

ベルガマスク組曲の続きです。

この曲は、この箇所は、
こんなに広がりをもって弾くのがデフォルトってわけじゃないのですが、私個人の考えです。

ロココ風のとりどりの衣装や小道具の光沢が心から離れなくなるのです。

アントワーヌ・ヴァトーの艶治な構図と
自由でいて複雑なポーズがよぎるのです。

たとえばヴァトーの "愛の宴" に刺激を受けてルノワールが "ムーラン・ド・ラ・ギャレット" を描いたように

ドビュッシー世界の構図そのものとの類似性如何じゃなく
トーンや空気感として曲のこの箇所には、なまめいたさざめきが欲しくなる。

ここでの和音は縦に一定時間慣らされるコードではなく

ヴァトーの特徴であるように一種演劇的な 'シーンの諧調として'
美々しい夕刻のための華やかな音を添えたくなる。

館の中より光や色を反映しづらい戸外の集いで尚一層の婉美を感じさせる雅宴画のふくよかさを

この音のシーンにも求めたくなる。

lasalledeconcert at 17:41｜Permalink│

December 30, 2020

宴に射す影

昔この組曲4曲をリサイタルで弾いた時
曲の魅力を半分も分かってただろうか。

軽やかさの中に禍々しい影が射す。
しかしその影は動かずに其処にある。

聞こえるのは華やかで楽しげで、ソフィストケイトされたものに無い原始の感覚が踊るメロディ。

膨らむことも形を変えることもない影に
いつしか影があったことを忘れる瞬間が訪れる。

影は拭えない過去のシミのように
見る人の心次第で大きくも小さくも濃くも薄くもなる。

lasalledeconcert at 17:48｜Permalink│

December 26, 2020

ミステール

たまには映像を曲調にちょっとだけ合わせてみました。

プリミティフかつ、小さな神秘を宿す雰囲気が好きで好きで...

幻怪な空気感は湿った藍色の夜の闇のイメージもあり、

lasalledeconcert at 17:16｜Permalink│

December 21, 2020

フェノメノン

先日はバシュラールがシャガールを語ってるところを引用しました。

　　*ベルガマスクと草いきれ

引き続きベルガマスク組曲を巡るおしゃべりとして加筆します。

　《シャガールの慧眼は、動物と植物との対話の一切を '聞きとって' しまっているのである。

　これで事は明らかになったが、絵画 (タブロー) は物語なのだ。絵画は絵画なりにこのうえもなく能弁な寓話を語る。色彩と量感とが充分に溢れた空間は、登場するものたち、人間や動物たちに動きをあたえる。シャガールの画のなかでは、もはや何一つ動いていないものはない。》

　　　　　　　　　　　　　(渋沢孝輔様訳)

lasalledeconcert at 19:50｜Permalink│

December 10, 2020

ベルガマスクと草いきれ

お庭のグリーン。
昨日は陽が出てる時刻は暖かく、ブルゴーニュ君を傍にお庭で読書した。その時間はサルトルじゃなかった。

時々すくない葉を眺め、ベルガマスク組曲のあの暗み、アルルカン風のあの不可思議なムードの味わいを人はいつどのように識るんだろう? と考えてた。

葉を眺めた理由は、ガストン・バシュラールが

　《シャンパーニュとアルデンヌの境、マルヌ川とムーズ川のあいだ、オート・ムーズ地方の高原の森の静寂 (しじま) のなかでランボーを読んでみれば、この響きが、失われた言葉 (ヴェルヴ) の探索のための道案内のごときものであることがわかるだろう。》

と書いているから小さな小さな猫の額のお庭で、なんちゃってと真似てみたのだ。

バシュラールがいう [この響き] とは、

アルチュール・ランボーが手紙の中で【ぼくはぼくの思想の孵化に立会っているのです。】という文を記しているため、バシュラールは其れを取り上げ

　《この思想の孵化とは響き (ソノリテ) の誕生のことである。》

と置いたワードです。

バシュラールは以下のように語ります。

　《ランボーにあっては、詩句は音声の量ではなく質を配分するものであり、それは時間的なものではなく、彩られたもの ----- ということはつまり、文学的色彩に包まれたものであって、その中心的音節、多数の暗喩を含む語の瞑想する中心において豊かなものである。

lasalledeconcert at 10:42｜Permalink│

November 13, 2020

好きだと伝える時

隅々まで大好きな曲の
特別に好きなところ。

あのときの・・・mi -- sol -- mi -- sol とやさしい囁きのように繰り返された音が

今一層ふくよかな和音を添えて

あのときよりも大きく、迷いのない音で

la -- do -- la -- do と奏る。

好きだと伝える時って此んな風じゃない?

気後れがして1度目は小さく、でも大きな慕情が小さな逡巡に勝ってゆくような la -- do -- la -- do

古典的な楽曲分析だと、
ブルゴーニュ君のお洋服を真似て飼い主も似た模様のワンピースを着てお散歩しましたヨと、音の形のお話になるシーンが多いけれども

lasalledeconcert at 11:43｜Permalink│

October 27, 2020

喉の奥の空気

唇を閉じて、喉の奥で歌うように息を通すと
喉奥に溜まったあたたかい空気が移動する。

ごく狭い空間を、体温で温められた空気がゆっくりと '行先の目的を持たずに' 動く。

ドビュッシー曲中の温(ぬる)んだ空気の流れは、喉から口中に漏れるくらい僅かな気体の動きに似てる。

それを味わい味わい遊んでた。

曲は "ロマンティックなワルツ"、"レントより遅く"、"ノクチュルヌ" それから "バラード"。

これらを「喉奥モノ」と呼びたいくらいだ。

"ロマンティックなワルツ" は少し風が立つ。
"レントより遅く" は思い出が交差して胸が波打つ。
"ノクチュルヌ" は星瞬く下をゆっくり歩を進ませる。

ウエットなこと極まりない3曲に、内省的なバラードを加える悦び。

お部屋を漂う気体が楽器の上へ集まり、浮かび、また沈むのが感じ取れるような感覚になる。

音が大気にさわろうと手を伸ばす。
大気は応え、自ら軀をまるめて音に包み込まれる。

このとき空気の比率は変わる。

アルゴンが酸素と同等ほどまで上昇する。
(プロコフィエフを弾けば多分ネオンが上昇する)

空気成分が何項目か知らないのだけれど、'ドビュッシー' という1項目が加わる。曲が止むまで。

そんな想いにさせてくれる4曲。
鍵盤お持ちのかたは是非弾いてみて。

■ピアノの楽しみのこと

*滑り台
*今日どこ行ってみる?
*往きと復り
　　*後悔と楽しみ
　　*10代のお稽古と後悔

■コンサートのこと

*斜め者のやすらぎ
*柘榴のポエジー

*膜
*雑味
*入口・出口

*古本とドビュッシー
*大洋の波

*ピアノ終われない話
*おはなしと2人の聴衆

■嘘について

*嘘とお庭とホース
　　*お箸とフォーク
*ホームコンサートとか
　　*レッスン記録：ラムネアイス

lasalledeconcert at 15:30｜Permalink│

October 25, 2020

おはなしと2人の聴衆

夫の帰りが早い日が続いて、夕方からコンサートばかりしてた。

夫とブルゴーニュ君だけを聴衆にして。

発病前に行なってたコンサートは解説として分かり良いお話の順序を練り、時には語順も決めてお話してた。

2人だけの前で「自分で望んで」行なった先週のコンサートは
思いつくまま、思いついた順序でおしゃべりした。

そうすることで「もし解説がわかりづらくても構わない」から。
否、別に夫に曲解説をしたわけでもない。
一般的なコンサートで述べなかった自分の考えを述べたまで。

曲解説だって自分の考えじゃあないか、ってなりますよね。
そうした場合の言葉と構造の問に予め答えるなら、

演奏者が '自分の考え' とするのは演奏上の事のほうが高いパーセンテージを占めるかも。私は演奏解説より曲解説に重きをおきたかった。以前はね。

何故って '作曲家の考え' を話したかったから。

'作曲家の考え' の可能性を顕す事柄は様々ある中、[どれを '作曲家の考え' として採用するか] の選択こそが '自分の考え' になるわけで

直接的に私はこうと考えています、と伝えるよりも何説を採用して推し進めようとしてるかで間接的に自分の考えを伝えるやり方を、私のコンサートではしていこうと決めてたから。

何故ならその方法がよりフランス的なお話の技法に思えたから。

それが現代日本の伝え方の慣習から逸脱しているとして、また耳で聞く解説になると多少複雑に聞こえるとして、それならば少しでも分かり良い語順と語句を用いる努力が必要だった。

溢れそうな池。
豊かな水。
金の魚は居ない。

と、
お散歩で目に映ることを隣の夫とブルゴーニュに話すみたいに
ピアノの前で弾いては話し弾いては話しのコンサート。
楽しかった。

■コンサートのこと?

*斜め者のやすらぎ
*柘榴のポエジー

*膜
*雑味
*入口・出口

*古本とドビュッシー
*大洋の波

*ピアノ終われない話

■嘘について

*嘘とお庭とホース
　　*お箸とフォーク
*ホームコンサートとか
　　*レッスン記録：ラムネアイス

lasalledeconcert at 19:22｜Permalink│

October 23, 2020

茶色の背中、青い洋服

ドビュッシーの続きです。

急に冷え込んで風邪っぽいのか疲れちゃって
動画をムービーにまとめただけで力尽きてしまった。

せめてせんに行なった断捨離写真くらい整理がてら出しておきましょう。

マイケル・ナイマンは父が一時期ミニマルミュージックに対する興味で求めたみたい。

lasalledeconcert at 18:44｜Permalink│

落合桜 パリの風

音 パリの風14