新司法試験に合格された方,おめでとうございます。
 いままでいろんな受験生を見てきましたが,この試験は運や偶然の要素が低い試験です。実力があり,この人は受かるだろうなという人が受かり,実力がなく,この人は厳しいだろうなという人が落ちるという,極めて穏当な難易度が設定された試験だと私は考えています。
 残念ながら不合格だった方は,気持ちをできる限り早く切り替えることが大切です。長い人生の中で,挫折や失敗はつきものですので。来年の試験を目指す方は,失敗の原因を見定め,知識の拡充及び答案のブラッシュアップに励みましょう。
 合格された方は,まずはゆっくり休んで,旅行に行ったりして,毎日を楽しんで下さい。そして,数ヶ月後に控えた司法修習を実のあるものにするためにも,最低限,以下の本くらいは読んでおかれるといいと思います。予備知識のある実践は,予備知識のない実践よりもはるかに収穫が多いものとなるからです。
 あとは教官からお小言をもらわないよう,民事実体法(主に民法),刑事実体法(主に刑法各論)の知識・理解を5月の受験時のレベルに戻すべく,何らかの対策をしましょう。

完全講義 民事裁判実務の基礎―訴訟物・要件事実・事実認定完全講義 民事裁判実務の基礎―訴訟物・要件事実・事実認定
大島 眞一

 司法研修所は,要件事実はロースクールで学習されたものとしており,修習中に一から教えるようなことはしません。一度読んだことがある人も,小さい字の発展コラムに結構大事なことが書いてあったりするので(民裁起案で問われる問題意識や論点が説明されていたりします),読み返しておきましょう。

要件事実問題集要件事実問題集
岡口 基一

 起案能力は実践なくして磨かれないので,合格者同士でゼミを組んで取り組んでもいいでしょうか。研修所起案(民事系)に強くなるためには,「要件事実問題集」が唯一の書籍です。

ステップアップ民事事実認定ステップアップ民事事実認定
土屋 文昭 林 道晴 村上 正敏 矢尾 和子 森 純子

 研修所教官による事実認定本であり,司法修習へ向かう人にとって必須といっていいでしょう。これをマスターしておけば,修習の事実認定問題も乗り切れるはずですし,当事者の主張書面や証拠を見る際の視点も習得できるはずです。裁判官の仕事の面白さを知ることもできます。

事実認定の考え方と実務事実認定の考え方と実務
田中 豊

 中位クラス以上の方は,この本か「民事訴訟における事実認定」も読んでおかれると,民裁修習や弁護修習がさらに実のあるものになるかと思います。裁判官の着眼点・思考過程・推認過程といったものや,書証・人証の性質・信用性判断などについて,理解を深めることができます。弁護士になられる方も,修習中には裁判官の思考,分析手法,経験則といったものを最大限に積極的に吸収して下さい。それが実務に出たときに本当に役立ちます

法律文書作成の基本  Legal Reasoning and Legal Writing法律文書作成の基本  Legal Reasoning and Legal Writing
田中 豊

 修習中には,弁護修習では訴状,答弁書,準備書面,意見書などを,裁判修習では判決書や争点起案などをやらせてもらえますが,書き方について指導はほぼなされないといってよいです。何の予備知識もないと,いきなり資料を渡されて,書いて見ろと言われ,戸惑うこともあるかと思います。しかし,この本を読んでおけば,「どう書いたらいいのか」という点で戸惑うことはなくなります。白表紙の行間を埋める,重要度が高い本の1つです。

実践 民事執行法 民事保全法実践 民事執行法 民事保全法
平野 哲郎

 執行・保全は集合修習の起案で出ますから当然学習しておかなければなりません。また,弁護修習中にも,執行・保全関係の起案を任されることも多々あります。書式例があれば何とか書けるでしょうが,執行・保全の知識がないまま,マニュアルに沿って書面を書いていても,収穫は少ないでしょう。執行・保全関係の図書では,この本が最も「理論と実務の架橋」に成功しています。元裁判官で,現在法科大学院の教授をなされているということで,理論的説明も実務的運用もしっかり説明がなされています。コラムも面白く,最後まで飽きずに読めると思います。

刑事事実認定入門刑事事実認定入門
石井 一正

 刑事事実認定の何たるやが分からない人はまずこの本から。自白,共犯者の供述の信用性,犯人識別供述等の信用性,犯人性の認定,盗品の近接所持と窃盗犯人の認定,殺意,共謀の認定等につき,広く浅く基本的説明がなされています。LS時代にすでに50選を熟読したり,勉強が進んでいる人には不要かと思います。

刑事事実認定重要判決50選 補訂版 上巻刑事事実認定重要判決50選 補訂版 上巻
小林 充 植村 立郎

刑事事実認定重要判決50選 補訂版 下巻刑事事実認定重要判決50選 補訂版 下巻
小林 充 植村 立郎

 刑事系の起案ではこの本を読んでいるか否かで,結構差がつくように思います。殺意,共謀,正当防衛等について,研修所起案でも問われることになりますが,この本に書いてあるもの以上の知識・理解はほとんど問われません。裁判員裁判時代を迎えて,若干「殺意」などの捉え方,説明の仕方について変化は見られますが,本質は変わっていないと思います。非常に重要度が高い本の1つです。

新司法試験刑事事実認定特訓講座―刑事系論文演習問題集新司法試験刑事事実認定特訓講座―刑事系論文演習問題集
菊地 幸夫

続・LIVE刑事事実認定特訓講座続・LIVE刑事事実認定特訓講座
菊地 幸夫

 元刑事弁護教官による起案・解説書です。私はこれの元となった辰己の講座を買っていたので,この2冊は実際やったわけではないですが,刑事系の起案については他に類書がなく,解説も充実しておりますので,推薦しておきます。


※その他
和光だより 刑事弁護教官奮闘記和光だより 刑事弁護教官奮闘記
大木 孝

 司法修習の実像が具体的にイメージできます。起案の講評を振り返る部分では,刑弁,刑裁起案の結構大事なポイントが書いてあったりするので,面白いと思います。


 弁護修習の準備という意味では,実務で必須の倒産法,労働法についても基本的知識を習得しておくことが望まれます。LSで学んで来なかった方は,以下のような本で全体を概観しておくとよいでしょう。
プレップ労働法〈第3版〉 (プレップシリーズ)プレップ労働法〈第3版〉 (プレップシリーズ)
森戸 英幸

 笑いながら読める最高の入門書であり,労働法のエッセンスが詰まっています。労働法は,手続的知識よりも,労基法他の実体法,判例法理の理解が重要なのでそのあたりを意識して読んでみて下さい。プレップほどコンパクトではないですが,水町 勇一郎『労働法』も,たくさんの事例が載った良書です。

倒産処理法入門 (第3版)倒産処理法入門 (第3版)
山本 和彦

 「プレップ破産法」も良いのですが,名前の通り,民事再生法は取り扱っていないので,倒産法分野全体を概観する本としては「倒産処理法入門」を薦めます。