LE TROU

「穴」を探る

 何の気なしに古本屋に入ったら、草森紳一著の『「穴」を探る』という本が目に入った。僕なんかに理解出来るような内容なのかはともかく、「何かやれ」ということだと受け取って、この「穴」を復活させてみた。

「週刊ブックレビュー」2010年7月17日

◆岩瀬達哉氏(ジャーナリスト) 選
* * *
◆山形由美氏(フルーティスト) 選
* * *
◆束芋氏(現代美術作家) 選



 この中で興味を惹かれたのは、まず、ピューリッツァー賞を受賞したという、山形由美子氏推薦の『マーチ家の父 もうひとつの若草物語』。著者のジェラルディン・ブルックス氏のプロフィール紹介に、『古書の来歴』という、これまた興味をそそられる本があったので、それも検索してみたら絶版になっていた。今年の1月に出たばかりで、ピューリッツァー賞受賞作家の歴史ミステリ、なんて魅惑的な謳い文句がついているのにもう絶版かあ・・・。
 束芋氏のチョイスも、現代美術作家らしくて面白かった。「文章は読めなかった」と言いながら、一種の画集として紹介していた『生物の驚異的な形』は、とにかく画面で紹介するために開かれていたページのなかの“生物”の形とそのレイアウトの美しさを、僕も実際に見て体験してみたいと思ったし、福永信という若い作家の書いた『アクロバット前夜90°』という、かなり評論することが難しそうなちょっと変わった前衛小説? 実験小説? にも興味をそそられたのだった。

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「週刊ブックレビュー」2010年7月10日

NHK-BSで放送されている「週刊ブックレビュー」という番組は、面白そうな本を紹介してくれたり、作家がTV出演したりする、とても貴重な番組だと僕は思うのです。

◆堀江敏幸氏(作家) 選
* * *
◆青木るえか氏(エッセイスト) 選
* * *
◆曽我部恵一氏(ミュージシャン) 選


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こんなディティールの楽しみかた

 たまたま手元に転がっていた集英社コバルト文庫の『ハロー・グッドバイ』をパラパラとめくっていたら、偶然こんな一文が目にとまった。 
 六時からの送別パーティが開かれる店は、『スシャール』という名のコーヒー・ショップだった。さまざまな店の集まっている地下街の一角にあった。
「ハロー・グッドバイ」より
『ハロー・グッドバイ』片岡義男著/集英社コバルト文庫/1978年)


hello_goodbye ん? “スシャール”? ずいぶんと変わった名前の喫茶店だな。ひと目見ただけでは何語なのかもよくわからないし。この一文のあとにも店の描写がまだしばらく続くのだけれど、どの店がモデルなのかは作者に訊かなければ分からないとして、この“スシャール”という店名は実在のものではなく、何かから拝借したものにだと直感した。きっとコーヒー・ショップの名前に相応しい元ネタかがどこかにあるに違いないのだ。

 インターネットで検索すると、案の定、見事に片岡さんらしい元ネタにいき当たった。“スシャール”のスペルは "Suchard" であり、スイスの古くからあるチョコレートのブランドなのだった。1826年の創業というから、老舗中の老舗ブランドだ。なるほど、これならぴったりだ。そんなふうに片岡さん自身も、傍らにあったチョコレートの包み紙から思いついて名付けたのだと想像してみると、何だかちょっと楽しくなってきたりする。

 『ハロー・グッドバイ』が発売されたのは1978年。僕が読んだのはもう少しあとの80年代の初頭だと思うけれど、さすがに当時は、こういった辞書や事典では探しようもない言葉は読み飛ばすしか仕方がなかった。ましてや輸入チョコレートのブランドなんて、日本の片田舎に住む少年には知る術なんてなかったのだ。

 片岡さんの小説には、こんなディティールが無数に散りばめられていた。それらがいつもキラキラと輝いていて、小説をカラフルに彩っていたのだ。最初に読んだときには、わからずに読み飛ばしてきたその“謎”を、機会がある毎にひとつずつ解いていこうかと前々から考えていたのだけれど、こんなトリヴィアルなお遊びも、どうやらインターネットのおかげでずいぶんやり易くなってきたようだ。


大根、桜、ちり鍋

公明新聞20100131 『公明新聞』1月31日の日曜版の文化欄に、片岡さんのエッセイが掲載されていて、これがかなり楽しかった。感銘を受けた、という言いかたをしてもいい。新聞の文化欄なので、タイトルはないのだけれど、 「コーヒーに俳句が溶けていく」という見出しがついている。おそらく片岡さん自身がつけたものではないと思うけど、少し謎めいた言い回しには惹かれるものがあったので、期待して読んでみた。
 とある冬の日、知人たちと寿司を食べたあとに立ち寄ったコーヒー店のなかで、なぜか話題は俳句の話になり、
 作家はどんな句を詠むの、と謎の美女に訊かれた僕は、題をくれたらなんでも作る、と答えた。
 などと片岡さんは仰るわけです。
 そうして出てきたお題が三つと、そのお題で詠んだ句が三つ。それにおまけの句がもう一つ。
 句そのものはここでは省略するけれど、リアリズムと情緒的な部分とのバランスのとり方が片岡さんらしいな、と思いました。なかなか秀句ではないでしょうか。でも、それ以上に僕が面白いと思ったのは、興味を惹かれた謎めいた見出しについてのこと。
 僕たちは三人ともコーヒーをお代わりした。つくった俳句はすべてコーヒーのなかに溶け、僕たち三人それぞれの胃のなかに沈んだ。二杯目のコーヒーには、次の句が少なくとも二、三首は溶けているのではないか。僕としてはそれをすくい出せばそれでいい。
 なるほど。こういう言いかたをされたらもう、悔し涙と拍手喝采を必死で我慢しながら、「なるほど」と笑顔で唸るしかないじゃないか。

 ここで引用した二箇所の言い回しには、ちょっとしびれてしまったのだけれど、本当はこんなところでちょっとだけ紹介するのではなくて、読みたい人には全部読んでもらい、僕と同じ感銘を受けてもらいたいのだけれど、媒体が媒体だからなあ・・・目に触れる機会も少ない気がするので、ざっと紹介してみました。

 今年は「詩人」デビューするのだと、冗談のような本気のようなことも片岡さんは仰ってましたが、「俳人」も肩書きに付け加える必要があるかも。『片岡義男詩集』よりも『片岡義男句集』のほうが、世間的にはかなり意外(苦笑)で、インパクトも大きいだろうな。それでも愚かな人たちは、「片岡義男も年くったな」などと、読まずに悪態だけをつくか・・・。ま、それも含めて面白そう、と言っておこう。

刷って、と写真が囁く

 片岡義男さんに頼まれていたプリンター選びのために、新宿のビック・カメラで店員相手に色々と訊き倒してきた。
 片岡さんからの要望は、こんな感じ。
  1. SDカード・ダイレクトでプリント出来る
    (片岡さんが現在使っているデジタル一眼レフ・カメラのPENTAX K-7
    には、PictBridge機能がついていないため)
  2. インデックス・プリントが出来る
    (SDカードごとにインデックス・プリントして、整理・管理するため)
  3. ノー・トリミングで白フチ付きのプリントが出来る
    (ファインダーで切り取った構図のままに撮影し、プリント出来れば、これほどいいことはない・・・写真って、そうじゃなかったっけ?)
  4. 画質にはそれほどこだわらない
    (良ければそれに越したことはないが・・・)
  5. 印刷サイズはポストカード大くらいまで出来れば良い
    (あまり巨大なプリンターを自宅に置きたくない・・・と推測)
 片岡さんは、エプソンのColorio me E-600の雑誌かなんかの切り抜きを僕に手渡しつつ、必要としているプリンターの機能について語ったのだった。話を聞いていると、どうやら僕に依頼してきた理由は、

「カタログ見るのなんて嫌だし」(片岡義男 談)

 ということらしい(・・・だいたい予想はついていたけれど)。

 事前にエプソンとキャノンの両方のサポートに電話して基礎知識を仕入れておき、昨日ようやく新宿に行く機会を得て、家電量販店で実機を目の前に店員に相談してみて、最終選考とした。結果、残ったのは、キャノンのSELPHY ES40エプソンのColorio me E-600の2機種。
 キャノンのSELPHY ES40は昇華型でプリントが美しくオーヴァーコートされることと、何より現行プリンターの中で、恐らく唯一、キャノンのこのシリーズだけがノー・トリミングでプリントが可能らしいというのが特色だ。欠点は、インデックス・プリントが用紙一枚につき写真が50枚プリントされるので、サムネイルが小さくなってしまうことと、専用のインク・用紙一体型カートリッジしか使えないことと、あまりにもアットホームな本体デザイン・・・かな。
 片やエプソンのColorio me E-600は、デジタル・フォトフレームとしても使えるようになっているため、どこに置いてもそれほど邪魔にはならないデザインだし、大きな液晶ディスプレイがついていて操作メニューが見易い。ただ、それで操作がし易いかというと、実際に触ってみると必ずしもそうでもなく、本体には操作スイッチが無いため、ほとんどすべての操作を薄っぺらなリモコンだけで操作しなければならないのが、個人的にはちょっと嫌だ。しかも、白フチ付きでプリントしたとしても、若干トリミングされてしまうのも問題だな。
 だいたい2機種に絞れたと思ったのだが、ソニーも正月の年賀状戦線に参加していたらしく、Colorio me E-600の対抗馬として、デジタル・フォトフレーム/プリンター DPP-F700というのを出していた。これにはちょっと驚いたなあ。だって、デジタル・フォトフレーム付きプリンターの需要がそんなにあるとは思わなかったんだもん(ソニーさんはプリンター付きのデジタル・フォトフレームという位置づけらしく、デジタル・フォトフレームのカタログに載せていたのには、さらに笑わせてもらったけれど)。こっちも昇華型なのだけれど、SELPHYとは用紙サイズが違うので写真はトリミングされてしまうらしい。ソニーらしいスタイリッシュ(?)でソフィスティケイテッドされた(?)バブリーな(笑)なデザインだけれど、本体の操作ボタンが異常に操作し辛い。でも、リモコンがついているようだし、インデックス・プリントも可能なようだから、これも一応、候補には入れておくかな。




年明けのトンカツ

 午後、片岡さんから電話がある。

「もう東京にいるのかい?」
「はい」
「今日、もし時間あれば頼みたいことがあるので、トンカツをご馳走するから、午後5時半に町田で会いましょう」

 今日も寒く、都内でも氷点下を記録したらしいというので、やや厚着をしていつも待ち合わせに使う町田の喫茶店へ行く。5分ほど遅刻して着いたのだが、この日は珍しく片岡さんのほうがやや遅れて来たのだった。
 僕は年末の“宿題”出されていたを提出。なんだかんだで時間がとれず、中途半端なものになってしまったけれど、

「労作だね」

 と、片岡さんは仰ってくれたので、それはそれでまあひと安心。一方、片岡さんからの頼みごとというのは何かというと、プリンターを探してほしいのだという。その参考にと渡された雑誌かなにかの切り抜きには、エプソン社が最近出した、デジタル・フォト・フレーム機能付きのプリンター、「カラリオミー E-600」が載っていて、こういう感じのものが欲しいのだそう。ちょっと意外な気もして、よくよく欲しいプリンターの条件を伺ってみると、

 (1)印刷サイズはハガキ大くらいでもよい。
 (2)カメラがピクトブリッジに対応していないため、SDカード・ダイレクトで印刷が可能なこと。
 (3)昇華型もしくは6色インクのインクジェットがベターだと思うが、画質にはそれほどこだわらない。
 (4)インデックス・プリントが出来る。
 (5)ノー・トリミングの白枠付きで印刷が出来る。


 なるほど。(1)〜(4)はそれほど難しくはないような気もするけれど、(5)がPCを通さずにカメラからダイレクトで簡単に印刷出来るものってあるのかなあ・・・。と、そんな懸念を口にすると、話題は写真のトリミングについての話に。プリントに白枠を付けてくれと写真屋に頼むと、嘆かわしいことに、非道いところは縁なし写真の縁を塗りつぶすようにして白枠を付けることもあるのだそう。撮影した写真を、そのとき切り取った構図のままに印刷することの難しさ・・・技術的なことではなくて、なぜか無神経に勝手なトリミングをされてしまうことを嘆いておられました。
 と、そんなことを話しつつコーヒーを飲み、そのあとトンカツ屋さんでトンカツ定食をご馳走になり、食後にもう一度コーヒーが飲みたいということだったので、この前通りかかり、いい感じのナポリタンの食品サンプルがショーケースに並んでいたのを見て気になっていた、「喫茶プリンス」へ行って、再びコーヒーを飲んだのでした。


年越しワイン

be188685.jpg「まだ東京にいるかい?」

 電話でそう片岡さんに呼び出されて、町田のカフェ・グレでコーヒーを一緒に飲んで来ました。今日はとても天気が良くて温かく、片岡さんはすっかり冬を越したような気分になったのか、

「これからは日が長くなっていくだけだよ。もう楽勝だね」

 と、相変わらずの脳天気なお言葉。僕もかなり脳天気で楽天的なほうですが、片岡さんのスケールには到底敵いません。確かに冬至も過ぎてるわけだから、正しいことは正しいんですけどね。

「やっと暖冬らしくなってきましたね。でも、まだ2月がありますから。1月はなんとなく勢いで乗り切れるのですが、2月の寒さが僕はどうも苦手ですね」

 僕がそう言うと、片岡さんは少し苦笑いして、

「ああ、確かに2月は寒いね。これは年越し用に」

 と、ワインをいただいたりしたのでした。まったくもって有り難いことです。実家に帰って美味しく飲ませていただきます。

 こんなふうな会話から始まって、年の瀬の午後の曖昧な時間を片岡さんお気に入りの喫茶店で過ごしたのでしが、もちろん今日の本題は別にあって、正月の宿題をいただいたりしました。

ナポリへの寄り道

『ナポリへの道』発売記念!
スパゲッティ・ナポリタンは復権したと言ってもいいと思うけれど、「ナポリ」という名のお店は、次第に消えつつあるような気がする・・・ということでいろいろと検索してみました。実は、消えつつあるというわりには、まだだたくさん、数え切れないくらいありそうですが、画像で楽しめるものだけちょっとピックアップしてみました。よかったら、お散歩する感じで楽しんでみて下さい。


さすが京都! といった、いい感じの喫茶店を発見しました。
●喫茶ナポリ(京都)

ついこのあいだ、近くまでいったんだけどなあ・・・。
●珈琲ナポリ(目黒)

街道沿いの喫茶店っていうのもいいですねー。
どうもこの看板は写真に撮りたくなるらしく、他にも何枚か見つけました。
●TEA SALOON ナポリ(滋賀)

喫茶ナポリのルーツは倉敷にあった!?
昭和15年創業の元祖(?)喫茶ナポリ。いまもあってほしかった。
●「倉敷珈琲物語」/第56話「喫茶 ナポリ」

素晴らしい! いかにもという、こんな洋食店がやっぱりあるんですねー。
●キッチン ナポリ(浅草)

看板は「スパゲテイ」だし、もはやイタリアの香りはまったくしないのですが、
洋食店として、かなり完成された感じのするお店だと思います。
●カレー&スパゲテイ ナポリ(習志野)

そうでした! 千歳船橋の駅の近くにありました!
●ナポリ洋菓子店(千歳船橋)

「ナポリ」と「洋菓子」って、なんだか相性がいいようです。
どのお店も、いい佇まいをしてますね。ということで三連発!
●ナポリ洋菓子店(大和市中央林間)
●ナポリ洋菓子店(花小金井)

なかなかいい佇まいです。店主にぜひ店名の由来を訊いてみたい。
●理容 ナポリ(神奈川県秦野市)

実は相模原にも。でもこれは「NAPORI」。
もはや何語かわかりませんが、意外に「R」のナポリは多い。
●ヘアーサロンナポリ(神奈川県相模原市)

温泉場の射的場で、ナポリ。
個人的には世界遺産に登録したいくらいの感動的な発見です。
●射的 ナポリ遊戯場(鬼怒川温泉)

ついにナポリの集大成が!(笑)
知多半島からイタリア語で町を意味する「チッタ」へ、
そこにイタリアの海沿いの町ナポリをくっつけて・・・見事な連想ゲームです。
●チッタ・ナポリ 海陽系ウォーターフロントリゾート(愛知県知多半島)

ナポリの姉妹都市は、実は鹿児島なのでした。
●ナポリ通り(鹿児島)

いったいなんでしょうかこれは・・・姉妹品にミラノもあります。
●学習机 ナチュラル ナポリ

まさか! こんなところにまであったとは・・・。
●ナポリ食堂(韓国)

-----以下はアダルト編-----

ちょっとやそっとでは読めませんが、妖しい当て字が素晴らしい。
●ラウンジ 汝惚里(ナポリ)(川崎市)

片岡さんもよろこびそうな、最高のコピーがついてます。
「松阪の夜・お二人の夜はナポリでお過ごし下さい」
●ホテル ナポリ パート2(三重県松阪市)


ナポリへの道

大人の音楽談義 Vol. 5 『傑作カヴァーの自慢合戦』 その3 

  6. テネシー・ワルツ・ブルース/スティック・マッギー

Rockin' and Jumpin' 6曲目はアトランティックのLP『ロッキン・アンド・ジャンピン』から、「テネシー・ワルツ・ブルース」を。アトランティックのレコードのなかでもこれは古そうだなあ。1950年代の録音かな。名曲「テネシー・ワルツ」が、ブルージーに演奏されていて、とてもいい感じです。このLP自体は聴いたことはなかったけれど、高校時代に『ブルース・ブラザーズ』という映画をきっかけに、アトランティックのリズム・アンド・ブルースにはまった僕にはうれしいアルバムです。片岡さんは、「演奏者は不明です」と言っていたけど、インターネットで調べてみたら、どうやらスティック・マッギー(スティックス・マッギーという表記もあり)という人の演奏のようです。「タイトルにワルツとついてはいるけれど、三拍子の曲ではないんですよね」と、そんな話もしていたなあ。そう言えば、片岡さんが「テネシー・ワルツ」について書いたエッセイもどこかにあったな、と思って探してみたら、東理夫氏が編集した『カントリー&ウエスタン大好き』のなかにありました。この本のなかで片岡さんは、「テネシー・ワルツ」誕生のエピソードを紹介してくれています。その誕生のエピソードのほうは本で読んでもらうことにして、「テネシー・ワルツ」に対する片岡さんの思い入れの部分をちょっと引用してみます。こんなふうに書かれてしまったら、「テネシー・ワルツ」に興味を持たずにはいられなくなります、よね?

『カントリー&ウエスタン大好き』『テネシー・ワルツ』が出来るきっかけはどなふうだったか、知りたくないだろうか。このエピソードも、僕の好みにぴったりだ。内容は涙が出るほどにうれしい。この曲にしてこの生誕のエピソードあり、ということだ。才能のある、しかも腕に覚えの練達のカントリー・ソングの男たちが、歌と演奏をめぐる多忙な日々のなかに見つけた、ほんの一瞬の、切り口の鋭い時間の裂け目のような時空間のなかで、名曲へのきっかけを、きわめてさりげなく、彼らはつかみ取る。

「ハートのありったけ、という種類の言語活動」
『カントリー&ウエスタン大好き』東理夫編、丸善ブックス、1995年)より


  7. プロローグ(ジス・イズ・アン・オーケストラ!)/スタン・ケントン

Stan Kenton' この曲あたりから、カヴァー曲というテーマを外れていきだしたようですが、『Coyote』最新号の連載「サウンドスケープを歩く」で、片岡さんがボーズの101MMにもっともよく調和するとして取り上げている楽曲です。楽曲としてはこの日もっともインパクトがありました。「プロローグ(ジス・イズ・アン・オーケストラ!)」という曲名どおり、スタン・ケントンが自身のオーケストラの演奏をバックに、ただひたすらオーケストラとメンバーについて語っていくという、長さも10分近くあるちょっと実験的な曲です。僕の印象はそうだなあ・・・「マッチョ」かなあ。スタン・ケントンの語りがひたすら男性的で、男らしさをとおりこしたマッチョな印象が強かったけれど、なぜか聴いていて耳に心地よさすら感じたりするのは、ドラマチックな構成のせいでしょうか。昔のアメリカのドラマやドキュメンタリーのナレーションとか、映画の予告編なんかも単独で聴くとちょっと似た感じがあるのかもしれないから、実験的とは書いたけれど、極めてアメリカ的と言ったほうがいいのかもしれないなあ。片岡さんは80年代によく聴いたと書いていたけれど、古いアメリカのペーパーバックなんかを買うのとちょっと近い感覚があるのかもしれないな、と勝手に想像したりして楽しんでいます。

New Concepts of Artistry in Rhythm
New Concepts of Artistry in Rhythm / Stan Kenton

  8. レインボー/チェット・アトキンス

 次にボーズの101MMから流れてきたのは、心地の良いギターの音色。その正体は、ギターの神様チェット・アトキンス。小西康陽氏もチェット・アトキンスは大好きだそうで、現在ギターの入った曲をいろいろと収集とのことでした。それでどうして片岡さんがこの曲を選んだのだろうかと考えていたら、聞いてびっくり、この曲「レインボー」は、片岡さんが「きまぐれ飛行船」をやる前に、ラジオ関東(現在のRFラジオ日本)でディスク・ジョッキーをやっていた30分番組のテーマ曲なのだそうです。知らなかったなあ。おそらく知っている人は本人を除いてごくわずかどころか、ほとんどいないだろうし、そのラジオ番組を聴いたことがある人もいないだろうなあ。30分番組をひとりでこなすために、一人二役(日本人とアメリカ人の二役?)をやっていたという話も。このへんの詳しい話は、また本人に訊いてみたいと思っています。

New Concepts of Artistry in Rhythm
RCAデイズ・オブ・チェット・アトキンス~ナッシュヴィル・ジャンプ

  9. ユア・チーティン・ハート/ロイ・クラーク・アンド・ジョー・パス

 ギターによる気持ちのいい曲がもう一曲続きます。カントリー・ミュージックの大御所ロイ・クラークと、ジャズ・ギターの巨人ジョー・パスが、偉大なるハンク・ウイリアムズの曲を演奏するという、まるで夢のようなアルバム、『ロイ・クラーク・アンド・ジョー・パス・プレイズ・ハンク・ウイリアムズ』からの一曲です。演奏もそうだけど、ジャケットを見ているだけでこれは和むなあ。コンパクト・ディスクだったから、うしろのほうの客席にいた人はよく見えなかったかもしれないけれど、ぜひともこのジャケット(2006年の再発版のCDジャケットは、かなりつまらないので注意)は見て下さい。こういうのを「ジャケ買い」しないとね。もう見たまんまの、「熟練」を絵に描いたようなふたりによる余裕のプレイです。聴いたままの印象だと、ロイ・クラークのほうが何かこうエネルギッシュな感じで、ジョー・パスがそれを余裕でサポートするという感じでしょうか。きっとほかの曲を聴くとまた違ったりするんだろうな。とにかく和みます。この曲がいちばん印象に残ったという人も多かったような気もする。アメリカのアマゾンで試聴が出来るようなので、ぜひ聴いてみて下さい。ジョー・パスは1994年に亡くなっていて、1995年に発売されたこのアルバムが彼の最後のセッションという説もあるようです。まあそうでなくとも、貴重な最晩年の作品であることは間違いないです。イヴェントが終わったあとで片岡さんに、「あれは良かったですねえ」と素直な感想を言うと、片岡さんもなんだか得意気にしていました。ジャンルにこだわらず、広い知識を持っていると、こういうアルバムにいきつくのだといういい見本ですね。(つづく)

Roy Clark & Joe Pass Play Hank Williams
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