聖路加病院出張を終え、医師 2年目、北里大学病院(相模原市)で初めて「主治医」を任された。患者さんは、 26才新婚「コヤクマル ヒロコ」さん、転移性の絨毛癌(胎盤の癌、転移しても高率に治る)。近医で妊娠と誤診され、癌が進行してから北里大学病院・産婦人科に入院。小腸転移が見つかり外科へ転科、腸切除術を受ける。今度は腎転移が見つかり泌尿器科へ転科。医局長(癌が専門、現・東海大学医学部・教授)が、どうせ治らないと踏んで、新米医師、僕を主治医にあてた。
 治療歴を総括したら、何の化学療法も受けていない。早速、MTX(メソトレキセート)を中心とした標準治療を開始、腫瘍マーカー(HCG)はぐんぐん下がったが、途中で効かなくなった。図書館で調べると、MTX耐性の絨毛癌には シスプラチンが有効であることを知った。この新薬、物凄い嘔吐をもたらす。観るに見かねて調べると、Methylprednisolone(MPL)というステロイド剤がシスプラチンの嘔吐に有効であることを知った。治癒を信じ懸命に治療したが、7ヵ月後に他界された。
 コヤクマルさんが他界された時、学生論文でお世話になった遠藤准教授に「りー、泣くな」と叱られた。「???」。
 当時は気づかなかったが、大学病院の各科「癌専門を謳う」スタッフ、誰一人も標準治療をご存知なかった。コヤクマルさんの治療経過を日本語論文にまとめたが、かかる癌にシスプラチンを使用したのも、MPLが制吐作用を有することを示したのも、医師 2年目の僕が日本初だった*。

 その他に日本/世界初の論文は、腎盂の平たい癌に対して、腎尿管全摘せずに治療できますという内容**。北里研究所病院時代(1990〜1996年)、後輩・入江に命じ日本語で論文にした。元部長・門脇や現・部長・入江啓らは、僕が開業した後、この論文の英訳を、僕の名前を載せずに一流誌の論文にしていた。門脇先生は部長だったので、お情けで論文に名を連ねてあげ、入江先生は全部僕の口述通りに論文を書いたにもかかわらず、自分らの手柄にした、あきれた。彼らは英語を解さないが、英文にしてくれる業者がある。
 1990年の秋、現・岩手医大・泌尿器科・藤岡知明教授(聖路加時代の先輩)に請われ、岩手まで講演に出かけたことがある。僕が考案し一流誌に載せ、世界中から絶賛された「血管新生の定量」に関する論文***を、あろうことか彼は盗用した。
 あと日本初は、学生医学論文「李ら、生命表分析による移植腎生着率の検討、北里医学 Vo 10、1980年」のデータだけ書き換えたバージョンをどこかの医学誌で目にした。
 盗作・盗用、オリジナリティーを尊ぶ欧米では、想像すら及ばない行為なのです。

* 李ら、抗癌剤化学療法時における MPLの併用 その制嘔作用、癌と化学療法 10:1466、1983
** 入江、李ら、上部尿路上皮内癌に対して尿管ステントカテーテルを留置した BCG膀胱内注入療法 臨床泌尿器科 49:149、1995
*** K.Lee et al、Cortisone inhibition of tumor angiogenesis measured by a quantitative colorimetric assay in mice(マウスにおける、コーチゾンによる腫瘍血管新生を光学的に定量する方法) CCP 26:461、1990
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著「癌患者を救いたい PSA検診のウソ」(正誤表)(2007年4月の記事、校正)