アメリカ時代(1985〜90年)、Bob Mayer(本名は、Robertだが、口語では、Bobという)の姉さん女房がロチェスター大学・医学部・生化学教授に就任した。Bob Mayerは奥さんを追って、シカゴ大から、1987年に同大・泌尿器科・助教授に赴任し同僚となった。彼は奥さんを心から愛し、また科学者として心から尊敬し、ノーベル賞を受賞すると確信していた。
 ある日、Bob Mayerが共同実験をもちかけてきた。「腎臓のグルタチオン(“グルタサイオン“)濃度が低下すると、シスプラチンの腎毒性が増強する」という奥様の仮説を証明したいと。日本で、多少シスプラチンの腎毒性をかじった僕としては合点が行かなかったが、共同実験をはじめた。
 Buthionine sulfoximine (BSO) という薬剤は、腎を含め組織のグルタチオン濃度を低下させる。これを、あらかじめラット(=大型のネズミ)に投与し、十分に腎グルタチオン濃度を低下させ、そこでシスプラチンを投与した。すると、何と腎毒性が軽減した! 当時、シスプラチンは、抗癌剤のエースで腎毒性が問題だった、これだけで世界的大発見なのに、彼は腑に落ちず、何十時間議論したか。そして、追試を繰り返したところ同様の結果を得た。結局、「奥様の仮説」を否定する結果を 1〜2流誌に三編の論文*としてまとめた。  

* 1) R.D.Mayer, KE.Lee et al. Inhibition of cisplatin-induced nephrotoxicity in rats by BSO, a glutathion synthesis inhibitor   Cancer Chemotherapy and Pharmacology 20:207 1987
2) KE.Lee, R.D.Mayer et al. Effect of systemic glutathion depletion by BSO on sensitivity of murine bladder cancer to cytotoxic agents  Urology XXX: 376 1989
3) R.D.Mayer, KE.Lee et al. Improved use of BSO to prevent cisplatin nephrotoxicity in rats  J Cancer Res Clin Oncol 115:418 1989

そのBobから聞いた話
★ 銃 と お告げが聞けなくなりました
 Rochesterに住んで、心らから relaxできるという。「シカゴ」では、自宅から医学部へ出勤する時「危険地帯」を通過しなくてはならない。万が一、エンジントラブルなどで「危険地帯」に停車すると、撃ち殺されても仕方ないという。「!訳も無いのに」。「そう、without any reasons」。
 私 Rochesterでは、怖い思いをしませんでした。ただ、近郊のフリーウエー(無料高速道路)を運転中、行く手に黒いリムジンが 2台停車し、数人がピストルで打ち合いしていた。今のところ、これまで経験した中で最も怖い、あれほど死を身近に感じた経験はありませんよ。
 Bobはまた、アメリカの医療訴訟に詳しく、ある事例を紹介してくれた。占い師が頭痛を主訴に脳外科を受診した。頭部の CT検査(X線検査の一種)を受けた後から「お告げが聞こえなくなった」と脳外科医を訴えた。事前に「お告げが聞こえなくなる可能性」の説明を受けなかったとの理由で。裁判では、脳外科医が説明責任を怠ったという理由で、占い師が勝訴し、数万ドル(金額は忘れた)を得たとのこと。裁判の判決は、陪審員がくだすので、控訴側の弁護士は、医者を大金持ちの強者、患者を貧しい弱者に仕立て、医者は敗訴しやすいそうだ。ちなみに、日本では、患者側に立証責任があるので、医者が負けることは、まずない。
 医療訴訟にそなえ、医師がかける保険料(malplactice insurance)が高騰し、特に脳外科は、個人では開業できないため、グループで開業するそうだ。
 リー湘南クリニック (2007年7月の記事、統合、短縮、校正)