リー湘南クリニックからのお知らせ

院長ブログ−異端医師の独り言

医学、科学論文の要約

2013年05月11日

☆☆★★ 動物の深い悲しみの謎

2003年4月号の TIME誌*に掲載された記事です。非常に長いのでそのごく一部を紹介します。われわれ人類は、近親者を亡くすと深い悲しみにくれますが、その起源は動物にあるという、言われてみれば当たり前のお話。近親者を亡くされたとき、この記事を思い出してください。
 科学者は、動物は死に対して敬意をはらい、悼み、そして通夜すらする新しい証拠を発見しつつある。それは、動物について、そしてわれわれに何を明らかにするのか。
 カラスの魂には、何か深いものがある。容易に死を負わせる動物は、仲間が死んだ時、深く感傷にふけるように見える。野外に横たわるカラスの死骸には、すぐに 2ないし 3羽のカラスが集まる。カラスは、何百羽もの仲間を呼び寄せる特別な泣き声を発しながら、急降下と上昇を繰り返す(dive and swoop and scold ≪=ヒッチコック風の表現らしい≫)。まるで儀式的な協調で、しばしば全くの沈黙の中、舞い降り死骸を取り囲む。あるカラスは、草木のスティクや枝木を運び、死骸の横や上に置く。そして、敬意を表し飛び去る。
 子供の死後数日から数週たち、腐敗が始まっても死を認めず、死体をかかえ続ける母猿の例がある。血縁者の死後長い間、確かめ、触れるながら死体に寄り添う。象は見つけた骨に立ち止まり、骨を確かめる。遊び仲間が死んだとき、元気が無くなり食事をしなくなる犬と猫、猫の中には悲しみを恐ろしいほど泣き叫び表現する。ボノボスは消え行く灯火に荒れ狂い、しばしば死骸に石を投げつけ、自分の胸を叩く前に死骸の胸を叩く。死に伴う明らかな悲しみは、農園ではヤギ、羊、豚、カモ、アヒルに観察されてきた、そして海では、母イルカは霊長類の母のように死骸を前に押し出す。
 動物は、われわれと同様社会的生き物である。動物は、われわれと全く同じように関係を築き、それはある時点でそれらの終わりを経験しなくてはならないことを意味する。「彼らは、われわれと同じように繋がっている」と William and Mary大学の人類学教授で 「How Animals Grieve(いかに動物は悲しむか)」の著者でもある Kingは言う。「われわれは皆、社会的に順応しいて、われわれの脳は同じように配線されている。なぜ動物は死者を哀悼しない?」。
 もし彼らが実際に哀悼するなら、その機序はわれわれの哀悼過程の進化的前身に違いない。「これらの行為がいかに進化してきたのかを理解するのは容易い」とコロラド大学の進化生物学教授、Bekoffは言う。「それは通夜である。深く悲しむヒトの家族が自ら言い聞かせるのと丁度同じように、動物は、自然の摂理であると感情を押し殺す」。
 BekofとKingは、動物は喪に服するかという発展する研究分野でリーダー的存在である。それらの知見は、野外観察的研究よりよりも動物園の飼育員やペットの飼い主からもたらされる。われわれが苦しむと同じように、動物達も苦しむようだ。
喪の方法   英国の動物学者 Douglas-Hamiltonは、ケニアの国立公園における Eleanorとして知られる 2003年のアフリカ象の死に心を打たれた。Eleanorは、彼女の群れの女家長で 6ヶ月早く生まれた。病を患い、彼女は他のメス象の前で倒れた。Graceと呼ばれる象は、らっぱのような声をあげ、Eleanorを押しそして牙で彼女を起こそうとした。翌朝 Eleanorが死ぬと丸一週間、彼女の子供と群れのメスは死骸を訪れた。死骸を密猟者から守るために移動しても彼女らは訪れ、腐食動物が死骸を食べ出しても訪れた。その子供は、母の身体に鼻をすりつけ、乳をせがんた。しかし、乳は出ず、母は決して動かなかった、そして子供もすぐに死んだ。「Eleanorの死の感情的影響を明確に見た」と Kingは言う。「Eleanorに近づくすべての象が哀悼のためではないと思う、中には単に好奇心のためと思う。しかし、Douglas-Hamiltonは、種を超えた極度の悲痛について描写してくれる。」
 霊長類は異なるアプローチをする。一つの理由は恐らく、彼らのより優れた脳が他の動物がしないほう方法で、死を永久的で避けがたいものと捉えるからである。Emory大学の霊長類学者 de Waalは、ピグミーチンパンジー(ボノボー)の群れが Gaboon viperとして知られる毒蛇に遭遇した時の様子を指摘する。ボノボーは、一匹のメスが蛇を掴めるぎりぎりまで棒で蛇をつっつき、メスは蛇を地面に叩きつけ殺した。瞬時に恐れていたボノボーは平静になり、若いサルは毒牙を調べたり蛇を花輪のようにまとった。「蛇が生き返るのを経験したサルはいなかった」と de Waalは言う。「死は死」であることを理解する。
 その認識、それはヒトで何ヶ月もの間、実存する不変で恐ろしい狭間で深い悲しみに行き当たり、サルが試練に向き合うのと同じである。オランダの Burger動物園で Oortjeと呼ばれるチンパンジーが難治性の感染症に罹った。ある午後、サル達は室内にいて、他のメスが弱った Oortje彼女に近づき、彼女の目を凝視し、そして自分の胸を叩きだした。Oortjeは答えようとしたが、倒れそして死んだ。他のチンパンジーから泣き声が発せられ、そして室内のサル達は完全に沈黙した。Oortjeに最も近いチンプは、死が近いことを知っていたと、科学的に確信的に言えるが、それは直感的観察である。「Oortjeと蛇の死は、他の者の死は霊長類の心にあり彼らに深い影響を与えることを示唆する」と Waalは言う。「証拠は、動物がある期間動かなくなったら、回復は見込み薄であることを彼らは知っていることを示唆する。」
Noと言うだけ(Just Say No)  希望が薄いことは、希望が無いと同じではない、そしてヒトは、いつも死に対して否認を示す。救命救急室で家族は、事故の犠牲者の生命機能が停止し長く経っても、医師に電気ショックと心マッサージの継続を懇願する。医師とウィージャー(=心霊術で用いるアルファベットなどが記された板)製作者は、われわれの「死は死(dead-is-dead)」という格言を頑なに拒否する。宗教もその反映である。単なる永遠の生命の願望より神格と信者の深い信仰に関し数多くの研究多がある。
 動物では、この行動は死骸運搬の奇妙な行動によく表現される。チンパンジー、ボノボ、そしてヒヒは、腐臭が出だした後でさえ死んだ子供を運び、死骸は手の中で白骨化していった。捕食者が文字通り数ポンドの重荷を待ち伏せするジャングルの中ををてくてく歩くのは、不適応的だが母はリスクを負い、どうでもよいカロリーを消費する。ギニアの一例では、母は赤ん坊を 68日間も運んだ。
 「良くそれを見る」と、コンゴ共和国の 75エーカーのボノボ保護区で働く、研究科学者で「ボノボの握手」の著者でもある Woodsは言う。「母親達は子供の死骸を運ぶだけではなく、それらにとても慎重である。授乳を早期に中止したヒトの母親は、うつ病のリスクが高く、だから子供が死んだときボノボにも何か同様なことがおきている可能性がある。」
 Kingの本は同様に、動物王国を通して深い悲しみと否定の物語を語る。:シャム猫の Willaは巣穴の中で部屋から部屋へ歩き回り、死んだ妹を何度も再訪した。日本の伝統的な秋田犬、ハチコーの深い悲しみは種を超えるようにみえる。ハチコーは毎朝、飼い主を見送りに駅まで行き、夕方に出迎えに行った。ハチコーは飼い主が死んだ後、毎日毎日 10年間通い続けた。仲間が死んだ後、鬱に陥る馬がいる、そしてウサギでさえ、飼い主によると檻の中の仲間が死んだ後、「仲間を探して、約一週間、悲劇的掃除をした。」
 ある程度まで、このような状況で動物の脳に何が起こっているのか科学的に調べるのか可能で、予備的証拠は、悲しみ反応であることを示唆する。死に続くストレスは、動物そしてヒトの脳でコーチゾールの遊離を促す;コーチゾールは、しばしば「抱擁物質(cuddle chemical)」と呼ばれる、オキシトシンの遊離の引き金となる。オキシトシンこそが、赤ちゃんが生まれた後両親の血中に激増し、社会的関係や交友関係を求めるように仕向ける。霊長類研究家 Enghはボツワナで、動物社会が経験する最も悲惨な出来事の一つである、仲間が捕食者に殺された時、同反応するを調べるため、ヒヒの群れを追った。捕食者からの攻撃の後、群れの糞を集め、上昇したグルコ・コルチコイド(GC)ストレスマーカーのサインを調べた。最長一ヶ月に及び、殺害を目撃したすべての個体の GCは上昇し、犠牲者の血縁者や社会的関係のある 22個体の GCはより高かった。もしこれがオキシトシン遊離を促したなら、われわれと同じように、動物は死者の前での治癒的集いに加わったに違いない。これは、目的をもったストレスそして深い悲しみで、いかに正確にシステムが作動するかである。「彼らが反応に気づかなかったとしても、反応は適応性がある」とペンシル大学の生物学者で、「ヒヒの形而上学」の共同著者、そして Enghの仕事を監督した一人である Cheneyは言う。「ヒトと同じように、動物の強固な社会支援ネットワークは、ストレスに対して緩衝となる」
 脳研究は、動物が悲しむ説を補強する。ヒトでは、悲嘆は感情を処理する前頭葉、側坐核、そして扁桃核により媒介される。われわれは、多くの他の動物と基本的解剖を共有するが、ある種では構造物があまり発達していない。鳥の脳は、われわれとあまり似ていないが扁桃核を持ち、特にカラスは大きな前頭と良く発達した海馬をもつ。
 Marzluffは、マスクをつけた研究者に捕らえられたカラスを異なるマスクをつけた研究者が給餌し世話をするという研究を行った。鳥は放射活性色素を注射され、そしてストレスのかかる捕獲時のマスク、給餌マスク、あるいは全く異なるマスクを見せられた。そして、鳥に麻酔をかけ PET scanを行った。恐ろしいマスクを見たカラスは、一貫して高い海馬活動を示した。死んだように見えるカラスの剝製を見せられたカラスは、活動は海馬に起こり、カラスは、そこは危ないから避けろという位置記憶を形成していることを示唆する。「カラスは生涯、20年間つがいとなる」と彼は言う。「片方が死んだ時、残りはただ立ち、見つめる」「ストレスがかかれば、カラスはわれわれと同じような経験しているのか分かる」と言う。
反論の余地は?(Is It the Real Deal?)  実験や野外観察の結果は、動物―悲嘆説の主唱でさえ、結論を急ぐことに慎重である。Kingは、GC追跡調査が示唆しているにもかかわらず、サル達は本当に悲しむのかを問う。そう、メスのヒヒは死んだ子を長い期間運ぶが交渉をもつことがあり、深い悲しみと一貫性に欠ける。「これは、彼女の立場に影響を与えるから公に悲しまないようにさせる自然淘汰か、あるいは彼女は全く何も感じていないのか?」Kingは問う。「わからない」。ヒヒの赤ちゃんの行動をみていても明らかでない。死んだ母親の前に立ち揺すりそして泣く、これらは確かに悲しみに見えるが単なる飢えなのかもしれない。母親が死ぬとミルクが絶たれ、食物の途絶は飢えばかりでなく寒さももたらし、それが揺らしにつながるのかもしれない ≪赤ちゃんと成人を同列に論じるには無理がある。ヒトでは、乳幼児期に母親が死んでも何も感じない≫。  
*Jeffrey Kluger TIME p.32 APRIL 15, 2013

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2013年04月23日

☆★ ダイエット経験 と ダイエット・カウンセリング

自分が初めてダイエットを経験したのは、高校 2年生の時だった。そもそも肥満に嫌悪感があり、Gパンがきつくなってきたのをきっかけに始めた。原則、食べないようにし、家庭科の栄養表からひたすら低カロリーの食品を食した。修行僧のような苦行を乗り越え、63Kg→60Kg以下に体重を落とした。しかし、そのうちコンニャクや豆腐などの低カロリー食を見るのも嫌になり、リバウンドした。
 大学時代は運動部に属していたため、医師新米時代は超多忙なため太る暇がなかった。
 1985年(30歳)アメリカに赴任後、もっぱらデスクワークとアメリカの食事が口に合い太り始めた。当時の常識は「低脂肪食」で、もっともこの教義は今でも日本ではまかり通っているが、ひたすら脂肪を避けたが、徐々に体重は増えていった。63Kg→68Kg。
 1990年帰国後、「有酸素運動」なる新しい教義が蔓延していた。職場(北里研究所病院)の隣が有栖川公園だったので、昼に公園をジョギングで 2周、仕事が終わるとジムで汗を流した。この涙ぐましい努力にもかかわらず、脇腹の贅肉は量を増していった。
 1994年に名古屋で美容外科の副業(娘の学費稼ぎのためですよ)を始めてから、「サノレックス」なる食欲抑制剤を知った。試してみると、なるほど食欲は失せるが長期間服用できないため(習慣性の心配があるため)、服用を中止すると猛烈な食欲に襲われ、すぐにリバウンドした。この頃、アメリカから脂肪吸収抑制剤ゼネカルや食欲抑制剤が FDAの認可を受け、これらを試してみたが効果は無かった。
 1996年、藤沢で開業してから、もっぱら低脂肪食と有酸素運動に励んだが、体重は漸増し 70Kgあたりを前後していた。
 これまで、ダイエットを真剣に研究する一流の科学者は皆無であったが、レプチンそしてグレリンの発見により、続々と一流の科学者が研究に参入し、ダイエットの科学は長足の進歩を遂げた。大きな発見は、ダイエットをすると(させると)、長寿遺伝子のスイッチが onになり、実験に供したあらゆる生物が長生きすることである(最近の霊長類・チンパンジーを用いた 2つの独立した研究では、「一つは、ダイエット群は普通食群より長生きした、もう一方の研究では、普通食群と変わらなかった」という結果)。
 これら最新の知見と併せ、生化学の教科書(HARPER'S BIOCHEMISTRY)を読み返してみて、自分なりに太る機序が理解でき、そしてその対策が頭に浮かんだ。自ら実践してみると、美味しいものを食べながら、食欲と闘うことなく、楽に減量できた(70K→63Kg)。このダイエット法の一部は、拙著「早死にするデブ しないデブ」に記しました。これら知見を伝授する「ダイエット・カウンセリング」を実施しています(要予約、有料)。これまで、百人近い人にカウンセリングしてきましたが、不成功例は一例(糖尿病を合併する、中年女性)だけです。
 これは受動的ダイエットになりますが、入院中は末梢からの点滴(一日せいぜい、600KcaL)、続いて胃瘻からの栄養補給(1,200KcaL)で、退院時体重は 63→55Kg。退院後も固形物をまだ食べられないので、今朝量ると体重は 52Kgになっていた、が体調はすこぶる良好です。
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著 癌患者を救いたい PSA検診のウソ正誤表早死にするデブ しないデブ

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2013年02月19日

☆ 前立腺癌に対する Cabzantinibの効果

経口薬、タイロシンキナーゼ阻害薬 Cabozantinib(XL184)は、間葉性−上皮細胞移行因子(MET)(肝細胞成長因子受容体としても知られる)、そして血管内皮細胞受容体 2(VEGFR2)をはじめ複数の標的に活性をもつ*。
 去勢抵抗性転移性前立腺癌患者≪転移がある前立腺癌に去勢(物理的あるいは薬物的)はきわめて有効であるが、数年で効果がみられなくなる≫に本剤を試したところ多くの患者で著しい効果がみられた。症例数が少ないので、断定できないが、軟部組織や骨転移巣が縮小あるいは消滅し、自覚症状が改善した≪延命効果は不明≫。
*Goodin S. et al Cabozantinib in Prostate Cancer: The Beginning of a Precision Paradigm ? J of Clinical Oncology 31:401 February 1, 2013
*Smith D.C. et al Cabozantinib in Patients With Advanced Prostate Cancer: Results of a Phase II Randomized Discontinuation Trial J fo Clinical Oncology 31:412 February 1, 2013

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2013年02月11日

PSAスクリーニングで PSA値の閾値を上げると過剰診断が減る

最近、米予防医学戦略室(米・予防サービスタスクフォース)は、前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングの有害性を指摘した。 そこで、PSAスクリーニング戦略の有効性をマイクロシミュレーションモデルで比較した。50-74歳の男性を対象に毎年実施し、生検実施の閾値を4μg/Lとした現行の戦略に比べ、高齢者の閾値を高くした戦略では前立腺癌による死亡リスクは同等だが(2.15%と2.23%)、過剰診断のリスクは3.3%から2.3%に低下した。
≪PSA値が 4.0ng/ml以上だと「前立腺癌の疑いがありますよ」と生検に誘われますが、この閾値には科学的根拠が無く、この閾値を高くすれば過剰診断が減り、死亡率は変わらない:要は、PSA検診は有害(合併症がある)無益(死亡率を減らせない)ということ≫
Gulati R et al. Comparative Effectiveness of Alternative Prostate-Specific Antigen–Based Prostate Cancer Screening Strategies: Model Estimates of Potential Benefits and Harms. Ann Intern Med   158:145-153  February 2013
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著 癌患者を救いたい PSA検診のウソ正誤表) 早死にするデブ しないデブ

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2013年02月09日

☆ 前立腺生検後の合併症: SEER-Midicareからのデータ

メディケアー(=任意で加入する医療保険)加入者の百万人以上が毎年前立腺生検を受けている。
 SEER(Surveillance, Epidemiology and End Results)地域で、1991年〜2007年に前立腺生検を受けたメディケアー加入者の 5%を無作為に選び、無作為に選んだコントロール群と比較した。前立腺生検後、30日以内に 一ヶ月入院した患者は 6.9%で、コントロール群では 2.7%だった。入院の主な原因は感染症で、毎年増加傾向にある。
≪最近読んだ論文によると、前立腺生検で 2千人に一人が死亡する。無益な生検へ駆り立てる泌尿器科学会。≫
Loeb S. et al Complications after Prostate Biopsy: Data From SEER Medicate J of Urology 186: 1830 Nov 2011
(2011年11月の記事、微校正)

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2013年01月31日

☆ おデブの治療

アメリカの超一流内科誌*に興味ある無作為対照化試験の結果が報告された。
 スウェーデンで BMI(= 体重Kg ÷ 身長m ÷ 身長m)30以上のおデブ、4,047人を 2群に分け、片方、2,010人には所謂一般的ダイエットを指導し(ダイエット群)、もう一方、2,037人には何らかの胃の手術(胃と小腸をつなぐバイパス手術、胃部分切除、あるいは胃にバンドを巻く手術)を受けてもらった。
 平均 11年間経過を観察した結果、ダイエット群では殆ど体重の減少なし。一方、手術群では著明な体重減少が見られ、死亡率も減少した。 
 ダイエット群の方に、当院で実施しているダイエット法(要予約)を伝授すれば、結果は違ってきたでしょう。
*New England of J of Medicine 357:8, 2007
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著「癌患者を救いたい PSA検診のウソ」(正誤表) 早死にするデブ しないデブ(2007年9月の記事、校正)

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2013年01月29日

☆☆ おデブの内科的治療

工業圏の住人は、普通に生活していれば肥る、これは環境と遺伝子のミスマッチによる。環境とは「美味しい食品を簡単に手に入れられるようになった、座ったままの生活、交通手段、の発達など」。遺伝子とは「かつて人類が飢餓に際し、発達させてきた倹約遺伝子群」。倹約遺伝子群は「飢餓(ダイエット)に際し、基礎代謝を低下させ、飽食時に余分なエネルギーを内蔵脂肪として蓄える」働きをし、生存の可能性を高めた。
 100人に一人くらい、ダイエットを意識しなくても肥らないヒトがいる。かかる人類は、万歩計で計れない運動を無意識のうちにしている。例えば、椅子に座っていても無意識に体を傾け、腹筋や大腿筋を使ったり、それにより一日数百カロリー(数字は失念)余計にカロリーを消費する。
 さて、ダイエットに科学のメスが入ったのは 1994年、抗肥満ホルモン leptinの発見に端を発する。その後、ghrelinをはじめ食欲をコントロールするホルモンが次々に発見され、2001年頃から超一流の科学誌に肥満やダイエットの総説を散見するようになった。
 2008年8月号の NEJM*に首記の「Nonsurgical Management of Obesity in Adults」という論文が掲載されている。著者(Eckel,R.H.)は、減塩政策で失態を演じた国立心肺血液研究所(NHLBI)のガイドラインをそのまま紹介し、ダイエットを理解しない能天気な論文を鵜呑みにし、そしてダイエット薬服用へと誘導している感がある。しかし、何しろアメリカの超一流内科誌、僕の経験とあわせ、ダイエットの科学を紹介します。
 論文*では、まず食事について諸説が紹介されている。「総カロリーを減らして減量に成功した研究」が紹介されているが、摂取カロリーを減らせれば痩せるのは当たり前。
 低脂肪食については論争があると記されているが、脂肪は肥らない。いくら血中脂肪濃度が高くなっても、それを体脂肪に変換するホルモン、インスリンがでてこない(=分泌されない)からだ。ヨガの修行に「バターと牛乳だけを食べる」のがある。一日の摂取カロリーは7千数百 Kcalになるが、みるみる痩せる。かつては、これをヨガの神秘性に求めていたが、種を明かせば(科学が進歩すれば)仕掛けは簡単。
 低炭水化物食は、一時的ダイエット効果があるが一年続かないと紹介されている。
 意外だったのは、低糖化指数ダイエット。糖化指数とは、食べた後 2時間目の血糖値(血糖値の濃度下面積=AUC)、これが高くなりやすい食品は肥りやすいと考えられている。なぜなら、インスリンとインスリン様成長因子が分泌されるからだ。2つの無作為化試験によると、低糖化指数ダイエットは同等のカロリー制限と減量効果に差がなかったそうだが、前者ではインスリン分泌が抑制された。追試を待つしかない。
 高タンパク食は肥満ホルモンが分泌されず、基礎代謝を高め、ダイエット中の筋肉量低下を抑制する。だからお勧め。
 数社のダイエット食、いずれも減量効果が示されているが、こんなものを一生食うわけにはいかない。
 現在の知見をもって、僕がすすめるダイエット食は、高タンパク・中脂肪・低糖化指数食。
 運動にいたっては噴飯ものであった。一日 80分の歩行、あるいは 35分のエアロビック運動**、これにカロリー制限を加えると、さらに減量効果があったという研究を紹介している。そんなの当たり前、マラソン中毒者やサーファーでない限り、誰がこんな運動を毎日続けられるの? 差を出せばいいというものではなく、実行可能な役に立つ研究を待ちたい。Science誌***によると、過激な運動は食欲亢進ホルモンを増加させ、食欲低下ホルモンを低下させるので、肥りやすくなる。
 FDA(食品医薬品局)で認可されている痩せ薬は 4つ、Diethylpropion、Phentermine、Orlistat、そしてSubtramine。いずれもインターネットで購入できる。
 前 2剤は、覚せい剤の誘導体、日本のサノレックスと似たものと思われる。論文では、習慣性の可能性には言及しているものの、長期投与で安全だったという研究結果を紹介している。まだ比較的新しい薬なので 3カ月以上は連用しない方が無難だと思います。
 僕はサノレックス(食欲抑制剤)を処方して 20年近くになりますが、日本発の薬なのでエビデンスに乏しく、慎重に処方しています。経験的に、連用しなければ習慣性は無いようです。肥満者、2型糖尿病、脂質異常症や高血圧症には、本剤の助けを借り、5日の断食を勧めています。断食により、血中にケトン体という食欲を抑制する物質が出現し、以降のダイエットが楽になります。減量に成功したら、それをいかに持続させるかが重要。詳細は、カウンセリングしています。
 Orlistatは消化管での脂肪吸収を阻害する。結果、文字通り脂肪を排泄する、非常に安全な薬だが便意を感じると待ったなし。論文では、Orlistatを長期間服用しても安全でダイエットを維持できたという研究結果が報告されている。が、だいぶ前に「Orlistatを長期間服用しても痩せない」という論文を読んだ。この痩せ薬、製薬会社を肥らすだけ。
 Subtramineは食欲を抑制する薬。スタッフ全員で飲んでみたが、効いたのは一人だけ、僕に至ってはもりもり食欲が亢進した。本剤による心臓死が続いたため、イタリアでは、本剤の承認を取り消した。論文では、副作用として軽度の頻脈と血圧上昇(時に重篤)と紹介されているだけ。
 誰しも割れた腹筋にあこがれるので、TVショッピングの類では、次から次へと腹筋商品が紹介されます。引き締った二の腕もしかり。残念ながら、部分痩せはできないのです。ボディービルダーは猛烈に食べ、筋トレをして、そして猛烈なダイエットをするのですよ。
 最後に、ダイエットにあたりモチベーションを高める研究結果***を。ダイエットすると、身体がいわゆる「倹約モード」に入り、基礎代謝が低下する。そのため肥りやすくなるのだが、この倹約モードが若さを保ち長寿をもたらすと考えられている。実験に供したすべての動物で、自由に摂食させた場合と強制的にダイエットさせた場合、ダイエット群の方が長生きした。ヒトでは、130歳まで生きると予想されている。アメリカで超一流の科学者たちは徒党を組んで、ダイエットに取り組みだした。彼らの目的は、従来考えられていた天寿をこえて、未来を見たいそうだ。
 これは僕の見方ですが、売れっ子モデルはかなり痩せていますよね、世の男性が好むから。もしかすると、子孫を残す上で、わが遺伝子群が健康な女性を選別しているのかもしれない。
*New England Journal of Medicine 358;18:1941, 2008
**有酸素運動なるもの、誤訳から生じたしろもの。30分運動するとして、30分間続けても、10分ずつ分けても、消費される脂肪量は同じ、念のため
***Research on Aging: The End of the Beginning. Science 299:1339. 2003 
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著「癌患者を救いたい PSA検診のウソ」(正誤表) 早死にするデブ しないデブ(2008年11月の記事、校正)

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2013年01月27日

★ 国別 おデブ女性の割合

appllo 0112000年代のおデブ女性(BMI>30:BMI=体重・Kg÷身長・m÷身長・m)の割合が国別(15ヶ国)に紹介されています*。
 肥満女性割合の多い国から少ない順に: トンガ(70%); サモア、エジプト(69〜40%); USA、メキシコ、ヨルダン、UK、オーストラリア、オランダ(39〜20%); モンゴル(19〜10%); 香港(9〜5%); イエメン、中国、日本、エチオピア(5%未満)。
 これはとりもなおさず、肥満女性を好む男性の割合を反映しているはずである。パラオ(=肥満女性が非常に多い)で、石井さん(お写真、後列左側の方;クリックで拡大)から伺った話です。パラオの男の子が性に芽生えるのは、太いヤシの木に登る時(オチンチンと木がこすれる)だそうで、日本では体育の「棒登り」の時だそうである。説得力のある洞察だと感心しました。
*Swinburm B.A. et al The global obesity pandemic: shaped by global drivers and local environments Lancet 378: 804 Aug 27, 2011
(2011年10月の記事、小校正)

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2013年01月20日

☆ コーヒーは、前立腺がんを予防する

約 4万 8千人を対象に、1986年から前向き≪prospective:過去の病歴をほじくりかえすのではなく、これからデータを収集しますという研究:それに対して retrospective[後ろ向き研究]はすでにある結果(カルテ)を分析する方法で精度が低い[=再現性が乏しい]≫に前立腺がん発症率を観察した*。2006年まで、5,035人に前立腺がんが発見され、うち 642人が致死的癌であった。一日コーヒーを 6カップ以上飲む集団では、コーヒーを飲まない集団に比べ致死的前立腺がんが 60%低下(decaffeinatd coffee=カフェインを含まないコーヒーでも同様)、一日に 1〜3カップ飲む集団でも致死的前立腺がんが 30%低下した。
 コーヒーには、カフェーインをはじめ様々な抗酸化物質が含まれているが、カフェーインは役割を演じていないようである。
 ≪かつて、コーヒーと発がん性の因果を求め、多くの臨床研究がなされて来たが、シロだった。老化や認知症を遅延あるいは予防する効果も期待されている。おそらく、他のがんの抑止効果もあると推定される。≫
*Wilson K.M. et al Coffee Consumption and Prosrare Cancer Risk and Progression in the Health Professionals Follow-Up Sudy J Natl Cancer Inst 103: 876, 2011
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著「癌患者を救いたい PSA検診のウソ」(正誤表)(2011年10月の記事、校正)

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2013年01月17日

☆ セレニウム 再び

1996年に、セレニウムとビタミンEには、前立腺癌の予防効果があると報告され(1)、その後、2009年初頭、大規模な無作為化対照試験で有用性が否定された(2)。
 ところが、セレニウムとビタミンEには、前立腺癌の予防効果があるらしいが、悪性度の高い前立腺癌の病勢を加速する可能性がある。だから、(2)の試験で予防効果が示されなかった可能性がある。であるので、もう一度大規模臨床試験をしましょうというコメントを臨床腫瘍学会誌の編集室が、2009年 8月に記した(3)。
 2011年 10月に報告された 3ヶ国共同(米、カナダ、プエルトリコ)の大規模臨床試験(4)(約 3万5千人を無作為に、ビタミンE単独、セレニウム単独、ビタミンEとセレニウム、そしてプラセボ群に分け、7〜12年経過を観察)によると、ビタミンE単独は前立腺がん発症率を増加、セレニウム単独では低下、セレニウムにビタミンEを加えると更に低下した
 通院中の患者さんへ、従来通りビタミンEとセレニウムの併用をお勧めします。ビタミンEを単独で服用されている高齢者は、認知症や心血管系疾患の予防効果が期待されるので、継続をお勧めします。

(1)Effects of selenium supplementation for cancer prevention in patients carcinoma of the skin: A randomized control trial、JAMA 276: 1957 1996
(2)Effect of selenium and vitamin E on on risk of prostate and other cancers: SELECT、JAMA 301: 39 2009
(3)Selenium, Genetic variation, and Prostate Cancer Risk: Epidemiology Reflects Back on Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial、JCO 27: 3569 Aug 2009
(4)Klein E.K. et al Vitamin E and the Risk of Prostate Cancer、JAMA  306:1513 Oct  2011
リー湘南クリニック leeshonan@gmail.com  拙著「癌患者を救いたい PSA検診のウソ」(正誤表) (2009年9月の記事、校正、加筆)

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