2007年07月04日

ブルドック事件地裁決定を読む前に

6月23日の記事に対して、sick さん、詳細なご教示ありがとうございました(笑)。

ブルドック事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=04&hanreiNo=34882&hanreiKbn=03

ですが、まだ高裁で係争中であり、私もほんの少しだけ事件に関わっていることもありますので、今は地裁決定についてコメントをすべき時期ではないように思っています。が、雑感だけ前倒しで。

以下、「上から目線」のコメントのように見えるかもしれませんが、ご容赦ください(主観的には、対等の立場で意見を申しているつもりです)。

1.未知の問題について判断を下すということ

この事件の法的問題は、(1)対象会社の全株式を対象として、現金対価で株式公開買付け(TOB)を買収者が開始した後に、(2)対象会社が差別的条項のついた新株予約権を株主に無償割当てすることを、(3)株主総会決議で決定することが、差し止められるか否か。従来の同種の事件や経産省=法務省「指針」を見ても全く答えの出ない、新しい問題てんこ盛りだったことに、まず注目したいと思います。

普通は、裁判所はほぼ確立したルールを元に、それを事実に当てはめていく作業を行います。実際には、確立されたと思われているルールでも変わった事例に当てはめるときには神経を使うことが多い(「ルール」の趣旨・射程を慎重に検討する必要がある、つまりルール自体の吟味が必要となる)のですが、ルールを新しく作る必要がある場合はそれほど多くはありません。

本件には、法律上も事実上もいろいろ気になる点がありますが(たとえば、有事に導入・発動している点や、買収者が自分自身の事業計画を持たない投資ファンドであった点など)、最も気になるのは「株主総会で発動を決定した場合、主要目的ルールは適用されるのか、されないときにはどのような判断基準が適用されるのか」という点でしょう。

ルールを作ることは、非常に難しいです。というのは、目の前の事件を適切に解決するだけでなく、他の(将来起こるかもしれない)事件でも適切な結論が導けるようなものでなければならないからです。もちろん、将来起こるかもしれないあらゆる事例を仮処分の限られた時間の中で裁判官が想定することは、不可能です。

一つの方法は、事実の認定や事実の評価を通じて、その場限りの結論を示すことです。これまでの買収防衛関連の司法判断でいうと、ニレコ事件高裁決定は、このタイプの解決です。よく読むと、裁判官の発想・思考過程をある程度推測することはできますが、一般論に踏み込むことを避けていて、この事件の場合には非常に良い処理の仕方であったと思います。

また、従来の「主要目的ルール」は、実はルールというほどの一般性がない(というか、結論の予測可能性が極めて低く、かつ当事者が主張・疎明すべき事柄が何かも明確でなく、裁判官の胸先三寸で結論が決まってしまうようなところがある)ので、このルールに沿って判断された従来の新株発行・第三者割当て系の決定の数々も、事案判決(判決ではないですが)に分類して良いと思います。

他方、裁判所が一般性のあるルール・メーキングを示す場合であっても、「特段の事情のない限り」といった言い回しにより、判断枠組みを定めつつ、将来の弾力的運用を予め確保しておくことがあります。

ニッポン放送事件以来、裁判所は実務への指針をなるべく示す、つまり一般論を示すことが増えていますが、中には事案の解決をはるかに超えて、言い過ぎた(言うべきでないことを言ってしまった)例も見られます。

で、結論だけ言えば、ブルドック事件・東京地裁決定の一般論(対抗手段の必要性と相当性を切り分けて、前者については株主総会の判断を原則として尊重するが、後者については裁判所が独自の検証を行う。ただし、前者についても司法審査が全く及ばないわけではない)は、非常に良いのではないでしょうか。まだ、東京高裁の判断が出ていませんので、暫定的評価ですが、ニッポン放送事件(地裁2つ・高裁)、ニレコ事件(地裁2つ・高裁)、夢真・日本技開事件(地裁)と比べても、はっきり1段レベルの高い一般論が示されたように思います。

もっとも、今後の事例への当てはめについては、注意深い読み方が必要になります。このブログでは、高裁決定が出る頃に、私なりの解釈をエントリーしていく予定です。

2.買収者が蒙りうる財産的損害について

本件で、スティール・パートナーズが財産的損害を蒙るのか否かの事実認定・評価の問題は措くことにして、理論的にはこの問題はどこに位置づけられるのかが気になります。

地裁決定では、株主平等原則と不公正発行(のうちの相当性判断)でこの点が扱われています。

この決定が出るまでは、この問題を有利発行の問題ととらえ、特別決議があれば良い、とするシンプルな議論が世間ではかなり広まっていたように思います。これが誤解であること−−特別決議に意味があるとすると、それは買収者ではなく、その他の株主に財産的損害が生じることの違法性を阻却することでなければならない−−は、弁護士の清水俊彦先生の金融・商事判例の論文で示されていたところです。

もっとも、買収者に何らかの意味で財産的損害が生じれば、防衛策はアウト、というわけではないはずです(isologue 7月4日付エントリーを参照)。ヨーロッパの法制では、監視機関(テークオーヴァー・パネル等)の審査をパスしなければそもそもTOBをかけられませんし、たとえばドイツではTOBルール違反で取得した株式には議決権が認められませんから、「ルール違反の買収」は失敗するように制度ができているのですが、アメリカや日本の制度では「(広い意味で)ルール違反の買収」を挫折させるためには、上手に防衛策を設計することが必要になります。

むやみに買収者に損害を与えて悦に入ることはまずいですが、いかなる財産的損害も許されないと解するべきではありません。わが国のTOBルールは、これさえ守っていれば企業価値(支配権移転の選別)や株主の公正な取扱いが図られる、というようにはできていません。

この問題(買収者の蒙る財産的損害)は、株主平等原則や有利発行のところで論じるのではなく、不公正発行の判断要素の一つとして(他の要素との総合考慮により)結論を下すのが適切であると思います。この点、東京地裁決定の処理は適切であると思います。

--
今後、折を見て地裁決定についてのエントリーをアップしていきますが(すでに途中まで書いています)、事情が許せば同じ事件がアメリカやイギリスで起こったらどうなったと予想されるか、なども取り上げたいと思います。

また、防衛側の戦術論として見るとき、本事件でのやり方は必ずしも参考にならない点が多いのではないかと個人的には考えていますが、戦術に関わる話はこのブログではあまり書かない予定です。

では、また。


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コメント一覧

1. Posted by おおすぎ   2007年07月04日 12:30
追記:カブトムシ君のブログ(http://espans.exblog.jp/)経由。野村修也の「テレビ寺子屋」、テーマは「ブルドックソースの買収防衛策」。
http://www.news24.jp/87326.html
なかなか面白い。

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