2008年01月09日

第三者割当て

1月31日 追記あります。

toshiさん経由 YOMIURI ONLINE「第三者割当増資を規制 東証方針 株主総会の同意など検討」

きょうは、このテーマを取り上げたいと思います。



まず、記事をほんの少しだけご紹介(リンク切れになる可能性もあるので)。


 東京証券取引所は、株式会社の資金調達方法の第三者割当増資について、独自の規制に乗り出す方針を固めた。(中略)上場企業が第三者割当増資のため一定割合以上の新株を発行する際、株主総会の事前同意を義務化するなどのルールを2008年中にも策定する方向だ。


以下、コメント。上場会社のみを念頭に置いています。

・「総会で第三者割当てを行うこと」についての定款規定は不要なんでしょうね。定款規定なしに決議しても「法律上は単なるアンケートに過ぎない」のかもしれませんが、自主規制として定めるならば別に問題はないはず。

・財務悪化企業が第三者割当てを行う場合には、toshiさんも指摘しているように例外が必要です。NYSEでは、その場合には取引所の許可を得て第三者割当てを行うことが許されています。日本で同様のルールを設ける際には、会社法に規定するのではなく、取引所の自主規制とし、上記の例外を設けるべきでしょうね。

・会社の上場は株式・新株予約権(つき社債)を公募発行できることに大きな意味があります。上記のルールは当然、第三者割当てのみに適用されるもので、公募増資には適用されないと理解しています。

・この点も、ルールを法律ではなく上場規則に置くことのメリットでしょう。というのは、昭和30年改正商法は、第三者割当てを行う場合には、引受権の内容について総会特別決議を要求していたのですが、買取引受(公募に際して、証券会社がひとまず全株を発行会社から買い取るやり方)も第三者割当てに当たるという下級審判決が相次いで、けっきょく昭和41年改正でこのルールが撤廃されたという経緯があります(参照、戸川成弘「新株発行」浅木慎一ほか編『検証会社法』283頁、299頁以下)。買取引受や残額引受が第三者割当てにならないことを明文で記すことは、不可能ではないけれども意外と難しいのかもしれません。だとすると、上場規則のほうがうまく機能するかもしれません。

・第三者割当てに総会決議を要求すると、買収防衛目的での新株発行が不可能になるので、財界の反対が予想されますが、少なくとも比較法的には第三者割当てで防衛できるという法制のほうが珍しいので、


もっとライツプラン型防衛策を使いやすくするとともに、第三者割当てによる防衛は禁止する


方向が妥当なんじゃないでしょうか(この項、各方面からの反撥が予想されますが、敢えて反論せず(笑))。

また、そうすると業務提携目的での第三者割当てに支障が生じるとの反論も予想されますが、(たとえば)20%という敷居(shreshold threshold)を設けることで良いのではないでしょうか。「それを超える提携はTOBでやれ」と。

また、「TOBで部分買付した後で、第三者割当てで子会社化」という近時の悪弊も、この際撤廃したほうが良いのではないかと。

・なお、「イギリスでは、新株発行は株主割当てが基本である」との主張がされることがありますが、誤解ではないかと思います。イギリスのルールは、日本と同様、定款に発行可能株式総数を定めると取締役会かぎりで新株発行をなしうるというものですが、定款規定の有効期間は法律により定められていますし、20%を超える第三者割当てには取引所(だっけ?)の許可が必要なので、おそらく「イギリスでは、新株発行は公募が基本である」というのが実務ではないかと推測しています。

ただし、上記は2006年改正の前の教科書を調べたときの知識なので、改正を織り込んだ教科書が手元に届いたら確認したいと思います。

(1月31日 追記)
私の拙いエントリーを受けて、ロンドン在住の taka-mojito さんが、イギリスの法と実務(発行状況)を調べてくださいました。Temperamento Latino の2008年1月19日、20日、そして30日のエントリーをぜひご参照ください。

結果として、私の当て推量はそれほど間違っていなかったようで、実務の動向としては、イギリスでも上場会社の株主割当て新株発行は稀で、公募・第三者割当てが主流ということです。イギリスでの概念は日本の「株主割当て」「公募」「第三者割当て」にピッタリと当てはまるものではないようで、きちんと調べて書いていただいたので大変ありがたいです。

ただ、私は「上場会社は公募が基本」みたいに書きましたが、日本でもイギリスでもむしろ「第三者割当てが多い」というのが現実のようです。新たな論点が浮上しました。

ほかにも、新たな疑問が出てきました。「なぜ公募の場合でもイギリス法だと株主の引受権排除の手続が必要なのか」「なぜ対価が非金銭だと引受権排除の手続きが不要なのか(日本だと、逆に、現物出資規制がかかってしまう)」という点を、機会があれば考えてみたいと思います。

(追記、ここまで)


・ヨーロッパの会社法では、だいたい「法律上の原則」は株主割当てなのですが、実務では公募が通常のようですね(ドイツの会社法の教科書にもそう書いてありました)。もっとも、各国の制度を調べたわけではありませんが、上にイギリスについて書いたように、授権枠が日本より狭く(だいたい20%とか25%)、かつ授権の期間に制約があるという印象です。

・上場会社では、株主割当てはあまり役に立たないのですね。たしかに法律家の頭では、株主割当てが、既存株主の金銭的利益に照らしても支配的利益(持株比率の維持)に照らしてもベストのように考えられがちなのですが、株主割当てでは会社の調達額が既存株主の財力によって制限されますので、資金調達には適していません。また、少なくない株主が新株発行を見落としたり、知っていてもお金がなくて応じることができなくなって、けっきょく失権してしまうので、既存の持株の価格が低落する(普通、株主割当ては時価より低い値段で行われますので)という被害をこうむります。

これを避けようとすると、旧法的に言えば新株引受権の譲渡を認める(新法上の法律構成は、株主に新株予約権を無償割当てし、行使しない予約権社は予約権を譲渡できるものと定める)ことで対価を回収できるようにすれば良いのですが、そのコストを考えると、やはり上場会社のファイナンスは公募がノーマルとの理解で良いと思います。

・大分話が脱線しましたが、「20%を超える第三者割当てには、原則として総会決議が必要」という上場規則に関連して、その元となるNYSEルールを、今後ご紹介して行きたいと思います。ただし、執筆債務が膨らんでいるので、大分先になりそうです(いまも、現実逃避してブログを書いているわけですが)。予めお詫びいたします。

ではまた。



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トラックバック一覧

1. イギリスにおける株主の新株引受権 (1)  [ Temperamento Latino ]   2008年01月22日 00:27
【2006年イギリス会社法の新株引受権の部分は、原則として2009年10月1日からの施行となっており、現在はまだ1985年イギリス会社法の該当部分が適用されておりますが、本記事では、特に断りのない限り、2006年イギリス会社法に基づいた記載としました。】 昨秋、事務所に入...
2. イギリスの新株発行の実務の動向(推測を含む)  [ Temperamento Latino ]   2008年01月31日 04:24
【2006年イギリス会社法の新株引受権の部分は、原則として2009年10月1日からの施行となっており、現在はまだ1985年イギリス会社法の該当部分が適用されておりますが、本記事では、特に断りのない限り、2006年イギリス会社法に基づいた記載としました。】 以前のエントリー...

コメント一覧

1. Posted by 辰のお年ご   2008年01月09日 23:14
株主割当に関しては、ライツオファリングの議論を加味していただけるとよろしいか、と思います。その点で、株主の財力に制限されることはないと思っています。他方、証券会社がこれに絡む場合、ライツの取得についてエクイティであるためにTOBルールが引っかかってくるおそれがあるので、ちょっと法的にその手当てをする必要があるのではないか、と考えています。
ところで、第三者割当については、防衛策としての利用は制限しても、まあいいとしても、これまで一般に見られた業務提携・資本提携のパターンでの第三者割当はどうなっていくのか、という点もあわせて検討するのが、実務家としてはいいかな、と。
2. Posted by おおすぎ   2008年01月10日 09:18
>辰のお年ご様

コメントありがとうございます。「行使期間が非常に短く定められ、譲渡自由な新株予約権を株主に無償割当てし、払える株主は権利行使をし、払えない株主は譲渡する」という理解で宜しいですか? 現在行われていないのに理由があるとすると、ご指摘のとおりTOBルールなんでしょうね。

20%程度の敷居であれば、業務提携目的の第三者割当ては害されないと思ったのですが、実務的にはいかがでしょうか?

この件、エントリーを続けていくつもりです。
3. Posted by gonchan   2008年01月11日 01:23
なんかルールばっかりきめてもいたちごっこのような・・・。

いつから買収防衛の期間に突入するのかわかりませんが、たとえばサッポロとモルガンの資本提携(これは市中から買い上げる予定ですが、仮に第三者割り当てでやったとして)を「防衛」とみなすのか「不動産のプロ」との「シナジー」とみなすのか難しいものです。

買収提案は出されていますが、取締役評価期間直前の書類提出期間に紛れて「駆け込み提携」と今からでは考えてしまいます(これがまさしくライツプランの使い道だとのご意見もあろうかと思いますが)。

いずれにせよ、きちっと投資家に胸を張って説明してから行動に移させるような枠組みと自主ルールが第一でしょうか?
4. Posted by おおすぎ   2008年01月16日 16:59
>gonchan 様
ご返事がすっかり遅くなり済みません。ご指摘のように(ベルシステム事件などでも問題になりましたが)、一方では敵対的な買収の動きがあるときに、友好的な株主との関係を深めるような取引を行う場合について、資金需要さえあれば差し止められないということはないと思いますが、限界線が非常に不明確な状態になっています。この点は、別途議論が必要だと思っています。

が、本エントリーでは、さしあたり新株(予約権)の第三者割当てによる大量発行による稀釈化についての問題関心を取り上げてみました。先ほどイギリスの教科書などが届いたところなのですが、目の前の用事を片付けたらエントリーの続きを書こうと思います。情報提供ありがとうございました。
5. Posted by taka-mojito   2008年01月22日 00:50
第三者割当の規制の方向性については、興味を持って推移を見守っています。

現在ロンドン在住でして、イギリス会社法の株主の新株引受権については以前からもう少し調べてみようと思っていたのですが、おおすぎ先生の記事を読ませていただいたのを機に、イギリスの新株引受権について(備忘録的なものにすぎませんが)まとめてみました。

今後、時間をみつけて、イギリスにおける新株発行の実務的な側面についても少し調べてアップしたいと思っています。
6. Posted by おおすぎ   2008年01月22日 09:20
>taka-mojito様

ブログ拝見しました。大変詳しく調べていただいて、ありがとうございます。トラックバックは承認制にしておりまして、先ほど公開させていただきました。
7. Posted by taka-mojito   2008年01月31日 04:29
宿題となっていました、イギリスの新株発行の実務について、新しいエントリーを立てました。といっても、いろいろと読んだものを寄せ集めただけなのですが。LSEの数字を見つけられたのはよかったと思っています。
8. Posted by おおすぎ   2008年01月31日 13:45
>taka-mojito様

面倒な調査をしていただき、ありがとうございました。大変参考になりましたので、私もさらに勉強して、続編をアップしていきたいと思いますので、今後とも宜しくお願いいたします!!
海外の実情を知るとともに、日本で第三者割当てが多い理由・事情を、考えることにします。これ、短期的なブレの部分と、長期的なマーケット構造の変化とを見極めるのが難しそうです。

私も花粉症もちで、今年の東京は「早い」「多い」そうなので、びびっています(というか、もう発症しているような気がする・・) どうかご自愛下さい。

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