2008年02月17日

財源規制違反の剰余金分配

クラスの学生から、「先生、絶対見てください」と言われて、「あらびき団」(深夜のお笑い番組)を見ました。



突き抜けた芸人さんが多かったですね。

さて、期末試験の採点中は、何故か気分転換(?)に商法・会社法の条文の変遷などを調べていましたが、後日アップすることにして、きょうは採点中に気付いたプチネタを。

462条違反の剰余金の分配の効力については、有効説と無効説がありますが、大筋では結論に差はないので、普通は答案でいずれかの説を論証する必要はなく、462条を淡々と適用すれば足ります(有効か無効かは、一言書いたほうがいいかもしれません。私の場合、いずれを書いても、それを理由に減点することはありません)。

さて、分配可能額を超える配当を総会が決議したとき、どうなるでしょうか。総会決議は訴えによるまでもなく無効で(830条2項参照)、会社は配当金支払義務を負いません(株主は配当金支払請求権を得ません)。

だとしたら、違法配当を支払っちゃったときには、(1)配当の支払は違法・無効で、配当金は法律上の原因を欠き不当利得になるが、(2)法律関係の後始末は民法703条等によるのではなく、特別規定である会社法462条(等)によって処理される、と考えるほうがすっきりするように思います。

(なお、よく受験生が間違えがちなのですが、株主・業務執行者などが負う支払義務は、配当額のうち分配可能額を超える部分だけでなく、配当額全額になります。)

461条1項の「効力を生ずる日」とか463条1項の「効力を生じた日」という文言は、有効説の論拠とまではいえないでしょう。(司法試験の答案に書くときには、コンパクトに論証できますので便利ですが、まあそれだけの話です。論証すべき場合があまりないと思いますので)。

有効説と無効説は、(3)「分配」が自己株式の取得であった場合に、(会社が負う)取得した株式の返還義務と(株主が負う)受け取った金銭等の返還義務とが同時履行に立つかどうか、(4)現物配当がなされた場合に、株主が会社に負うのは現物の「帳簿価額」のみか(462条1項柱書参照)、それとも現物の返還義務も併存するか(このとき、会社は一方を選択して株主に主張できる?)、などの点に違いがあるといわれています。

しかし、(3)は関係ないんじゃないでしょうか。無効説を取っても462条によって同時履行の抗弁(民法533条)は排除されると解することも可能ですし、有効説を取っても同時履行の抗弁は排除されないと解することも可能です。

そして、同時履行の抗弁を排除すべきである(株主の配当金返還は先履行すべきである)という実質論には、それほどの説得力があるわけでもありません。おそらく有効説の論者は129条とのバランスを重視したのだと思いますが、別の議論もありえます。

取得請求権付株式・取得条項付株式を、分配可能額がないのに会社が取得しても、取得は無効です(166条1項但書き、170条5項)。しかし、事実上取得してしまったとき(株券が会社に引き渡され、対価として現金が株主に支払われてしまったとき)、後始末が必要になりますが、この場合(461条・462条を経由しない)には同時履行にならないと説明することは困難です。

この場合(株主が取得請求権を行使する場合、会社が取得条項を発動する場合)と、一般的な自己株式の取得(会社と株主との合意による場合)とを区別して、分配可能額がない場合の後始末は、前者は同時履行だが後者はそうではない、とする必然性(強い政策的理由)はないと思われます。

(4)は、有効説だと不当利得返還債務は発生せず、462条の支払義務のみが発生するので、現物を返還するという選択肢がないのに対して、無効説だと両者が併存すると言いやすいです。ただ、先に書いたように、私は無効説を採りつつ、不当利得の返還義務の内容が462条で上書きされると(現時点では)考えていますので、「有効説か無効説か」が決め手になるわけでもないように思います。

ただ、最初に述べたように、有効説だと、違法配当をまだ支払っていないときに、「なぜ会社は支払ってはいけないのか」を説明しにくい(説明できなくはないが、払えば有効になることとの関係が説明しにくいため気持ちが悪い)ように思います。

何度もいいますが、有効説か無効説かは、ほとんどの場合にはどうでも良い話で、受験生が勉強すべき論点は他にいっぱいあります。が、職業柄気になってしまうこともまた事実で、間もなくいくつかの会社法の大先生の教科書の新しい版が出版されますが、どうなっているのか、確認してしまいそうな自分がここにいます。

参照リンク:いとう Diary
(記事を書き上げた後で気付きましたが、私の見解は伊藤先生の説とほぼ同じですね)


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1. 分配可能額をこえる配当の効力  [ 税理士試験 簿記論 講師日記 ]   2008年03月04日 01:44
簿記とは直接関係ありませんが、今日は会社法の話題です。 分配可能額を超える配当の会社法上の効力に関しては、争いがあります。 立法担当者がこれを有効と解していて、大学の先生がこれを無効と解する場合が多いのがたぶん珍しいのではないかと思います。 有効説....

コメント一覧

1. Posted by rd   2008年02月17日 18:45
細かい突っ込みですが、
会社法上、「自己株式」とは、株式会社が有する自己の株式を意味します(113条4項)。
したがって、「自己株式」はどんなにがんばっても取得できません。
よって、「自己株式の取得」という表現は不正確で、「自己の株式の取得」という表現を用いるべきでしょう(会社法第二編第二章第四節の「株式会社による自己の株式の取得」という表現参照)。
2. Posted by おおすぎ   2008年02月18日 11:50
>rd 様

ご指摘ありがとうございます。慣用表現ということで、適宜読み替えて下さい。
3. Posted by 携帯ブログランキング   2008年02月18日 22:04
はじめまして、新しくランキングサイトを作りました!よかったら是非、登録していただけないでしょうか?まだサイトが少ないのでランキング上位になります!興味がありましたらお返事下さい^^
4. Posted by 初学者   2008年02月22日 15:13
突然の質問で申し訳ありません。

剰余金分配可能額の範囲内ではあるが手続違反があった場合の処理に関してですが、これは有効説無効説とかは関係なしに、単に不当利得の問題として処理すれば足りるのでしょうか?

言い換えれば、違法配当には形式的な違反と実質的な違反があると思うのですが、有効無効の論点は実質的な違反だけを射程とした論点なのか?ということです。

もしお時間があればでよろしいんでコメントいただけたらと思います。
5. Posted by おおすぎ   2008年02月25日 11:22
>初学者 様

分配可能額は充分にあるが、たとえば総会決議なしに配当を配ってしまったとか、156条以下の条文に反した手続きで自己の株式を取得してしまった場合は、いわゆる違法配当の議論と切り離して考えて下さい。まず出発点として配当・自己株式取得は無効だと覚えて下さい。

上記の場合、配当だと無効・不当利得、で話は終わりですが、自己株式取得の場合には、善意の相手方を保護する必要があるのではないか、という論点が生じます。主観的要件をどのように設定するか緒論あるところですが、私は善意かつ無過失の相手方には、会社は無効を主張できない、相手方の側から無効を主張することは許されない、と考えています。
6. Posted by 初学者   2008年03月02日 21:38
お忙しい中コメントありがとうございました。

ブログの方も楽しく拝見させていただいていますので、これからも続けてください^^

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