2008年06月16日

法を学ぶ

「名無し」さんから、リクエストを頂きました。

私は資格試験のため法律の勉強をしていますが、どうしても成長することができません。
根本的なことを見落としているような気がするのです。
ローの記事がありましたが、先生は商法を講義されているのでしょうか?
もし講義されているのでしたら、法を学ぶにあたってしなくてはいけないこと、気をつけることがありましたら、どうかご教示くださいますようお願いいたします。




(20年ほど前に)司法試験を受けて落ちた私に尋ねるよりも、実際に受かった葉玉先生のブログの関連記事を読むほうが実践的とも思えますが、私なりの考えを書いてみます。

以下、司法試験を念頭に置いて書きますが、他の資格試験にも適宜、応用可能だと思います。

1.とにかく基礎を押さえる

法律はあるところまでは正解がはっきりと決まっていて、あるところからは考え方が分かれる、という点に特徴があります。

数学ならば、大学院でやるようなレベルだと正解が明らかではないのかもしれませんが、少なくとも大学受験で使うレベルだと正解があります。この点が、法学と数学の違いです。

もっとも、数学でいうと九九を知らないと因数分解はできませんし、因数分解ができないと二次方程式を解くことはできません。このように、学習に段階があるという点は、数学も法学も変わりません。

法律においても、九九や因数分解に当たるものを徹底してマスターする必要があります。良く使う重要な条文や、基礎的な用語、そして「契約自由の原則」のようなものの考え方の出発点となる大原則などです。これは、完全に理解し、かつある程度暗記する(口頭で説明でき、かつ文章に書くことができる)必要があります。

基礎的な条文は、教科書に書いてあるのを見て分かったと思うだけではダメで、自分で六法の条文を見て、自分の頭と言葉でその文言を説明できるようにしましょう。教科書に書いてある記述が「法」なのではなくて、国会で制定され六法に掲載されているものが「法」だからです。

ただ、厄介な問題が存在します。忠実義務の条文(会社法355条)は一体どう読むのか、「資本の三原則」が大原則といえるかどうか、などは、実は九九や因数分解レベルではなく、次の「2」のレベルの問題になります。

2.やや発展レベル

二次方程式や高校1年で学ぶ「数学1」に相当するのが、制度趣旨について論じたり、判例・学説の対立しているポイントの学習です。

大切なのは、「なぜ対立が生じているのか」を知ることと、あまりに瑣末な学説は無視することです。

         / A説
 条文−−−
         \ B説

まず、フィーリングでありえない説を消します。判例と、それに反対する学説1つを対象とする程度で良いと思います。条文(あるいは大原則)から、Aという見解とBという見解が導かれる過程を理解します。

そして、なぜ対立しているのか、学説対立が意味を持ってくるのはどのような事例なのか、を自分なりに考えます。「分かったつもりになって、『正解』に飛びつく」とか、「分からないので、暗記することで理解の不足をごまかそうとする」のは、絶対ダメです。

私自身は、あまり学説に拘(こだわ)りはなくて、学習者はまず判例を押さえ、その長所と短所とを理解することが先決だと思っています。しかし、現在習っている先生や、現在使っている教科書が、良いと思えるのであれば、その先生やその教科書を理解して自分のものにできれば、それが良いとおもいます。

一方で、「自分なりの一貫した考え方を持つ(≒「書きやすいから」という観点からだけで学説を選ぶことをしない)」という知的誠実さが必要です、他方で、「いずれの立場に立っても説明できる」という柔軟さも必要です。これは矛盾しているのではなく、両方ができて、はじめてよく理解できているということになるわけです。

試験では、所定の時間で解答を書き上げることが求められますので、そのためには、日頃から、いわゆる「論証」で用いるキーワードを暗記して、論理の流れを頭の中に入れておく必要があります。しかし、何度でも言いますが、理解していないものを暗記でしのぐことはできません。

私は、司法試験の論述式問題は、高校の数学1に似ている点があると思っています。公式を暗記し、その使い方を知っている人は、本質は同じ問題を別の角度から問われてもきちんと解答することができます。逆に、「解法」を丸暗記する人は・・・

3.知識・理論を階層化する

司法試験では上記の2が中心になり、他の資格試験ではどちらかというと1の比重が大きくなるのだと思います。また、旧司法試験に比べて、新司法試験では1の比重が増していますが、それは「試験が易しくなった」からではなくて、「1ができないのに暗記だけで2ができたように見せかける答案が増えたから、1も問うように出題形式を微修正した」ということだと思います。

厳密には、(1の最後に書いたように)1と2の区別は難しいのですが、とにかく自分なりに、学習の際にどこまでが1で、どこからが2か、(そして、どこからが受験上は不要とされる「高度な」(!)問題なのか)を区別する癖をつけて下さい。

大学の先生には、「難しいことができれば、易しいことは自然とできるようになる」という考えを持っている人がいますが、これは間違いです。九九ができない学生に、いくら微分方程式を教えても、九九ができるようにはなりません。

ただ、初学者を教える際に、(数学と違って)法学には正解がないのだという点を強調することは、それなりに意味があると思います。ただ、それとともに、はっきりとした正解のある「1」の重要性をもっと教えるべきだと思います。

良い教師は、高度な問題について自分の模範演技を見せることは控え目にし、学生に1・2を繰り返し実践させるはずです。そのことによって、将来に、その学生が高度な問題に自分で対処できるようになるからです。

「階層化」とは、平たくいうと、大事なこととそうでないことを区別することです。

独学では、この「階層化」が難しいです。予備校であれ、大学であれ、良い教師に学ぶ機会を作ることをお勧めします。

4.信用できる人とそうでない人を区別する

ある程度真面目に勉強している人であれば、良い教師とそうでない教師とを区別することが、かなり高い精度で可能です。

これは、予備校であっても大学(院)であっても同じです。

基礎的な「1」をきちんと教えてくれる、1と2の階層化を意識して教えてくれるという点では、平均すると予備校教師のほうが大学教員よりもうまいでしょう。が、そうであっても、基礎知識の習得や、知識・理論を階層化して自分のものとする作業は、本質的には自分でする努力であって、講義を聴いただけで自然と頭に入るなどということは、よほどの天才でなければありませんので、その点は誤解しないで下さい。

おそらく、予備校の教師の中には、「大学の授業では合格しない」「受験のことを分かっているのは、俺たち(予備校)だけだ」「だから、大学のセンセー方のたわけた授業に出席するのは無駄で、黙って俺たちに付いて来なさい」というように、受験生の不安を煽ることで、予備校の権威を高めようとする人がいるのだろうと思います。そこで言われていることがすべて間違っているわけではありませんが、むやみに不安を煽る人を信用してはいけません。

恐怖は人を盲目にするからです。良い教師と悪い教師の区別は、自分の目で下しましょう。

5.自分の場合

私は、大学2年生の一年間で、いちおう憲・民・刑の基礎知識を一通り回しました。友達と2人で組んで、翌週までに解いてくる範囲を決めて、基本的な問題集を解きました。いまは見かけなくなった、有斐閣の「ワークブック」シリーズです。解説の中にはトンデモなものも散見されましたが、「1」を押さえる上では有効でした。あとは、択一式試験の過去問を解き、間違えたところを何回も復習しました。

今は、ああいう良い本がないのかもしれませんね。

また、それと別に、5人程度で勉強会を作って、先輩の弁護士に指導してもらいました。

この頃一緒に勉強してくれた友人や、後輩の指導をしてくださった先輩弁護士には、心から感謝しています。

時効だと思うのでバラしてしまいますが、私の会社法の基礎をなしているのは、某セミナーから出版されていた某教科書(表紙が緑色)の解説書でした(笑)。初心者が教科書を読んでも分からないところを丁寧に説明してくれていて、腑に落ちる本でした。

友人たちが通っていた予備校の基礎講座(1年間で憲・民・刑の基礎をマスターさせるというもの)のテキストは、私は使いませんでしたが、中身は良くできていたと思います。白黒印刷で見かけはちゃちでしたが。

6.最後の余計な一言

私は、今の予備校を良く知っているわけではありません。おそらく、入門講座の類は悪くないだろうと思います。

しかし、私は、司法試験に関する限り、そして予備校が出しているあの分厚いテキストに限って言うと、「なぜあんなものを使う人がいるのだろう」と本気で悩みます。あっ、いや、多少は良いところもあるのですが。

基礎知識の取得(1)には有益なところもあります(たとえば、重要な条文が、横に載せてあったりするのは良いと思います)。また、階層化(3)も、一般的な教科書よりは分かりやすいかもしれません。しかし、「2」の「自分の頭で考える」「理解する」という用途には反しているように思います。

もしかすると、知識の整理には良いのかもしれませんね。しかし、分量が多すぎますし、整理が不正確だとすると、やっぱりマズイんじゃないでしょうか。

もちろん、学者の書いた本が無条件に良いというわけではありませんが、良いといわれている本で、自分と相性が良いというものがあれば、そちらを中心に使うことをお勧めします。

-----

取り合えず、現時点で思うところを正直に書いてみました。

これが「名無し」さんのお役に立つかどうかは心許ないのですが、いろいろな人のアドバイスの中から、自分に合ったものを選んで役立ててもらえると、良いのではないかと思います。

もちろん、正しい方法・方向感覚を持つことは大切ですが、その上で、勉強の質と量を確保することが、合格のためには必要です。健闘を祈ります。


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トラックバック一覧

1. ご参考までに。  [ Dai-Kubo Diary ]   2008年06月16日 11:27
以前に商法の勉強の仕方ということでちょっとしたエントリを書いたことがありましたが
2. オススメ。法律の勉強法について  [ プロフェッショナルかスペシャリストか ]   2008年06月17日 01:08
 中央大学の大杉謙一教授が書かれている「おおすぎ Blog」に『法を学ぶ』という記事がアップされています。  私自身の考え方に近く、かつ、とてもよくまとまっていると思います。  今後、チューターその他で法律の勉強の仕方を聞かれたときは、まずこの記事を読む....

コメント一覧

1. Posted by ぞう   2008年06月16日 16:39
いつも、勉強になっております。通りすがりの者ですが、法曹の現場にいるものとして、参考になればと思い、コメントさせていただきました。
大杉先生の勉強法は、まさにその通りと思います。
法律の試験では、)[+問題意識を理解して、¬簑蠅砲△討呂瓩董↓制限時間内に文章で表現する(制限時間内に選択肢を選ぶ)の3つが求められますが、,任弔泙鼎と、△皚もありません。
法律を理解するというのは、少なくとも、条文を素読し、条文の意味を人に説明できるレベルです。世に氾濫する論点や概念も、条文から説明できなければなりません。なぜ、不法行為に因果関係が必要か、刑事裁判における証拠には、何故証拠能力が必要か、等といったことに、いつでもどこでも、具体的な条文を使って説明できない限り、いくら学説や論証を記憶しても、しょうがないと思います。
2. Posted by ぞう(その2)   2008年06月17日 09:10
(続きです。)
それができれば、問題意識を把握です(順序が重要です)。これを学ぶために、判例、論点や学説が出てきます。ちなみに、この中で、判例が最重要であることは資格試験が実務家登用試験である以上当然です。1に条文、2に条文、3,4がなくて、5に判例です。(判例の考えに染まるのがよいということではありません。)
△砲弔泙鼎人の原因は、,できていないことが大半です。条文を理解しているなら、当てはめはできるはず。
につまづくのは、勉強量(時間×質×集中力)が不足しているのが原因です。特に、絶対的な時間が不足しているか、集中力が不足している人(両方の人)は、かなり多いです。図書館の席に教科書や参考書を置いている時間は勉強量に比例しないです。
3. Posted by おおすぎ   2008年06月17日 12:36
>ぞう様

コメントありがとうございます。きっと、名無しさんやほかの受験生読者の方々の参考になったのではないかと思います。コメントの内容に、私もおおむね賛成です。

付言いたしますと、おそらく(1)無意識のうちに「正解指向」になっている、こう書くと良い、こう書くと減点されるという点に過敏になっている受験生が多いが、それはまずい、という点や、(2)基礎が大事だというけれども、どうすれば基礎を学ぶことができるのか、教科書を読むだけで良いのか、といった点について、受験生の悩みは尽きないのだと推測しています。
4. Posted by ぉぃぅ   2008年06月17日 23:45
名無しさんが目指している試験は何か分かりませんが,法律も法律家も紛争解決のために,いろんな経緯を踏まえて存在しています。受験生は実務から離れて座学しているので,イメージがわきにくい,というか,ついついこの基本中の基本が忘れがちになるのだと思います。司法試験や司法書士以外の試験だと,特にそうではないでしょうか。
また,判例や学説というのは,一定の前提の下にその主張があるわけですが,その前提を構成する事実関係や背景に注意を払わず,判例や学説にとらわれてしまうことが,勉強の妨げになってないでしょうか。
法律は紛争解決の手段である以上,求められるのは常識力や説得力だと思います。私は,法律の勉強をしたことはないのに差出がましいかもしれませんが,素人なりに思うことを書いてみました。
5. Posted by おおすぎ   2008年06月18日 16:49
>ぉぃぅ様

コメントありがとうございます。
私が法律を教えていてもどかしく思うのは、法律家に常識や説得力、人間力が求められることにほとんど異論がないのに、個々の法律論(たとえば、ある問題について、どのような解釈論を展開するのか)を論じるときには、常識や説得力が後退して、代わりに技術的側面(たとえば、「たしかに・・・。しかし・・・」といった論述のパターンや、必要性と許容性を述べる、といった答案テクニック)が前面に出やすいことです。 (続きます)
6. Posted by おおすぎ   2008年06月18日 16:52
(続きです)

ロースクール制度には数々の批判がありますが、ぉぃぅさんの指摘される「前提を構成する事実関係や背景」「常識力や説得力」というものと、先に述べた「技術」とを共に身に付けさせることができるのであれば、悪くない制度といえるかもしれません。

ということで、読者の中で法律を勉強している(資格試験を目指している方など)方々には、がんばっていただきたいと思います。
7. Posted by ぞう   2008年06月20日 10:12
1)無意識のうちに「正解指向」になっている、こう書くと良い、こう書くと減点されるという点に過敏になっている受験生が多いが、それはまずい、という点や、(2)基礎が大事だというけれども、どうすれば基礎を学ぶことができるのか、教科書を読むだけで良いのか、といった点について、受験生の悩みは尽きないというのは、私も身につまされる思いです。

最終的には、法律家がたどるべきロジックを体得するしかないと思います。自分の答案を見て、【法律家がたどるべきロジックが現れているか】ということに尽きるでしょう。
当然、最低限の知識も必要ですが・・・それをいちいち言葉の一字一句まで暗記して対応しようとすると(中にはそうやって乗り切る人もいますが)、いくら時間があっても足りないと思います。判例を読むときに、判例の結論や考え方だけではなくて、「なぜこの順番で書き進めているのか」に注目するのはとても勉強になると思います。
8. Posted by ぞう   2008年06月20日 10:22
「どうすれば、基礎を学ぶことができるのか」これは非常に悩ましいですが、テーマ毎にメインとしている教科書以外の教科書も同時に読んだり、予備校本をそこだけ参考にするしかないかもしれません。これは、誰でも苦労するところなので、ラクダが一歩一歩前進するように頑張るしかないところだと思います。個人的に思うのが、こういった初期の勉強でも、条文をじっくり眺める、味わうという作業が意外に行われていないのではないかということです。何が要件で何が効果なのか、各要件では何が問題となるのか、というのを条文を見ながら、考え出すと、途方もない分量の論点が意外にそれほどでもないと感じることができるのではないかと思います。

ただ、予備校本だけとか、教科書だけというのは、挫折しやすいかもしれません。いきなり条文を読んで、その時の素直な感覚を大切にしながら、いろいろ読むのがよいかもしれないですね。
9. Posted by おおすぎ   2008年06月22日 16:45
>ぞう 様

「自分の答案を見て、【法律家がたどるべきロジックが現れているか】ということに尽きるでしょう。」
「初期の勉強でも、条文をじっくり眺める、味わうという作業が意外に行われていないのではないかということです。(中略)途方もない分量の論点が意外にそれほどでもないと感じることができるのではないかと思います。」という点には、特に賛同します。

文字通り始めて法律の勉強をする人は、まず薄い教科書をある程度の分量読んでから、条文を読むほうが良いかもしれませんね。しかし、「入門」段階を過ぎれば、後は条文が大切です。
10. Posted by 名無し   2008年06月23日 00:58
コメントの流れを止めたくなかったので、コメントを控えておりました。
記事にして下さった大杉先生、
コメント頂いた、ぞう様、ぉぃぅ様、有難うございます。
御礼が遅くて申し訳ありませんでした。

「九九の例え」は初めて聞きました。
大学で法学を習っていない私にとって目から鱗でした。

色々書きたいことがあるのですが、資格試験ではなく純粋に法を教える立場の方が、どのような記事にされるのか楽しみにしていました。
本当にコメントしてよかったと思います。
11. Posted by おおすぎ   2008年06月23日 15:55
>名無し さん

少しでも参考になったのであれば幸いです。
勉強に疲れたら、このブログに遊びに来て下さい。

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