2009年06月18日

監査役の2つの役割

新試験を受け終わった卒業生がやってきて、「あらびき団」のDVDを貸してくれました(ありがとう)。



昨日、経済産業省の企業統治研究会の報告書が正式に出されました(こちらから入手可能です

ファイルサイズは大きいですが、大半は参考資料で、報告書本体は6頁と読みやすいサイズです。賛否両論あると思いますが、多くの方にお読みいただければと思います。

監査役というと、賛否両論、喧(かまびす)しい訳ですが、ここでは教科書レベルの議論と実務のポイントの架橋を試みたいと思います。って、最近、授業で話したことそのまんまですが。

1.監査役は取締役の職務の執行を監査します(381条1項前段)。ここでいう「取締役の職務の執行」には、取締役本人が行うもののほか、取締役からの委任を受けて使用人(従業員)が行うものも含まれます。

また、監査の対象は「業務の執行」ではなく「職務の執行」とされています。業務がビジネス(営利活動)に関わるものなのに対して、職務はそれに限られず、より広く役員等が果すことが期待される役割の内容を指しますので、監査役の監査の対象には、取締役がきちんと他の取締役(等)を監視しているかということも含まれます。

2.法セミの648号に書きましたように、そしてリーガル・クエストの166頁以下のコラムに書きましたように、「監査」とか「監視」などというとき、それは、監視する人が、される人の傍に張り付いて、その挙動を一日中見張ると言う意味ではありません。そうではなくて、監視とは

(0 そのための戦略を練った上で)、
(1)経営に関する情報を収集し、
(2)それを分析し、
(3)不適切な点があればなるべく早期の是正を図る、

という活動を指します。

会社法に定められている監査役の権限や義務は、上記の「監視」のための手段や補助を法が定めたものです。それらを得て、具体的に監査役さんがどう活動するか、という点は、これまでの教科書ではほとんど書かれていなかったように思われます。

3.さて、ここからが本題で、従来は、監査役さんの主たる役割としては、違法行為やそれに近いものを早期に発見して未然に防止するという点が強調されていたと思います。このとき、監視対象は、もちろん取締役会の上程事項には限られず、組織の末端における違法行為にも可能な限り目を光らせるべきということになります。

現行法では、監査役会設置会社に常勤監査役を1人以上置くことが義務付けられている(390条3項)のは、そのようなパラダイムと親和的です。

他方、監査役が取締役会に出席し、必要があれば発言する義務を負うこと(376条1項)、監査役会設置会社ではメンバーの半数以上が社外監査役でなければならないとされていること(335条3項)(両者はいずれも平成13年12月の商法改正によるもの)は、上記とやや異なる監査役制度のパラダイムに関連します。

これは、取締役会における経営の基本方針の決定につき、監査役が一定の限度で関与することを意味します。

4.この「古典的なパラダイム」と「最近のパラダイム」は矛盾・対立するものではなく、コーポレート・ガバナンスの改善における車の両輪のようなものだと考えられます。

最近、上場会社の監査役さんが経営陣を敵に回してでも信念を貫こうとされる事例がいくつか見られます。個別事例の評価はさまざまですが(笑)、近時の傾向の原因はいろいろあり、

内部通報の増加やより一般的な日本社会の価値観の変化(法令遵守という価値の高まり)

金商法193条の3(財務諸表の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実を発見した監査法人は、監査役等にその旨を通知しなければならない)

のほか、

上記の新しいパラダイム(社外監査役の増員、取締役会での出席・発言義務が含意するもの)

もまた無関係ではないと思うのですね(憶測ですが)。

要するに、新しいパラダイムがあってこそ、古典的なパラダイムも生きるというか、両者を切り離さないことが重要であるというか。

5.最後に

ロースクールでは、到底、最先端のお話をすることはできないわけですが(すべきでもないと思いますが)、学生さんには最先端の話題にも関心を持ってほしいと思います。

最後に、参考文献として、こちら(PDFファイル)の40から41頁あたりが非常に示唆的なので、ご紹介いたします。

(ではまた)


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コメント一覧

1. Posted by 楚子   2009年06月18日 21:23
>>(0 そのための戦略を練った上で)、
>>(1)経営に関する情報を収集し、
>>(2)それを分析し、
>>(3)不適切な点があればなるべく早期の是正を図る、

>>最近、上場会社の監査役さんが経営陣を敵に回してでも信念を貫こうとされる事例がいくつか見られます。個別事例の評価はさまざまですが(笑)

 仕事上で様々な監査体制について実態に触れ、その中で考えてみる限り、(0 そのための戦略を練った上で)が一番欠けている気がしてなりません。
 この分野の知見を得、是非監査役さんに情報提供したいですね。サラリーマン監査役が本来の機能を発揮するために必要な条件と思います。

 実際のところの監査役の仕事は、上場企業であっても内部監査部門(いわゆる監査部・検査部)と重複するような内容のものが少なくないのですが、それは上記の原因によるものと考えますね。
(現象としては、取締役には言えず、そうでない一般社員に対し重箱の隅をつつくようなものが少なくなく、一般社員は辟易としています。)
2. Posted by おおすぎ   2009年06月19日 08:20
> 楚子 さま

コメントありがとうございます。私は実務のことは分からないで、なんとなく抽象的に考えたり書いたりしているので、楚子さんから頂いたフィードバックは大変ありがたいです。監査法人さんの監査戦略の建て方は、監査役の業務監査においてもある程度、参考になりそうですよね。

監査役だけでなく、役員人事も報酬も、まず戦略があって、具体的な人事案とか報酬プランとかが出てくるはずで、「勘」をなるべく言語化すべきだと考えております。

(「野性の勘」のまま突っ走る方も折られますが。← この項、ちょっとしつこい?)

コメント最後の、括弧の中も「なるほど」と思いました。

「監査」のあり方、内部監査との関係等、論点は多岐にわたりますが、引き続き宜しくお願いいたします!
3. Posted by おおすぎ   2009年06月19日 08:24
(本文の補足)
なお、同日、金融審議会金融分科会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」(座長 池尾 和人 慶應義塾大学経済学部教授)による報告も公表されております。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20090617-1.html

本当に凄いスピードで、しかも法律学者が一般的に考えているガバナンス論の枠組みとは少し離れた枠組みで、世界が動いていることを感じます(もちろん、新しいものが常に良い、と言う意味ではありません)。
4. Posted by 基礎力不足   2009年06月21日 03:22
募集設立では、創立総会で設立時取締役を選任し、その設立時取締役は設立事項を調査し、結果を創立総会に報告することになっています。ここで質問ですが、選任されてその場ですべて調査することはとてもできないと思われますので、間をあけて結果報告のための創立総会2回目を開くことになるのでしょうか?それとも、選任される予定の人が前もって調査しておき、正式に選任された後、その創立総会の場で事前の調査結果報告することになるのでしょうか?(発起人が選任されるのならこういうのもアリだと思いますが、それだと自分の行為を自分で調査しているだけであまり意味がないような気がします)
5. Posted by おおすぎ   2009年06月21日 16:20
>基礎力不足 さん

法律上はどっちでなければならないということはないのですが、実務的には、「選任される予定の人が前もって調査しておき、正式に選任された後、その創立総会の場で事前の調査結果を報告する」のが大半です。創立総会の招集通知には、設立時役員等の氏名がおそらく記載されますし(法67条1項5号、会社則9条3号を参照)、そもそも誰それが取締役に就任する予定であるということを知っていなければ、株式引受人は募集株式を買わないでしょうね。

>発起人が選任されるのならこういうのもアリだと思いますが、それだと自分の行為を自分で調査しているだけであまり意味がないような気がします。

ご指摘は全く正当です。ただ、「発起人以外のものを設立時取締役(等)にしなければならない」というルールを作るわけには行きません(そうしても、設立を企画する人の一部が発起人に、他が設立時取締役になる、と役割分担するだけで、実効的な設立調査が行われるとは期待できないでしょう)。「あまり意味がないが、これに代わるルールも見当たらない」ということで、ここは一つヨロシク。
6. Posted by あらびき団員   2009年06月28日 00:51
その卒業生は趣味いいっすねー

ロー中はよくわか「れ」なかった会社法ですが、
ここで先生が書かれていること、
意外とわかる自分に驚きました。
おもしろい!

これからも「入り」の部分たのしみに
していまーす
7. Posted by おおすぎ   2009年06月29日 08:36
>あらびき団員 さま

本文も読んでくれて、ありがとうございます。
今書いている次の記事は「入り」がないんですよね〜、済みません(ペコリ)。
8. Posted by あらびき団 DVD   2012年02月21日 17:26
なのに、ゴールデンのレギュラーとかであらびき団の話が出てくると、見ないとついていけない感じがしてなんかいやです。番組名の通り、粗削りっぽい芸風のかたが多くて、好き嫌いはあるかと思いますが、そういう主旨なので…。
私は、キュートン、風船太郎、モンスターエンジンがお気に入りでした。
どぶろっく、ガリガリガリクソンなど、この番組でなければ出られなさそうな芸人さんが見られたのは、貴重だったのかな?と思います。はるな愛、楽しんごなど、この番組からブレイクした芸人が居ます

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