岩田温の備忘録

政治学者岩田温の備忘録です。

脱株主第一主義を考える―ミルトン・フリードマンと渋沢栄一―




偶然のことなのか、何らかの調整があったのかは全くわからない。3月12日の日経新聞と朝日新聞で非常によく似た特集を組んでいた。いわゆる「脱・株主第一主義」についてである。企業のあり方を 「株主の利益の最大化を図る」存在から、株主、従業員、顧客といった全てのステークホルダーを重視する存在へと変化させるという試みについてである。

日経新聞で取り上げていたのは バンク・オブ・アメリカCEOのブライアン・モイニハン氏。

彼の主張はアメリカでも「株主第一主義」から「ステークホルダー主義」への変化が起こりつつあるというもので、具体的には「ビジネス・ラウンドテーブル」が「企業の目的」を「全ての利害関係者を重視しなければならない」と宣言したこと、「ダボス会議」で「ステークホルダー主義」の理念が再確認されたことを紹介していた。

資本主義を社会主義といった制度に変化させるのではなく、資本主義自体を時代にあわせて変えるべきだという主張だ。

朝日新聞で取り上げられていたのは、関経連会長の松本正義氏。「株主優先の経営 社会の格差広げる」との題で、アメリカのフリードマンを批判する。企業が株主利益の最大化に専念することが社会のためになるというのが、フリードマンの思想だというのだ。そして、こうした思想が国内における格差を拡大し、ポピュリズムの台頭を許したというのである。

さらに「ステークホルダー主義」に関しては、面白いことを説いていた。



「関西に根付いている近江商人の売り手よし、買い手よし、世間よしの『三方よし』の根底にある経営哲学と合致する」


 私はフリードマンの熱心な愛読者ではないが、『資本主義と自由』を読んで、その国家観に興味を抱いた。勿論、興味を抱いたというのは、それを評価しているわけではない。そういうものの考え方をするのだと面白く思ったのだ。彼は国家とは、自由人の集合体に過ぎないと考えるのだ。だから、共同体への愛情もなければ、責務も感じないというのだ。

一方、ステークホルダー主義とは若干異なるかもしれないが、株主の利益を最大化するだけが企業ではないという主張に関しては、渋沢栄一の『論語と算盤』を思い出した。

渋沢は次のように主張している。

「如何に自ら苦心して築いた富にした所で、富はすなわち、自己一人の専有だと思うのは大いなる見当違いである。要するに、人はただ一人のみにては何事もなし得るものでない。国家社会の助けによって自らも利し、安全に生存するもできるので、もし国家社会がなかったならば、何人たりとも満足にこの世に立つことは不可能であろう。これを思えば、富の度を増せば増すほど、社会の助力を受けている訳だから、この恩恵に酬ゆるに、救済事業をもってするがごときは、むしろ当然の義務で、できる限り社会のために助力しなければならぬ筈と思う。」
国家社会という共同体の中で生かされている自分が財をなしたのだから、国家社会に恩返ししていこうという発想だろう。

どちらの経済哲学の方が優れているのかを私が判断することは出来ない。だが、少なくとも国家という共同体を重んずる渋沢栄一の国家観、経済観に私自身が惹かれてしまうのは事実である。

皆様はどうお考えですか?

下記の動画でも詳しく解説しているので、ご笑覧頂ければ幸いです。





総理を「牢獄」に送れという政治学者、賛同する共産党前参院議員

 今の時代にここまで過激な言説を堂々と展開する人物が存在することに驚いた。

 レーニンを研究する白井聡氏の言動である。彼の著作『未完のレーニン』、『物質の蜂起』を読むと、いかに白井氏がレーニンに私淑しているのか理解できる。あの全体主義国家ソ連の創始者を礼賛する人物が令和の御代に存在することに驚くが、彼は本気のようである。

 その白井氏が、まるでレーニンの『何をなすべきか』の現代版のような書物を書いたのが『永続敗戦論』である。本書がベストセラーになったことは、ある意味で日本の危機といってよいだろう。それくらい過激な本である。


 その白井氏が先日、『日刊ゲンダイ』に掲載した文章に加筆したという記事がYahooの記事として掲載されたていた。

 この中で、白井氏は驚くべき過激なアジテーションを行っていた。タイトルは「さらば安倍晋三:75年前の失敗のツケを我々の手で清算しなければ」。注意すべきは「清算」の文字だ。韓国の文在寅大統領も「積弊清算」などと主張しているが、「粛清」を想起させる相当に過激な意味が込められた言葉だといってよい。

 その中で白井氏は次のように指摘している。

 

「国民の課題ははっきりしている。安倍を退陣させるだけでは不十分であり、しかるべき場所(牢獄)へと送り込まなければならない。そしてこの間この腐りきった権力を支えてきた政官法財学メディアの面々をリストアップし、処断せねばならない。75年前の失敗の根源は、国を破滅させた者どもを日本人が自らの手で罰しなかったことにある。その中に、あの「僕のおじいちゃん」(岸信介)もいた。そのツケをいまわれわれの手で清算しなければならないのである。」

 

 

 恐るべき革命家のアジテーションというべきではないだろうか?

白井氏は安倍総理を「牢獄」へ送り込まねばならぬというが、一体、どのような罪によるのだろうか? 国家を「私物化」しているというのが白井氏の論拠のようだが、法的な根拠は示されていない。これは自分たち(=革命勢力)が「敵」だと断定した人物は「牢獄」に送り込まれるべきだという、正義の独占を意味している。

さらにすさまじいのが、「この腐りきった権力を支えてきた政官法財学メディアの面々をリストアップし、処断せねばならない」との文言だ。革命勢力が「敵」だと認定する人物を「リストアップ」し、「処断」すべきだと獅子吼する白井氏にはレーニンやスターリンの亡霊が乗り移ったかのようである。こうした人物がここまで過激な言動を為しても自由な日本とは、どれほど言論の自由が守られた国なのだろうかと思わずにはいられなかった。


さらに恐ろしいのは、日本共産党の前参議院議員であるたつみコータロー氏が自らのツイッターで「安倍を退陣させるだけでは不十分であり、しかるべき場所(牢獄)へと送り込まなければならない。そしてこの間この腐りきった権力を支えてきた政官法財学メディアの面々をリストアップし、処断せねばならない」との文言を引用しながら、白井氏の過激なアジテーションをリツイートしていたという事実である。

 

日本共産党は平和の政党などと主張するが、50年代に武装革命路線に舵を切ったこともり、未だに「敵の出方論」を捨てていない。たつみ氏のリツイートからは、自分たちが敵対するものは「牢獄」に送り込んだり、「処断」しても構わないという危険な共産主義者の情念を垣間見る思いがする。

 

なお、白井聡氏については拙著『「リベラル」という病』で、批判的に考察したことがあるので、詳細については拙著をご覧いただきたい。

この件については動画でも詳述しているので、併せて動画もご覧いただければ幸いです。


文在寅大統領の会見 二つのポイント


韓国の文在寅大統領が14日に記者会見を行った。

私が重要だと思った二つの点を指摘しておきたい。

一つは、所謂「徴用工」問題に関する発言だ。

文大統領は次のように述べている。

「慰安婦合意の際、政府間でどんな合意をしても問題解決に役立たないと経験した」
「最も重要なのは被害者らの同意を得ること」

こうした発言を目にして呆れ果てる日本国民が多いだろう。何故なら、この文大統領の発言を真に受ければ、歴史問題に関して韓国政府とどのような合意をしても全く無意味だと大統領自らが語っているからだ。たとえ、両政府で合意に至っても、所謂「反日派」の人々が煽動し、一人でも被害者が納得いかないと言い出せば、いかなる合意も無意味なものにされてしまうからだ。そもそも「最も重要なのは被害者らの同意を得ること」などというが、慰安婦問題の際、慰安婦の人々の感情よりも反日を優先させたのは韓国の方ではないか。(この問題については、拙著『「リベラル」という病』で詳述しているので、興味を持たれた方は、そちらを参照して頂きたい)

歴史問題に関して、日本政府が出来ることは、もはや何もない。ただ、韓国が冷静さを取り戻すのを待つしかない。彼らが「恨み千年」というならば、千年間は仕方ないと思うしかないだろう。無意味に敵対することはないが、過度に接近しようとは試みないことが重要だろう。

もう一つ、私にとって重要だと思われた発言は、北朝鮮と韓国の間での「南北事業」再開に意欲を見せた際の発言だ。

「南北関係は我々の問題。もう少し主体的に発展させる意思をもつべきだ」

私が気になったのは、この「主体的に」という表現だ。私は朝鮮語が出来ないので確認できていないが、これが「主体思想(チュチェ思想)」の「チュチェ」という表現であったとすれば、看過できない。

「主体思想」とは、北朝鮮の独裁体制を擁護するためのイデオロギーだ。昨年末、ジャーナリストの篠原常一郎先生と私で『なぜ彼らは北朝鮮のチュチェ思想に従うのか』という本を出版したが、この中で篠原先生が重要な指摘をしている。それは、韓国の文政権を支える人々が主体思想派だということだ。主体思想という狂気のイデオロギーが政権を蝕んでいるというのである。

私自身は韓国政治に精通しているわけではないから、その実情はわからない。だが、大統領自らが「チュチェ」という言葉を使って、北朝鮮との交流を進めようとするならば、やはり文在寅大統領自身も「チュチェ思想派」とみなされて致し方ないのではないか。

歴代大統領の中でも最も北朝鮮に融和的なのが文在寅大統領だ。北へ北へと韓国を誘おうとするならば、最も危険な大統領と呼んでも過言ではないだろう。

下記の動画で詳しく説明しているので、ご覧いただければ幸いです。




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