前回までのクリムゾン・リレーションは!

「私は葛城早苗……この団体を破壊する」
 女子プロレス団体WW−DGに単身乗り込んできた謎の“ヒットマン”葛城!
 切れ味鋭い蹴りと情け無用の鉄拳がうなりを上げ、波乱を巻き起こす……




 WW−DG後楽園プラザ大会――
 そのセミファイナルでは、惨烈な光景が繰り広げられていた。

「……っ、ぁ……」

 力なく血の海に沈められているのは、WW−DG正規軍の若きエース・秋山美姫。
 その返り血で紅く染まっているのは、正体不明の“刺客”葛城早苗である。

 半月前。
 WW−DGの道場を突如訪れた彼女は、追い出そうとした若手を文字通り一蹴し、

 ――この団体を破壊しに来た。

 と、うそぶいた。
 この暴挙に怒った秋山がその挑戦を受け、今日のシングルマッチと相成ったのだが……

「脆いな。……」

 葛城は打撃の応酬で、秋山を圧倒。
 己の“制空権”を渡すことなく、完全に試合を制していた。

 一体、葛城の来歴は不明な点が多い。
 レスラーとしてはもとより、格闘家としてもまったく無名の存在。
 で、ありながら、レスリング技術には定評ある秋山をここまで子供扱いしようとは。

「……くっ、こ……この……ぉっ!」

 もはや傍目にも限界の秋山、されどプロレスラーの意地を見せ、立ち上がる。
 タックル、というよりもはやただの体当たりを仕掛けていく……が。

「遅い」

 葛城の無情なハイキックが空を裂き、そのこめかみを狙い撃った。

「…………!」

 糸の切れた人形のごとく、崩れ落ちる秋山。
 レフェリーストップが告げられ、客席から悲鳴じみた声がとどろいた。……

 担架で運ばれる秋山を横目に、リング上に傲然と立つ葛城。

 ――話にならん。

 と言いたげに、首を振って呆れたジェスチャー。
 人もなげな態度に、ブーイングが上がる。

 そこへ、颯爽エプロンサイドに駆け上がるひとつの影。
 大歓声と共にマイクを取ったのは、銀髪をなびかせ燦然ときらめく美貌――

「少々――オイタが過ぎるようですわね」

 ヒール陣営のトップ、フレイア鏡であった。

「…………」

 無言で視殺戦を仕掛ける葛城。
 艶然たる笑みで受け流す鏡。
 両者の間に散る火花。
 場内に響く大『鏡』コール。
 両雄の激突は、もはや避けられぬ様相と見えた。……



(これが、新しい手ってことか。……)

 花道の奥から殺気みなぎるリング上を眺めつつ、オーガ朝比奈は思った。
 団体内の抗争でなく、外敵を迎え撃つ……という構図。
 これがフロントの描いた絵なのか、鏡の手管なのか……まさか、偶然ではあるまい。

(……ま、奴に任せておけば間違いはないさ)

 路上の喧嘩ならともかく、ことプロレスルールでの試合なら、鏡があんな輩に不覚を取るはずはない。
 なるほど葛城の蹴りは威力抜群であろう。
 だが、それを生かせぬようにされたら?
 殴る、蹴るしか芸のないストライカーなど、彼女の変幻自在のインサイドワークの前では赤子同然。

 ゆえに後日、鏡と葛城の一騎打ちが決まっても、朝比奈は気にも留めなかった。
 あえて案じるとすれば、あの“素人”が暴走し、試合をぶち壊しにしなければいいが……
 といった類の心配。

 だが、朝比奈は間違っていた。

 鏡と葛城の一戦が行われた、タイタン有明にて。
 自分があらゆる意味で間違っていたことを、否が応でも知ることになるのである。……


(エンジェルマニア2009まで……残り10ヶ月)