【新日本女子プロレス】年間最大の祭典“Athena Exclamation”第十回大会の模様をお伝えします。
今回は第一試合から休憩前まで。


<(1)シングルマッチ 30分一本勝負>

 《コリィ・スナイパー》(WWCA)
 VS
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

オープニングマッチには、“最強のジュニア戦士”コリィが登場。
迎え撃つ新女の新鋭・日向は、世界の壁に迫れるのであろうか?

試合前の煽りVでは、コリィが日向の母・《LUNA》について語る模様が流れる。
ファン時代から彼女の試合映像を観て感銘を受けていたといい、
『あの華麗な空中技のフォームは、私の憧れ』
そんな彼女の娘と闘えるのは光栄の至り……と語る姿は、社交辞令を超えた、情熱のこもったものであった。
そのVを観た日向がどう思ったかは、本人以外は知る由もない。
最近はアイドル路線の日向、しかしここは大一番とあって、ヒラヒラのコスチュームではなく、シンプルな“戦闘服”で登場、新人らしく花道を全力疾走してのリングイン。
対するコリィはセクシーな水着で入場ゲートに姿を現し、余裕綽々の足取りでリングに上がる。
この時点で勝負の趨勢は明らか、と言っても過言ではなかろう。
ゴングが鳴るも、日向緊張からか動きが硬く、終始コリィに引っ張られる展開。
中盤戦となっても、焦りからか、技の失敗が目立つ。
コリィがキレのあるムーブと感情の伝わる表現を魅せるだけに、いっそう彼女の未熟さが露呈されてしまう。
覇気の伝わらない日向めがけ、客席からは容赦ないブーイングが飛ぶ。
最後はコリィが圧倒的な畳み掛けを見せて、世界標準のテクニックを見せ付ける完勝劇。

○コリィvs日向×(13分5秒:ムーンサルトプレス)

打ちひしがれた様子の日向の手を掲げて健闘を称えたコリィだが、それはレスラー・シャイニー日向にというより、LUNAの娘・高崎日向に対する敬意に過ぎなかった――かも、知れない。



<(2)NJWPジュニアタッグ選手権 60分一本勝負>

〔暫定王者組〕
 《佐尾山 幸音鈴》(ジャッジメント・セブン) & 《マスクド・ミステリィ》(ジャッジメント・セブン)
 VS
〔挑戦者組〕
 《小川 ひかる》(JWI) & 《獅子堂 レナ》(VT−X)

新たに認定されたタッグタイトルの暫定王者となったJ7チームに挑むのは、JWI・VT−Xの呉越同舟コンビ。
小川にとっては久々の古巣参戦だが、獅子堂は初の大舞台。

「行きますよ、レナさん。作戦は……」
「大丈夫です! 眠れる獅子拳が火を噴きます!!」
「……えっと、自由に行きましょうか」

序盤、小川とマスクドMのグラウンドは、五分の攻防。

「流石に、衰えていませんね……!」
「フフ……ッ、何のことかしら?」

代わった佐尾山と獅子堂の打ち合いも、両者一歩も引かない。

「いい蹴りです! 貴方、弟子になりませんかッ? 今ならニ番弟子という特典つきッ!!」
「はぁっ? ワケ分かんないし!!」

7分過ぎ、場外への飛び技で自爆した佐尾山、ダメージ大きく戦線離脱してしまう。
ローンバトルを強いられたマスクドMだが、慌てず騒がず、のらりくらりと小川たちの攻めを受け流してみせたのは、流石に年の功と言うところであろうか。
更に、12分過ぎにはJ7の一党〈安宅 留美〉こと〈アークデーモン〉が場外で介入。
VT−Xでは先輩であり、ルームメイトであった獅子堂にランニング・ビッグブートを食らわせた。

「る〜みんッ! このバカ弟子ぃぃーーーっ!!」
「あァ? ふざけんなッ! てめーの弟子になんざなった憶えはねーーよッ!」

そんな一幕もありつつ……
15分過ぎ、ようやく復活した佐尾山が小川を仕留め、辛うじて正式王者となった。

○佐尾山 vs 小川×(17分9秒:フライングニールキック→体固め)

「利美さん……っ、これが貴方の“正義”だと言うんですか……!?」

小川のつぶやきは、J7の総帥にしてかつての盟友・南に届くことなく……
国立の夜空に溶けて失せた。



<(3)ワールドvsジャパン 10人タッグマッチ 45分一本勝負>

【ワールド軍】
 《ダークスターカオス》(WWCA)&《ローズ・ヒューイット》(GWA)&《レミー・ダダーン》(IWWF)&《リリィ・スナイパー》(WWCA)&《ソフィー・シエラ》(TWWA)
 VS
【チーム日本】
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)&《伊達 遥》(VT−X)&《グリズリー山本》(JWI)&《永原 ちづる》(新日本女子プロレス)&《ウィッチ美沙》(新日本女子プロレス)

“世界vs日本”をテーマとした豪華10人タッグマッチ。
旧・ワールド女子が画策するも大失敗に終わった“ワールド×ジャパンリーグ戦”にアテつけるようなカード。
チャンピオン級が集まったガイジン軍団に、日本連合軍はいかに立ち向かうのか?

まずは日本勢の入場、ひときわ大きな声援を集めるのは、やはり新女の要・来島。
休憩前のカードは当人には不本意であろうが、相手にとって不足はないであろう。

アメリカ側は、妹に後れは取れぬリリィを先頭に、日本ではもっぱら【日本海女子プロレス】を主戦場とするTWWAのトップ・ソフィー、IWWFのダダーン、GWAのローズが登場。
大トリに登場したカオスがリングインすると、青コーナーには米国トップクラスの一同が顔をそろえるに至った。
その迫力たるや、美沙がのちに「……リングから逃げ出したくなったのは初めてなのです」と口にしたのも無理はないものであった。

先発はソフィーと美沙、手の取り合いからのグラウンドの静かな攻防。
若手ながらソフィーの動きに必死に付いていく美沙もまた凡庸ではない。

『流石にNJWPのルーキー、ハルカにも見習って欲しいものね――でも』
「!?」

一転しての力押しには防戦一方となってしまうのは、無理もないところか。
そこから代わってローズと伊達の熾烈な打撃戦、リリィと永原の豪快なジャーマン合戦、ダダーンと来島の力比べ……など互角の展開が続いたが、カオスが凄絶なダブルラリアット一発で来島・山本をまとめてフッ飛ばしたあたりから、状況は一変。
ガイジン勢がパワー攻勢で圧倒し、一方的な試合となった。
最後は薔薇姫が魔女を閃光葬で降し、世界のレベルを証明したのである。

○ヒューイット vs 美沙×(19分6秒:シャイニングウィザード)

『この程度では全然物足りませんわ! もっと手応えのある相手を用意しなさい!!』

勝ち誇るローズたちに、日本勢は歯噛みする他はなかった。
この一戦が更なる闘いの序章に過ぎなかったことが判明するのは、もう少し後のことである。



<(4)ノーDQマッチ 60分一本勝負>

 《八島 静香》(フリー)
 VS
 《パンサー理沙子》(PantherGym)


【ジャッジメント・セブン】に襲撃され離脱中だった八島が復活。
しかし彼女がターゲットにしたのは、J7本体ではなくパンサー理沙子であった。
なるほど理沙子には、“ジャッジメント・セブンの黒幕”という噂もある(当人は否定している)。
もとより理沙子は、売られた喧嘩を買わぬほどお人よしではない。
ベテラン同士の意地が正面衝突する、反則裁定なしの危険な一戦の結末は……?

先に入場の理沙子は、ここ一番でしか着用せぬ豹柄ガウンで登場。
一方、爆音鳴り響く巨大バイクで現れた八島は、素っ気無いストリートスタイル。
ゴングが鳴っても、なかなか手を合わせず、呼吸をうかがう両者。
そのたたずまいだけで大観衆の目を釘付けにして見せるのは、流石という以外にない。
いざ組み合うと、予想に反して、腕の取り合いなどオーソドックスな攻防を見せる。
が、場外戦となるや、八島流のハードコアなファイトが炸裂する。
竹刀やイスでの殴打、花道への叩きつけなど、情け無用のラフ殺法で追い込む。
が、血みどろにされて火がついたか、理沙子も負けず劣らぬ非情さを披露する。
花道での危険なキャプチュードで八島をグロッキーにさせるや、そのまま入場ゲートまで連れて行き、

「少し、借りるわよ……ッ!」
「――――!?」

置いてあったバイクを駆り、そのまま掟破りの逆バイク葬で八島を撥ね飛ばし、大流血に追い込んだ。
女王のエゲつないファイトに場内息を呑む中、終盤はリングに戻り、意地の削り合いを見せる両者。
容赦なく拳を顔面にブチ込む八島の苛烈な喧嘩殺法に対し、あくまでエルボーや張り手といったプロレスの範疇で対抗する理沙子の矜持。
最後は八島の鉄拳が理沙子のアゴを打ち抜き、壮絶な死闘に終止符を打った。

○八島 vs 理沙子×(14分26秒:ナックルパート→片エビ固め)

凄絶な決着に声もない観衆をアッと言わせたのは、その後の出来事である。
血の海に沈んだ理沙子を残して花道を去りかけた八島に、セコンドについていたシャイニー日向が挑みかかったのだ。
もとより相手になるわけもなく、ワンハンド・ネックハンギングツリーからのチョークスラムで一蹴されたが、返り血にまみれた魔人に挑んだ果敢さに、ファンは歓声を上げたのである。
それは、これまでチャンスを与えられながらも期待に応えて来なかった日向への、ファンの見方が変わった瞬間でもあり……
彼女の内面においても、何かが変化した時であったかも知れない。

(つづく)