【新日本女子プロレス】編、その(2)。
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■新日本女子プロレス SIDE■
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――第二回“EXTAS”マッチメーク会議――
▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明 PantherGymオフィス
『――揃っているようね。始めましょうか』
深夜。
タイタン有明にあるPGオフィスに、マイク越しの電子音声が響いた。
声の主はノートPC――ではなく、その向こうからネット電話で話しかけている。
「ゴホン。……では、始めましょう」
咳払いをして席を立ったのは《越後 しのぶ》。
【新日本女子プロレス】の中堅レスラーであったが、【ジャッジメント・セブン】のリーダー格として活躍、今ではアジアヘビー王座も奪取、確固たる地位を築いている。
「<EXトライエンジェル・サバイバー>の出場チームですが……」
「現時点で決まっているのは、東女の“ブラックホール・クラスターズ”、日本海の“C.B.T”、正体不明の“アンノウン・ソルジャーズ”……そして我々“ジャスティス・フォース”」
『それから、新たなチームが決まったのかしら?』
「えぇ、まず、チャンピオンですが」
越後がジロリと視線を向けた先には、一人の女が座している。
クスリと微笑み、机に置いていた足を下ろす彼女。
「一人は決まったけれど、もう一人がまだちょっと、ね。少し待って貰えます?」
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■新日本女子プロレス SIDE■
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――第二回“EXTAS”マッチメーク会議――
▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明 PantherGymオフィス
『――揃っているようね。始めましょうか』
深夜。
タイタン有明にあるPGオフィスに、マイク越しの電子音声が響いた。
声の主はノートPC――ではなく、その向こうからネット電話で話しかけている。
「ゴホン。……では、始めましょう」
咳払いをして席を立ったのは《越後 しのぶ》。
【新日本女子プロレス】の中堅レスラーであったが、【ジャッジメント・セブン】のリーダー格として活躍、今ではアジアヘビー王座も奪取、確固たる地位を築いている。
「<EXトライエンジェル・サバイバー>の出場チームですが……」
「現時点で決まっているのは、東女の“ブラックホール・クラスターズ”、日本海の“C.B.T”、正体不明の“アンノウン・ソルジャーズ”……そして我々“ジャスティス・フォース”」
『それから、新たなチームが決まったのかしら?』
「えぇ、まず、チャンピオンですが」
越後がジロリと視線を向けた先には、一人の女が座している。
クスリと微笑み、机に置いていた足を下ろす彼女。
「一人は決まったけれど、もう一人がまだちょっと、ね。少し待って貰えます?」
悠然と答えたのは、“デュアル・クラウン”王者である《南 利美》。
【JWI】のナンバー2であったが、市ヶ谷を裏切ってJ7に加担。
先の祭典“Athena Exclamation X”で武藤を破り、王者となっている。
『そう。なるべく早くお願いしたいわね』
「えぇ。お任せを。――“J”」
内心では、バカバカしい、と舌を出す南。
ネット電話先の相手……それこそは、J7の首領・《ミストレスJ》。
越後らの決起も、南の反逆も、とどのつまりは彼女の描いた絵図。
その正体はおおかた見当がつくが、言わぬが花ということもある。
大仰なコードネームを用いてみたり、正体を隠してみたり……と、こういった芝居がかったところが、
――新女の好きになれないところなのよね。
と、思う南である。
「ゴホン。そして、元アジア王者トリオが出場予定でしたが、これは無くなりました」
『そうでしょうね。……本意ではなかったかしら? 希さん』
「――いえ。自分で決めたことですから」
希(のぞみ)――《内田 希》が冷静な声で応じた。
南とは対照的に、姿勢正しく腰を下ろしている。
《ラッキー内田》のリングネームで活躍してきたが、色々あって本隊を去ってJ7の一員となり、本名に戻した。
「フフッ。期待してるわよ、ラッキー」
「その名で呼ぶのはやめていただけますか、チャンピオン」
「そうね。そうするわ。ラッキーちゃん」
「…………」
南のパートナーの一人が、すなわちこの内田であることは、言うをまたない。
「新入りが大きな顔をするのは面白くないかしら? しのぶ」
「いえ、別に。……私は、ややこしいことは苦手ですから」
「フフッ、なるほどね。細かいことは考えずに、暴れられればいい、ってところかしら。中堅レスラーの鑑ね」
「…………ッ」
越後は視線を逸らした。
口でやりあって勝てる相手ではないのは分かっている。
「……では、他のチームですが」
『葉月――六角さんも、動いているようね』
「えぇ。……何やらコソコソしているようです」
新女のベテランの一人《六角 葉月》も、何かしら水面下で暗躍しているらしい。
「ふぅん。……裏側の人間が表に出てきても、ロクなことがないのにね」
「…………」
越後はコメントを避け、報告を続ける。
「では、他団体の方ですが」
まず【WARS】については。
『なかなか面白いことになっているようね』
「……面白いかどうかは、人それぞれでしょうが」
先日のとあるプロレス会場において、J7にケンカを売りつけてきた一団……
『【柳生衆】だったかしら。元気があって結構じゃない?』
その後いろいろあって、連中がWARS代表として名乗りを上げるにいたったのである。
▼“柳生三人衆”
《柳生 美冬》(柳生衆)
《オーガ朝比奈》(柳生衆)
〈MOMOKA〉(柳生衆)
「じゃあ、龍子たちはお休みってわけかしら?」
「いえ。それはまだ分かりませんが」
そして、寿一派。
「混成チームを送り込んでくるつもりのようですね。寿軍の近藤、旧ワールドの芝田、それから……」
『“聖人”とは――懐かしい名前を聞くものね』
「…………」
かつてメキシコで活躍した覆面レスラー《エムサンド》。
その正体である《ブレード上原》は、何者かに闇討ちを受け、いまだ入院中のはず。
その名をかたってエントリーしてきた当人の正体、そしてその意図は、いかに。
▼“I・W・J”
《近藤 真琴》(寿千歌軍団)
《芝田 美紀》(寿ワールド女子プロレス)
《エムサンド》(???)
『それ以外ではどうかしら?』
「【JWI】からは、まだ連絡がありませんね」
「………………」
古巣の名を出されて、南の眉がちと動いたとは、気のせいであったろうか。
「【プロレスリング・ネオ】では、最後の一人が決まったとのことです。……厄介な御仁が」
「フフッ。せいぜい、轢き殺されないように気をつけることね」
「……えぇ」
早瀬・森嶋と組む選手を決めるトーナメントにおいて、〈ブラッディ・マリー〉を一蹴、《霧島 レイラ》をも粉砕して出場を決めたのは、J7とは因縁あさからぬ相手である。
▼“パイレーツ・オブ・ヨコハマ”
《ドルフィン早瀬》(プロレスリング・ネオ)
《森嶋 亜里沙》(プロレスリング・ネオ)
《八島 静香》(フリー)
J7による最初の“断罪”対象となった八島。
一時は重傷を負って再起不能とまで言われていたが、不死鳥のようにリングへ舞い戻ってきた。
「よほど、効能があったようですね」
「? 何か言った、ラキ子?」
「……いえ、何でも」
以前、島根山中に湯治に出かけたさい、リハビリ中の八島と接触したことは、さして語るほどのことでもない。
『……楽しくなりそうね』
ミストレスJの口調に複雑な感情が篭っているように聞こえたのは、錯覚だったかどうか。
「最後に――【パラシオン】からの出場チームです」
「ふぅん? 連中は、こういう場には出てこないと思ったけど」
「若手が中心ですが、リーダー格は……良く聞く名です」
▼“パッション・スリー”
《桜井 千里》(パラシオン)
《ソニア稲垣》(パラシオン)
〈坂林 玲〉(パラシオン)
「へぇ、桜井ね。……面白そうだわ」
「気になるんですか? 利美さん」
「えぇ。極めがいがありそうじゃない? きっとサブミッション映えするわよ、あの美形は」
「…………」
人の悪い微笑をうかべる南に、内田は肩をすくめてみせるしかなかった。
「坂林……」
パラシオン代表の一人の名前を見つめ、越後は首をひねっていた。
どこかで聞いたような気がするのだけれど。
(……まぁ、いい)
もしリング上で相対することがあれば、いやがうえにも、思い出すであろう。
『なかなか興味深いチームが揃ってきたわね。楽しみだわ』
「そうですね。ところで」
PCのWEBカメラを覗き込むようにして、南が問うた。
「貴方は出場しないんですか? “J”」
『フフッ。黒幕は黒幕らしく、裏方に徹しておくべきではなくて?』
「でも……いや、それもそうですね」
南は、深く追及するのをやめた。
もし、ミストレスJの正体が、彼女の予想通りならば。
どうしたって、表舞台に出てこずにはいられないはずなのだ。
(動くのは――その時でも、遅くはないわね)
JWIを抜けてJ7に走ったのは、盤上の駒のひとつであることに飽き足らなかったためであった。
だが現状、結局のところ彼女は駒にすぎない。
駒ではなく、それを動かす側に立つためには……
プレイヤーの座を、奪い取るしかない。腕づくで。
そして、他者から勝利を奪い取り、その口から屈服の声を聞くことは……
南利美がもっとも得意で、なおかつ、もっとも嗜むことに他ならないのだ。
【JWI】のナンバー2であったが、市ヶ谷を裏切ってJ7に加担。
先の祭典“Athena Exclamation X”で武藤を破り、王者となっている。
『そう。なるべく早くお願いしたいわね』
「えぇ。お任せを。――“J”」
内心では、バカバカしい、と舌を出す南。
ネット電話先の相手……それこそは、J7の首領・《ミストレスJ》。
越後らの決起も、南の反逆も、とどのつまりは彼女の描いた絵図。
その正体はおおかた見当がつくが、言わぬが花ということもある。
大仰なコードネームを用いてみたり、正体を隠してみたり……と、こういった芝居がかったところが、
――新女の好きになれないところなのよね。
と、思う南である。
「ゴホン。そして、元アジア王者トリオが出場予定でしたが、これは無くなりました」
『そうでしょうね。……本意ではなかったかしら? 希さん』
「――いえ。自分で決めたことですから」
希(のぞみ)――《内田 希》が冷静な声で応じた。
南とは対照的に、姿勢正しく腰を下ろしている。
《ラッキー内田》のリングネームで活躍してきたが、色々あって本隊を去ってJ7の一員となり、本名に戻した。
「フフッ。期待してるわよ、ラッキー」
「その名で呼ぶのはやめていただけますか、チャンピオン」
「そうね。そうするわ。ラッキーちゃん」
「…………」
南のパートナーの一人が、すなわちこの内田であることは、言うをまたない。
「新入りが大きな顔をするのは面白くないかしら? しのぶ」
「いえ、別に。……私は、ややこしいことは苦手ですから」
「フフッ、なるほどね。細かいことは考えずに、暴れられればいい、ってところかしら。中堅レスラーの鑑ね」
「…………ッ」
越後は視線を逸らした。
口でやりあって勝てる相手ではないのは分かっている。
「……では、他のチームですが」
『葉月――六角さんも、動いているようね』
「えぇ。……何やらコソコソしているようです」
新女のベテランの一人《六角 葉月》も、何かしら水面下で暗躍しているらしい。
「ふぅん。……裏側の人間が表に出てきても、ロクなことがないのにね」
「…………」
越後はコメントを避け、報告を続ける。
「では、他団体の方ですが」
まず【WARS】については。
『なかなか面白いことになっているようね』
「……面白いかどうかは、人それぞれでしょうが」
先日のとあるプロレス会場において、J7にケンカを売りつけてきた一団……
『【柳生衆】だったかしら。元気があって結構じゃない?』
その後いろいろあって、連中がWARS代表として名乗りを上げるにいたったのである。
▼“柳生三人衆”
《柳生 美冬》(柳生衆)
《オーガ朝比奈》(柳生衆)
〈MOMOKA〉(柳生衆)
「じゃあ、龍子たちはお休みってわけかしら?」
「いえ。それはまだ分かりませんが」
そして、寿一派。
「混成チームを送り込んでくるつもりのようですね。寿軍の近藤、旧ワールドの芝田、それから……」
『“聖人”とは――懐かしい名前を聞くものね』
「…………」
かつてメキシコで活躍した覆面レスラー《エムサンド》。
その正体である《ブレード上原》は、何者かに闇討ちを受け、いまだ入院中のはず。
その名をかたってエントリーしてきた当人の正体、そしてその意図は、いかに。
▼“I・W・J”
《近藤 真琴》(寿千歌軍団)
《芝田 美紀》(寿ワールド女子プロレス)
《エムサンド》(???)
『それ以外ではどうかしら?』
「【JWI】からは、まだ連絡がありませんね」
「………………」
古巣の名を出されて、南の眉がちと動いたとは、気のせいであったろうか。
「【プロレスリング・ネオ】では、最後の一人が決まったとのことです。……厄介な御仁が」
「フフッ。せいぜい、轢き殺されないように気をつけることね」
「……えぇ」
早瀬・森嶋と組む選手を決めるトーナメントにおいて、〈ブラッディ・マリー〉を一蹴、《霧島 レイラ》をも粉砕して出場を決めたのは、J7とは因縁あさからぬ相手である。
▼“パイレーツ・オブ・ヨコハマ”
《ドルフィン早瀬》(プロレスリング・ネオ)
《森嶋 亜里沙》(プロレスリング・ネオ)
《八島 静香》(フリー)
J7による最初の“断罪”対象となった八島。
一時は重傷を負って再起不能とまで言われていたが、不死鳥のようにリングへ舞い戻ってきた。
「よほど、効能があったようですね」
「? 何か言った、ラキ子?」
「……いえ、何でも」
以前、島根山中に湯治に出かけたさい、リハビリ中の八島と接触したことは、さして語るほどのことでもない。
『……楽しくなりそうね』
ミストレスJの口調に複雑な感情が篭っているように聞こえたのは、錯覚だったかどうか。
「最後に――【パラシオン】からの出場チームです」
「ふぅん? 連中は、こういう場には出てこないと思ったけど」
「若手が中心ですが、リーダー格は……良く聞く名です」
▼“パッション・スリー”
《桜井 千里》(パラシオン)
《ソニア稲垣》(パラシオン)
〈坂林 玲〉(パラシオン)
「へぇ、桜井ね。……面白そうだわ」
「気になるんですか? 利美さん」
「えぇ。極めがいがありそうじゃない? きっとサブミッション映えするわよ、あの美形は」
「…………」
人の悪い微笑をうかべる南に、内田は肩をすくめてみせるしかなかった。
「坂林……」
パラシオン代表の一人の名前を見つめ、越後は首をひねっていた。
どこかで聞いたような気がするのだけれど。
(……まぁ、いい)
もしリング上で相対することがあれば、いやがうえにも、思い出すであろう。
『なかなか興味深いチームが揃ってきたわね。楽しみだわ』
「そうですね。ところで」
PCのWEBカメラを覗き込むようにして、南が問うた。
「貴方は出場しないんですか? “J”」
『フフッ。黒幕は黒幕らしく、裏方に徹しておくべきではなくて?』
「でも……いや、それもそうですね」
南は、深く追及するのをやめた。
もし、ミストレスJの正体が、彼女の予想通りならば。
どうしたって、表舞台に出てこずにはいられないはずなのだ。
(動くのは――その時でも、遅くはないわね)
JWIを抜けてJ7に走ったのは、盤上の駒のひとつであることに飽き足らなかったためであった。
だが現状、結局のところ彼女は駒にすぎない。
駒ではなく、それを動かす側に立つためには……
プレイヤーの座を、奪い取るしかない。腕づくで。
そして、他者から勝利を奪い取り、その口から屈服の声を聞くことは……
南利美がもっとも得意で、なおかつ、もっとも嗜むことに他ならないのだ。