トマト焼酎がおいしい。すごくおいしい。
おいしすぎて何が何だかよく分からない。分かるのは、とにかくトマト焼酎がおいしいっていうことだけだ。それしか、僕には分からない。
焼酎なんだけどすごくさっぱりとしていて、焼酎独特のえぐみみたいなものも無いし、ノドを焼くような辛さもない。
飲んだことがない人は、トマトジュースやブラッディメアリの延長線上にそれがあるような印象を受けているかもしれない。でも、僕から正確な事実を伝えさせて頂くと、全くそんなことはない。トマトジュースやブラッディメアリにおけるトマトのごとく、
「俺の! 俺の! 俺の話をきけーー!」
とトマト味が主張しているわけではなくて、こう、微かにトマトさんの呼吸が漏れ聞こえてくるような、そんな感じなのだ。
「朝起きると、ベッドからトマトの姿は消えていた。机の上にメモ書きが置いてあった。
『おはよう。カギは出るときに郵便受けに入れておいて下さい』
ベッドには、まだ彼女の香りが残っていた。」
というくらいこっそりとトマトの香りがするに留まっている。
トマトのヘタ周りを食べたみたいな、ある種の切なさをはらんだ爽やかな青臭さがする。多分切ないのは、僕にとってトマトとお婆ちゃん家のトマトが直結しているからじゃないかと思う。まだ青いトマトをこっそり齧ったのを思い出す。
どっちかというと、トマト焼酎というよりは、サラダ焼酎といったニュアンスが近い。口当たりは軽くて柔らかく、すいすいと飲めてしまう。
僕が秘かに所持している、
『(気になる)女の子に薦めるのに最適なお酒リスト
〜飲みやすい! オシャレ! 酔わせやすい!〜』
の一番上に追加された。ランキング一位だ。とんだニューカマーである。
(これ以外のお酒についてはまたの機会にお教えします。)
とにかく、非常に、おいしい。
今この瞬間に「あなたの好きな食べ物は何ですか?」と聞かれたら「トマト焼酎です!」と答える。
パスワードを忘れたときの秘密の質問を今作るなら、
「質問:宇宙の奇跡とは?」→ 「答え:トマト焼酎」
とする。
ああ、もう、家を飛び出して待ち行く人々に声をかけたい気持ちだ。
「あの、すいません」
「はい?」
「突然ですが、クイズです。僕の好きなお酒は何でしょう?」
「はい?」
「チックタックチックタック。あ、難しいようだったら三択にしましょうか?」
「ひぃぃぃぃ!」
どうも感情ばかりが走って、いまいちトマト焼酎のおいしさがうまく伝えきれない気がする。
そうなのだよ、世の中は、好きという気持ちだけではうまくいかない場合もあるのだよ。
ここで冷静になって彦麻呂風に表現してみると、
「口の中が、トマト投げ祭りやー!
イタリア人が、今年の豊作を祝っとるわー!」
というような感じだろうか。
トレンディドラマ風に伝えるなら、
「またレタス君ったらトマト焼酎飲んでるのね」
「うん。好きなんだ」
「知ってる」
「実を言うと、お前のことも好きなんだ」
「知ってる」
「……。なあ、亜希」
「なに?」
「俺たち、付き合ってもう3年になるよなあ」
「うん」
「俺さ、こうしてゆっくりトマト焼酎飲みながら、お前のこと眺めてる時間が一番幸せなんだ」
「……。」
「俺、今幸せだよ」
「うん。知ってる」
「なあ。これからも、トマト焼酎を飲んでるときはずっと俺のそばにいてくれないかな。お前がいないと、どんな酒もおいしくないよ」
「え? どうしたのその指輪……」
「結婚しよう。俺は、トマト焼酎とお前がいれば、後は何もいらない」
「嬉しい……」
「絶対幸せにするよ」
「…もう既に幸せだもん。ありがとう。ふつつかものですが、これからもよろしくお願いします。」
「ふふ、頬がトマトになってるぜ」
「もう!(笑)」
「(亜紀の頬を撫でながら)愛してる……。トマト焼酎の次に君が好きだよ……」
「私も愛してます……」
という感じになるだろうか。
とにかくトマト焼酎はおいしいということが伝わっていればいいんだけど。
ちなみに、こういうことを考えているときは、大体真顔です。