相続・遺産分割の森

目黒区自由が丘の弁護士です。
深い森の道案内のごとく、相続・遺産分割に関する情報を
できるだけ分かりやすく発信して行きたいと思います。

遺言があれば心配いらない?

遺産を1つの大きなケーキだと考えれば、

遺言書は、ケーキを遺した故人がケーキに添付した、

「取り分け方の説明書」

ということになるでしょうか。


この説明書がついている場合、相続人の方々が、

分け方についてあれこれ協議する余地は、基本的にありません。

取り分け方はすでに説明書で指定されていますから、

あとはそれに従って分けていくだけです。

時には、「遺言執行者」と言って、取り分けを行う人が説明書で

指名されていることがあります。

その場合には、遺言執行者がナイフを持ってきてケーキを

バンバン切っていくのを、相続人はお皿を持って待つ、

ということになります。


説明書で指定されたケーキの大きさが、人によって違うことも

ありますが、故人の意向なので、仕方ありません。

余りに取り分が少なければ、遺留分の問題は起こりますが。


さて、この遺言という説明書が付いているときは、

それが故人の遺志である以上、争いになることは少ないでしょうが、

遺言があれば完璧かというと、そうでもないのです。


故人が自分で書かれた遺言(自筆証書遺言)の場合、

日付や押印といった形式面のミスを犯しやすいですし、

書いてある内容の意味がよくわからないとか、

そもそも、達筆すぎて読めないなんてこともあります。


公正証書遺言であれば、こうした基本的な問題は起こりませんが、

遺言能力の有無は争いになる余地があります。

故人に認知症の傾向がみられていた場合等は、特にそうです。

公証人の方で一定程度のチェックは期待できますが、

少なくとも、公正証書が巻いてあるから遺言能力も問題なし、

ということには、ならないのではないでしょうか。


ともあれ、遺言があっても、その効力が争われて、遺産分割が

紛糾する場合もあるのです。

遺言の効力が争われる場合、これは調停では取扱いができず、

一般の民事訴訟で決着をつけなければなりません。

民事訴訟の結果が出るまで、遺産分割はストップするわけですね。


不完全な遺言があったがために、普通に遺産分割を行うよりも

最終決着まで時間がかかり、かつ、相続人間に決定的な亀裂が

生じてしまった、などというのも笑えない話です。


あくまで個人的意見ですが、

遺言を遺されるのであれば、元気でしっかりなさっているうちに、

公正証書遺言をされるのがよいと思います。

ケーキはもっと大きかったはず?

遺産分割は、

まず、分配を受けるメンバー(相続人)を確定し、

つぎに、分配の対象になる財産の範囲を確定し、

各相続人の取り分に応じて、遺産という財産の複合体を

解体して取り分けていく

という手続を踏みます。


上記の2番目のプロセスを、

「遺産の範囲の確定」と呼んでいます。


遺産の範囲は、「遺産目録」というリストを作って整理し、

その内容に相続人間で争いがなければ、そのまま分配すれば

よいのですが、争いがあるときは、その段階で遺産の範囲を

きっちり確定する必要があります。


遺産の範囲をめぐって争いが発生する場合というのは、大抵、

相続人間に、故人の財産に関する情報格差がある場合です。

事実上故人の財産を管理していた相続人が、遺産目録を

作って提示したところ、他の相続人から

「他にも遺産があるはず」

「父(母)は、きちんとした人だったから、

こんなに少ないなんて絶対おかしい」

などという話が持ち出され、しまいには

「あいつが隠している」などという話になり、泥沼化していくと。

使途不明金問題 と、構図は同じですね。


預貯金の場合、ある程度調査はできるのですが、現金等は

正直、調査には限界があります。

ですので、

代理人として遺産分割に携わる立場からは、

ある程度のところまで調査して、資料が出てこなければ、

早期解決を優先して、先に進めましょうと進言することに

ならざるをえません。


こういうとき、故人の方に対して思うのは、

遺言とは言わないまでも、せめて、遺産のリストだけでも、

きちんと残して欲しかったな、ということです。

使途不明金問題

遺産分割協議や調停の過程で、

特定の相続人が、故人の生前や死後に

故人の預金を引き出していたことが判明し

そのお金がどこに行ったか、何に使われたかはっきりせず

問題になることがあります。

相続人全員のコンセンサスを得ていれば

問題になることはないのですが、

そうでないから問題になるのですね。


多くは、故人と生活を共にしていた相続人による

預金の解約や多額の引出しのケースです。

生前に故人に頼まれて引出し、それを故人に渡したのなら、

何の問題もありませんが、下ろした金を受け取ったのであれば

特別受益になる可能性があります。

独断で引き出したというのであれば、不当利得、不法行為となって

損害賠償の問題が発生します。

一応、このように整理はできますが、多くの場合、事実関係が

はっきりしないのですよね。特に生前の引出の場合。

口座の取引履歴から引出額と日時は判明しますが、

それを故人が了承していたのか、引き出した現金がどこに

行ったのか、引き出した相続人しか真実は分からないものです。

介護費用につかったとの説明もよくなされますが、

領収証をとっていなかったり、およそ関係があるとは思えない

タクシー代の領収証が出てきたりして、

相続人間の不信感、感情的対立を激化させる要因に

なることもあります。


調停でこの問題が持ち出されることも多いのですが、

「遺産分割は、存在がはっきりしている、

現存する遺産を分割する手続であって、使途不明金の問題は

遺産分割調停の範囲外の問題」

「何期日かは付き合いますが、結論が出ないようであれば、

あとは民事訴訟で争って下さい」

というのが家庭裁判所の基本的な考え方です。


引出に関与していない相続人の方にとっては、

到底納得できないというお気持ちもよく分かりますが、

資料の乏しい中、お金と手間をかけて民事訴訟で争っても、

見返りは少ないように思います。

遺産分割の早期解決のため、妥協することも必要かと思います。


あと、親御さんの預貯金等の管理をなさっている方は、

相続の時に紛糾しないよう、帳簿をつける、領収証を保管する等、

他人のお金を預かっているという意識が必要でしょう。

その方が遺産分割もスムーズに行きますし、

後になってあらぬ中傷を受けて精神的に傷つくことも防げます。
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