人事採用のプロAさん前回の記事「東大でも落ちる人、田舎出身だから受かる人」は、もうご覧になっていただけましたでしょうか。就職試験のポイントを踏まえて、お子さまのこれからの教育や教育方針のご参考にしていただくべく、これまで5,000人以上の新卒者を見てきた人事採用のプロAさんにインタビューをしたものです。

想像以上に反響が大きく、「まったくその通り!」という賛成論から「これだから日本の就職活動はおかしい」というようなご意見まで、たくさんの方にお声をいただきました。今回は、それらのお声の中から反対意見やご指摘をピックアップし、改めてAさんにインタビューしましたので、ぜひ読んでみてください。

■反論コメントは大きく次の4つでした
・エントリーシートに定番の書き方があるなら、実力が無い人でも体裁を装えられるのでは?
・エントリーシートだけでは個性や創造性が評価できないのでは?
・自分のことをアピールするのが苦手な人が評価されないのでは?
・リーダー経験がある人だけが優秀というわけではないのでは?


――まず、反論コメント全体についてどう思われましたか?

批判もいいのですが対案が欲しかったですね。就職試験の話になりますが、何かについて意見を述べるときに、批判をするだけして対案がない場合、評価にはつながりません。対案のない批判は、揚げ足取りと何ら変わりないですよね。

また、「エントリーシートに定番の書き方があるなら、実力がなくても人事を騙せるのでは?」というニュアンスの反論もありましたが、それは、人を騙していることになるんでしょうか。そこで評価される人はエントリーシートや面接の準備を怠らなかっただけだと思うんですよね。「あいつはうまく面接官を騙した」というのは、典型的な負け惜しみの考え方だと思います。まずその考え方から改めないと希望の会社への就職は難しいと思ってください。

前回にも言いましたが、準備という基本ができずに、なぜ他のことが秀でていると言えるのでしょうか。20年来のペーパードライバーが、一度も予行練習をせずにあなたを助手席に乗せてあげると言ったら、安心して任せられますか?相手の信頼を得るための最低限の準備は必要ですよね。エントリーシートの準備も、それと同じです。


――「個性や創造性を評価できないのでは?」という意見はいかがですか?

面接は会社によって何度か行うと思いますが、人事による面接は最初の段階ですよね。面接の最初の段階で見る点は非常に基本的なことです。個性や創造性の判断ができない、というよりは、人事担当の面接の評価ポイントの基準が個性や創造性についてではない、というだけのことです。

面接が進むにつれて、面接は人事ではない者が行うことになりますが、全員が全員面接のプロではありません。実は、面接に慣れていないと応募者のプラス面よりもマイナス面の方が目に付きやすいこともあり、まずは人事側で、誤字脱字が無いかどうか、段落をつけて読みやすさを意識しているか、自分だけがわかる言葉を使っていないか、ちゃんと他人が読んでわかる文章かなどの点をチェックしています。

他人に伝えられる力の基本といえば、例えば、物事の形容方法などをチェックします。「60g」という重さを表現するのに、「卵くらいです」という人もいれば「60gです」とだけ言う人もいますよね。一番丁寧な人は、「それは60gくらいで、卵くらいの重さなんです」と相手にわかるように表現をするわけです。これは聞き手のことを考えた言い方を場面によってしっかりとできる人だ、という評価になりますね。

ただ単に「○○を頑張りました」と表現する人がいますが、社会人の方であれば実感されているように、それではどのように評価してよいか、評価側が困惑してしまいます。数字や詳細な経験談、経緯、何でもいいのですが、どのように良くなったのかという尺度を説明されないと、聞き手は頑張り具合を評価できません。

要は、ある事実を表現するときに、どのように伝えたらスムーズな理解につながり、かつ、誤解が生じないかということを考えているか、という基本的なことを見ているのです。

決して、個性や創造性を評価ポイントとして外しているのではなく、人事担当が行う就職試験の段階で「見ているポイント」は違うんですよ、という話です。


――「自己アピールが苦手な人が評価されないのでは?」という意見はどうでしょう?

自分の良さをアピールできないという意味を考えてみましょう。それは、相手のことを考えたコミュニケーションをした結果なのでしょうか。アピールが苦手というよりも、結果として自分の言いたい・伝えたいことが相手に伝えられていないということになりはしないでしょうか。「アピールが苦手」と言う人の多くの場合、実は、自分のことがまだ良く分かっていない・相手のことも良くわかっていないという状態にあることがほとんどです。

まずは、自己分析からやり直して、普段の生活においてもっと人とコミュニケーションする経験を増やすことから初めてみてください。自己分析の方法はいくらでもありますから、OBやOGに聞いてみるとか、就活セミナーに出てみるとか、書店に行くとか、能動的に動けば方法はすぐに見つかりますよ。


――「リーダー経験がある人だけが優秀というわけではないのでは?」というのはいかがですか?

リーダー経験は評価につながりますが、リーダーでなければいけない、ということではないんです。「○○のリーダーでした」というだけでは、もちろん意味が無くて、リーダーとしてどのような経験をしたか、結果として何を残したかという点が重要です。採用時の話になりますが、人を面接で見る際に「プラス面」というのはマイナス面に比べて見つけにくいということがあります。たとえば、Sさんという人について、「なぜ彼を採るか」という説明は難しいですが、逆に、なぜ落としたかという説明は簡単なんですね。「この人はこれができていないのでダメなんです」と言う方のほうが、説明が明確ですし周囲も納得します。

当然リーダーという経験がなくても欲しいと思う人材はいますし、そういう人が評価されないかというとそのようなことはありませんが、採用試験の初期段階であるエントリーシートや人事による面接においては、リーダーという客観的な事実は評価しやすいということです。その人がグループに欠かせない人物かどうかを見極めるのはすごく難しいけれども、リーダーだったという事実はわかりやすい、というだけの話ですね。


――「形式的なことより、本質的なありのままの自分を見て欲しい」という方もいますよね?

端的に言うと、「自分のありのままを見てくれ」という人には、向上心の無い人が多いというのが僕の結論です。競争や比較を否定している人はそもそもビジネスに向いていないと思います。

就職活動のときの自分と希望企業というのは、お見合いにも置き換えていいと思うのですが、相手が自分のことを知りたいと思っていろいろ質問をしてくるのに、「ありのままの自分を見てくれ」と返答をしたところで、相手が「この人は素敵な人だ」と思うでしょうか?自分の考えしか押しつけないコミュニケーションの取れない人だな、と思われておしまいですよね。破談してしまいます。

全般的に言えることは、採用試験のときに必要最低限求められることは、企業に入ってから求められることでもありますよね。準備をする、相手の気持ちを考えて話すということは、ビジネスにおいて信頼感を築くためのベースです。営業をするにしても、事務をするにしても、言えることですよね。

エントリーシートが読みにくく、面接に呼んだは良いものの返答が答えになっていない、そんな人が「僕は優秀ですから採用してください。必ず御社の役に立ちます」と言ったところで、信用できますか?そのような人が、社会人になった途端に準備万端の人になるという保証はどこにあるのでしょうか。ということを考えれば、決して、今までの話が机上の空論には聞こえないはずだと思います。


――最後に就活中の方にメッセージはありますか?

もったいないことをしないでください、ということを言いたいです。基本的な準備をしていないばかりに落とされたり、ケアレスミスでチャンスをふいにしたりしてほしくありません。今まで述べてきたように、「基本的な準備」を怠ることで採用されにくくなるのは隠しようもない事実です。これは、人事担当が良い人だから、悪い人だからということとは関係ありません。

これまでの経験から、実力のある方がつまらないミスをして、結果的に落ちてしまうということがいかに多いかを知っているので言うのですが、採用試験は一期一会、そのタイミングで自分のベストな状態をアピールするためにも、定番でもなんでもちゃんと一通りの準備はしていただければと思います。