2005年08月30日

「誰も知らない」




「誰も知らない」 ★★★★

(2004日本)
監督:是枝裕和
キャスト:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、YOU、韓英恵、加瀬亮、タテタカコ、遠藤憲一、寺島進


カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞作品。
怒りと苛立ちと哀しみに言葉を失う。
ネグレクトという残酷な実話ベースの物語であるにもかかわらず、ドラマチックな展開も悲嘆に泣き暮れる描写も凡そ映画的虚構の演出はそこにはない。
映画はまるで風景画のように彼等の生活を丹念に描いていく。
子供のようなエゴに身を委ねる母親を待ち続け信頼する子供達の異様な日常を、静かに、第三者的に。
しかし、クローズアップされた幼い手や足、何度も登り降りる石段、そして冷酷なまでに客観視された出来事の一つ一つは、決して消えない染みのようにいつまでも観る者の心に残る。
過剰なドラマ性を排した演出によって浮かび上がるのは現実の残酷さだ。

家族関係という閉じられた一つの小さな社会の中で、少しずつ閉塞して行く子供達の表情があまりにも哀しい。
親も子供もお互いを選ぶ事ができないが、庇護無くして生きられない年齢の子供は親に与えられた環境しか享受できない。だからどんなに酷いダメな母親であろうとも母親は母親で、所謂世間一般の子供らしい暮らしを奪われ傍から見れば不幸極まりない劣悪な環境に生きていたとしても、彼等が母親と共に暮らし生きた時間はとても幸福だったのだろうと思う、母親を待ち4人で暮らす間でさえも。
その彼等の世界の扉を開けるということは、皮肉にも彼等の「幸福な」生活に土足で踏み込みそれを破壊しなければならないということでもある。
しかし映画は誰もそうしようとはしなかった事実を描いて終わる。彼等の世界を壊してやらなければならなかったはずなのに、皆彼等の存在を知ろうとも関ろうともしない。
「知らない」のではなくて「知ろうとしない」、臭い物には蓋的な独善的な社会の現実を描く事によって、「私は幸せになっちゃいけないの?」の一言で現実から逃避する母親とその周囲の人間が何ら変わりはないという愚かさを傍観者である我々も問いただされているように思うのだ。この「取り巻く社会の責任」という視点は「ディスタンス」にも感じられたものだったが、こちらの方が題材的には一般に支持されるだろう。

飛行機の見えるあの場所に埋葬されたのは少女だけではなく明の少年時代でもあったような気がしてならなかった。
過酷な状況下でも少年は成長し大人になってしまったのだろうか。
無責任なわずかな大人の善意は何一つ事態を変えることはできない。

京子の指に残った赤いマニキュアとゆきが愛したサンダルの音が酷く胸を打つ。
これ程笑顔が心に痛い映画も他にはないだろう。是枝作品の総決算として秀逸な一篇、柳楽優弥はじめ子役が非常に良いですよ。


自分が子供の頃に見上げた空はどんな色だったかな、とふと思った。



映画「誰も知らない」サウンドトラック


lin_spectrum at 17:39│Comments(12)TrackBack(22)邦画 

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1. 誰も知らない  [ いろいろあらーな ]   2005年03月16日 21:58
うーん・・・ うーん・・・ これがこの映画を観た感想。 この映画は1988年に実際に起った巣鴨子ども置き去り事件をモチーフに作られたそうだ。 事件があまりにも切ない結末をたどるため、監督が「やんわりと」「観客を傷つけないように」している気配が感じられ...
2. 誰も知らない  [ Cat Tail * cinema ]   2005年03月16日 23:47
誰も知らない 監督・脚本・編集:是枝裕和 出演:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、韓英恵、YOU 他 レビュー 都内の2DKのアパートに引っ越してきた母親けいこ(YOU)と4人の兄妹 長男の明(柳楽優弥)、長女の京子(北浦愛)、次男の茂(木村飛影)
3. 誰も知らない  [ むーびーだいやり〜 ]   2005年05月08日 13:52
「キャスト」 柳楽優弥/北浦愛/木村飛影/清水萌々子/YOU 「監督」是枝裕和 「ストーリー」 1988年に東京で実際に起きた「子ども置き去り事件」をモチーフにし、母親に置き去りにされた4人の子どもたちが、彼らだけの生活を続ける約1年を描いている。撮影にも1
4. 誰も知らない  [ Drifting Clouds ]   2005年05月17日 10:52
誰も知らなくても、確かにそこに存在するものはある。 この映画で描かれる四人の兄弟は、「見られる」事はあっても、その存在を「認知される」事はないのです。 唯一、彼らを認知していた母親も、彼らを捨て、本当に「誰も知らない」存在になった時、彼らは「存在
5. 誰も知らない  [ ムービー鑑賞録 ]   2005年05月18日 10:06
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6. 誰も知らない  [ ネタバレ映画館 ]   2005年05月18日 20:33
 純粋に、こどもたちの演技に感動。  映画の根本的なコンセプトはドキュメンタリータッチに求めて、子供たちが持つ素直な笑顔や自然に出てくる会話。台本を渡さずに演技を説明しただけという監督の勝利。しかも撮影までに2ヶ月間、子供たちとスタッフが心打解けあうまで徹
7. 誰も知らない  [ impression ]   2005年05月18日 21:20
まずはこの是枝裕和監督の感性は素晴らしい♪ ほぼドキュメンタリーに近い作り方なので、入らない音楽など無い。 だから反って現実感が作品に漂う。 皆が周知の様にカンヌで主演男優賞を頂いたのは、単に主演の男の子だけでなく、子供達4人に対してだなと言う気がした。 
8. 「誰も知らない」  [ Caroli-ta Cafe ]   2005年05月18日 21:23
前略 クエンティン・タランティーノ様昨日、「誰も知らない」 を観ました。業界でも“日本オタク”と評判のあなたが絶賛していたこの映画。私、「タイトル? なんか暗そうだし・・・」   「やぎら君? 賞を取るまで誰も知らなかったし・・・」   「日本映画? 独特
9. 誰も知らない  [ PICO*THEATRE ]   2005年05月19日 00:17
生きているのは、おとなだけですか。好き度:★★★★「再現ドキュメンタリー」という印象でした。テーマとかメッセージを織り込んで伝えてくるのではなく、こんな風に生きている人間がいることに対して貴方はどう思いますか?と疑問符を投げかけてきている気がしました。〔長
10. 誰も知らない ★★★★★  [ マダム・クニコの映画解体新書 ]   2005年05月20日 23:49
  悲惨な境遇なのに、不思議な豊饒さがある。できることならこの空間と時間が永遠に続いて欲しい、そう思いながら観ていた。なぜ豊かさを感じるのか。本作のテーマは 、本当は誰もが知っていなければならないのに、誰もが知らないうちに封印してしまっている「他者との関わ
11. 誰も知らない  [ レインボゥメモリーズ ]   2005年05月21日 17:44
2004/日本(141分)監督 是枝裕和出演 柳楽優弥/北浦愛/木村飛影/清水萌々子 /韓英恵/YOU平泉成/加瀬亮/寺島進/タテタカコ/木村祐一/遠藤憲一評価:★★★★☆/ 04.9.5 劇場この映画は、カンヌで主演男優賞をとった子が出てるよ〜というのと、『ディスタンス』の是枝監
12. 誰も知らない  [ MillionTIMESブログ ]   2005年05月22日 10:02
 初めて見た種類の映画だった。  映画とは、エンディングに続くまでにいくつもの伏線を張って、そのエンディングを見て観客は「あぁ良かったな」とか「つまらない映画だった」と感じるものだと思っていた。そして、監督が伝えたかったメッセージが伝わるか...
13. 誰も知らない Nobody Knows  [ ネコと映画と私plusワンコ ]   2005年05月24日 15:46
昨日梅田ガーデンシネマにて観てきました。 朝一で行ったせいか年齢層はやや高めでした。 誰も知らない Nobody Knows 日本 2004年 生きているのは、おとなだけですか。 公式サイト ≪Story≫  秋、とある都内のアパートにトラックから荷物が運び込まれてゆく。
14. 『誰も知らない』、観ました。  [ 肯定的映画評論室ココログ支店 ]   2005年05月26日 08:24
 『誰も知らない』、観ました。都内のアパートで母親と幸せに暮らす4人の兄妹。彼ら
15. 誰も知らない  [ あざやかな瞬間 ]   2005年05月30日 00:55
母親と、父親の違う4人の子供たちのささやかな生活は、母親が出て行ってしまったことで徐々に破綻していく・・。 実際にあった「子供置き去り事件」をモチーフに、一年間かけて撮影された。 母親役をYOUが演っているので、どうにも憎めないのだが、よくよく考えたら...
16. 誰も知らない  [ あざやかな瞬間 ]   2005年05月30日 08:30
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17. 誰も知らない 今年の127本目  [ 猫姫じゃ ]   2005年06月20日 03:27
誰も知らない   映画の出来がどうこうって言うような作品じゃない。 なんなのこれ?? イタイ映画だってことはわかっていたし、だから、今まで手が伸びなかったのyo。 やっぱり、見なくてもよかったわ、、、   映画としては、 あの子供達は、素晴らしかっ
18. 喪失感に彩られたメルヘン〜是枝ワールドの深淵  [ 酔生夢死浪人日記 ]   2005年06月30日 03:56
 是枝裕和監督をテーマにするのは2回目だ(前項は昨年11月)。今回は「日本映画専門ch」で放映された第1作「幻の光」(95年)と第4作「誰も知らない」(04年)について述べてみたい。  まずは「幻の光」から。主人公のゆみ子は、自分が他者を不幸にする人間ではないか
19. 誰も知らない  [ kae-ruのBlog ]   2005年07月06日 14:43
第57回カンヌ 国際映画祭で、主演の柳楽優弥君が最優秀男優賞を受賞した事で知れ渡った映画「誰も知らない」のDVDを観ました。   都内の2DKアパートで大好きな母親と幸せに暮らす4人の兄妹。しかし彼らの父親はみな別々で、学校にも通った事がなく、3人の妹弟の
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柳楽優弥の最新情報をチェック!ad2();         柳楽優弥...
21. 誰も知らない  [ ケイティの映画的生活 ]   2005年07月20日 13:59
 NOBODY KNOWS [監督・製作・脚本・編集]是枝裕和 [音楽]ゴンチチ [出演]柳楽優弥      北浦愛      木村飛影      清水萌々子      韓英恵        主演の柳楽優弥くんが  カンヌ映画祭最優秀男優賞を受賞したことで
22. 勝手に映画批評7  [ sons and daughters -blog- ]   2005年09月06日 14:29
【誰も知らない】 10点 素晴らしい。満点です。 様々なことを感じさせる映画。「目は口ほどにものを言う」という言葉がありますが、この映画はまさにそれです。4人の子どもたちの行勀

この記事へのコメント

1. Posted by kahro   2005年03月16日 21:56
こんばんは。
きっと監督は、当事者がこの映画をどこかで観ていることに配慮してたでしょうね。
事実より生ぬるく結ばれていましたから。
こんなに有名になった映画を、知らないわけがないですもんね。
蒸し返して欲しくないんじゃないかと、ちと気の毒に思いながら見ていました。
子役も大したものでしたが、
YOUのダメ母親ぶりが印象に残りました。

2. Posted by lin   2005年03月16日 22:12
>kahroさん
そういう監督の思惑はわからないですが、事実を事実そのままに描きたかった作品ではないだろうからいいんじゃないですかw。実際の事件の酷さは知ってますが、だからこの映画が温いとは自分は思わなかったですよ。「痛み」というものは陰惨なストーリーや映像だけで表現され得るものではないと思うので。
自分は「明」という少年が大人になっていく映画でもあったと感じたんですよね。「埋葬」という形を取っていたけれど、あれは一つの訣別だったように見えた。ま、主観ですがw

コメントありがとうございましたw
3. Posted by 健太郎   2005年03月17日 22:25
真面目な映画はあまり観ないのですが、それでも観てしまいました。
コメント出来ないぐらいに何かが残りました。
映画としては、YOUさんの母親ぶりがよかったとか、子役達の笑顔が忘れられないとか感想はあるけれど、それ以外の上手く云えない何かを感じました。
4. Posted by lin   2005年03月19日 00:17
>健太郎さん
コメント3つもどうもありがとうございますw。
そうですね、簡単に社会が母親が云々言えない深い映画だったと思います。
泣き顔じゃなくて笑顔だったからこそ伝わる悲劇というものもあると感じましたよ。
5. Posted by てるみ   2005年05月08日 13:59
TB有難うございました。
母としての立場の私はどうしても客観的に見る事は
出来なかったです。とても辛いお話でした。
それでも、観て良かった・・と思います。
そして、この映画を忘れてはいけないな・・と思ってます。
6. Posted by lin   2005年05月11日 01:57
>てるみさん
コメントありがとうございます。
そうですね、もし自分が親の立場だったならきっとそうだと思います。
笑顔が痛い作品でした。
彼等の存在を誰も知らない、彼等の心も誰も知らない。
他人を知らない、知ろうとしないことが当たり前になっている社会を改めて考えさせられる作品でした。
またヨロシクお願いしますw
7. Posted by 松   2005年05月17日 10:59
ほんと、相変わらず見てるとこが近い。(笑

感じたテーマはまったく同じだね。
で、それを踏まえて、やはり僕はこの映画を受け入れることができないんだよなぁ。
映画としての完成度はものすごく高くて、いい映画だというのは頭ではわかるんだけど、心が拒絶する、というか・・・
むしろ、映画の完成度が高すぎるのが、嫌悪感に近い物を感じさせるのかも、とも思ったり。

映画を「娯楽」としてしか観ない僕には、ちょっとキツすぎたなー。
8. Posted by lin   2005年05月18日 01:55
>松さん
映画の出来は凄くいいんでしょうが、痛過ぎて何度も観たい映画じゃないですね。
後味が悪かったり不条理だったりする映画はいくらでもありますが、この映画は観る者との距離が近過ぎるのかもしれない。

自分の書いた感想読み直しただけでも気分悪くなるという稀少な作品ですよ(鬱
9. Posted by Carolita   2005年05月18日 21:21
T/Bありがとうございました!
linさんのブログ多くの方々のコメントを読んで、改めて映画って観る人の感性によって捉え方が違うんだなぁと感じました。それこそ映画の面白さだと思います。
「これ程笑顔が心に痛い映画も他にはないだろう。」同感です。ラストシーン、帰りの電車の中でただ並んで座っている二人。車窓を流れていく風景さえ、彼らの目には写っていないように思えました。世界中にはそんな目をした子供達がたくさん存在しているのかもしれない。私はもっともっと世界を知りたいと思いました。
こちらこそT/Bさせて頂きます。また、おじゃましますね。
10. Posted by lin   2005年05月18日 22:45
>Carolitaさん
此方こそTB&コメントありがとうございます。
そうですね、かなり評価も感想も違いますねw。
それだけ多様な問題を包含し提起しているのだと思いますが、作品のどの部分が観る者の心に響こうとこの作品が持つ重さには変わりないんじゃないかと思いました。
またヨロシクお願いします。
11. Posted by 猫姫   2005年06月21日 00:18
こんばんは、echo&コメまでありがとうございました。
はい、映画としては、良いものだと思います。
でも、あたしには、痛すぎました。
題材としては、不適切だと思いました。
これに懲りずに、またよろしくお願いしますね。
12. Posted by lin   2005年06月22日 02:18
>猫姫さん
こんばんは。
「題材として不適切」ですか、まぁ巣鴨事件の子供達は生きているわけだからそういう意味ではきついかもしれないっすね。
「エレファント」や「es」も実際の事件を元に作られていて、被害者の遺族や当事者も生きていたりすると思うけど、そういう映画は苦手なのかな?
ま、好みじゃない映画を無理に観る必要はないですねw。
コメントありがとうございました。

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