リンデン法律事務所ブログ~菩提樹の下で

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離婚調停が成立した後に年金分割ってできるの?

※離婚調停の条項には、いわゆる清算条項が入ることがほとんどですが、その場合、後から年金分割を請求することはできないのでしょうか?

Lちゃん「離婚調停の条項には、『今後は名目の如何を問わず、互いに何らの財産その他の請求をしない』というような清算条項が入ることがほとんどですよね。」

太田「そうですねえ、紛争を終わりにしなければいけないので。」

Lちゃん「そうすると、離婚調停の成立後に、年金分割を請求できることを知って、年金分割の割合を定める審判を申し立てても認められないということになるのですか?」

太田「いや、結論からいうとそうはなりませんね。というのも、年金分割請求は公法上の請求権で、財産関係に関する権利ではないので、仮に清算条項があったとしても請求は可能です。これは調停条項に清算条項がある場合だけでなく、離婚協議書に清算条項がある場合でも同じです。」

Lちゃん「そうなんですね!」

太田「ただし、原則として年金分割の請求は離婚(正確には離婚した日の翌日)から2年以内にする必要があるので、気を付けてください。」

Lちゃん「じゃあ、後で年金分割の請求を忘れていたことに気づけば、離婚から2年以内であれば必ず請求できるということですね。」

太田「ともいえなくて。離婚協議書や離婚調停で、『年金分割は請求しない』という取り決めをした場合には、合意分割に関してはそのような合意も有効であると解されているので、後から請求をすることはできません。もっとも、3号分割に関しては可能です。」

Lちゃん「3号分割って強い権利なんですね。」


☆忘れやすい年金分割ですが・・・☆

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不貞慰謝料債務と財産分与債務を相殺することはできる?

※当たり前にできそうな気がする不貞慰謝料と財産分与の相殺ですが、民法改正前は当たり前にできるとは言えなかったのです・・・さてさて、その理由は。

Lちゃん「夫は妻に200万円を財産分与しなければいけない、妻は不貞慰謝料として200万円を夫に支払わなければならない、というケースがあった場合、お互いに200万円を支払わなければいけないのですから、チャラということでいいんですよね?」

太田「まあ、調停だとそういう話し合いになりそうだよね。で、仮にそういう判決が出た場合でも、今なら相殺の意思表示をすればいいということになりそうです。しかし! 民法改正前だと必ずしもそのように言えなかったんですよ。」

Lちゃん「え、相殺できなかったんですか?!」

太田「そのケースだと、妻のほうから相殺の意思表示をすることはできなかったんですね。改正前の民法509条を見てみましょう。」


【改正前民法509条】
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。


Lちゃん「どうしてこんな条文があったんですか?」

太田「例えばね、AさんとBさんがいて、AさんはBさんに500万円を貸したけど返してくれない、一方でBさんは時価500万円の自動車を持っている。AさんはむかつくからBさんのその自動車を破壊した。はい、500万円の不法行為に基づく損害賠償債務と500万円の貸金債務、対等額で相殺ね、ということができたら困るでしょう?」

Lちゃん「その場合はAさんはBさんの自動車を差し押さえするよう法的手続を取ればいいと思いますが・・・。」

太田「ははは、車じゃなくて、Bさん自身を500万円分ケガさせるという例でもいいのよ。とにかく、不法行為債務で相殺することを認めてしまうと、不法行為を誘発しかねない、と立法者は考えたわけだね。」

Lちゃん「分からなくはないです。」

太田「あと、不法行為の被害者には現実に金銭的賠償を受ける必要がある。それで旧509条ができたのです。」

Lちゃん「なるほどですね。」

太田「そして、不貞慰謝料というのも、不法行為に基づく損害賠償債務なので、旧509条からすると、不貞した妻のほうからは、夫に財産分与と対等額で相殺ね、ということができなかったのです。まあ、調停や離婚訴訟の和解の場ではそのような処理がされていたことが多いのですが(合意によって相殺することまでは禁止されていないため)、理屈としてはそうです。」

Lちゃん「改正後は509条はどうなったのですか?」

太田「よし、見てみましょう。」


【改正後民法509条】
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
⑴ 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
⑵ 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)


Lちゃん「あれ、不貞行為は『悪意による不法行為』ではないのですか?」

太田「ここで言う悪意というのは、通常の『知っている』という意味の悪意ではなく、積極的な害意が必要とされているのです。不貞行為で配偶者に対する『害意』まで認められるケースはほぼないと思うので。」

Lちゃん「さっきの、AさんがBさんの車を壊した事案だと『害意』があると認定されそうですよね。害意による不法行為の誘発を防ぐという機能は残したわけですか。」

太田「そのようだねえ。」

Lちゃん「ちなみに、改正前の民法で、不貞した妻の側じゃなくて、財産分与しなければならない夫のほうから相殺の意思表示をすることはできたのですか?

太田「あくまでも不法行為の加害者側からの相殺の意思表示を禁止する趣旨であって、被害者側からの相殺の意思表示を禁止するものではないと解されていました。最高裁判例でも、『民法509条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするものであるから、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし不法行為による損害賠償債権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも禁止する趣旨ではないと解するのを相当とする』と言っているよ(昭和42年11月30日判決)。」

Lちゃん「自働債権・受働債権って何ですか?」

太田「簡単に言うと、自分から相殺すると言い出した側の債権のほうが自働債権相殺に供される側の債権を受働債権と言います。妻が自分の財産分与債権を、夫の不貞慰謝料債権と相殺すると言い出したとして、妻の財産分与債権のほうが自働債権、夫の不貞慰謝料債権のほうが受働債権。旧509条は、不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とした相殺を禁じていたわけです。42年判例をあてはめると、夫のほうから不貞慰謝料債権を自働債権として妻の財産分与債権と相殺することは問題ない、と。」

Lちゃん「ちょっと自働債権・受働債権という言葉で頭がこんがらがりそうですけど・・・その不貞慰謝料の例で何となく分かりそうに思います。」

太田「まあ、始業時間まで頭の体操でもしててくださいな(笑)。法学部生が通る道ですよ。」


☆一見当たり前のようで当たり前でないことも多いのです☆

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退職時に退職金放棄の誓約書にサインしてしまったら?

※退職にあたって誓約書にサインを求められることは多いですが、もし退職金を放棄するという内容の誓約書にサインをしてしまうと、後から退職金を請求できなくなってしまうのでしょうか? 有名な判例を見てみましょう。

Lちゃん「そういえば、昔勤めていた会社が非常に非常にブラック企業で。私は会社が倒産する最後までいたんですけど、他の、ブラック加減に嫌気がさして早く辞めた人は退職のときに誓約書にサインさせられたんですって。未払い残業代や退職金は請求しないっていう内容の誓約書。

太田「ほうほう。」

Lちゃん「もう昔の話だから時効なんですけど、辞めた人たち、誓約書にサインしたすぐ後に未払い残業代や退職金を請求したら、支払ってもらえてたんですかね?」

太田「これは有名な判例があるので見てみましょう。最高裁昭和48年1月19日判決、シンガー・ソーイング・メシーン事件と呼ばれています。」

Lちゃん「メシーン・・・vacationをヴェイケイシュンッって読むみたいな感じですかね。」

太田「細かいことはいちいち気にしないの(笑)」

Lちゃん「いや、高校時代に英語の教科書をわざとらしく読む子がいて思い出しちゃった・・・続けてください。」

太田「この判例のケースで、労働者をX、使用者をYとするとね、Xさん、本当は400万円以上退職金がもらえたはずなのに、辞めるときに『XはYに対し、いかなる性質の請求権をも有しないことを確認する。』っていう内容の書面に署名してYに提出してしまったの。」

Lちゃん「よんひゃくまん! 昭和40年代の400万円って今より価値が大きいですよね?」

太田「うーんとね、この事件の一審判決が出たのが昭和43年でしょ。昭和43年の大卒初任給って約3万1000円なの。今の大卒初任給って20万くらいでしょう? だいたい7を掛けた感じかしらね。」

Lちゃん「400万円×7=2800万円・・・目が回ってきました。」

太田「それだけの大金だと最高裁まで争うよね、それは。」

Lちゃん「最高裁はどんな判断をしたんですか?」

太田「まず、退職金も労働の対価としての賃金に該当するから、全額払いの原則が適用されるとしました。そのうえで、退職金放棄の意思表示の効力を肯定するには、それがXの自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない、としたんですね。そして、結果的に、Xさんは自由な意思に基づいて書面に署名したことが明確なのであるから、退職金の意思表示は有効である、との判断になりました。」

Lちゃん「自由な意思に基づいて退職金を放棄したことが明らかであれば、それは有効ということですか。しかし、退職金、今のお金で約2800万円ですよ。Xさんが自由な意思で放棄することはあり得るのですか?」

太田「この判例の事案だと、まず、Xさんは退職前にYの西日本における総責任者の地位にあったんだけど、退職後すぐにYの一部門と競争関係にある他の会社に就職することが判明していたんですね。」

Lちゃん「ほう、ちょっと怪しいですね。」

太田「さらに、Yは、Xさんの在職中におけるXさんとその部下の旅費等経費の使用について書面上つじつまの合わない点からたくさんの疑惑を持っていたので、その疑惑にかかる損害の一部を填補する趣旨で、YがXに対し例の書面に署名を求めたところ、Xさんがそれに署名したという事実が認定されています。」

Lちゃん「はあ、Xさんに何か問題があったようですね。損害の一部を填補するということは、400万円以上損害が出てしまっていたということかなあ・・・」

太田「そういう細かい部分はよく分からないんですが、原審(東京高裁昭和44年8月21日判決)だと、サインさせられた書面は英文だったみたいですね。ま、それもXさんの英語力が認められて、自由な意思が認定されたわけですが。」

Lちゃん「この判例からすると、やっぱり退職の時にサインさせられる誓約書はよく読まないといけませんね。

太田「もちろんです。もっとも、万が一サインしてしまった場合でも、『自由な意思』に基づいていないといえる場合にはもしかしたら何か請求できるかもしれませんので、早めに弁護士に相談してくださいね。」


☆誓約書で分からない部分があったら一度持ち帰って確認するくらいのことはしても良いかもしれませんね☆

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