ギリシャの債務危機解決の見通しがたたず、EUが揺れている。歴史上常に争いを繰り返し、第1次・第2次世界大戦で何千万に及ぶ死者を出した経験から、ヨーロッパの平和と安定を目指すという理念のもと、この何十年間にわたって欧州統合が目指されてきた。2002年には統一通貨ユーロが導入され、旧ソ連圏の国々なども加わり、現在28か国が加盟している。

 

ユーロのなかった頃は、ヨーロッパ内を移動するたびに通貨が変わり、両替しては目減りし、財布は小銭でふくらみ、旅行の終わりには、何種類もの通貨が残った。どれがどの国の通貨で、どれくらいの価値があるのかわからなくなるし、記念品にはなるけれど、重いし、とにかく面倒くさかった。国境検査も必ずあって、パスポートに各国のスタンプがたまっていった。今ではそれも昔話となり、ヨーロッパのほとんどの国でユーロが使えるし、EU内は自由な移動が認められ、国境で止められることもない。以前のことを思うとウソのようだ。

 

とはいえ、ギリシャの問題を見てもわかるように、対立の火種は常にある。通貨が統一されたからといって、EU内での貧富の差、考え方の違いがなくなるわけではない。「大陸」に主導権を握られてなるものかとEU脱退さえちらつかせるイギリス、EUに残りたいのに追い出されそうなギリシャ、EUに近づきたいウクライナとそれを武力でも阻止したいロシア。さらには、地中海経由で毎日シリアやアフリカからやって来る難民たちの救助に孤軍奮闘し、他のEU諸国に協力を求めているのに冷たい対応をされ我慢の限界に達しつつあるイタリア。今年に入ってすでに20万人を超える難民・移民を受け入れているイタリアは、昨日のEU首脳会議で、各国の難民受け入れ数を定め、負担の共有と連帯を求める提案をしたが、強い反対にあい合意を得られなかった。イタリアのレンツィ首相は激昂し「あなたたちにはヨーロッパと名乗る資格がない」とまで言い放ったという。

 

ギリシャ債務危機も、お金の問題にはとどまらない。経済がいつか上向きになり、厳しい状況を脱したとしても、ギリシャの中では、EU内のお金持ちの国々に、対等なパートナーとして扱われていない、軽蔑され、いじめられているといった反発、孤立感が残るだろう。そうしたしこりがいつかどこかで、歴史を揺るがすような出来事につながっていかないという保証はない。

 

殺し合いを続けてきた歴史を考えると、ヨーロッパ統合というのは壮大な夢だ。あの悲惨な戦争が終わってから70年。ギリシャ危機をめぐるBBCの討論番組で、イギリス人のジャーナリストが「ヨーロッパ同士の戦争は遠い昔のことのように考えている人たちがいるかもしれませんが、たかだか70年しかたっていません。いつまた何が起きても不思議ではないのですよ」と淡々と語っていたのが印象的だった。