ポール・グレアムのエッセイ「昇進システムの次は?」を翻訳しました。


原題は「After the Ladder」で、原文はここです。




翻訳にあたり、kimbara様、Kumappus様、dasm様からアドバイスをいただきました。ありがとうございました。


http://www.hatena.ne.jp/1127794422






昇進システムの次は?




2005年8月




30年前、多くの人は会社で昇進するのを期待して働いていた。今はそんなルールはほとんど通用しなくなった。我々の世代はゆっくりとした昇進など待ちたくない、今すぐにでも確実な収入を得たいのだ。会社で職を失わないために大企業で製品を開発する代わりに、会社に頼らず自分たちで製品を作り、会社を設立し、そうしてその会社を大企業に売り込む。少なくとも選択肢が欲しいんだ。




とりわけ、このような変化は、経済不均衡を急激に加速してしまったようだ。でも現実には、統計を見る限り、昔も今もそれほど変わっていない。




統計値は誤解を招きやすい。ある安全な仕事のことを考慮しないからだ。簡単でクビにもならないのに、お金になる仕事がある。このおいしすぎる取引の一例は、腐敗した社会主義国家で見られる。閑職っていうのは、実質的には年金だからだ。ただ閑職は、年金と違って統計に現われない。もし統計をとったら、社会主義国家には実際はものすごい経済格差がある、ということが明らかになるだろう。共産主義国家にはふつう、権力を持った官僚階級がいて、年功序列で賃金が上がり、クビにもならないからだ。




閑職とは違って、大企業の要職は、ちゃんと統計として計算される。大企業は解雇をしないし、また内部の社員を、主に年功序列によって昇進させるからだ。企業で高い地位につくことは、会社の評価の真に重要な要素である「営業上の信頼」にも似た値を持っていた。それは、将来は高給の仕事にありつけるかもしれない、ってことを意味した。




企業の階段が崩壊した理由の1つは、1980年代から流行りはじめた、企業買収だ。登りつめる前に消えてしまうかもしれない企業の階層に、誰が時間を浪費するだろうか。




初期の乗っ取りの成功率が高かった理由の一部が、企業の階層制度にあったことは偶然じゃなかった。安全な仕事の値を無視するのは統計だけじゃない。


企業の貸借対照表もそうなんだ。1980年代、企業を切り刻み、バラバラにして売却すると儲かった。それはつまり「よく働く社員は、時期が来たら高給の管理職にしてやる」っていう暗黙の約束が、公式には認められていなかった、ということだった。




映画「ウォール街」で、登場人物のゴードン・ゲッコーは、副社長が山ほどいる会社を馬鹿にしている。でもその会社は、それほどダメじゃなかったのかもしれない。彼らVIPは、たぶん昔の業績に対する報酬として、楽な仕事をしていたんだ。




でも私は、新しいモデルのほうが好きだ。そう思う理由の1つは、仕事を報酬として扱うのはおかしいと思うからだ。昔の方式の結果、多くの良いエンジニアが、ダメな管理職になってしまった。それに古いシステムだと、昇進後は、多くの代償を払って得た地位を守るために、ずっと多くの政治活動に関わることになる。




新しいシステムにも大きな問題点はある。よりリスキーだってことだ。大企業で働く代わりにベンチャーを設立したら、ゴールにたどり着くまでに、ありとあらゆる偶発的な要因で、倒産してしまうかもしれない。古い世代は私が「我々のやり方のほうがリスキーだ」というと笑うかもしれない。大企業のプロジェクトは、上層部の独善的な判断によって、いつも却下されていた。私の父親の全仕事(増殖炉)は、そのようにして潰された。




しかし良くも悪くも、企業の階層という考えは、たぶん永久になくなった。新しいモデルは、より流動的で、効率的に見える。でもみんなが心配するほど、財政的な影響は少ないだろう。我々の父親だって、そんなにバカじゃなかったさ。