ポール・グレアム「孤島に行くなら?」を翻訳しました。



原題は「The Island Test」で、原文は以下です。
http://www.paulgraham.com/island.html


なお翻訳にあたり、moonan様(自然な日本語への全面的な手直し)と、rowlock様、Nigitama様、nkaiho様、pedagogy様の協力をいただいています。ありがとうございます。
http://q.hatena.ne.jp/1153400842



2006年7月
July 2006


あなたが何にハマってるかを簡単に知るためのテストをつくった。さて、あなたはメイン州沖合の小さな島にある、友達の家でこの週末を過ごすことになった。島に店などはなく、また、その間は島から出ることもできない。以前その家を訪れたこともないので、そこにふつうの家に備えてある以上のものがあるとは期待しないほうがいいだろう。


荷物として、衣服・洗面用具の他に、外せないものといえばなんだろう? それがあなたがハマってるものだ。もし「念のため」、などと言いつつウォッカのビンをカバンに入れているのに気がついたら、ちょっとその手を止めて、そのことについて考えてみたほうがいい。


私の「外せないもの」は本、耳栓、ノートとペンの4つだ。


音楽やお茶も持って行ってもいいのだが、まあ、なしでも生きていける。私は「週末の間、お茶を飲めないぐらいならその島に行くのをやめる」、なんて言うようなカフェイン中毒ではない。


でも、静かさは私にとって重要なポイントだ。メインの沖にわざわざ耳栓を持っていくなんて、そりゃヘンに聞こえるだろう。あそこが静かじゃない、なんて言う人はいないだろうしね。だけど、もし隣の部屋の奴がいびきをかいたら? ガキどもがバスケをしていたら? (ダン、ダン、ダン...ダン) 備えあれば憂いなし。耳栓の大きさなんて、たかが知れてる。


騒がしい中でも、集中できるときもある。その仕事にノッている時なら、騒がしい環境でも大丈夫だ。空港でエッセイも書けるし、プログラムのデバッグだってできる。実際、空港はそれほど悪い環境じゃない。雑音といっても、そのほとんどは個々の音がはっきり識別できないようなものだから。それよりも、壁の向こうからテレビのホーム・コメディーの音が聞こえてきたり、通りを走る車の「ズーン! ズーン」という音楽が聞こえてくるようなら、仕事にならない。


もちろん、思考にも種類があり、新しいものごとを始めるのに思慮を巡らせているときには、完全な静けさが必要だ。いつひらめきがやってくるかわからない。だから耳栓を持って行くに越したことはない。


ノートとペンを持っていくのは、いわばプロの仕事道具だからだ。などと言ったものの、私にとって、これらはある意味、麻薬みたいなもので、これを持ってないと落ちつかないのだ。私はノートに何かを書きとめたところで、それを読むことなどほとんどない。じゃあなぜ書きとめるのか。書いておかないと「忘れちゃいけない」と気になって、次の考えに移れなくなるからだ。ペンと紙が、考えを紡ぐ手助けをしてくれるんだ。


ノートはMiquelrius社のが最高だと思う。私はいちばん小さい約2.5×4インチの奴を使っている。こんなに小さなページに書くコツは、ラテン語の碑文のように、ページの一番端ぎりぎりまで改行しないことだ。ボールペンはいちばん安いプラスチックのBicで十分。インクの粘度が高く、書いたページの裏側までにじんでしまったりしないし、安いので、無くすのを気にしないで済む。


私がノートを持ち歩くようになったのは、つい3年程前からだ。それ以前にはそのへんの紙切れを使っていたが、紙切れには、バラバラで順番がないという欠点がある。ノートなら、なぐりがきでも前後のページを見れば意味を推測できる。紙切れ時代には、「覚えておかなきゃ」とせっかく書き留めたのに、その肝心の意味をさっぱり読みとれない数年前の紙切れが、つぎつぎ出てきたものだった。


本なら、その家にも何冊か置いてあるだろう。ふだん旅行するときは4冊持って行くが、実際に読むのは1冊だけだ。道中で新しい本を買うからだ。4冊も持っていくのは、新しい本が手に入らなかったときの保険だ。


私が本にハマっているのは、良いこととも言い切れない。本を必要としているのは、ある種の逃避だからだ。私が旅行に持って行くのは、たいていの場合、すごく高尚で、大学の授業で使われるような類の本だ。でも動機は高尚じゃない。私が本を持って行くのは、世の中が退屈になったときに、どこかの著者が甘く加工してくれた、別の世界に逃げこめるようにしておきたいからだ。本当は、少々酸っぱくても果物を食べてなきゃいけないのに、砂糖入りのジャムを食べるようなもんだ。


あえて本をもって行かないこともある。以前、険しい山脈での登山中に、こう考えた。退屈なときには、自分で考えることをしてみよう、本なんて余計な荷物が減るじゃないか、と。これは悪くなかった。他人の考えを読むかわりに、自分が考えることでも楽しめるのだと悟った。ジャムを食べるのをやめれば、果物をよりおいしく感じるようになるんだ。


だから私は、そのうち旅行に本を持って行くのをやめようかとも思っている。でも耳栓のほうは死んでも渡さないけどね!