ポール・グレアム「カリスマが重要なの。わかる?」を翻訳しました。
翻訳にあたりmoonan様、korompa様のご協力をいただいています。ありがとうございます!!

原題は「It's Charisma, Stupid」で、原文は以下です。
http://www.paulgraham.com/charisma.html

カリスマが重要なの。わかる?

2004年11月、2006年6月に修正

オッカムのカミソリは、2つの説明のうち、より単純なものを選べと言う。なぜ最初にこの原理を読者に思い出してもらったかというと、今から自由主義者と保守主義者の両方を怒らせる仮説を提案するからだ。でもオッカムのカミソリで言いたかったのは、要は私の仮説に反対したいなら、恐るべき偶然を説明する必要があるってことだ。

私の仮説は「アメリカの大統領選挙では、よりカリスマ性のある候補者が勝つ」というものだ。

左寄りにせよ右寄りにせよ、政治について書く人には一貫した偏りがある。彼らは政治を真剣に捉えてしまうのだ。ある候補が別の候補に勝ったとき、彼らは政治的な理由を捜す。国は左寄りや右寄りに揺れ動く。そのような変化は、確かに大統領選挙の結果であることもありうるが、ややもすると大統領選を左右する要因だと安易に信じられてしまう。

しかし私が初代ジョージ・ブッシュではなくクリントンに投票したのは、私が左寄りになったからではなかった。クリントンのほうが元気に見えたのだ。クリントンのほうが仕事に意欲的でブッシュは年寄りでくたびれているように思えた。多くの投票者も同じように考えたのではないか。

クリントンは国民の左傾化の象徴などではない。[1]  彼はジョージ・ブッシュや、(神よ助けたまえ)ボブ・ドールよりカリスマ的だったにすぎない。2000年に私たちはコントロール実験でそのことを実際に証明した。ゴアはクリントンの政策を持ちあわせていたが、クリントンのようなカリスマがないので相応の苦労をした。[2] 2004年も同じ物語が繰り返された。ケリーはブッシュより利口で歯切れも良かったが、ちょっと堅物だった。だからケリーは敗北した。

さらに過去にさかのぼると、同じパターンが次々見つかった。カーターがフォードに勝ったのは、ウォーターゲート事件後に国民が共和党に疑問を持つようになったためだと専門家は説明した。とはいえ、この場合もカーターは満面のニコニコ笑いと庶民的な感じで有名であり、対するフォードは退屈で不器用だった。4年後に専門家は、国民が右傾化したと言った。しかし元役者のレーガンは、カーターよりさらにカリスマ性があった。(ストレスの多い4年の在職後だったので、カーターのニコニコ顔からは朗らかさが少し消えていた)。1984年のレーガン対モンデールのカリスマ性には、クリントン対ドールと同じくらいの差があり、結果もまた同様だった。初代ジョージ・ブッシュは、1988年はカリスマ性のないことで悪評の高かったマイケル・デュカキスが相手だったため、なんとか勝つことができた。しかしブッシュは後に、史上最もカリスマ性のある大統領の1人に敗れることになる。

これらは私が個人的に記憶している選挙だが、1964年と1972年に明らかに同じパターンが繰りかえされた。近年の反例は、 ニクソンがよりカリスマ性のあるヒューバート・ハンフリーに勝った1968年であるように思われる。しかしその選挙を検討すると、カリスマ仮説は否定されるどころか立証されるみたいだ。ジョー・マクギニスが有名な本「1968年、大統領を売り込む」で詳しく述べているように、ニクソンは自分がハンフリーよりカリスマ性がないことを知っていた。そしてハンフリーとテレビ討論することをあっさり拒否した。ニクソンは2人で並ぶと危険だと知っていたのだ。

現代の候補者は、たぶん討論を拒否して逃げることはできないだろう。しかし1968年には、テレビ討論の習慣はまだ未完成だった。ニクソンは1968年の選挙に勝ったのは、実のところ、投票者がニクソン本人に会うことができなかったからだ。投票者が見たのは注意深く脚本が練られたスポット広告だけだった。

とても奇妙なことだが、近年における真の反例はおそらく1960年の選挙だ。この選挙は普通、テレビの力の典型とされているが、ケネディがイリノイ州とテキサス州で党組織による不正をしなかったらおそらく負けていただろう。しかし1960年にはテレビはまだ歴史が浅く、テレビを持っていたのは世帯の87%だけだった。[3] 確かにケネディはテレビに助けられたから、歴史家がこの選挙を分岐点と見なすのは正しい。テレビによって新しいタイプの候補者が要求されるようになった。今後、カルビン・クーリッジは現れないだろう

さらにカリスマ仮説は、なぜ民主党が大統領選挙でよく負けるのかを説明する。民主党の信念の核にあるものは、政府に対する信頼のようだ。たぶんこれは、マジメだがバカな人を引きつけることになりやすい。デュカキス、ゴア、ケリーはその点が、まるで兄弟のように似ていた。後にスキャンダルが起こってしまっても、たまにクリントンのような人間に自分たちのフィルターを通過させるというのは民主党員にとっていいことだ。[4]

ネガティブキャンペーンのような偽物しかないとはいえ、選挙は論争によって勝敗が決まると信じたがる人もいる。もしそれが正しいなら、すごい偶然を説明する必要がある。テレビの普及以降、すべての大統領選挙で、明らかにカリスマ的な候補者のほうが勝っている。論点に対する投票者の見解が、11回の選挙で連続してカリスマと一致したとは驚くべきことではないか。

朝食後の分析で左傾化だの右傾化だのを持ち出す政治の評論家は、株式市場のランダムな変動について毎日物語を書くことに夢中になっている経済記者のようだ。取引が終わり、株式市場が上昇もしくは下落して終わると、新聞記者は好材料か悪材料を捜し、市場がインテルの収益に関するニュースによって上昇したとか、中東の不透明感を嫌気して下落したと書く。新聞記者になんらかの方法で嘘の終値の情報を、それ以外はすべて本当のニュースを教えたと想像してほしい。記者が異常に気づき、その日に起きた良い(あるいは悪い)ニュースによって株価が上がった(下った)とは書かないなどと誰が信じる? 彼らが「おいおい、ちょっと待てよ、こんなに中東情勢が不安定なのになんで株価が上がるの?」なんて言うと思う?

私は、論点が投票者に重要ではないと言っているのではない。もちろん論点は重要だ。しかし大きな政党は、どの論点がどの程度、どのように投票者の問題となるか熟知しており、反応に応じて自分たちのメッセージを非常に正確に調節する。その結果、論点の違いは分離され、政党にもコントロールできないカリスマ性という唯一の要因が、選挙を左右する要因として残される。

もし民主党がクリントン並みのカリスマ候補者を立てていれば、2004年の選挙に勝っていただろう。そして私たちは、民主党はアメリカ中部のキリスト教原理主義者の支持を得られなかったという記事ではなく、選挙はイラクの戦争をめぐる国民投票だったとする記事を読むことになっただろう。

1992年の選挙でクリントンの選挙陣営は「経済が重要なの。わかる?」と書いた大きな張り紙を事務所内に掲げていた。たぶん現実は、クリントン陣営の考えよりさらに単純だったのだ。

後書き

カリスマ仮説に関する意見は真っ二つに割れるようだ。「ありえない」という人もいるし、「あたりまえだろ」という人もいる。これは良いサインだと思う。おそらくそれらの中間がスイートスポットだからだ。

ありえないという意見に対しては、私は「これがデータ、そしてこれが仮説。仮説はデータを100%説明しているよね」と答える。どれほど信じがたいように見えても、科学者にとって、それは少なくとも注意に値することだ。

投票者が非常に表層的で、最もカリスマ的な奴を選んでいるだけなんて信じられないって? 私の仮説では、その必要はない。私はカリスマが唯一の要因だと主張しているのではなく、カリスマ性は2政党の努力が互いに相殺しあった後に、ただ1つ残される要因だと主張しているのだ。

「あたりまえだろ」という意見に対しては、知る限り、過去にそう主張した人は誰もいないと言おう。選挙の予想者はずっと複雑なモデルを用いても同じ結果になったら誇りに思うだろう。

最後に「カリスマ仮説はおそらく正しいんだろうけど、なんだかがっかりするなあ」と言う人に。思うほどには悪くないよ。この現象は価格決定の矛盾と似ていて、その現象が起きていることを人々が理解すれば消えるだろう。一度、どちらの党も「カリスマ性のない候補者を指名しても時間の無駄だ」と気づけば、最もカリスマ性のある候補者だけを指名するようになるだろう。候補者のカリスマ性が等しくなったら、カリスマは相殺され、現在、政治評論家が考えたがるように、選挙は論争で決まるようになるだろう。


注釈

[1] クリントンが驚いたことに、大統領としての最初の法案の1つは軍隊を左寄りにしようとするものだった。激しい論争の結果、クリントンはメンツを保った妥協に逃げた。

[2] 確かにゴアは一般の投票を勝ち取った。だが政治家は、選挙人の投票が選挙結果を決めると知っている。だから政治家は選挙人のためにキャンペーンをする。もしブッシュが一般人に向けてキャンペーンをしていたら、たぶんもっと得票していただろう。(このことを指摘してくれたjudgmentalistに感謝)

[3] 原典:ニールセン・メディア調査。残りの13%のうち11%は貧しいという理由でテレビを持っていなかった。テレビを観られなかった11%は、たぶんカリスマに最も影響されやすい11%だったと主張したい。

[4] この理論の含意のひとつは、党は一家の秘密を握る候補者を早々に拒絶してはいけない、というものだ。カリスマ性のある候補者は、クリーンなバカよりも多くの秘密を持つことが多いだろう。しかし実際には、それで選挙で負けるようには思えない。たとえば現在のブッシュ大統領は、おそらく過去のどの大統領よりも、20代のときに多くの麻薬をやった。しかしキリスト教原理主義者の支持によってなんとか選ばれた。秘訣は改革を行ったと言い、細部に関しては引き延ばし戦術をとることだ。

原稿を読んでくれたトレヴォー・ブラックウェル、マリア・ダニエル、ジェシカ・リヴィングストン、ジャッキー・マクドナー、ロバート・モリスに、また1968年の誤解を指摘してくれたエリック・レイモンドに感謝する。