ポール・グレアム「資産の方程式」を翻訳しました。原題は「The Equity Equation」です。

翻訳にあたりshiro様(ポール・グレアム「ハッカーと画家」の訳者)とほんのしおり様、tmasao様の協力を得ています。ありがとうございました。

資産の方程式

2007年7月

投資家があなたのベンチャー企業の株式の何%かと引き替えに資金提供を申し出ている。受け取るべきだろうか? 最初の従業員を雇いたい。どれくらいの株式を渡せばいいだろうか?

これらは創業者が直面する最も難しい問題だが、答えはどちらも同じだ。

1/(1 - n)

金銭であれ従業員であれ他の企業との取引であれ、企業の資産を取引すべきかをチェックする方法は同じだ。会社のn%を失っても、取り引きで手に入れたものが利益を十分に向上させるならば、残りの(100-n)%は、以前の企業100%より、さらに価値がある。

たとえば投資家が企業の半分を買収したがっているとき、その投資があなたにとって公平になるためには、どれだけ平均的な利益を向上させる必要があるだろう? 2倍になる必要があるのは明らかだ。企業の平均的な利益を倍以上にする何かと企業の半分を交換すれば、成長したことになる。以前の半分を倍にしたよりも、もっと大きな何かの半分を得ることになる。

一般的に、企業が手放したものの割合をnとすると、それによって企業の価値が1/(1 - n)倍になるならそれは良い取引だ。

たとえばY Combinatorが、企業の6%をくれれば資金を提供しようと言ったとする。この場合 n=0.06 で、1/(1 - n)=1.064となる。だから資金によって6.4%以上、平均的な利益が向上すると思うなら取引すべきだ。その資金で利益が10%上昇するならば、結果として成功だ。残りの0.94が0.94x1.1 = 1.034の価値となるので、儲けたことになるからだ。[1]

資産方程式からわかることのひとつは、少なくとも金銭的には、最高のVCから資金を得ることが実に得な取引になることもある、ということだ。セコイア社のグレッグ・マカドゥは最近、Y Combinatorの夕食会で「セコイア社が単独で投資するときは、よく企業の約30%を投資します」と言った。1/0.7 = 1.43だから、その取引によって、43%以上の利益を上昇させることができれば、その資金を受け取る価値があるということになる。平均的なベンチャーにとっては、すごくお買い得だ。たとえ実際には資金をもらえなかったとしても、セコイア社から資金を得たよと言えるだけで、平均的なベンチャーの収益は43%以上、改善する。

セコイア社との取引がたいへん有利なのは、セコイア社は企業に投資するパーセンテージをあえて低く抑えているからだ。セコイア社は市場価格で投資しようとさえ考えない。持ち株を制限し、買収後も十分な株を残し、創設者たちに自分たちの会社であると感じさせるようにする。

この話で注意すべき点は、セコイア社には毎年6000件のビジネスプランが持ち込まれ、そのうち20件に投資するので、このすばらしい取引ができる確率は1/300だってことだ。この難関を潜りぬける企業は並のベンチャーじゃない。

もちろんVCとの取引には別の要素がある。決して単純なお金と株の交換ではない。だがもしそうならば、最高のVCから資金を得ることは一般的には有利な取引だ。

社員に株式を譲渡するときにも同じ式を使えるが、ただし反対側にだ。ある人を新たに雇うと平均して成果がi倍になるなら、その人の価値は i = 1/(1 - n) を満たすnと同等となる。つまり n = (i - 1)/i ってことだ。

たとえばあなたは2人の創立者のうちの1人で、新たに1人のハッカーを雇えば会社全体の成果が20%増加すると思っているとしよう。n = (1.2 - 1)/1.2 = 0.167だ。だから会社の16.7%を与えるのが公平な取引だ。

これは株式の16.7%を与えろということじゃない。人を雇うときに必要になるのは株だけではない。給与と経費も必要だ。それに単に収支トントンの取引でしかないなら、企業にはその取引をする理由がない。

私は給料と経費を株に換算するためには、年俸にだいたい1.5を掛ければいいと思う。ほとんどのベンチャーは急成長するか倒産する。倒産したら支払う必要はない。急成長したら、今年の3倍になっているかもしれない来年の企業の市場価格から来年度の給料を支払うことになる。企業の市場価格が1年間で3倍になるなら、新入社員の給料と間接経費は現在価値に直すと1.5年分の費用だ。 [2]

企業が取引に至るまでの励起エネルギーとして、どれくらい利ざやが必要だろうか? 企業は人を雇うと儲かるかどうかで動いているので、市場によって決まる。めったにないチャンスがあれば、もっともうけることができるだろう。

ざっと一例を挙げよう。企業が前と同様、新入社員を雇うことで50%の利益向上を望んでいると仮定する。 したがって16.7%から3分の1を引く。すると新入社員の小売価格は11.1%となる。さらに、新入社員に1年間の給料と経費で6万ドルが必要だと仮定しよう。合計は1.5倍の9万ドルとなる。 企業の市場価格が200万ドルなら、9万ドルは4.5%なので、11.1% - 4.5% = 6.6%が提案する値となる。

ところで、初期の社員にとって給料を抑えることはとても大切であることに注意してほしい。 他のものよりも株式を貰った方がいいからだ。

これらの数字はさらにいろいろいじくる余地がある。株をどれだけ与えるかという話が、単純な公式で決定できるようになった、などと言うつもりはない。結局、いつだって推測しなくてはならない。でも少なくとも、何を推測しているかを知ってほしい。勘やVCが示す一般的な譲渡の金額表によって値を決めるなら、それらが何の見積りなのかを理解してほしい。

何かを判断しなければいけないときにはこの1/(1-n)ルールを当てはめてみて、その判断の妥当性を検討してみるといい。資産を分け与えたなら、その後はいつも、以前より豊かになったと感じているべきなのだ。取り引きしても、残った株式の価値が、将来、実質的には資産を増加させていないのであれば、そんな取引はしないだろうし、そんな取引をすべきではなかったのだ。

注釈

[1] これがY Combinatorとの契約を悪いものと考えている人がいるとは信じられない理由だ。私たちが3ヶ月で、ベンチャーの期待価格を6.4%、改良することもできない、まるっきりの無能だと本気で信じている人がいるのだろうか?

[2] 現在の評定価格としてもっともらしいのは、最後の投資ラウンドの、投資後の企業価値の評定価格だ。とはいえ、(a)まだ最終ラウンドに至っていないなら、おそらく、会社にはそれ以上の価値があるだろうし、(b) 早い時期の投資ラウンドの評定価格は、ふつう投資家による貢献を反映しているので、たぶんこの方式は企業を過小評価する。

この原稿を読んでくれたサム・アルトマン、トレバー・ブラックウェル、ポールBuchheit、ハッチ・フィッシュマン、デヴィッド・ハーニック、ポール・ケドスキー、ジェシカ・リビングストン、ゲーリー・サボット、ジョシュア・シャックターに感謝する。