ポール・グレアムの「リスク共有型の企業管理会社」を翻訳しました。
原題は「The Pooled-Risk Company Management Company」で、原文はココです。

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リスク共有型の企業管理会社

2008年7月

今年の起業スクールでデビッド・ハイネマイヤ・ハンソン(訳注: Ruby on Railsの作者)は他の話に交えて「ベンチャー起業家は古くさい方法で起業するべきだ」という特に啓発的な話をした。価値のある企業を創立し「流動性イベント」で株を売却して金持ちになるのではなく、儲かる企業を設立しその収益で生活しろというものだ。

よいアイデアのように思える。これをする最善の方法について考えよう。

企業の収益で生活する問題点の1つは、その会社を経営し続ける必要があることだ。自分の企業の経営者ならご存知のとおり、経営はすごく神経を使う。起業していちど軌道に乗せてもすぐに抜け出すことはできない。抜けると驚くほどすぐにうまくいかなくなる。

起業家の主な経済的な動機は自由と安全だろう。起業家が多くのお金を欲しがるのは (a) 貧乏で悩みたくないし (b) 好きなことに時間を使いたい からだ。自分の企業を経営していては、どちらも満たされない。自由はまったくない。どんな上司だってそこまで過酷じゃない。また経営に神経を使うのをやめてしまったら収益つまり収入も減るので安全も確保できなくなる。

ほとんどの人々にとって最高なのは、企業がある程度の規模に育ったら、その企業の管理者を雇うことだろう。本当に良い管理者を探し出すことができたと仮定しよう。そのときは自由と安全の両方が手に入る。管理者が万事を円滑に運営すると知っているので、経営から望むだけ手を引くことができる。収入が入りつづけるので、安全でいられる。

もちろん、そう望まない起業家もいる。つまり何もすることがないくらいなら企業を経営しているほうがマシという人たちだ。しかしそんな人は少数派だろう。ほとんどのビジネスで成功する秘訣は、マニアックなまでに顧客のニーズに注意を払うことだ。自分の願望が、強力な社会の需要とぴったり一致するなんてありっこない。

もちろん自分の企業の経営がかなり面白いことはある。Viaweb社は、かつて私がしたどんな仕事よりも面白かった。その仕事はすごく儲かったので、私の諸活動の 収入/退屈 比は桁違いに高かった。だがそれは想像できる限りの最高に面白い仕事だっただろうか? そんなことはない。

これと同じような立場にいる企業家の数はごくわずかか、それよりちょっと多い程度で、全体のごく一部であることは確かだ。彼らに関しては、十分に良い人材を探し出すことができるなら、その企業を最終的に経営の専門家に任せるのが正解だろう。

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ここまでは良い。だが管理者が経営でミスをしたら? あなたの本当の望みは、自分のために自分の企業を経営してくれる管理会社だ。そうすれば一人に任せなくて済む。

貸せる土地を持っていれば、土地を自分のために管理してくれる企業と契約することができる。企業によってはテナントを見つけることから雨漏りの修理まで全部やってくれるだろう。もちろん企業の経営は土地の貸借よりずっと複雑だが、それをできる管理会社があるとしよう。彼らとの契約にはかなりのお金がかかるだろうが、それに見合う価値があるだろうか? 心の平穏を買うために、収入の大きな割合を犠牲にすることになる。

ここまでの説明でさえ夢のように聞こえることはわかっているが、この夢をもっと魅力的にする方法を考えよう。もし企業の管理会社があるなら、顧客に対して「リスクを共有することで収益を保障する」という追加サービスを提供可能だ。結局のところ、普通の経営者はビルの火災、最高の経営者でも市場全体の消滅といった、時として起こる事態から企業を救うことが出来ない。しかし十分に多くの企業を管理している会社は、顧客全員に対し「みなさんの企業のすべての収益をあわせ、みなさんの企業のシェアに比例した金額を支払います」と言うことができる。

そのような管理会社があれば、最大限の自由と安全が得られるだろう。自分の企業を誰かが自分のために経営してくれ、倒産しても自分は安泰だ。

そのような管理会社を組織する方法を考えよう。いちばん簡単なのは、管理会社が管理する企業の総額からなる新しい株を発行することだ。契約時にこの共同資金の分け前のために、自分の企業の価値の見積もりとして合意した株を取り引きする。すると自動的に共同資金全体からの収益の取り分を受け取ることになる。

この話の問題は、このような取引はキャンセルできないため、管理会社を変えることもできないということだ。しかしそれを修正する方法がある。すべての企業管理会社が集まり、彼らのクライアントが、各自を共同資金で互いにシェアすることを認めることに同意したと仮定しよう。すると事実上、自分の企業を経営させる管理会社としてどこにどれくらい任せてもよく、考えをいくら変えてかまわない。

もしリスク共有型の企業管理会社があるなら、デビッドの推奨ルートを歩む大部分の人たちにとって、それに申し込むことは理想的に思えるだろう。いいニュースがある: 企業管理会社は実在している。私が説明したことは、単に上場企業の買収にすぎない。


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残念なことに、上場企業の買収者は構造的にはリスクを共有型の企業管理会社と同じなのだが、買収者は自分たちをそう思わない。不動産管理会社なら好きなところに行って「自分の不動産の貸借を管理してください」と言えば、彼らはそうしてくれるだろう。買収者たちはこのエッセイを書いている時点では、とても飽きっぽい。時として彼らは雰囲気でとんでもない大金を払って買収し、すぐに興味を失ってしまう。まるで狂人が経営する財産管理会社で、まさにベンジャミン・グレアムの言う「Mr.Market」だ。

だから平均的に上場企業の買収者がリスク共有型企業管理会社の経営者のように行動するならば、平均的なパフォーマンスを得るためには数年が必要となる。十分長い間(たとえば5年)待てば、あなたの企業を欲しくなるサイクルが買収者の誰かに訪れることはありうる。しかしその時期を自分で選ぶことはできない。

投資家があなたの必要な時期まで付き合ってくれると仮定することはできない。企業はお金を稼ぐ必要がある。どの時期にお金儲けに焦点を合わせるかに関しては意見が分かれるところだ。ジョー・クラウスは、すぐ顧客に請求すべきだと主張する。だがGoogleを含め最もうまくいっているベンチャーの一部は、最初は収益のことなど考えず、もっぱら技術開発に専念した。正解はおそらく自分のベンチャー企業のタイプによる。私はセールスしようと努力することが、製品設計の良い経験になると思う。それ以外は注意を逸らせるものにすぎない。おそらく判別方法は、ユーザをより理解できるようになるかどうかだ。

有益なことをしている限り、自分の起業したベンチャーに最適な収入戦略を選ぶことができる。有益であれば、少なくとも株式市場の平均的な収益を得られるだろう-上場企業はリスク共有型の企業管理会社のように振る舞うからだ。

起業するなら収益で生活するために起業すべきだと言ったデビッドは間違っていない。企業を設立し、それを売却するのに反対しているように捉えるのが間違いだ。事実上ほとんどの人々にとって、後者は単に前者の最高のケースなのだ。


この原稿を読んでくれたトレバー・ブラックウェル、ジェシカ・リビングストン、マイケル・マンデル、ロバート・モリス、フレッド・ウィルソンに感謝する。