開いた檻

雇用者も投資家も、すこしずつ若者寄りに変わっている。そして彼ら自身も、とうとうそのことを認める時は近いんだと思う。卒業してすぐに起業する大学生なんて最も野心的な学生だけだ。ほとんどは、ただ就職したいだけだ。

おそらくそうあるべきなんだろう。ベンチャーの起業を怖れているなら、やらないうちにフィルターにかけている。ただ私は、そのフィルターが少しキツめに設定されているんじゃないかと思う。努力すれば大企業の歯車になる代わりに、ベンチャーの起業家として成功する人々がいるんじゃないだろうか。

動物を檻から解放しても、しばらく檻が開いていることに気づかないってことを知ってるかい? 追い出すために棒でつっつかなきゃいけないこともしょっちゅうだ。似たことがブログで起きた。1995年には、すでに人々は自分の考えをWeb上で公開することが可能だった。でもブログ作成はこの数年間で、ようやく本格的に始まった。1995年には、プロの物書きだけが自分の考えを公開する資格があり、それ以外がアイデアを公開したら変人だと思われていた。今ではWeb上の執筆はごく当たり前で、紙のジャーナリストさえブログを書きたがっている。ブログが最近になってようやく流行ったのは、技術革新があったせいじゃない。檻が開いているとみんなが気づくまでに、8年もかかってしまったんだ。

私はほとんどの大学生が、経済的な檻が開いていることに気づいていないと思う。その主な理由は「成功するなら良い企業に就職することが大事だ」と親に教えられたせいだと思う。親が大学生のころ、これは真実だった。でも今ではそれほど真実じゃない。

成功への道は何か価値あるものを作ることであって、既存の企業で働く必要なんてないんだ。ホントのところ、企業に入らない方が、たいていはもっと上手に価値あるものを作ることができる。

大学生と話すと、彼らがあまりに保守的なことに驚かされる。もちろん政治的な姿勢について言ってるんじゃないよ。リスクを負うことを望んでいないように見えるんだ。これは間違いだ。若ければ若いほど、より大きなリスクを負うことができるんだ。


リスク

リスクと報酬はいつも比例している。たとえば株式は債券より危険な分、時間がたつほど、債券よりつねに大きな報酬が得られる。じゃあなぜみんなは債券に投資するんだろう? そのキーワードは「時間切れ」だ。株式は30年間、債券より多くの配当を生む。でも毎年、価値が下落する危険性がある。だから株に投資すべきかどうかは、いつお金を必要とするかに依存する。若いなら、いちばんリスキーな投資をすべきだ。

投資の話は机上の空論に思えるかもしれない。ほとんどの大学生は、恐らく資産より借金の方が多い。だから「投資できるものなんて何もないよ」って思うかもしれない。でもそれは真実じゃない。大学生には投資できる時間がある。リスクに関する同じルールがそこでも適用される。20代前半は、まさにばかげたリスクを冒すべき時なんだ。

合理的なリスクは、いつも報酬と比例している。市場の力がそうさせるからだ。人々は安全性に対し、追加のお金を支払う。だからあなたが安全を求めて債券を買ったり大企業に就職したら、そのコストは自分が負担することになる。

失敗する危険性がある人生は、たいていの人は望まないので、平均すれば良い収入を得られる。「ベンチャー企業を始める」という極端な選択は、すごく怖ろしいから、ほとんどの人は試そうともしない。したがって、成功したときの報酬との比較で考えれれば、結局、心配するほどの競争はしなくて済む可能性がある。

数学は残酷だ。たぶん10のベンチャー企業のうち9は失敗する。でも成功すれば、創立者は普通の仕事の10倍以上、儲かる。それがベンチャーは「平均以上に」儲かる、って言葉の意味だ。

覚えておいて欲しい。ベンチャー企業を始めれば、恐らく失敗する。ほとんどのベンチャー企業は失敗するからだ。それがビジネスってもんなんだ。でももしリスクを負う余裕があるのなら、9割方、失敗するチャンスに賭けることは、必ずしも間違いではない。家族を養う40歳になっての失敗は深刻だろう。でも22歳で失敗したって、どうってことないじゃないか。大学卒業直後に起業し失敗しても、まだ23歳だし、とても賢くなれる。よくよく考えてみれば、おおざっぱに言って、それが大学院で学びたかったことじゃないのか。

起業が失敗したって、従業員も未来も傷つかない。キャリアが傷つかないことを確認するため、私は大企業で働く何人かの友達に尋ねた。私はYahoo、Google、Amazon、Cisco、マイクロソフトの管理職に、「次の2人の候補者をどう思う」って尋ねた。2人とも24歳で、同じくらいの能力。1人は大学を卒業後にベンチャーを起業して失敗した。もう1人は卒業後に大企業で開発者として2年間働いた。全員が、自分の会社を作ろうと思った奴の方がいいと答えた。Yahooの技術部門の管理者、Zod Nazemはこう言った。

 「俺なら、ベンチャー企業を立ち上げて失敗した奴のほうを評価するな。俺がそう言ってたって書いてもいいよ」

だからみんなにもチャンスがある。Yahooに就職したいなら、自分の会社を設立しなよ。


大企業の人は客だ

大企業の採用担当者さえ、会社を設立する若いハッカーを高く評価しているんだから、もっと起業すればいいんだ。大学生って、どうしてこんなに保守的なんだろう。いろんな組織で長年を過ごしたからだろうと思う。

みんな人生の最初の20年は、ある組織から別の組織へと渡り歩いて過ごしたんだ。たぶん進学する中学校は、ロクに選べなかった。高校を卒業したら、大学に行くもんだとみんな思ってた。いくつかの大学からは選んだかもしれないが、たぶん互いに似たような大学だった。この話のポイントは、あなたは20年間ずっと地下鉄に乗り続け、次は「就職駅」だと思ってるってことだ。

でも本当は、大学は地下鉄の終点なんだ。いっけん会社に仕事をしに行くことは、次の組織に乗り換えただけのように思うかもしれない。でも現実には何もかも変わっている。大学卒業は、人生が消費者から生産者に変わる折り返し点だ。

もう1つの大きな変化は、こんどは自分自身の人生を選べるってことだ。好きな道を進んで良い。だから惰性で何かをする代わりに、ちょっと立ち止まって、状況をしっかり把握する価値がある。

在学中、あるいはそのずっと前から、ほとんどの大学生は、採用担当者が何を望むかを気にしている。でも本当に気にしなきゃいけないのは、顧客が何を望むかだ。あなたの雇い主にお金を支払っているのは顧客だからだ。

だからさ、雇用担当者が何を望むかなんて考えず、もっと直接的に、ユーザが何を望むかを考えようよ。さらに言おう。もしその2つに差があるなら、自分のベンチャーを起業するときの武器になる。たとえばガチガチの清教徒のような大企業でありがちだ。でもそれは大きさについてまわる特性で、お客が求めているものじゃない。


大学院

私は大学卒業時に、このことをはっきりわかっていなかった。その理由の一部は、そのまま大学院に進学したからだ。いつか起業したいと考えているとしても、大学院進学は、なかなかいい進路だ。大学院を卒業してから起業してもいいし、YahooやGoogleの創立者のように、もっと大学院にいても良い。

大学院は、起業のすばらしい準備期間だ。賢い人々が一同に集まっているし、大学生や就職後より、自分のプロジェクトにまとまった時間をとれるだろう。心の広いアドバイザーがいるなら、会社を起こす前に、時間をかけて考えを詰めることもできる。デビッド・ファイロとジェリー・ヤンは、1994年2月にYahooディレクトリーを開始し、秋には1日100万ヒットになっていたが、大学院を中退しなかった。実際に会社を設立したのは、1995年3月だ。

先に起業し、失敗したら大学院へ行くというテもある。ベンチャーが失敗するのは、たいていはすごく早い。一年あれば時間のムダかどうかわかる。

失敗したら、大学院に行けばいい。成功したら、大学院入学を、もう少し遅らせる必要があるだろう。でもフツーの大学院生の収入でできる生活より、ずっと愉快な生活が待っているんじゃないの?


経験

20代前半の人が起業しないもう1つの理由は、十分な経験がないということだ。ほとんどの投資家もそう考える。

大学にいたころ「経験」って言葉をしょっちゅう聞いた。けどその言葉は、実際には何を意味しているんだろう? 経験そのものに価値があるんじゃない。考えがどう変わったかが重要なんじゃないか。「経験」したら、自分の考えがどう変わるんだろう? その変化をもっと早めることはできないの?

私は答えを持っている。経験がないと何を見失ってしまうか、教えてあげよう。起業には3つのものが必要だと私は言った。よい人を集めること、人々が望むものを作ること、お金を使いすぎないこと。で、経験がないと2番目のやつを誤解しやすい。よいソフトウェアを書く十分なテクを持つ大学生はたくさんいる。大学生は、特にお金を浪費するってこともない。大学生がダメなものを作るのは、人々が求めているものを理解してないケースがほとんどだ。

でもこれは、若さゆえの欠点じゃない。誰も欲しがらないような会社を設立する奴は、どんな年代にもいる。

ありがたいことに、この欠点はすぐに修正できる。大学生がみんなダメなプログラマだったら、ずっと深刻だったろう。

プログラムの勉強には数年かかる。でも人々が望むものを作る方法を学ぶのには、数年もかからない。凄腕プログラマの頭の横で手を叩いて、こう言ってやるだけでいいんじゃないか。起きろ! 座ったまま「ユーザは何を求めているんだろう?」なんて理屈をこねてんじゃない。ユーザのところに行って、何を求めているのか確かめてこい。

最も成功するベンチャー企業は、特殊な問題だけじゃなく、万人に共有している問題をも解決するんだ。

「他人の問題を解くことこそが大事だ」と悟ることが「経験」でいちばん変わることだ。いったん理解すれば、すばやく次のステップに進み、人々の問題は何かを見つけられる。これにはちょっと努力が必要だ。ソフトが使われる現場は、ことに実際にお金を払う人は、想像とはぜんぜん違うからだ。Power Pointの公式な使用目的はプレゼンをすることだ。でもその本当の効果は、人前で話すことの恐怖を取り除くことにある。これがあれば中身のない話でも見栄えをよくできるし、聴衆は明るい部屋で話してる人を見るんじゃなくて、暗い部屋でスライドを見ることになる。

この手のことは、見つけようと思えば誰にでも見つけられる。見つけようと努力することが重要だ。起業のアイデアを考えることは、プログラムのクラスについて考えることとは違うんだ。クールなソフトを書くことが新会社設立の最終目標じゃない。人々が望む何かを作ることが目標なんだ。そのためには、ユーザを観察しなけりゃいけない。プログラムは忘れて、ユーザを見るんだ。これは全く心がまえの問題だ。学校で書いていたプログラムには、ほとんどユーザはいなかったからだ。
ルービック・キューブは完成する数ステップ前までごちゃごちゃに見える。私は、多くの大学生の頭脳はその位置にいるんだと思っている。やろうと思えばベンチャーを起業して成功する数ステップ前にいるのに、やろうとしない。技術は十分すぎるほど持っているのに。お金持ちになるには人々が望むものを作ることが大事で、お客にとって雇用者はリスク分散のプロキシでしかない、ってことを、まだ理解していないんだ。

賢い若者なら、雇用者なんて必要ない。誰かに教えてもらわなくたって、お客が求めるものを自分で見つけられるだろう。リスクに保険をかける必要もない。若ければ若いほど、リスクを負うべきだからだ。


共同声明

この文章をあなたのご両親と同じ言葉で締めくくりたい。起業のために大学を中退しちゃいけないよ。慌てる必要はないんだ。卒業後だって、起業する時間はたっぷりあるさ。本当のところ、卒業後の数年間は既存の企業で働いて、会社について学んだほうがいいのかもしれない。

でも19歳のビル・ゲイツに対して、「卒業するまで待て」と言うなんて想像もできない。「失せろ!」と言われてたのが関の山だね。私はビル・ゲイツに、「君は自分の将来をダメにしかけているよ」なんて言えていただろうか? 「ハーバード大学で授業を受けるほうが、マイコン革命のど真ん中で働くよりも、もっと勉強になるよ」なんて、言えていただろうか? いや、たぶん言えなかっただろう。

起業する前に数年間、どこかの企業で働けば、そりゃ何か学ぶことがあるかもしれないが、同じ時間で自分の会社を始めた方が、もっとたくさん学ぶことができる。19歳のビル・ゲイツに「他人のために働け」ってアドバイスしてたら、さらに冷たくあしらわれただろうね。でも私は、大学卒業後の2年間はどこかの会社で働き、その後、起業するようにアドバイスする。どうして23歳まで待たなきゃいけないの? 4年間も? いままでの人生の20%以上じゃない。アルテア用のBasicインタプリタを書いてお金を儲けようってんだったら、4年も待っていたらたしかに手遅れだ。Apple IIは2年後に発売されたからね。

もしビル・ゲイツが、私のアドバイスに従って大学を卒業し、起業する前にどこかの会社で働いていたら、アップルで働くハメになっていたかも知れない。まあ私たちにとっちゃその方が良かったのかも知れないけど、ビル・ゲイツにとっては良くなかった。親切にも「大学は卒業しなさい。そして卒業後の数年はベンチャー起業のために働きなさい」という、素敵なアドバイスを言ったところで、しょせんは老人の繰り言で、若者が聞いてくれると思っちゃいないさ。でも後になって「私が前もって注意してくれなかった」なんて言いださないでくれよ。


注釈

[1] 第二次世界大戦のB-17の平均的なパイロットは、20代前半だった。(このことを指摘してくれたTad Markoに感謝する)

[2] 企業がこんなやりかたで給料を支払ったら、不公平と言われるだろう。でもある企業だけを買収したって、誰も不公平とは言わない。

[3] ベンチャーが成功する確率は1割だっていうのは都市伝説の一種だ。数字のキリがちょっと良すぎる。成功の見込みはもう少し低いだろう。

この原稿をチェックしてくれたジェシカ・リヴィングストン、雇用に関する意見を教えてくれた内緒の友達、カレン・グエンおよびバークレーCSUAに感謝する。