







ポール・グレアムの翻訳や自作クイズ、その他
福満ヒロユキ「メディアを動かすプレスリリースはこうつくる!」
あなたが小さな組織だったとして、自分の製品を宣伝したい。
もちろん大金をかけられるのであれば、広告にお金をかけてもいいのですが、そんなお金はないし、最近、広告の効果も落ちて来てるようだしなぁ・・・。
なんとか注目されて、マスコミがタダで宣伝してくれないものか。
で、そう考える人たちが頼るのが・・・プレリリース。
つまり、新聞者やテレビ局などに「こんどうちの組織では、こういうことを始めます。ぜひ取材してください」とお願いするメールやFaxです。
広告との違いは、「あくまで取材のネタを提供するだけであり、記事は向こうが好きに書く自由がある」ということです。
コツで感心したことをいくつか。
プレリリースを書くにあたり、最初に整理するのは
・価格 ・機能 ・内容 については
ではない、ということ。(p.26)
・誰が ・どういった想いで ・誰のために
生み出した商品なのか、を整理するのが先、というのは、なるほどと思いました。
商品を開発するきっかけや、商品開発の苦労などのほうが、物語になりやすいからです。
また、プレリリースのターゲットは「一般人ではなく、記者や番組制作者だ」というのは、なるほどです。
ですので、たとえばテレビ局に送るときは、「実際に○○を製造する工程を撮影していただくことが可能です」とか、
あるいはもっと積極的に、「実際の映像をYoutubeで用意しておりますので、こちらよりご覧いただけます」とすればよい(pp.98-99)
というのも、なるほどでした。
また、Faxやメールを書きあげたとして、メディアには面倒でも、毎回、電話をしたほうがいい、というのも納得でした。
というのも、向こうはプレリリースに慣れているので、
たとえば新聞社でしたら、「このネタは社会面より経済面が良い」など、適切な部署を知っているからです。
もちろん、向こうにちゃんと判断してもらうには、自分の記事を10秒くらいで的確に説明する必要がありますので、
電話する前にあらかじめまとめておけ、というのも、実践的なアドバイスだと思います。
宮崎正弘「ウィキリークスでここまで分かった世界の裏情勢」
アメリカの外交文書を暴露するサイト、ウィキリークス。
中国がチベットを弾圧するために、ネパールの国境警備隊を買収し、ネパール経由でインドに逃亡するチベット人を拘束させた話など(p.55)、過去に起きたさまざまな事件を1つ1つ列挙しています。
著者の宮崎正弘は、著者のHPによれば「国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう」ということですが、ホントにそんな感じです。
「円高は仕掛けられた」(p.90)とか、「資本主義の権化のようなアメリカが社会主義化する可能性はあるのか? ある。そもそもアメリカはピューリタン革命のもたらした余波による理想主義を追求して建国された国で、要はキリスト教原理主義、人類の目標を公平・公正に置く国ではないか」といった主旨の主張(p.108)などは、面白かったです。
ですがロシアだのフォークランドだのキルギスだのについての裏話は、そもそもよく知らないので、こんな秘密が暴露されたと言われても、いまいち興味が持てなかったです。
宮崎正弘が世界情勢に詳しすぎたのが、かえって災いだったのかも。ウィキリークスが現代社会に及ぼす影響といった、広い視点からの考察を、もっと読みたかったです。でもまあ、そんな本は、おそらく他の人が書いてくれるのでしょう。ですので、国際情勢に詳しい人や、ウィキリークスが今まで具体的にどんな文書を暴いてきたかに興味がある人に向いている本です。
現代仏像研究委員会「The Quest For History 仏像イラストガイド」
The Quest For History 仏像イラストガイド
突然ですが仏教クイズ。ぱふぱふ。
[問1] お釈迦さまはどこにいるか。
[問2] 仏像は、位の高さによって大きく「天 如来 明王 菩薩」に分けられます。これらを位の高い順に並べなさい。
[問3] 「如来」はお釈迦様以外にもいる。YesかNoか。
[問4] お釈迦様に性別はない。YesかNoか。
[問5] この世のあらゆるもの(お釈迦様も含む)はこの化身、というほどスーパーな存在は何か。
[答1] 涅槃。(現世にはいない)
[答2] 如来(悟ったヽ(^▽^)ノ) > 菩薩(修行中 (^-^;) ) > 明王(怒りで人々を救うぜ! 凸(▼▼メ) ) > 天 (ただの仏神です・・・ (^ ^;)ゞ)
[答3] No。阿弥陀如来、弥勒如来、薬師如来、毘盧遮那如来、大日如来、阿しゅく如来、宝生如来、不空成就如来、多宝如来(+過去七仏?)などいっぱい。
[答4] Yes。性別を超越したものとされている。ただ天クラスになると性別があるものもいる。(例: 吉祥天)
[答5] 大日如来
けっこう知らなかったんだなあ・・・と思わされます。
日光菩薩・月光菩薩 (水戸黄門の横にいる助さん角さんみたいに、薬師如来の両脇にいる)なんて、その存在すらはじめて知りました。
イラストも、それぞれ神々しかったり、怖かったり、キモかったり(p.111の歓喜天、おまえのことだぁっ!!)、神仏にもそれぞれ個性があるのだと思い知らされます。
すこし残念だったのは・・・いや、61体もあるから仕方ないとは思いますよ・・・各神仏のイラストが、19人のイラストレーターにそれぞれ分担させたため、統一感がまったくないことです。油絵調、水彩画調、アニメ調と入り乱れ、タッチもさまざまですので、図鑑的な意味合いは、だいぶ薄れています。でもまあ、神仏なんて心の中にいるものさ!
ドミニック・ローホー「シンプルに生きる」
ほとんどの現代人は
もっと痩せたい?・・・・・Yes!
もっと時間が欲しい?・・・Yes!
もっと健康的な食事をしたい?・・・Yes!
と答えるのではないでしょうか。
さて、それではもう一つ、たぶんみんながYesと答えたくなる質問を。
「物を減らして、もっと部屋をシンプルにしたい?」
で、これはそんなあなたが、どうせ読んだだけで実践はしないのだろうなあと、自分でも薄々わかりつつ、でもいつか自分も部屋を片付けるぞ、と決意を新たにするために読む本です。つまり普通の「シンプル本」です。
自分はけっこうそのテの本を読んだほうだと思いますので、ここでは他の本ではあまり書いていないか、自分の印象に残ったところだけ書きます。
「ハンドバックには本来、口紅一本と身分証明書、そしてお札一枚が入っていれば十分です」(p.25)
・・・つまり女性にとって口紅って、お金や身分証明書に匹敵するような、そんな大事なものなんですね? へー。
住民ひとりあたりの所有物の平均は、モンゴルで三〇〇個、日本で六〇〇〇個だったそうです。(p.28)
・・・ちなみに昔、自分が家の中のものをすべて覚えて、家のものの数を349個に減らしたときの話を思い出しますな。ああ、もちろんギークハウス西日暮里に住む今ではまた、増えてしまっていますよ。
日常生活に儀式を取り入れる(p.94)
儀式という意識をもってのぞむと、食事やなにげない会話、家事などにも、特別な意味をもたせることができます。
朝飲むコーヒーの最初の一口や、化粧をする時間、午後のショッピング、まえから欲しかったものをいよいよ購入するとき。(中略)
こうした生活の一コマ一コマを、決まった儀式としてとらえなおしてはいかがでしょう。
聞く耳を持つ(p.154)
相手に対して親切な言葉がかけられないときの黄金律は「なにも言わないこと」です。自分が相手に敬意と思いやりをもち、相手のことを大切に思って対応していることが伝わればそれでいいのです。
しかし読んでいていちばん驚いたのは、pp.133「ネイルケア」。シンプル・ライフを提唱している本なのに、なぜだか爪に関しては「爪の手入れを怠らないようにしましょう」「自分でネイルケアをするときは、可愛い爪に身も心も捧げるつもりで(←原文も太字だった)取り組むこと!」 として、次のページに「ドミニック流・シンプル美容術 ○○○ネイルケア○○○」が載っているのですが・・・。
1 爪やすりをかけます
2 甘皮にオイルを塗り、ボウルのお湯に15分間指を浸します
3 柘植の楊枝に自分のお気に入りのオイルをつけ、甘皮を押し上げます。
4 爪やすりの磨き面で爪の表面を磨きます
5 オイルで爪の根元の部分を重点的にマッサージします
6 ティッシュペーパーで、余分なオイルをふき取ります(コットンは毛羽立つのでおすすめできません)
7 ネイルベースを1~2回重ねて塗り、カラーマニキュアをその上から重ねます(うまく塗れば1週間はもち、おまけに爪を保護してくれます)
8 皮ふが硬くなり、たこができているようなところは、乾いた状態で目の細かいやすりを使って削ります
9 仕上げにオイルを塗り、浸透させるためにマッサージをしましょう
・・・正直、自分には女はとてもつとまらないと思いました。
米原万里「ロシアは今日も荒れ模様」
ロシア語の通訳として、さまざまな体験をする米原万里ですが、風邪を治すシーンが白眉でした。
ソビエトへの近視矯正手術ツアーに、米原万里は通訳として同行します。近視矯正手術では、角膜のキズに風邪の細菌が入ると失明の可能性があるため、風邪を絶対にひいてはいけないのですが・・・。
そのひいてはいけない風邪にかかってしまった患者さんがいた。事前検査で喉が赤く腫れ上がっていて、体温が三九度近くまで上昇しているのが分かった。この治療ツアー、モスクワまでの往復の航空運賃、二週間の宿泊費、治療費込みの代金は、一人当たり約一〇〇万円。二週間の休暇だって、日本のサラリーマンにとっては、相当な決意を要するものだろう。今回手術ができないとなると、一〇〇万円も休暇もフイになってしまうのだ。
「何とかしてくれ」
泣きつく患者さんに、眼科研究所の肝っ玉母さん風内科医は、
「一晩で治してみせる」
と豪語したのだった。
抗生物質の錠剤を服用するよう処方箋に書きつけると、
「部屋に戻ったら、蜂蜜をコップに三分の一、それにレモンを一個絞り入れて飲むこと。それから寝る前に、足をお湯で暖めてベッドに直行。熱いミルクにバターを溶かし入れたものを一気に飲んでから寝ること」
わたしがメモをとるのを確認しながら続けた。
「あとは、ガーゼと油紙と包帯と、それからウォトカを用意すること」
と述べて、テキパキと説明してくれた。
「皿に注いだウォトカにガーゼ二枚を浸して、火を点けてポッと燃え上がったところですかさず火を消してガーゼ二枚をそれぞれ油紙でしっかりと包み、それを喉とその周囲、それから背中の首の付け根のくぼみのあたりに当てて包帯で巻き付けること。極力急いでやらないと、せっかく暖まったガーゼが冷えてしまいますからね」
要するに、温湿布をやれということだった。宿舎に戻って、にわか看護婦になったわたしは、女医に言われたとおりにして患者さんにして差し上げた。
そして、驚くべきことに、翌朝、患者さんの熱は平熱にもどり、喉の腫れも赤みも嘘のように消えていた。完治である。湿布を取り外すときに、もう一度驚いた。油紙の中のガーゼは、取り付けたときとまったく変わらぬ温度を保っていたのだった。(pp.29-30)
本・マンガ好きなあなたに、本が好き!という書評コミュニティを紹介します。
これは、メンバーに選ばれ、自分のブログで本の感想を書くと約束するならば、献本を受けることができる、というサービスです。
いままで自分のブログに本・マンガの書評を載せたことがある方は、ぜひ参加されるといいですよ。
ちなみに自分の場合、自己ベストの書評、「こういう理解でよろしいか」で会員になることができました。
さて、今回は本が好き!の献本より塚越悦子「国際結婚一年生」というマンガの紹介。沖縄で27歳のユウナは、IT企業に勤務する31歳のロバートとダイビングで出会い、国際結婚します。そして、その後の生活のうち、ことに国際結婚に特有の問題をクロースアップして紹介したマンガです。
読んでいると、なるほど日本人にとって、ここは譲りにくい! という部分が良くわかります。
たとえば・・・
「アメリカ人は子供にジュースやジャンクフードをばんばん与えてしまう。日本人の、ことに母親には気になり、喧嘩になりやすい」
・・・だよねぇ。
「アメリカ人は今を楽しもうとするため、貯金をぜんぜんしない。たとえば子供の大学進学資金は、『子供自身に学生ローンを組ませれば?』という感じで、あるだけ使ってしまう。日本人としてはすごく不安」
・・・ですよねぇ?
「アメリカ人は離婚をそれほど恐れない。『ストレスのある生活を無理に続けるくらいなら、離れたほうがお互いのため』と考える。でも日本人は『子供のために、できるだけ離婚したくない』と考える」
・・・まあそうですよねぇ。
また、けっこうシビアなチェックポイントも、事前に指摘してくれます。たとえば「『日本には絶対、住めない!』と言われたら?」
・・・ホントに日本の文化を尊敬しているのか、と心配になってきます。やっぱり自分の母国の文化を尊重していないような相手では、かなーり不安ですよねえ。
というわけで、国際結婚をしないひとであっても、「おお、こういう観点があったか!」と思う箇所が多くあります。
普通に日本人との結婚を考えている人は、30問のチェックシートを読むと、ちょっとだけうれしくなっちゃうかもしれません。
というのは、
「相手の文化や食習慣についてよく知っているか」
「老後も含め、結婚生活で住む国についての希望は一致しているか」
「あなたがパートナーの国の言葉を話せるか」
「相手が日本語を話せるか」
など、多くの質問で、自動的に満点をゲットできるからです。
いやー面白かった!! 江戸時代なのに、現代に思いっきり通用する話が満載です。
たとえば江戸時代では、ものを買うとき、店に行ったりしませんでした。
店員が自宅まで御用聞きに来て、品物を持ってくる。支払いは年二回(盆と暮れ)のツケ払い。
ところがそれでは、手間がかかる分、どうしても値段が高くなります。
また、半年間の支出を一気に支払うため、不払いも多くなります。
そこで三井越後屋は、店頭販売、現金決済を打ち出したのです。
その代わり商品は、ほぼ半額。・・・これで成功しないほうがおかしいです。
で、平成のこの世の中。
Amazonで本を買い、自宅に届けてくれて、支払いは月1のクレジットカード。
・・・これって、先祖がえりだよねぇ?
また、長屋の大家は、地主から年間20両くらいの給料をもらっていたが、糞尿を肥料として売ると10~20戸の長屋で、年間30両くらいになるため、相当大きなサイドビジネスだった・・・というのはびっくり。(p.38)
タイトルは釣りめいていますが、内容はなかなか硬派です。
「中国人は、自分が中国人であることを、普通は自覚していない。数千年もの間、あの広大な大陸に存在していたのはただ"個人"だけだった。中国大陸に住んでいた人々にとって、自分だけが頼りであり、自分を守ってくれる国家が存在するなどとは、夢にも思っていなかった」
つまり生存競争が厳しい中で、頼れるのは自分だけ、という徹底した個人主義が身についている、という指摘をしています。
(p.89)
だから徒党を組むときも「自家人」という概念があり、
血のつながった兄弟であっても、自分の利益にならなければ、「自家人」とカウントされないのだ・・・(p.98)
とか、
「中国が日本のことを嫌っているのは、反日教育のせいなどではない。問題はもっと根が深い。
日本は歴史上において、中国、中華民国の面子を傷つけたことにある。
東洋の小国が大中華を敗かせたことこそ、いちばん中国を怒らせたことだ」
という趣旨(p.5)は、面白く読みました。
ただ、著者の「若宮清」って誰? とWikiPediaで調べてみたら・・・。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A5%E5%AE%AE%E6%B8%85
うーん、ちょっと気になる人だなぁ・・・。
貨幣を媒介とした資本主義経済にどっぷり漬かってしまった私たちですが、もっと他にもマシなシステムがあるのではないでしょうか? たとえば科学的な知的さが重視され、自分の知識を惜しみなく人に与えることで、みんなから尊敬され、それがちゃんと評価される社会。そういうシステムが確立していれば、科学はどんどん進み、トータルではみんな幸せになれるのに・・・。そんな夢想をしたことはないでしょうか。
実際にそういう試みはあります。伝播投資貨幣と呼ばれるもので、たとえば未踏プロジェクトに選ばれたPICSY。おおざっぱに言うと、ある行為をした評判が価値になる、というアイデアです。「はてな」のブログでいえば、肯定的なトラックバック数やブックマーク数やカラースターの数がお金に換わるようなもの。
うん、アイデアはすばらしいけど、いまの貨幣社会にすぐにとってかわるかというと・・・自分が生きてるうちは無理じゃないかなぁ?
で、そんな人は、せめてどんな社会が訪れるかを夢想するために、J・P・ホーガン「黎明の星」を読んで欲しいです。
小天体のニアミスにより、地球上のほとんどの人類が死滅し、ごくわずか、宇宙船で逃げ延びた人々は、かつての地球から土星の衛星に移住していたクロニア人たちに助けられました。そこクロニアでは、まさにそのような夢のシステムが確立させており、テクノロジーを発達させていたのでした。
生きるために必要な天然資源がどこにもない過酷な環境では、コロニーを確実に存続させるために個人が提供する知識や技術のほうが、貨幣や財産などという、それ自体はなんの役にも立たないしろものよりもずっと重要だ。このようにして、"権利"を要求したり他者へ義務を押し付けたりする代わりに、責任と義務を受け入れることで自負心をはぐくみ、それをやり遂げることで実力をしめすというシステムが自然にできあがった。個人が受け取る報償は、こうした観点からみずからの価値を認めてもらうことなのだ。(pp.32-33)
さて、そんな科学者にとって夢の王国、クロニアには何の問題も無かったかというと・・・確かに無かったのですが・・・あえて言うなら理想主義がうまく行き過ぎたため、悪企みを見抜いたり、用心する能力に欠けていました。
地球に残されたごくわずかな生き残りは、すっかり知性が退化し、ほとんど原人なみになっていたのですが、クロニアに移住した地球人の一部には、「クロニアのシステムは自分たちには合わない。もう一度地球に戻って昔の制度でウマー」と考える一派がおり、得意の悪巧みで宇宙船をのっとり、原人化した地球人たちと結託して、再度、地球を自分たちの我がものにしたい、と考える政治家的な人たちがいたのです。
この本は、SFという形で、ナイーブなナード(≒科学者)と、世知辛いスーツ(≒政治家)の対立を描いた物語として、すごく面白く読めます。ぜひどうぞ。
ポール・グレアムは「オタクが人気者になれない理由」というエッセイで、アメリカの中学校や高校には階級があり、頭の良い学生は決して人気者になれない、ということを説明しました。http://www.blog.net/nerds-jp.htm
そんな歪んだ社会っぷりを、あますところなく描いたのがS.J. ローザンのミステリー「冬そして夜」。
私立探偵のビル・スミスのところに、警察から連絡が来る。甥のゲイリーが怯えて、ようやく「ビル・スミスとだったら会う」と言ったというのです。仕方なくビル・スミスはゲイリーを預かりますが、ゲイリーは夜に、こっそり逃げ出してしまいます。
どうしてゲイリーが逃げたかを調べるために、スミスがゲイリーの事情を調べると、どうやらフットボール部員が起こした女子学生の強姦事件と関係があるらしい、ということがわかります。
そこでスミスは、その事件を調べはじめるのですが、その町は非常にフットボールに力を入れている町でした。町全体がフットボール部をこぞって応援しているため、高校のクラスには、フットボール部員を頂点とした完璧なヒエラルキーができています。たとえばフットボール部員はテキトーなガリ勉の女の子を呼びつけ、自分の宿題をかわりにやるよう強要する。拒否するとその娘の飼っていたペットを殺してしまうなど、やりたい放題やって、大人たちもそれを咎めないのです。
フットボールの監督やコーチも、ここは自分たちの町だ、ということを十分に意識しており、何かにつけて強気に出たり、スミスの邪魔をします。ほんとにサイテーな町です。そんななかでなんとか調査を進めていくうちに、20年弱という過去にも、似たような事件をフットボール部員が起こしていた、ということや、部内でイジメがあったということもわかり・・・という話です。
主人公のビル・スミスを助けるのが、まだ在学中の新聞部リディア・チンですが、この二人、どちらも正義感があり、性格はいいはずなのに、言うセリフはいかにもひねくれていて、いかにもアメリカの小説という感じです。もうちょっと素直に話せばいいのに。
書評コミュニティ「本が好き!」からいただいた本ですが、感想が2年も遅れてしまいました。すみません!!
ほとんど注目されることのない麻酔科に焦点を当てた珍しいマンガ。
激務の中、今日も気合を入れて仕事をする彼女は、派手さはないのですが、じーんときてしまいます。
医者にも外科、内科、精神科、眼科などいろいろありますが、おそらくそんな名前を挙げさせても、多くの人が最後まで出てこないのが・・・麻酔科。
手術をするときも、患者は外科医には感謝するのに、その他大勢のスタッフに見える麻酔医は、顔も覚えてもらえない。
それどころか手術をする医者たちからでさえ、「麻酔なんて誰にでもできる」と軽蔑される有様。
麻酔医は不足しているため、手術をかけもちするなんてこともザラ。
ところが麻酔医は「麻酔だけすればあとは仕事終了」ではない。手術中の心拍や血液管理なども仕事のうちなのです。
麻酔のミスは命にかかわるので、疲労の極限に達しても、うっかりミスは患者の命を奪います。
麻酔のミスくらい大丈夫だろうって? あれって身体に麻薬を射ってるようなものなんですよ?
現にうっかりアンプルを床に落としてモップで拭いただけで大問題。
というのは、成分に麻薬を含んでいるからで、細かい始末書を書かなければならないのです。
そんな麻酔医、華岡ハナコが、今日もジリリリリと目覚ましの音でしぶしぶ目覚めます。
そして朝の病院前、長い手術の前に、朝の深呼吸をするシーンがとてもさわやかです!!
青砥 恭「ドキュメント 高校中退」pp.187-190の指摘が興味深かったです。
以下、荒っぽく要約します。
高校中退が社会問題とならなかったのは、
文科省の発表していた中退率が、おおむね2%台(2.0~2.6%)と低いためもあるが、
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/11/07110710/001/005.pdf (p.1)
これは文科省が、中退率を低く見せかけようとしているのではないか。
文科省は、中退率を
『ある年度の学校全体の中退者数÷ある年度当初の学校全体の生徒の在籍数』
と定義している。
たとえばある高校で、4月に1年生~3年生まで、全学年合わせて1000人いて、
1年後の3月までに20人、退学したら、中退率は2%という計算方法だ。
だが本当は、ある学年の学生が高校の3年間の間、
途中で退学せず、無事に卒業できる割合を問題にすべきだ。
・・・というものです。
興味深かったので、具体的な数値で考えてみました。
たとえば単純に、10000人の学生がおり、
1年生で3.0%、2年生で1.8%、3年生で0.6%の学生が退学する場合、
(平成20年のデータ。「平成20年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/08/__icsFiles/afieldfile/2009/08/06/1282877_1_1.pdf のp.24 下半分の表)
10000*(1-0.03)*(1-0.018)*(1-0.006) = 9468
1万人のうち卒業できるのは9468人となるので、中退率は5.3%となります。
ところが文科省の計算方法だと、
1年 2年 3年
4月 10000人 9700人 9525人 計2923人
↓ ↓ ↓ ↓
3月 9700人 9525人 9468人 計2869人
となり、中退率は 1-(2869/2923) となるので、1.8%となります。
現実には文科省は平成20年度の資料では、中退率を各ジャンルに分け、
全日制普通科1.4%、全日制専門学科2.2%、全日制総合学科2.1%、定時制12.9%
としています
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/08/__icsFiles/afieldfile/2009/08/06/1282877_1_1.pdf (p.24 上半分の表)
とよ田みのる「FLIP-FLAP」。ピンボールの漫画だって? と、ごく軽い気持ちで手に取った本でしたが、とてつもない大当たりでした。
もしかしたら、本人でさえ二度と書けないかも・・・。(すみません、今から他の本、全部読んで確認してみます)
ごく普通の高校生が、卒業の記念にと、好きだった長髪の美少女、山田さんに、なかばあきらめつつ「つきあってください」と言うと・・・。
「いいですよ。ただし条件があります」
彼女は主人公をゲームセンターのあるマシンに連れていきます。
そこには、「UFO」という人の31億2367万320点というとてつもないハイスコアが点滅していました。
「このスコアを超えること。それが私の条件です」
あとは一直線。なかなかハイスコアに近づけない主人公は、山田さんに尋ねます。
「山田さんにとってあのスコアはそんなに意味があるものなんですか?」(p.31 2コマ目)
そこから先の6コマ→そこから先の2ページ→そこから先の10ページは、
自分のマンガ人生でもめったにない最高の時でした。
これほど感動したシーンが、あと2つもあります。
ひとつは誰にでも必ずわかりますので伏せます。(わからなかったら人間やめろ!!)
もうひとつのシーンは、このマンガのタイトルの意味が本当にわかるコマです。やられたぁー!!
あと、Extra Ball・・・おまけの一話も、秀逸でした。
p.175の女の子の一喝もよかったですし、なによりp.195、主人公の質問・・・
「なんでゲームに熱くなれるんだ?
何か見返りがあるわけじゃないし 誰かがホメてくれるわけじゃない
意味のないことって空しくならないか?」
に続く2コマの、胸をすくようなタンカ
・・・それを読んだ僕の感想は、マンガの主人公の気持ちとぴったりでした。
「・・・・・・なんて気持ちのいい暴言!!!!!」
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副島隆彦「世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち」
アメリカの世論を動かす代表的な政治家・知識人たちを手際よく紹介した本です。
自分にとってことに秀逸だったのは、「4章 『法』をめぐる思想闘争と政治対立の構図」でした。
アメリカの法学界の保守派は大きくは自然法派と自然権派に分かれている。
自然法派は「人間社会には、それを成立させて、人間を人間たらしめている自然のおきてがある」と考える派であるが、本当にそんなものがあるかということについては、この2500年間、少しもはっきりしない。
しかし西洋政治思想史では尊重されてきた考え方で、トマス・アクゥイナスは「この『自然のおきて』を定めているのは、やはり神である」と説明し直してヨーロッパ思想の本流となった(p.193)。
とか、
自然権派は自然のおきてがあることは認めながらも、人間は生まれながら何人も奪うことのできない権利を持っており、それは自然のおきてよりも優先されるのだ、という主張をする派である。
イギリスの思想家ジョン・ロックが「市民政府論」で主張した考え方だが、その岩波文庫版は後半の第二論文のみであって前半部はいまだに翻訳さえ完了していない。
つまり日本に「自然権」の思想は、まだキチンとは上陸していないため、日本人にはほとんど理解されていないのだ。
等、斬新な指摘が400ページにわたっていっぱいです。
これを読むと日本人の論理的な思考力の思想の弱さに恥ずかしくなります。
快著でした。知識人の香りを楽しめます。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062563347/lionfan-22/ref=nosim
lionfan