October 05, 2008

毛皮のエロス −  Fur: An Imaginary Portrait of Diane Arbus (2007)

Fur Poster■忘れられない映画 その50

□邦題:毛皮のエロス
ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト
□監督:スティーヴン・シャインバーグ
□出演:ニコール・キッドマン、ロバート・ダウニーJr.

ホラーでもスリラーでもありませんが、とてもスリリングです。20世紀を代表するアメリカの写真家ダイアン・アーバスの自己への目覚めを幻想的に描いてます。


【ストーリー】

ブルーのワンピースに風変わりなブラウン系の毛足の長い毛皮を羽織り、バスの窓から外を眺め、希望に満ちた表情の女性ディアン(ダイアン)。バスを降りると、緑豊かな敷地の門の前に立つと、丸裸の男性に迎え入れられる。芝生の上でくつろぐ人々は男性も女性も全て丸裸で、彼女は男性の後について、建物の中へと入って行く。リビングでは彼の妻と思われる女性がやはり裸で椅子に腰掛けており、男性はディアンと向かい合わせに、妻の隣に腰を下ろす。ディアンは人々が裸で生活しているその小さなコミュニティで写真を撮らせてもらいに来たのだ。彼らはひとつだけディアンに条件をつける。「あなたも裸でいること。」彼女は躊躇するが、「少し時間を下さい。」と言って、微笑む。

Fur 1














時を遡ったある日、自宅で緊張した面持ちで身なりを整えるディアン。かっちりと首までボタンのついたドレスに身を包み、鏡の前で神経質に眉を整える。毛抜きで抜いた一本の眉毛が洗面台の蛇口の上に落ちる。

慌しいいのは、その日、両親が商う毛皮のファッションショーを自宅で披露するからだ。カメラマンは夫であるアラン。ディアンは夫のよきアシスタントだった。母は、ディアンの服を見て、「その服はいったい何?」と尋ねる。「お母様からのプレゼントよ。」とディアン。母は困った表情で「去年のね。」と言う。ショーの間、カメラマンの夫から別のカメラを持ってきて欲しいと頼まれ、夫の部屋へ行った時だった。窓の下に引越用のトラックが止まっており、そこでスーツに不気味な覆面を被た男が、引越業者に手間賃を渡している姿を見る。彼はその日ディアン達の住む階の上に引っ越してきたのだ。じっと見つめるディアン。それに気付いていたかのように、その男は迷い無く彼女を見上げる。ショーの後の食事会も終わり、招待者たちに挨拶をする際、妙な発言をし、取り乱してしまったディアンは、外の空気を吸いにバルコニーに出る。はす向かいのアパートの窓には知らない男の姿があるが、彼女をその男を意識しているかのように、衝動的にドレスの胸ボタンを外し、胸元を大きくさらけ出すと、深く呼吸をしながら、自分の胸を撫で、恍惚とした表情をする。しかし、すぐに我に帰ると、再び緊張した表情になり、逃げるように部屋に戻って行くのだった。

Fur 2

















ある日、風呂場の配水管が詰まっているのを、ディアンはなんとか配水管に手を入れて、詰まっている物を掻き出すと、それは長い茶色い毛の塊だった。驚きながらも、手際よく掃除したところで、排水管を転がってくる金属音とともに、水受けにしていたバケツの中に落ちてきたのは鍵だった。パイプは上階と繋がっている。その鍵はあの覆面の男の部屋から落ちてきたに違いない。ディアンはとっさに近くに居た娘に見つからないように、その鍵を手に取る。娘と一緒にアパートの外にゴミを出しに行くディアン。ゴミ箱は一杯だったが、その一番上に鍵も置いてゆく。アパートに入る時、ディアンはふと思い立ち、娘を先に行かせると、あの覆面の男の部屋の呼び鈴を鳴らしてみる。男が答え、ディアンは「階下に住む者ですけど、大きな犬を飼っているのかしら?」と尋ねる。しかし答えはノー。「でも、大量の毛が排水管に溜まっていたの。」と説明する。相手は「もう、そういうことは起こらないようにする。」と謝罪するのだった。

Fur Nichol


























ディアンは、かねてから夫に「君も写真を撮るべきだ」と勧められていたが、被写体が思いつかなかった。階上に住む謎の男が気になって仕方ない彼女は、その夜、夫の眠っている間に、カメラを持って階上の謎の男の部屋を尋ねる決心をする。彼女はカメラを首にかけ男の部屋の前に行く。男の部屋のドアは不思議なデザインで、大きなのぞき穴が開いてる。ドアの前で躊躇しているディアン。突然のぞき穴から男の目が見え、驚く。彼女は男に「ただ写真を撮らせて欲しいの」と話すと、男は明日の晩9:00に来るようにと言う。そして、彼がやはり意図的に鍵を落としたことを知ると、ディアンはその足で、アパートの前のゴミ箱へ走り、捨てた鍵を手に取るのだった。

確かに、誰もが見る映画ではないですね。。。ロバート・ダウニーJr.はかなりの問題児で、素行の悪さやドラッグで刑務所入ったことも幾度かあり、日本でも放送されていた「アリー・マイラブ」にも出演していながら、ドラッグで捕まりくびになっちゃったりと、精神的に弱い面が多々見られます。彼にとってアイアンマンの成功は自分でもまだ信じられないくらいの驚きでしょうね。記者会見でも、彼の気の弱さが見て取れましたね・・・。なんか、現実であることをなんとか自分に信じさせようとしてるって感じだったな。「25年間もやってきたんだから、いい年があったっていいじゃん。」とか「今まで人が見ないような映画ばかり出てきたから、こういうことがあってもいいじゃん」とか・・・・確かに彼にとってこの過去5年間は2002年に現在の奥さんである、スーザンさん(ハル・ベリー主演でロバート君も出演のホラー映画「ゴシカ」のプロデューサー)とも出会い、それからは着々とキャリアを積みなおして、近年には本作やデヴィッド・フィンチャー監督の「ゾディアック」にも出演。もともと演技派の彼は、アイアンマンでも演技力を称賛されているのです。

Fur 3











で、そんな話はさておき、このまたいやらしいタイトル「毛皮のエロス」ですが、なんとも好きな映画です。ロバート君演じるライオネル(ライオンだよね)という男性は、多毛症という奇形で、見世物小屋で辛い思いをした経験があるのですが、自分の体質を活かして、カツラのオーダーメイド品を作って売ってひっそりとではありますが、しっかりと生きているのです。彼は奇形(フリークス)の仲間達から慕われ愛されていますが、彼自身自分が人間であることに誇りを持っているようにも見えます。ディアンは小さい頃から、顔に大きなアザのある子に恋をしたりしており、異質である物事をそのものの何物にも代え難い個性として受け止めることの出来る天性の才能を持っていたのだと思います。だから、全身毛だらけで、どんな顔をしているのかすら分からないライオネルを見ても、ただその異質な容姿に惹かれるのではなく、それを彼の個性の一つとして見ることが出来るので、すぐさま彼の内面の魅力にも気付くことが出来るのでしょう。

本来の姿を毛ですっぽりと隠されているライオネルと接するうちに、彼女は自分自身を包み込んでしまっている見えない毛を少しずつ脱ぎ去ってゆきます。夫が居る彼女は誠心誠意夫や子供を愛していますが、ライオネルに対する愛は彼女自身への愛と同じなのです。ライオネルを愛しぬくことは本来の自分自身を愛しぬくことなのです。

***以下、多分読んでると結末はまるわかりです***

ライオネルは、肺を病んでいます。彼が死んでしまう・・・彼が死んでしまう前に、ディオンは彼への愛を成就させることで、自分自身を取り戻し、そして本当の意味で自分の家族を愛そうと思ったのではないでしょうか?

ライオネルの毛を時間をかけて優しく丁寧に全て剃り上げ、毛の下に隠されていた彼と愛し合い。彼のポートレイトを撮り、そしてライオネルの望みを叶えるために2人は海に向かいます。この海の色の美しいこと!!!こんなに美しい海って・・・夢のようで、思い出しただけでもため息が出るほどです。ライオネルは密かに自分の毛を織って、ディアンのために毛皮のコートを作っており、それをディアンにプレゼントします。ディアンは冒頭(ラストでもある。)で裸の村へ行くときに来ているのがこのコートなのです。そして、この映画の中で何が忘れられないかって・・・、海へ行く前に肺を病んでいるライオネルが、ディオンの眠っている間に一生懸命膨らませた大きな浮き袋。ライオネルが死んで、その死を悼むためにフリークスたちが集まっている中、一人ライオネルが膨らませた浮き袋の空気を愛しげに吸い続けるディアンの姿がなんとも切なく美しいです。。。

Fur Robert











ディオンとライオネル、この2人の関係は実にスリリングで、性的な関係は最後の最後だけなのに、それ以前のやりとりが確かにエロティックで、ドキドキします。中盤からライオネルのフリークスの友人達が続々と現れるのがまた圧巻と言えば圧巻です。映像の美しさも十分楽しめますが、私はこの物語がとても気に入りました。

そうそう・・・DVDで観たんですが、冒頭いっきなりの丸裸の男性、真正面から丸出し・・・丸見え・・・いやぁ、ちょっと笑っちゃいました。真正面・・て・・・。それと、ちょっと、気になったのは・・・全身の毛を剃るって言っても、あんなに綺麗に剃れないと思うな・・・。その辺り、もう少しディテールに凝って欲しかった。

毛だらけなのに・・・ロバート・ダウニーJr.が気持ち悪くてとてもセクシー。

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