December 25, 2018

中村文則『教団X』

2年ほど前だったか、随分話題になり図書館で予約しようとしたら長蛇の待ち行列で諦めた記憶がある。最近ふと思い出してトライするとすんなり確保できた。

読後すぐに浮かんだ感想は、図書館が10冊も購入するような作品ではない、というもの。

プロットの見透しも悪く、人物の描写は独白や会話中心で、人物像はあくまでも抽象的。かりに読み違えても違和感がないほど登場人物は交換可能と見えた。

感心させた点は創作性ではなく歴史認識の部分だった。四半世紀ちょい年少の中村が勉強家で、この国の現代史ボイコットを自力で克服しようとしているかに見えた。

〇太平洋戦争に至る過程の混乱と出鱈目さ。日清日露で増長した軍部の自己過信と跳梁するテロに翻弄される政治の脆弱さ
〇検証に堪えない暴挙としての開戦の決断
〇兵への陰湿ないじめと兵站の軽視。日本兵の死因の大半は餓死と病死だったこと。「食うな、戦え、捕まれば死ね!」
〇靖国のイデオロギー性、東京裁判批判の欺瞞
〇そこに参拝を繰り返す超党派議員団や右翼政権の欺瞞。拗ねた盲信と野望がありながら、「あの戦争は正しかった」と世界に向けては公言しない陰湿さ。

しかしである。ここまで一貫した認識をえておきながら、腰が抜けるほどがっかりさせられたのは、かれが天皇制批判だけは棚上げにしていること。かつ、天皇ヒロヒトの戦争責任に一切言及していないこと! この勉強家にしてこれかと…


中村の歴史認識でもうひとつ感心したのは。いままさに進行中の熱々の現代史について。

政治難民、テロ、内戦、独裁、etc. 前世紀、南北問題といわれたものが、世紀をまたいで緩和されるどころか、苛酷さと絶望度を加えている。日本人はもちろん、難民受け入れを拒む欧米諸国の国民が知らない(知らされていない)ことは、難民・テロ・内戦・独裁の出自・経緯を遡れば、そのほとんどが、途上国への大国の干渉、なかんずく金融資本や多国籍企業や軍需産業の陰謀と暗躍にいきつくということ。めぐる因果というか、自業自得というか、この事実を知れば、9.11のテロリストにも五分の魂はあったと分かる。

国内で居づらくなるとすぐに外遊に出かけて、好き放題にODAをばらまくアベ。このODAがまんまと独裁者を助け、内戦をあおり、テロリストや難民を生み出していることを、日本人は知るや知らずや…


もう一作『掏摸』を読んでいるが、これは無駄なプロットがなくて、いい。この作家のホームグランドは短篇もしくは中篇ではなかろうか。
25Dec.2018

live_on1 at 10:56 | 政治・歴史 
月別アーカイブ
記事検索
QRコード
QRコード
Recent Comments
  • ライブドアブログ