今回は、ステレオサウンド誌・213号掲載の当店のPRページの原稿を紹介いたします。

最近の話題から

 

ハイティンクの「引退」演奏会

このページでも何回も触れてきた、オランダの名指揮者、ベルナルト・ハイティンクが、彼のキャリアの最後を飾るコンサートを指揮した。
 
以前にも書いたが、彼は、現在では名誉職以外のオーケストラの音楽監督などのポストには目もくれずに、ベルリンフィル、ウィーンフィル、そして以前長い間芸術監督を務めてきたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などを客演指揮者としての立場で名演を繰り広げてきた。

その彼であるが、昨年には、90歳になる今年(2019年)の96日のコンサート(ウィーンフィル、ルツェルン音楽祭)をもって指揮者を引退すると発表した。

彼の演奏を心から愛する私は、やっとの思いでチケットを入手してルツェルンに赴いた。

さて、この日のコンサートであるが、プログラムは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ピアノはアックス)、ブルックナーの交響曲第7番の二曲。

舞台に現れた彼は、昨年のアムステルダムでの転倒での怪我の後遺症が尾を引いているようで杖は手にしているものの、実に元気そうだった。

演奏は彼らしく、遅めのテンポを基調としながら、一音一音を大切にしながら丁寧に音楽を作り上げていくもの。それでいながら、誇張のない音楽の中から、音楽への敬意がいたるところから聴こえてくるという、近年の彼らしい、味わい深いものである。また、ウィーンフィルも彼の指揮に献身的に反応し、本当に感動的な演奏会になった。(指揮台には、椅子も置かれていたが、楽章間のインターバル以外、演奏中はほとんどそれに腰を下ろさなかった。)

お見事としか言いようのない、ブルックナーの後、会場内は割れんばかりの、と言うよりは暖かな、彼の長年の音楽に対する献身への感謝の拍手と歓声で満たされた。しかしながら、長時間の演奏での疲れなのか、カーテンコール時の彼はちょっと憔悴しているように見えた。

カーテンコールの最後には、彼は夫人と共に舞台に登場し、観衆とウィーンフィルの楽団員に感謝を示し退場、そして感動的なコンサートはあっけなく終わった。

セレモニーなど全くないのが彼らしく、潔く感じされたコンサートであった。
長い間、ご苦労様でした。

 

ハイティンク

 

ペトレンコの「悲愴」

快進撃を続けている、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団のプライベートレーベル、「ベルリンフィルレコーディングス」から、今秋から音楽監督に就任した、キリル・ペトレンコ指揮のチャイコフスキーの「悲愴」交響曲の最新録音がリリースされた(SACDLPレコード)。

私も早速LPSACD、そしてハイレゾ音源を試聴してみた。

https://www.lpshop-b-platte.com/SHOP/KKC1135.html


KKC1135 ジャケット

 

彼らしい、実に洗練されたテンションの非常に高い演奏である。

彼の演奏は、早めのテンポを基調としたもので、クリアーな音色で決して誇張された表現は見当たらない。

この「悲愴」でも、感傷的な表現は一切見せずに、ひたすら「悲愴」というよりは、「チャイコフスキーの交響曲第6番」としての音楽美を追及しているかのような演奏である。

もちろん、ベルリンフィルの演奏は圧倒的で、現代のオーケストラ演奏の極致と言って良い。録音は2017年の定期演奏会のライヴ録音であるが、技術的な傷などは全く感じさせずに実に聴きごたえ満点である。

さて、オーディオファンの注目のSACDLPの聴き比べあるが、私の個人的な感想としては、音の厚みや滑らかさ、そしてホールの空気感(ホールの空間の中にいるかのような感じ)という観点では、LPが圧倒的に勝っているかのように聴こえた。(後日ハイレゾ音源とも聴き比べたが、やはりLPに軍配が上がった。)

今回はLPSACDを購入すると、そのなかに、ハイレゾ音源がインターネットからダウンロードができるパスワードなどが印刷されたカードが封入されているので、ぜひいちどトライしてほしい。
 ペトレンコとベルリンフィル演奏では、ベ−トーヴェンの交響曲第7番や9番、そしてチャイコフスキーの交響曲第5番などの録音も残っているはずなので、一日でも早いリリースを、と思ってしまうほどの優れた演奏、録音である。

私的には新譜LPの中、今年最高の一枚だ。

ペトレンコ

 (ベーレンプラッテ店主)