今回は、ステレオサウンド誌(210号)の当店のPRページの原稿です。

 

1 アバドの「ラスト・コンサート」

20135月にベルリンのフィルハーモニーホールで行われた、アバド指揮ベルリンフィル(BPO)のコンサートのライヴ録音である。

このLPは、彼のベルリンフィルとの最後の共演の模様が全て収められている

アバドは、2002年の6月にBPOの音楽監督の職を辞した後、2004年の6月、再びBPOの指揮台に立つことになる。この後彼は、年に一回だけ5月または6月にBPOを指揮している。このコンサートは、彼の死の前の年(2013年・つまりこのLPのこと)まで続けられた。

さて、この公演は、シーズン中のBPOの数多いコンサート中でも特に人気のあるものとなり、チケットの入手は困難を極めた。筆者も、このコンサートのチケットのために苦労した思い出がある。

なにしろ、アバドの前の監督(カラヤンやフルトヴェングラー)は監督を辞することが、そのまま彼らの死となったため、前のシェフが再びBPOを指揮することがなかった。そのため、このコンサートがベルリンの聴衆の注目の的なったのである。

LPに収録されているのは、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」とベルリオーズの「幻想交響曲」。どちらも、アバドの十八番だけあって、すでにロンドン交響曲団などでLPCDの録音もあるが、今回のそれは、最晩年の彼の指揮だけあって、とても味わい深い名演となった。

私は、これまで何回か、彼の指揮するこれら2曲を実際に聴くことができた。特に「幻想」は私のアバド初体験だったはずだ。(1983年のこと)

この頃の彼を知っている方にとっては、それから30年後のこの「幻想」は、ちょっと聴くとあまりにも内省的で物足りない印象を持たれるかもしれない。しかしながら、もう一歩踏み込んで聴くと、そこには、以前の彼からは聴こえなかった、深淵な世界が見え隠れしていることがわかってくる。

この演奏に対して、ベルリンの評論家は、「アバドは妖精の世界を見ることができる」と言ったらしい。

私も同感。

BPOの演奏も彼の指揮に応え、よりいっそう一音一音を大切にし、彼と一緒に演奏するのが実に幸福なひとときのように見えてくるかのような演奏に心打たれた。

私はこの演奏のCDをよく聴いていたが、今回のLPで聴くとベルリンフィルホールのコンサート時の空気感まで感じことができ、以前にもましてこの演奏のすばらしさがわかったような気がした。

また、LPケースの装丁や解説書(というよりは一冊の写真集)の出来もすばらしく、まさに、「パッケージソフト」としても持つ喜びにひたることができる。


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2 ヴァント/北ドイツ放送交響楽団

ブルックナー:交響曲選集 ほか

ハンブルク・ライヴ
 
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 ブルックナー 交響曲選集 その1
 ブルックナー 交響曲選集 その2
 ブラームス 交響曲全集
 モーツァルト 交響曲第40番ほか

 

晩年、わが国でも、ブルックナーのスペシャリストとして神様のような扱いを受けたギュンター・ヴァントの名演集。

わが国では、特にBPOとのライヴ録音が、音楽ファンやオーディオファイルに親しまれているが、今回の北ドイツ放送交響楽団(NDR響)とのライヴも実に大変味わい深い。

1982年彼は、NDR響の首席指揮者に選ばれ、91年にその座を辞してからも、NDR響とは死の年まで親密な関係にあった。

そのせいもあってか、演奏は実に素晴らしい。BPOとの共演では、なかなか聴かれなかった、柔軟な感性がよく聴き取れるからだ。決して、BPOとの演奏がそっけなくて、つまらないと言っているわけではないが、ちょっとしたメロディー自然な歌いまわしやそれに呼応する管楽器の合いの手の微笑ましさなど、NDRとの演奏に共感できるのは、決して私だけではないと思う。

ハンブルクにある古いホール、ムジークハレの古風な音響もブルックナーの交響曲にぴったりで、LP独特の温かい音色と相まって音楽に浸れることができる。

ヴァントは、生前、「完璧さと情熱的な力は統合されなければいけません」、と言っていた。

その言葉の意味を、噛みしめるように演奏されるブルックナーはとても感動的だ。

このシリーズ、ブルックナーの交響曲を始めとして、ブラームスの交響曲(全4曲)そして、モーツァルトと次々とレパートリーが充実していっている。次なるリリースが待ち遠しい。


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3.ベーム晩年のライヴ録音集

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 ベーム&ケルン放送響 ライブ集 その1
 
ベーム&ケルン放送響 ライブ集 その2
 

カール・ベームの日本での人気が最高潮に達したのは、197577年そして、80年のウィーンフィル(VPO)との3回の来日公演の時期であったことに異論を唱える人はいないと思いう。

私自身は、この時NHK-FMの生放送を通じVPOの「超」熱演ぶりや、HNKホールの聴衆のフィーバーぶりを「エアチェック」しながら圧倒されたのを昨日のことのように覚えている。

それにしても、今思い出しても、VPOの演奏は凄かった。「爆演」という言葉がぴったりだと、後日LPCDになったあの時の演奏を聴きながら、今でも思うことがある。

さて、今回LP化された演奏もこの頃のもの。(1976-80年の録音)

しかしながら、演奏内容は、あのVPOとのものとは、ちょっと違った印象を受ける。

もちろん、格調高く厳格なスタイルは変わりないが、よりリラックスした、いわば「普段着」をまとったベームが聴ける。

ベームが普段指揮しないケルン放送響の演奏は、VPOに比べると多少精度には欠けるが、老巨匠ベームの下、水を得た魚のように生き生きと演奏しているのが手に取るようにわかり、実に心地よい。また、ホールの残響も、NHKホールそれとは違って、実に豊かだ。

晩年のベームの「究極の日常」をじっくり味わいたい、と思えるLPである。


WEITLP013