2009年06月15日

未来の庭で。

一年ぶりくらいで、O君に会った。
O君(いま、37歳だったかな?)は、
山梨県・長坂で、主にクリスマス・ローズの苗を
育てている園芸家である。
ちょっと用があって近くまで行ったので、
O君をよく知る人に連絡を取ってもらうと、
「あまり人に見せていないのですが、
よかったらハウスの方に来ませんか?」
とのことだった。

お誘いに乗って、ときどき、ブログでは見ている
彼の「仕事場」へ、行ってみた。
空き地に車を停めた後、
轍が深く刻まれた小道を歩いて行くと、
ビニールハウスが4基か、5基。
軽々しく覗いてはいけない気配も感じて、
ハウスの中を見て回ったわけではないけれど、
圧倒的なクリスマスローズの苗の量に驚いた。
なるほど、これは大変だ。

「なにしろ、毎日の水やりが大変で。」
表情はやさしく、語り口はゆっくりしているけれど、
O君に笑みを浮かべる余裕はない。

ふと見ると、ハウスの周囲のそこかしこに、
小さな庭ができていた。
庭、と言っても、一見ただの雑草のかたまりだ。
石ころを無造作に並べて、
その間から野草が顔を出していたり、
色違いの、さまざまな野草の葉っぱのなかに、
野いちごが実を付けていたり、という具合。
O君が、和洋、さまざまな野草を、
仕事の合間に、植えているらしい。
これは、◯◯で、これは◯◯◯・・・
草花の名前を教えてくれながらも、
雑草を抜く手を休めない。

大変だろうな、と思う。
どんなに彼ががんばっても、人ひとり、
世話ができる植物の量と種類は限られている。
それに、自然のサイクルに逆らって、
苗ひとつ、育てることはできない。

でも。
これから、5年、10年と経つうちに、
気がつくと、O君は、とんでもなく豊かな何かを
手に入れているのかもしれない。
日が昇り、日が沈む。
毎日は、その単純な繰り返しだ。
寒くなり、そして、暑くなる。
季節もまた、単純な繰り返しだ。
その繰り返しの中で、彼が勤勉である限り、
決して裏切られることなく、
いつか、驚くほど、ハウスの中の植物も、
周囲の庭も、豊かになっていく。
それが、目に浮かぶようだ。

まだ、もう2基、
ビニールハウスを建てるのだそうだ。
彼が、ハウスを作らなければ、
ただの荒れ地になっていたであろうその場所で、
ぼくは、O君の「未来の庭」を見ていた。
植物を育てるという、自然のサイクルに
従うことしかできない仕事は、
単純かもしれないが、壊れない。

それに比べて、とぼくは思う。
ぼくは、なんと、壊れやすい仕事をしてきたのだろう。


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