tennai
45: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:08:20 ID:R8Dgn8py
ムエタイ居酒屋で働いてた。 
屋台村みたいなプレハブの真ん中にリングがあり、 
ムエタイ見せながらタイ風の料理と酒を出す店。 
タイ料理ではなく、あくまでタイ風。 
土建屋とアパート持ってたオーナーが趣味でやってた店だから 
売り上げとか全然気にしないでほのぼのした店だったなー。 


従業員はウェイターがオレともうひとりいて、両方バイト。
シェフは近所に住んでるおっさんで、
試合の時間になると厨房を出てレフェリーになる。
あとは看板娘のマキ(仮名)とオーナー。
マキは客から「太陽みたいなコだ」って評判だった。
本人は喜んでたけど、それは熱を発する巨大な球体という意味で、
店のスタッフの中では、間違いなくマキが一番体重が重かった。

オレとマキは地元だが、もうひとりのバイトくんは
東京から徒歩で日本一周に出発し、うちの町で金が尽きて店に居ついたそうだ。
彼は店の隣にあるオーナーのアパートに家賃払って住んでた。

北関東の大企業のお膝元で工場が乱立してる土地で
町にはもともと出稼ぎの外国人が溢れてる。
つまりバイトくんは日本一周どころか関東縦断もしてないということ。

46: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:08:49 ID:R8Dgn8py
忘れちゃいけないのが店専属キックボクサーの4人。
ポン、チャロ、ルット、ラリーはオーナー所有のアパート(8畳一間)で同居中。

ポンは常に笑顔を絶やさないナイスガイだったが、試合中も笑ってるので
店がハケたあとでオーナーによく怒られてた。
けど笑ってるだけあって最強の座は誰にも渡さない。

チャロはバンコクの良家の出身で、留学生として来日したらしい。
タイ人は基本的に信じられないくらいアバウトだが、
チャロだけは少ないギャラを貯金してるようなしっかり者だった。

ルットはプーケットの生まれ。
当地に観光に来た日本人の女と結婚して来日。
その後、嫁さんに逃げられてオーナーに拾われた30代後半のバツ1さん。

ラリーはその名の通り、タイ人ではなくフィリピン人だ。
だが、オーナーの命令でタイ式の衣装で入場してくる。
ボクシングの経験者らしいけど、キックボクシングで金もらってるくせにキックはできない。
徹底的に無口無表情で、たまに笑うとかわいい。

彼らのギャラは月に3万で家賃光熱費食費衣料費その他もろもろは全部オーナー持ち。
あと一応試合に勝つと1000円。それと客からのオヒネリも少々。
ちなみにオレは時給830円でオヒネリはなし。

47: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:09:14 ID:R8Dgn8py
オーナーは3ヵ月に一度、スカウトと称してタイへ行く。
いつも手ぶらで帰ってくるが、帰ってくるとしばらく機嫌がいい。
たぶん向こうでボクサーじゃなくて違うのを買ってるんだろう。
町にタイ人はいくらでもいるし、奴らは子供のころみんなムエタイを習ってるから
スカウトに行く必要などまったくないのだ。

客は日本人7割、外人3割で結構繁盛してた。
飲み物食い物は安いし、キックの試合もそれなりに盛り上がる。
けど、試合に賭けるような客はいない。
みんなうちの店が4人しかボクサーがいなくて、
その4人が順繰りでケガしないようにやってることを知ってるからだ。
それでもたまには血も出るし、片方が殴り倒されて失神するようなこともある。
そうなるとリングにはオヒネリの千円札が舞い散ることになる。

営業時間は夕方適当に店を開けて、8時から1試合、9時から1試合。
試合やってないとき4人はストレッチしたりサンドバッグ叩いたり皿洗いしたり。
面倒見のいいバツ1のルットがラリーに蹴り方を教えてたり。

試合中はシェフがレフェリーをやるからその間は飲み物しか出ない。

48: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:10:17 ID:R8Dgn8py
試合が終わると「俺にもやらせろ」って客が出てくる。
これはもう恒例で、1日に1人2人は必ずいる。
こっちとしては「危ないですから」って一応言わなきゃいけないことになってるけど
本気で止める気なんて全然ない。これむちゃくちゃ盛り上がるから。
客には保護用のヘッドギアかぶせて、バイトくんがゴングを鳴らす。

一般客の相手はほとんど、一番強いポンがやる。
ブンブン振り回してくる客のパンチキックを笑いながらヒラヒラかわす。
客は一発でも叩き込めばヒーローになるんだが、
たいていは一分もしないうちにヘロヘロになって、ポンの軽いローキックで大の字に倒れる。

このときのポンはホントにもう、神がかって美しいんだよな。
キックボクサーの生き物としての美しさというか、蝶のように舞うってやつ。

4人もオレらもみんなすげー仲良かった。
オヒネリなんか4人で分け合ってたみたいだし。
店がハケてからはよくみんなで飲んでた。
マキは歌が異常に上手くて、フィリピン人のラリーなんかよく涙ぐんでたな。

49: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:10:47 ID:R8Dgn8py
あ、それで思い出したのでもう少し。

ある日、マキが結婚することになった。
相手はオーナーのとこの型枠大工で、店にもよく来てた客。
マキは体型は凄いけど気の良さは抜群だったから
オレらも常連の客たちも諸手を上げての祝福ムード。
店を貸切にして結婚式をやることになった。
貸切っつっても常連はみんな呼んでるし
フラっと入ってきた客も大歓迎で巻き込んじゃうような感じ。

この日ばかりは試合も無しで、タイの3人衆は民族衣装みたいなので踊ってたりして。
客のブラジル人が太鼓かき鳴らすわマキは歌いまくるわ
テーブルには泡盛やらテキーラやらでもうごった煮の状態。
とにかくみんな笑っててお祭りだった。

けど、ふと気が付くとラリーがいない。
ちょっと探したら、あいつ店の外でうずくまってポロポロ泣いてた。
日本語と英語と鼻水がごちゃ混ぜになった声で言うには、
ラリーはマキが好きだったって。
当然告白なんかしてないから、マキはラリーの気持ちなんか全然知らないわけだ。

50: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:11:20 ID:R8Dgn8py
とりあえず中に戻ろうって言ったんだけど、
ラリーは「セレブレイトだから、スキ、だから」とか何とか。
どうやら最後に気持ちを伝えてお祝いしたいということらしかった。

宥めながら店に戻ったらオーナーが「何だ何だ」って聞いてくる。
カクカクシカジカなんですよ、と説明したオレが悪かった。
あの酔っ払い、「だったらブン殴って奪い取れよ!」つって
ラリーを新郎新婦の前に引っ張って行きやがった。
しかもラリーが何か言う前に「こいつがおまえのこと好きなんだとよ!」と。もうアホかと。
マキの旦那としても自分とこの社長がそんなこと言い出したもんだから困惑するしかない。
マキも「ラリー…」って言ったっきり固まってしまう。
オーナーは「やれ! 早くやれ! 俺も若いころは!」って、そればっか。完全に泥酔してる。
主役たちの空気を察してか場内注目。

ラリーは言ったね。
「マキ…アイキャン…アイキャンノックヒムアウト。バット…オメデトウ、マキ」
旦那に握手を求めるラリー。真剣な面持ちで応じる旦那。マキはでっかい乳でラリーを抱きしめる。
旦那に手を握られたままマキに抱きしめられてる小柄なラリーって図は
かなりおかしかったけど、あれは感動的だったな。かなり。

完全に思い出話になってしまったのでここらへんで。

51: おさかなくわえた名無しさん 04/11/14 13:14:32 ID:DLIPTUl7
へえ、いい職場だねえ。
オモロカッタデー
>それは熱を発する巨大な球体という意味で、
容赦なくてワロタ



【らいらい※】おもしろいB級邦画。