東京都渋谷区では、日本財団と共同、TOTOや大和ハウスなどをスポンサーに迎え、建築家をはじめとして世界で活躍する16人のクリエイターの参画により、区内の公衆トイレ17か所を“見たことのない公共トイレ”にリニューアルする「THE TOKYO TOILET」プロジェクトを進めています。
今回は、8月12日(木)より供用開始した、京王線京王新線)幡ヶ谷駅北方にある「七号通り公園」のトイレをピックアップします。
この「七号通り公園」の最寄は幡ヶ谷駅ですが、
【京王電鉄京王線】笹塚駅(駅番号KO04)今回筆者は1駅府中寄りの笹塚駅から歩いて向かうことにして、日ごろの運動不足を少しでも補うことにします。今回は退勤後の取材です。



京王バス 七号通りバス停幡ヶ谷駅から北方に5分ほど歩くと、都道431号(西新宿のNSビル付近から、甲州街道北方に平行して、明大前駅北東の杉並区和泉二丁目交差点に至る道路。同交差点で井の頭通りに合流する)と交差します。そこに京王バスの「七号通り」バス停があります。このバス停には新宿駅西口-中野駅間の宿45系統、及び渋谷区コミュニティバス「ハチ公バス」(運行は京王バス)の「春の小川ルート」渋谷区役所行きが通っています。
「七号通り」というのは、幡ヶ谷駅付近の甲州街道北側にあるスーパー・ライフ幡ヶ谷店脇から、都道431号との交差(幡ヶ谷三丁目交差点)を経て、もう少し北西の渋谷区立中幡小学校付近に至る道路で、都道431号までの途中に近年新設された「幡ヶ谷ひだまり公園」があります。
この「七号通り」バス停前に、今回取り上げる「七号通り公園」があります。
七号通り公園
七号通り公園(幡ヶ谷)(東京都渋谷区)この「七号通り公園」は、七号通りと都道431号が交差する幡ヶ谷三丁目交差点の南東角にあります。




七号通り公園 遊具は滑り台だけ七号通り公園は小さな公園で、園内に遊具はこの滑り台が一つあるだけでした。




所在地:東京都渋谷区幡ヶ谷2-53-5
■七号通り公園トイレ
●器具カラー:ホワイト(TOTO色番号:#NW1)
●多機能トイレのドアは自動(押しボタン式)
 (音声操作も可能)
▲大便器個室は男女兼用(多機能トイレ)のみです
七号通り公園トイレ外観(設計:佐藤カズー)幡ヶ谷三丁目交差点に面した公園入口すぐのところに、突如白い球体のようなものが出現します。UFOか何かのようにすら見えますが、これがトイレです。例によって夜はライトアップされるほか、地面から浮かせるような形になっていますが、この部分から外気を取り入れて換気する構造になっています。
この七号通り公園トイレは、佐藤カズー(さとう カズー)氏と「DISRUPTION LAB TEAM」がデザインを手掛け、久保都島建築設計事務所(渋谷区内にある)が設計デザイン面で協力しています。
佐藤カズー氏はWikipediaの項目もなければ、本人サイドからの情報発信もTwitterがあるだけで、「THE TOKYO TOILET」シリーズの参画者の中でも謎めいた人物といえますが、どうやら佐藤カズー氏というのは広告代理店大手・博報堂と、アメリカの広告代理店「TBWA Worldwide」が合弁で設立した「TBWA HAKUHODO」の執行役員及び“チーフ・クリエイティブ・オフィサー”であり、「DISRUPTION LAB TEAM」というのも同社のプロジェクト実行部門であるようです。博報堂グループということで本業は広告制作であり、最近話題になった日本マクドナルドの創業50周年記念CM(今年で62歳の女優・宮崎美子が1971年当時の中学生役をやった)もこの「TBWA HAKUHODO」の制作です。マクドナルドのほか、最近の日産自動車やユニクロなどの広告も同社が多く手掛けています。
このトイレはデザインというより、“手をつかわないトイレ”をコンセプトとしており、欧米の公衆トイレで“60%が洗浄レバーを足で操作する”とか“50%が手にトイレットペーパーを持ってドアを扱う”など、極力素手でトイレ器具に触れないようにしている、という調査結果があったことから着想に至ったようです(それは新型コロナ問題よりもずっと前の話らしい)。ここから、多機能トイレについてスマートフォンのQRコード読み取り機能を併用した音声操作に対応した仕様としています。
七号通り公園トイレ案内図点字表記付のトイレ内部案内図です。洗面台1台・小便器2台からなる男性用トイレと、男女兼用の大便器個室を兼ねる多機能トイレからなります。右下に多機能トイレで非常ボタンが扱われた時に動作する警報ランプがあります。
七号通り公園トイレ 「THE TOKYO TOILET」プレートトイレ内部案内図の左下に、「THE TOKYO TOILET」プレートがあります。




七号通り公園トイレ(01)男性用トイレの洗面台はカウンター式で、TOTO製CeFiONtect仕様のベッセル型洗面器LS716を使用しています。蛇口は自動水栓アクアオート(TLE26507J)を使用しています。自動液体石鹸装置(オートソープディスペンサー)も設置されていますが、8月17日時点では中身がまだ入っていませんでした。
七号通り公園トイレ(02)小便器はTOTO製CeFiONtect仕様の「RESTROOM ITEM 01」マイクロ波センサー壁掛小便器セットXPU21A(リップ高さ350mm、陶器部品番UU117)を2台使用しています。ここでは小便器に手すりは併設されていません。小便器間には衝立が設置されています。奥に個室のようなドアが見えますが、これは掃除用具置き場であり、男性用トイレに大便器個室は設置されていません。内装は白系です。
七号通り公園トイレ(03)多機能トイレの入口右側にはモニターがあり、音声操作時の使用方法説明が日本語と英語で表示されます。左側にあるQRコードを読み取って専用ページにアクセスするとドアが開き(ドア横の押しボタンでの操作も可能)、トイレ室内にあるマイクに“ハイ、トイレ”と話すとトイレ機器の音声操作が可能になります。
七号通り公園トイレ(04)多機能トイレ(だれでもトイレ)です。「THE TOKYO TOILET」の標準的な仕様ですが、音声操作のためのマイク穴が便器付近と手洗い場にあります。器具配置は左勝手となっています。

七号通り公園トイレ(05)多機能トイレの便器はTOTO製CeFiONtect仕様の壁掛式ニューボルテックス便器CS530P(フチなし形状・トルネード洗浄採用 標準洗浄水量 大4.8Lまたは6L)を使用しています。給水はタンク(フラッシュタンク)式となっています。便座はウォシュレットアプリコットP AP2AK(「洗浄位置調節」・「温風乾燥」・「きれい除菌水」・「オート便器洗浄」付 「音姫」無し エコリモコン 蓋なし仕様)TCF5840AUPS(音声操作に対応しているため、特殊品?)を使用しています。ウォシュレットのリモコンと便器洗浄スイッチが「エコリモコン」となっています。ここでは、便器付近に小型手洗器が設置されていません。また、ここでは室内側から自動ドアを操作すると、自動で便器洗浄が行なわれます。
七号通り公園トイレ(06)多機能トイレの洗面台はTOTOの「コンパクト多機能トイレパック」内包の樹脂製・カウンター一体型のものとなっていますが、自動水栓は最近の「コンパクト多機能トイレパック」で標準でついているコンテンポラリタイプではなく、TENA40系が入っており(音声操作対応の関係なのか?)、2015年頃より前のロットに似ています。また、自動液体石鹸装置(オートソープディスペンサー)が設置されています(8月17日現在、中身はまだ入っていなかった)。
七号通り公園トイレ(07)多機能トイレ内のオストメイト対応設備(給湯機能付)です。「コンパクトオストメイト対応パック」を使用しています。汚物流しはSK117(CeFiONtect仕様、洗浄水量4.8L)です。蛇口はシングルレバー混合栓で、スパウトを引き出してハンドシャワーとしても使用できる「プルアウト水栓」と呼ばれるタイプです。洗浄スイッチは「オートクリーンC」同様のタッチスイッチ式ですが、給水はタンク(フラッシュタンク)式となっています。オストメイト対応設備側にも紙が備え付けられています(液体石鹸はまだ入ってなかった)。オストメイト対応設備には特に音声操作に関係した機器は設けられていませんでした。この多機能トイレにはベビーシート、ベビーチェアの設置はありませんでした。
七号通り公園トイレ(08)<音声操作方法…出入口>出入口の音声操作方法の説明です。






七号通り公園トイレ(09)<音声操作方法…大便器>大便器付近の音声操作方法の説明です。大便器は便器洗浄のほか、ウォシュレットも音声操作に対応させているため、メニューが大変多くなっています。便器洗浄は“トイレの水を流して”と指示します。“ウォシュレットをつけて”というのは、おしり洗浄を指します。ウォシュレットの機能のほか、どうもこのトイレは音楽も流せるようです。それにしても“腸いい音楽”とは…?
七号通り公園トイレ(10)<音声操作方法…手洗器>手洗い・洗面の操作方法の説明です。石鹸については音声操作に対応していないようです。




実際に音声操作をやってみようとしたのですが、この時はドアを閉めるところまでは音声でできたものの、そこから先はうまく反応しませんでした。

七号通り公園 トイレ裏の水飲み場トイレ裏にある水飲み場です。これもトイレのイメージに合わせて、白く塗り直されていました。側面にある手洗水栓はTOTO製の新品となっていましたが、上部にある水飲み蛇口は新調されているものの、カクダイ製の水栓が入っていました。

このトイレですが、筆者は旧トイレを知らず、たぶん男女別のトイレがあったんだろうと思って「これは大便器が元は2台、ひょっとしたら多機能トイレ含めて3台あったのに、改築で多機能トイレの1台だけになっちゃったのか?」と思ったのですが、後で調べてみるとここは元は古びたプレハブ建築の男女兼用トイレが設置されていたようで、器具台数は小便器2台、大便器個室(和式)1室の設置となっていて、つまり器具台数については以前のトイレを踏襲していることになります。
しかし、大便器個室が多機能トイレ1室だけになっているのはどうもいただけないところです。ここから南に80mほどのところに「幡ヶ谷ひだまり公園」があり、そちらも比較的新しいトイレで、ウォシュレットこそないものの、男女別一般トイレ+多機能トイレ(オストメイト、乳幼児用設備あり)の用意があるので、この「七号通り公園」のトイレの大便器を増やす必要はない、という結論に至ったのかもしれないですが、小便器は1台で十分と思われ、小便器を2台設置するスペースがあったら多機能トイレとは別に普通サイズの大便器個室1室(男女兼用か女性専用にするため、小便器とは動線を分ける)を用意した方が、と思ったものでした。
外装は白1色であり、当連載Part.5で取り上げている恵比寿駅西口公衆トイレのような金属ルーバー構造などではなく、コンクリートに塗装した仕上げになっています。出来立てでは清潔感が感じられていいですが、汚れが目立ちやすく維持管理に苦労しそうなのではないかという気がします。
また、音声での操作に対応しているのは画期的といえますが、スマートフォンのQRコードを併用するシステムというのはあまり便利とは言えず、何も持っていなくとも“ハイ、トイレ”の合図で動いてくれるようにしてほしかったところでした(まだ技術的に難しい?)。

▲「幡ヶ谷公衆トイレ」改修前の写真は、同トイレの「THE TOKYO TOILET」改築工事竣工にともない、新規記事【Part.9】に移しました(2023/3/12)

※「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です。