被差別の食卓 (新潮新書)


フライドチキン。

軟骨までポリポリ食べるのが割と好きなのだが、
ジャンクフードの代名詞という偏見があってか
あまり進んで食べるわけではない。

でも、この世界を席巻するこのファーストフードは、
実はアメリカ南部の黒人奴隷達が生み出したと知って、
恥ずかしながらイメージが180度変わってしまった。
そのきっかけが上記の本。

白人が捨ててしまう手羽先やあばら骨の部位を
ディープフライにして、骨ごとおいしく食べる。
それが農園で働く黒人奴隷たちの栄養となった。

筆者はアメリカ南部をソールフードを求めて
食べ歩くのだが、そのときの食堂の描写が
南アフリカの居酒屋「シェビーン」を思い出させた…。


南アフリカを訪れたのは大学3年のとき。その最大の港湾都市・ダーバンのツアーに参加したときのこと。都心の施設をひととおり観光した後に、郊外の黒人居住区「タウンシップ」へと向った。

夕暮れ時。薄暗く影の落ちる丘陵地帯に一面のバラックやこじんまりした家が無数に立ち並ぶ。その路地を奥へ奥へと入っていったところで、突然車から降ろされた。
不安になってこわごわと歩いて行くと、道に遊んでいる子供達と、仕事がえりと思われるおじさん達が群らがっていた。彼らは人懐っこく話しかけてくる。こわばっていた表情も、なんだか無邪気に笑ってしまう。そんな夕方路地で遊んでいる子供たちを見ていると、異国ながらどこかで見たことのある光景にも見えた。


さて、ガイドの英語がうまく聞き取れなかった僕は、いったいどこへ歩いて行くのかわからない。一瞬まぎれた不安がよみがえってきた。しばらく身をこわばらせてついていくと、とある民家に案内された。
わりと広い空間。独特の黄土色の壁。数卓のテーブル。そしてそこには夕食が用意されていた。「民家なのになぜ?」と思っていると、急に音楽が流れ出し、お酒が振舞われ、次第に沢山のお客さんが出入りするようになった。しばらく首を傾げていたが、突然のどの骨が取れたように納得がいった。
なるほどこれがうわさに聞いていた居酒屋「シェビーン」なのだと、

合点がいったところで早速夕食にありつく。クスクスのような小麦の食べ物を、煮たトマトや香草と手掴みで絡めて食べる食事は、シンプルな味で僕にはとてもおいしく感じた。それまでの緊張感も解けてお酒も入り、気持ち良い気分で会話を始めている。なぜか近所の黒人のおじさんとも、仲良くなってしまった。

その彼がポツリと言った。
If you are right,don`t fight.
If you are not right,you fight.
文法はでたらめ、だけどなんとなく言わんとしていることは伝わってきた。

だってこのダーバンはモハンダズ・ガンディーが初めて非暴力・不服従運動を組織した土地。その精神が反アパルトヘイト運動に継承されたとしても、何ら不思議ではない。その精神性の真髄を言っているような気がしたんだ。


簡単な英単語でここまで意味深な言葉を
ただ近所のおじさんが語った南アフリカという国に、
改めて深く感じ入った出来事だった。

そうやって「シェビーン」での夜は暮れていった…。