2005年10月30日

とりあえずビール

「どうも。編集長の片岡一隆です。これから皆さんと雑誌をリニューアルするために、尽力する所存です。ま、硬い挨拶はこれくらいにいたしまして、まずは乾杯と行きましょう。そこの君、冷蔵庫からビール持ってきて! 安心してください、皆様。ビールはわたしのおごりです。エビスで乾杯といきましょう」
 全員がざわついた。え、こんな真昼間っから飲むの? っていうか、この冴えないオヤジが編集長? それ、ヤバいんじゃ。仮にも女性誌だというのに、ヤバいんじゃ? 姉御が渋い顔をするわけである。レオンオヤジどころか、これじゃスポーツ新聞オヤジじゃないか。
 ともあれ、わたしも下っ端なので、あわてて冷蔵庫に走る。……マジだ。エビスビールが冷蔵庫いっぱい、ギシギシになるほど、詰め込まれている。仕事はとにかくスピードだ。お盆に載せて速攻で運ぶ。
「缶のままでよろしいでしょうか?」
 すると編集長はご満悦な様子でうなずいた。
「うん。いいよ。配りたまえ。よし、それでは皆さん、リニューアルを祝して。乾杯!」
「か、かんぱーい」
「皆様のノルマは企画ひとつで1人1万人の読者を引っ張ってくることであります! 編集者ひとりにつき、ノルマ1万人。これで雑誌はあっという間に十万部であります!」
 ビールで乾杯しながら、頭がクラクラくる。ここは本当に真っ当な編集部の企画会議の場なのか? ねずみ講の勧誘集会にまぎれこんでしまったような気分なんですが、どうだろう。
「いいかー、一人企画ひとつで1万人だぞ! わかったかあっ、わかったら返事だ」
「はいっ」
「よーし、わかったら飲め! どんどん飲め、飲んでいい企画だせえ!」
 この人、前の出版社ではなにやってたんだろう。そんで顧問は、なにを思ってこんな人を編集長に呼んできたのか?
 これが、わたしの地獄行脚の日々の始まりだなんて、このときは思ってもみなかったんである。

つづき


麦酒の家の冒険


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