ニコニコ動画の「歌ってみた」から人気になった歌手がメジャーデビューを果たし、それがオリコン週間ランキングの9位に入ったと言うニュースがヤフーのトップページに出ていた。なんでも13,000枚を売り上げたらしい。CDが売れない売れないと言っている中でのこの快挙は注目を浴びそう。そう言えば民主党代表選では小沢一郎がニコニコ生放送に出演し、その映像がNHKのニュース7で流れるという一幕もあり、なんとなく世間一般にニコニコ動画の存在感を知らしめるニュースが結構出てきているような気がする。

 それはともかく、ニコニコ出身のアーティストがオリコンで9位になったと言うのは普通に凄いことだと思う。僕は本人のバックグラウンドをよく知らないのだが、1つにはニコニコ大会議の存在も大きかったんじゃないかと思っている。大会議と銘打ちつつ、その実態はライブイベントであり、出演者はあの舞台を通じて色々なことを感じ、経験することが出来たのではないか。その中で、より本格的に音楽を目指したいと思う者もいれば、やっぱり趣味の延長線上で、ネットで色んな人に聴いてもらえればそれで幸せかなと考える者もいて、そのどちらもアリなんだよと教えてくれているのがニコニコ動画なのだと思う。だから、今回の9位と言うのは象徴的な出来事ではあるのだが、決してそこがゴールではない。行き着く先がメジャーデビューという既存の路線上にあるなら面白くもなんともない。そういう道もあるというだけの話だろう。

 これまで自分の作品を世に知らしめるには、大体はマスな媒体にのるしか道が無かったが、今はそうではなくなった。金を稼ぎたいなら話は別だが、それ以外の価値を得るならネットで十分で、その最もポピュラーなプラットフォームとしてニコニコ動画は不動の地位を確立したと言って良い。今後どれだけ素晴らしいインフラを備えた大資本が参入してこようと、これまでに築いてきた人的、文化的資産を奪うことは不可能だろう。証券会社のように、手数料が安くなればホイホイ移るというもんではない。

 よく大会議などのイベントをして、金の無駄遣いだとか経営陣の道楽だと文句を垂れる株主様もいらっしゃるようだが、あれは長期的に見てユーザー=クリエイターを囲い込むのに絶対に必要な投資である。この時期は1人でも多くのニコ厨を獲得することに全力を挙げるべきで、そのための費用は惜しんではならない。黒字化などいつでも出来るのだからどうでもいいというのが、真にニコニコ動画の可能性を感じている株主の意見であろう。

 その意味で、ニコゲーの発表が行われると聞いた時、僕は少し不安を覚えた。これだけの会員数がいて、しかも有料会員が100万人に迫るほどの強固なファン層を持っているのだから、いずれはソーシャル的な仕掛けで利益を取りに行くのは必然の戦略だが、収穫の時期はまだまだ先だと考えていた。これまでの川上会長の発言などを見ても、そのあたりのことはしっかりと意識しているように思えて、ドワンゴ経営陣がきちんと長期的視野に立って物事を進めていることに大いに安心感を持っていた。それだけに、黒字化の余勢を駆って性急に事を運ぼうとしているのではないかと危惧したのである。

 だが、出てきたものは予想とは全く違う形をしていた。確かにアバターやアイテムを販売する仕組みはあるのだが、それを全面に押し出している感じはしない。あくまでもおまけの域を出ておらず、それがなければ攻略が進まないといった非情なシステムにはなっていないようである。そもそも、運営会社はニワンゴではなくスパイク(ドワンゴの孫会社)となっていて、ニコニコ動画のIDは使えるものの、サイトは完全に切り離されている。ニコニコ動画からニコゲーへの導線がほとんどなく、押し付け感が全くないのが素晴らしい。やりたい人だけ勝手にやれば?と言う具合で、これは恐らく現状でのベストなやり方なのではないかと思われる。

 大体、DeNAとグリーが熾烈な闘いをしていて、そこにmixiも海外大手を巻き込んでの不毛なソーシャル三国志が展開されているところに、今更正攻法で入っていくのは頭が悪すぎる。蛮族は蛮族らしく、ひたすらに我が道を行くのが蛮族としての正道だろう。果たしてニコゲーがこれからどういう進化を遂げ、それがどれほど利益に貢献するのかは全く未知数というか正直なところ期待薄なのではあるが、収益化を狙いすぎてユーザーからの離反を受けると言った最悪の事態とは無縁でいられそうで、その点はとても安心した。

 今週はkawangoがなにやら吠えて物議を醸しているようだが、あまり余計なことは言ってくれるなと思う。この世界では目立ったら終いと言っていたのは彼自身である。これまで通りのダークホース的な位置取りをしっかりと保ってもらいたい。マネタイズレースにおいてはDeNAもグリーも既にムチが入って一杯の状態であり、あんなものは放っておけばいずれ勝手に失速する。グルーポンを見てもわかるように、この業界は儲かるとわかれば一瞬でマークされて厳しい戦いを強いられることになる。カネの匂いをできるだけ抑えて自由が効く間にやれるだけやっておき、気付いた頃には根がびっしりと蔓延っていて手がつけられない状態となっているのが理想的なのである。