ソフトバンクモバイル株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ

 というリリースが本日発表され一時騒然となったわけですが、今やガンホーといえば国民の約10人に一人がプレイしている計算になってしまう「パズドラ」の空前のヒットによって市場内外で大変な話題となっており、その注目度の高さを改めて印象付ける一件となりました。

 さて、いきなりTOBってことで何千億円が動くのか!?とにわかに色めき立ったわけですが、よくよく見てみるとこれ大した話じゃありません。そんな難しい話でもないので、簡単に解説してみます。

 まず最初に、TOB価格が340,276円(25日終値4,350,000円)であることについてですが、これは株式の10分割(分割後の株価は1/10になる)を控えていることから、分割後の株価で示したものであり、実質的には340万円です。それでも終値よりはだいぶ安いですけど、直近1ヶ月で3倍と急騰していること、グループ間での取引であることを考えると別に普通かなと思います。

 今回の取引によってガンホーはソフトバンクの連結子会社になるわけですが、もともとガンホーの33.6%をソフトバンク子会社のソフトバンクBBが保有していたので、連結化するにはあと16.4%買えば良いという状況でした。しかしながら、ガンホーの時価総額は5000億円にも達しているので、それでもかなりの大金になりますし、現在の収益力が続く保証はなく、高値掴みのリスクも孕む取引になります。

 そこでソフトバンクが考えだしたのが、18.5%を保有する第二位株主のハーティス社から議決権だけを譲ってもらおうというやり方です。今回のプレスリリースには以下のような説明があります。

本覚書においては、孫正義氏が取締役を務め、その資産管理会社である有限会社孫ホールディングス(以下「孫ホールディングス」といいます。)からハーティス所有の対象者株式に係る質権実行の猶予を受けるために、ハーティスは、平成 25 年4月1日を効力発生日として、対象者の株主総会において孫正義氏の指図するところに従ってその所有する全ての対象者株式に係る議決権を行使する旨を合意するとのことです。この点、ソフトバンクは平成 26 年3月期第1四半期から国際財務報告基準(IFRS)を適用することとしており、その結果、本覚書の効力発生により、ソフトバンクが全ての議決権を所有するソフトバンクBB株式会社(所有株式数:387,440 株、所有割合:33.63%、以下「ソフトバンクBB」といいます。)及びソフトバンクと緊密な関係がある孫正義氏と合わせて、対象者株式の議決権の過半数(ソフトバンクBB及びハーティスの所有株式数の合計 600,520 株に係る議決権:600,520 個、議決権所有比率(注3):52.13%)を占めることになるため、対象者はソフトバンクの連結対象となります(注4)。 

 説明によると、ハーティスは保有する議決権の行使を孫正義氏に一任することで合意したそうです。つまり、実質的にハーティスが持つ議決権18.5%は孫正義氏=ソフトバンクのものとなり、これをソフトバンクBBの持分33.6%と合算することにより52.1%となって、その結果ガンホーはソフトバンクの連結対象となる、というスキームのようです。

 しかし何故ハーティスという会社は、孫正義氏に18.5%もの議決権を移譲する契約を結んだのでしょうか。それはリリースにある「ハーティス所有の対象者株式に係る質権実行の猶予を受けるために」という一文がヒントになっています。実はこの会社、元は孫正義氏の実弟でガンホー会長の孫泰蔵氏が、ガンホーの主力タイトルであるラグナロクオンラインの開発会社、韓国Gravity社を買収するために設立した投資会社なのです。過去のリリースによると、代表は孫泰蔵氏で従業員数は1名とあります。そして、その資金源となったのが孫正義氏の資産管理会社、孫アセットマネジメントです。孫泰蔵氏によるGravity買収は、05年に行われました。

「RO」開発元のGravity、孫泰蔵氏らの傘下に
Gravity 複雑怪奇な資本関係

 古い記事ですが、この辺りを参照するとなんとなくわかるのではないかと。テクノグルーヴからどのようにハーティスに渡ったかは調べきれませんでした。

 当時のガンホーはラグナロク一本足打法だったので、その開発会社を抱え込むことは経営上とても重要な課題でした。なので、最終的にはガンホー自身がGravityを買収することになります。しかし、ガンホーは新興企業なので資本が薄く、直接購入する資金力はありませんでした。そこで08年に行われたのがハーティスへの第三者割当増資です。ハーティスに新株を発行する見返りとして、ハーティスが保有するGravity株を現物出資してもらうことによりガンホーがGravityを手中に収めることになったのです。現在ハーティスが第二位株主として保有する18.5%分のガンホー株は、この時のファイナンスによって出てきたものなのです。

 つまり、孫正義氏が資産管理会社「孫アセットマネジメント」を通じて融資した資金によって、弟の孫泰蔵氏が後の「ハーティス」で韓国Gravity社を買収。そのGravityをガンホーが新株を対価としてハーティスから取得したという流れなので、ハーティスが持っている18.5%のガンホー株は、元をたどれば孫正義氏の資産ということになるわけです。

 ここまで来ればもうお分かりかと思いますが、プレスリリース中にある「有限会社孫ホールディングスからハーティス所有の対象者株式に係る質権実行の猶予を受けるために」という部分を意訳すると、「元は俺(孫正義氏)の金で買った株なんだから、その議決権は俺が自由にして当然だよね?」との意味になりますね。

 要するに、こんな取引をせずとも、遥か昔からガンホーはソフトバンクBBと孫正義氏が実質的に過半数の議決権を握っている会社だったのです。今回は、それを会計上で反映させるスイッチを押したに過ぎません。

 こうすることで、ソフトバンクは多額の買収資金を使わずとも、急成長を遂げたガンホーの成長力を連結決算に取り込むことが出来ます。このスキーム自体はいつでもやることが出来たのでしょうが、かつては時価総額に見合わない実力しかなかったガンホーがソーシャルゲームの王者となりつつある現況を活用する方向に判断が傾いたということでしょうか。

 では肝心のTOBは何なのかと言いますと、第三位株主で孫泰蔵氏が代表を務めるアジアングルーヴ合同会社から6.4%ほどだけをキャッシュで買い付けます。この会社はガンホーのIPO時から変わらず株式を保有しています。ガンホーは既にソフトバンクの持分法適用会社なので、買い増しするにはTOBの形式を取らなければならないということですね。そして連結子会社の定義として「ある会社が他の会社の議決権を40%から50%を所有し、かつ、ある会社と同一の議決権を行使する者との合計した議決権が50%超となるとき」(参考サイト 1 , 2)とあるので、40%は直接持っていないと議決権の移譲によって50%超となっても連結子会社と認められないものと思われます。

 今回の取引でソフトバンクモバイルが買い付けるのは73,400株。ソフトバンクBBが元から所有する株式387,440株と合わせると合計は460,840株。ガンホーの議決権総数は、ストックオプション加算後で1,152,010個となるので、460,840/1,152,010=40.003%となり、ほぼぴったり一致します。これにハーティスの18.5%を加算すると58.50%になりますが、足りなかった16.4%を丸々買うよりはずっと安く済みます。

 というわけで、ディスカウントTOBだー!と騒がれましたが、実際のところ身内であるガンホー現会長、孫泰蔵氏の会社から6.4%のみを買い付けるだけの話で、かつ支配権も実質的には変わっていません。恐らくソフトバンクの会計上の都合である可能性が高いと思われます。同時に2月の月次売上高が100億円となったことも発表していますので、株価的にはそちらの方が重要なのではないでしょうか。

 長くなりましたが、今回の件は調べていて面白かったのでせっかくだからまとめておきました。ハーティスとGravityの件を覚えていたのでそこから辿りましたが、いやよく考えてあるなーと。これによってソフトバンクは、ガンホーの含み益として1,700億円の利益を計上することになるそうです。