モノ言う株主として一世を風靡した村上世彰さんが証券取引等監視委員会の強制調査を受け、大きな話題を集めています。昨日は大引け間際にその一報を聞いて、関連銘柄をショートしました。こういう瞬発力の求められるトレードを得意としない私が、今回ばかりはすぐに反応できたのも何かの因縁かもしれません。

 私が村上さんの存在を知ったのは今から10年前、村上ファンドが阪神電気鉄道の買収に名乗りを上げ、表舞台で大々的に取り上げられた時のことでした。当時、阪神電気鉄道は連日の大幅高で急騰していましたが、材料は阪神タイガースが優勝間近であることぐらいしかなく、市場でも概ねそのように解釈されていたと思います。

以下、クローズアップ株式さんから画像を引用します。


阪神百貨店ストップ高!阪神電鉄は8.99%の上昇! タイガースマジック点灯効果はすさまじい

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阪神電気鉄道ストップ高。出来高も尋常ではない。

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阪神電鉄が二日連続でストップ高です! 

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 そこで、信用取引口座が開設されたばかりだった私は、「これは近いうちに材料出尽くしで下がるに違いない」と確信し、初めての空売りポジションを取りました。なまじ企業業績に関心を持っていただけに、ファンダメンタルズではとても長期的に維持できない株価にあると考えたのです。

 ところが、9日27日の昼休み中にニュース速報が流れると状況は一変します。 村上ファンドの介入が明らかになったことで、後場から寄らずの買い気配となり、株価は3日連日のストップ高。大幅な株不足に陥っていたこともあって、800円程度の株価に対して4日で80円という超高額の逆日歩がつき、これが多くの売り方の心を折りました。


阪神電鉄3日連続ストップ高。村上ファンドによる株式大量取得の影響あり。

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 その時の私といえば逆日歩はおろかTOBという言葉でさえロクに把握しておらず、第一報が入った時も、それが自分を含む売り方が処刑台に送られたことを意味するのだと言うことを即座に理解できませんでした。

 翌日は終日の寄らずストップ高。気配の出る朝8時15分から大引けの15時まで、祈るような気持ちで無慈悲な買い気配を見つめていました。特に大引け前は、ここにぶつければ利益が出るのだから爆弾を落としてくるかもしれないと期待しましたが、そんなことは当然起こりませんでした。


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 その日の夜、大幅に毀損した口座残高を見ながら、ようやく事態の深刻さを飲み込んだ私は様々な計算をしました。後もう1日ストップ高したら、口座の数字はマイナスになります。しかし、どう考えても今は異常な高値。ここを凌げば損は大きく減らせるという見立てもできるため、長期戦に備えて金策も考えました。

 でも、万が一さらに株価が上がっていき借金した分まで失ってしまったら、学歴も職歴もない自分が再び這い上がることは困難になる。だから、借金だけはどうしてもできないと思いました。数日後には追証で強制決済になることは既に決まっており、後はどれだけ被害のマシなタイミングで損切りできるかという撤退戦の覚悟を決めました。

 そして速報から2日後の9時台、ようやく売り注文と買い注文が全株一致して、売り方は長い長い買い気配から解放されます。この日は1000円台に入ってストップ高の値幅が200円に拡がっていて、始値は丁度その半分の+100円からのスタートでした。

 この寄り付きで、私は前日のシミュレーションに従ってポジションの一部を損切りしました。残りは少しでも株価が下がったところで外して多少なりとも口座にお金を残す算段でしたが、寄り付きから株価は怒涛の勢いで上がっていき、わずか10分でストップ高に到達します。

 1500円までは行く、いやいや2000円まであると言う声も聞こえる中で、その勢いはまるで株価が永久に上がっていくような恐怖感を売り方に与えました。「もう1日張り付いたら借金になる」。その未来を想像した時、私には成り行きでポジションを決済する以外の選択肢は残されていなかったのです。

 結局、私は1245円のストップ高で残りの玉を損切りしました。終値は前日比-115円の930円。まさに歴史的なド高値でした。10000株のうち3000株を寄り付きで買い戻し、残り7000株を1245円のストップ高で買い戻したわけなので、もし残した分を大引けまで我慢することができれば220万円違っていました。開戦前の資産が600万円強で、全てが終わった時の口座残高はほとんどゼロでしたから、あまりにも大きすぎるワンクリックだったと言えます。


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 その後、還付金で戻ってきた資金に給料を足してある銘柄で勝負をし、運良く大きな当たりを引けたので比較的早期に相場に復帰することができましたが、 村上さんに退場させられた直後は、絶対に復活して倒してやる!などと思ったものでした。

 ショートした2銘柄は今日の寄り付きで買い戻しました。全くの偶然ですが、利益額はほとんど600万円ぐらい。今となってはその重みもまるで違いますが、なんだか10年かけてあの時の損を返してもらったような気がして、思わず文章を書きたい衝動に駆られました。

 個人的には、コーポレートガバナンスコードの導入などもあって10年前よりも風向きが良い方に変わっていると感じていたので、こんなことになってしまったのは残念です。 良くも悪くも、その後の10年間お茶の間に株式市場のことがあれほど話題に登ることはなかったので、そういうダークヒーローが一人ぐらいいた方が世界は面白いんじゃないかという気はします。


村上さん