01
ハーヴィン特有の小さな体躯がそう見せたのだろうか。
少女はぽっちゃりした体型を友達にからかわれ、独り、湖のほとりで泣いていた──

……ううう……ひどいよ……
あんなこと、言わなくてもいいのに……
……どうして……ううう……


愛らしいまつげにひっかかった涙が一つ、雫となって湖に落ちる──
哀しみのたくさんつまった雫は湖面に小さな波紋を生んだ。
それはみるみる広がって、やがて湖を覆い尽くしていった。
その時──

02
どうしたんですか? どうして泣いてるんですか?
……誰?
ほら、顔を上げて。 一緒に歌いましょう。
03
……え、歌う? そんなの、恥ずかしい……
ほらほら、みんな待ってますよ。
!?
04
05
06
(……何これ……すごい……あの女の子達、かわいい……)
(リルルも、あの子達みたいにキラキラになってみたい……)
(あの女の子達みたいにかわいくなりたい!)


時を経て、現在。 ポートブリーズの小さな町──
町の小さな広場から、荒くれどもの怒声が響いてくる。

07
テンメェ、何度言ったらわかる!
ここはオレ達、団のシマだって言ってんだろうがぁッ!

08
テメェらじゃ無理だっつってんだよ!
今日からここは、オレ達、親衛隊が仕切ってやんよ!

上等だ、やれるもんならやってみやがれってんだッ!
09
ひぃぃぃッ!

町の人達の悲鳴が、ちょうど傍を歩いていた冷凍マグロ一行の耳に届いた。

10
なんだぁ、あの人だかり? 言い争ってるみてぇだぞ。
あ、たいへんです! 町の人達が巻き込まれてます!
そいつぁまずいな…… おい、止めにいくぞ。

慌てて駆け出す冷凍マグロ一行。 その時、不思議な音楽が鳴り始める。

11
聴いてください……
「夢色☆キセキ」

12
目をつむれば キミの笑顔
まぶたのうらで キラキラしてる
あの日出会った ときのまま
見えてますか ボクの色
キミがくれた 夢の色
あの日もらった 夢色キセキ


13
なっ、何だあれは? 見ろ、何やらおかしなことに……

そう言ってカタリナが指したのは……
さっきまで取っ組み合っていたのに笑顔で肩を組み合う荒くれの姿だった。

14
L・O・V・E! ラブリーリルル!
待ってたぜぇ! リルルちゃーん!

15
イエァァァァァァ!!!!
わーっしょい! それわーっしょい!

16
な、なんだ……?
こいつらさっきまで、喧嘩してなかったか?

17
へッ、目ぇ見りゃわかるじゃねぇか……
こいつらは同志なのさ、同じ夢を追っかける、な……
ただ、アツイもんを持ってるがゆえに、ふとしたことでぶつかっちまう……
青臭ぇが……イイもんだろ、なぁ?
18
い、いやまぁ……それはともかく、もう艇に戻ろう、オイゲ──
オイゲンッ!?
19
L・O・V・E! ラブリーリルル!
オレ達の、リルルちゃーん!

な……何をやっている? オイゲン? ラカム?

20
いやぁ……
ついついあてられちまったな…… 若い熱気ってやつによ。

21
ふーん……

22
し、信じてくれ! あの歌のせいだ!
聞いてると気持ちが昂ぶっちまって、妙な力が湧いて、身体が勝手にだな……

ああいう熱気にゃ昔っから弱くってなぁ。
ついついノっちまうんだ、ついつい、な……

23
グッズを購入して、握手会に並んで、サインまでしてもらって……
よくもそんなことが言えたものだな。

24
だからそれは歌のせいだって! さっきから何度も言ってんじゃねえか。

まったく……どうだかな。 まぁ、意外ではあったが、良い息抜きには……
……ルリアちゃん? ルリアちゃんだよね?

振り向くと、そこには先程歌っていたハーヴィンの少女が立っていた。
しかも、何故か目に涙を浮かべて──

25
えっと……あなたは……
さっき歌ってた人ですよね……?

26
はい、リルルです! 会えました、やっと会えましたね!
え、待ってください。 どうして、私のこと知ってるんですか?
27
もー、何を言ってるんですか。
あの時「キミとボクのミライ」を歌って励ましてくれたじゃないですか。
えっと……あのとき? きみとぼくのみらい?

戸惑うルリアをよそに、特に頼まれたわけでもないふたりが
ノリノリで説明役を買って出る。

28
ああ、そいつはアレだな。リルルちゃんが昔、湖で体験した奇跡のステージのことだ。
リルルちゃんはなぁ、
そんとき出会った青い髪の少女に憧れて、今日まで全力疾走してきたんだ。

その青い髪の少女になりたくて、
当時ぽっちゃりだったのを一生懸命ダイエットまでしたんだぜ?

29
それでついた愛称が細身のプリンセス、略してホソプリ。 おう、これ豆な。
君達、いやに詳しいな?
ったりめぇよ! この聖典──
もとい、公式ファンブックにしっかり書いてあんだろうがよ。

30
ああ、これくらい常識だよなぁ?
やれやれ…… すっかり彼女の虜のようだな。
冷凍マグロは、彼女の歌をどう思う?

>騎空艇で全空ツアーだ!
31
本当ですか、団長さん!?
リルル、全空ツアーは夢だったんです。
それも、憧れのルリアちゃん達と一緒にまわれるなんて! 感激です!

32
まったく…… 虜になるのは良いが、旅の目的は忘れてくれるなよ。
ところで…… 他のメンバーの方はどこですか?
33
他のメンバー? なんのことだ?
ほら、「キミとボクのミライ」を歌っていた、ルリアちゃん以外の……
34
えと、その……
きみとぼくのみらい? っていうのも、何の事だか、さっぱり……

35
そんな……う、嘘ですよね?
だってルリアちゃん達は、リルルの……リルルの憧れなのに……!
お、おい、落ち着けって! どうしたってんだよ?

一行はリルルを落ち着かせるが、リルルは放心状態で、この状況を受け入れられない。

36
いじわるしないでください……
だってルリアちゃん達は、「キミとボクのミライ」を……

37
う~ん、しかし確かに、リルルちゃんがさっきから言ってることはどうも的を射てねぇな。

あ、ああ…… ルリア達が、リルルちゃんみたいに、歌を歌ってたって言われてもなぁ……
38
リルルちゃん…… こう聞くのは、失礼かもしれないが……
君は私達を別の者達と、勘違いしているんじゃないか?

39
そ、そんなハズないです!
ね! そうですよね!? ルリアちゃんっ!!

40
ごめんなさい……
リルルちゃんが何を言っているのか、私にもわからないです……

そん、な……

ショックを受けた様子のリルルは、その場にへたり込んでしまう。

41
いつか……いつかリルルも、あの子達みたいにキラキラしたいって、
リルル、ここまで頑張ってきたのに……
ここで…… こんな形で…… リルルの夢は……

42
終わらないさ……そうだろう?
え……?
それだけ憧れた相手なら、もっと気の済むまで、探し続けてもいいんじゃないか?
43
でも……
でも、リルルが憧れたあの子達は、もしかしたら、この世界には……

44
だったら一緒に行きましょう! 私達と一緒に!
それで一緒に、その子達を星の島まで探しに行くんです!

45
確かにそこまで探しに行きゃあ、
リルルちゃんの探してる奴らも、流石に見つかるんじゃねーか?
で、でも…… 星の島なんて、大昔の伝説で……
そうとも言われているな…… だが、私達は行くんだ、そうだろう? 冷凍マグロ。

カタリナの言葉に、冷凍マグロは、力強く頷きを返す。

46
俺達の団長は、諦めるってことを知らねぇからな……
行くって決めたら、もう曲げねぇんだ。
47
なぁ、どうだ? リルルちゃんよ。
その憧れの子達について、も少し一緒に探してみねぇか?

48
……はいっ!
リルル…… まだもう少しだけ、頑張りますっ!
夢を追うのをやめるのは……
普通の女の子に戻るのは、まだまだ先になっちゃいそうですね。

そう言ってリルルは、幸せそうに微笑む。
その笑顔は、男女を問わず虜にしてしまう、温かな魅力にあふれているのだった。

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