唇からナイフ もしくは余計なお世話

イヤなものは嫌。御迷惑と知りつつだいたい毎日、憎まれ口満載でやらせて貰います (ほぼ古本状態だったが気が変って少しずつ書き足すことにした/13年9月)

橋善


前回、ふと「橋善」の名を出した。懐かしい。記憶が消えて無くなる前に書いておくことにした。
初めて入ったのは73年頃である。古い木造家で暖簾をくぐると左手に帳場。そこに坐る老主がよく通る澄んだ声で、こんな駆け出しのガキにも、――いらっしゃいまし~~――と綺麗に迎えてくれる。一階の卓がいっぱいだと――お二階へ~~――となる。
二階へ上がるとそこは巨大な畳の入れ込みであり、割烹着の女中さんたちが忙しなくうごいている。俺たち平サラリーマンは当然一番安い『並天丼』600円である。海老、烏賊、キス(野菜失念)。キツネ色にカラリと揚げた衣に濃いタレが絡んでうまい。白い衣に薄いタレをひたひたにかける関西や中京圏の天丼とは天丼が違う。
丼は並丼、中丼、上丼、そして大名物の掻き揚げ丼となるわけだが、こないだも書いたように掻き揚げ丼は賞与支給を待って喰った。巨大岩石の如しかき揚げが丼上部からどかんと顔を出し天を仰ぐ雄姿はここならではのものだ。箸を入れれば表面の岩とは逆に柔らかいレアな衣のなかに見事な芝海老がざっくざく。
何時喰っても寸分違わない材料、飯とタレとのバランス、喰い手には知るよしもない仕入れ仕込みに鬼気迫るものありと今更ながら想う。
大満足ののち勘定をすませ暖簾をあげれば――有難う存じます~~――の美声。このあるじの声も忘れられない。
やがて橋善は代が変わり、バブル期に、相続対策なのか将来設計なのか、誰かにそそのかされたのかはいざ知らず、ビルに建て替え、テナントを持ちながら一階二階で営業したが、驚いたことにその時も味は全く変わらなかった。
味は変わらなかったが帳面はバブル崩壊で如何ともしがたい状態になっていったのだろう。ある日立ち寄ると、看板を下ろしていた。

鰻屋と予約


前回、鰻「喜多川」の大迷惑な予約ルールをくさしたわけだが、「鰻屋と予約」と言えば、そうだあのことを書いておかねばならん、とはたと思った。
そう、錦三「いば昇」のことである。
現在只今はいざ知らず、俺らが安サラリーマン時代の昔、このうちは予約絶対不可!の鰻屋であった。当時で櫃まぶしたしか1
,900円ではなかったか。地域が無分別に飛ぶが新橋「橋善」の掻き揚げ丼が1,600円(いずれの値段もいい加減なイメージ的記憶による 笑)だったから、いかにも高額なのがわかる。
どっちもボーナス支給時しか行けなかったなあ、と涙するわけだが、余談さておき、この予約絶対不可!の家に昼食時、一切並ぶことなく、待つことなく、どうどうと入り櫃まぶしを喰う背広のならず者たちがいた。
代議士と接待側の企業経営者たちである。彼らは玄関内の路にずらりと立って待つ善良な客の前を悠然と通り過ぎ、当たり前の面で入れ込みの座に着くのだった。
いったいなんでそのようなことができるか。ダミー客が座を押さえているのである。会社の下っ端四人が開店前から一番に並んで一等席を確保しているのである。
やがて代議士は名古屋駅に到着、迎えのクルマで錦三へ向かう、と、そのころ店では注文が完了、代議士たちが着くと同時に惨めな下っ端はお役御免で入れ替わり、ほどなくしてまぶしが運ばれるという寸法。
これはその接待側の経営者から聞いた
the true storyである。接待とはこういうことをいうんだ、と彼は自慢気に語ったけれど、果たしてその日「いば昇」で善良な客を出し抜いて鰻を喰った人々はその後幸せな人生を送ったのだろうかと俺は想うのである。
また、下っ端ダミー四人はその後どうなったか。こんな下衆な会社など、とケツをまくって辞めているか、はたまた必死で定年までしがみついているか、そんなことは知らないけれど、どちらにせよその悲惨な経験は彼らの一生の傷である。
接待自慢の経営者の迂闊さはそれに気づかないことだ。

鰻屋め


椎名誠に『殺したい蕎麦屋』なるエッセイ集があるが、本日はそんな気分にさせた鰻屋の話。四日市で人気の「喜多川」である。味のことではない。入店の仕組みに怒れた。
この家はなぜか非常に人気で11時半の開店と同時に一瞬で満席となり待つことになる。玄関をくぐり帳場で名前を書いて待つわけであるが、そこは調理場から通る風が吹き抜けてたいへん冷える。それはまあいい。待つのも仕方ない。一回転目に入った客は多分11時前には来て待っていただろうから。
俺が言いたいのは、そのあと予約を告げて入っていく客が続々と来ることがおかしいだろと言いたいのである。いや、予約がイカンと言っているのではない。そのルールに文句がある。

――ご予約承ります。三名様以上。平日のみ――

という微妙なルールが混乱をきたすと言いたいのである。
つまり6人、7人のサラリーマングループやら大人数の家族連れが、寒さで震える少人数の客を抜いて意気揚々と入っていくのである。大箱とはいえそこまで広くはない鰻屋に昼食時こういうグループの予約が入っていたらどうなるか。答えは明白。昼休みの時間帯には普通の人は喰えないということ。
つまり11時半の口開けから13時の間は入れないことを覚悟して行かねばならないし、それが分かっていたら俺は絶対に行かなかった。11時半に着いて約三組の待ちだったから待つことにしたのである。それが実は数十人の待ちだったのである。
予約OKなら何人だろうと受けるべきだし、予約不可なら不可で徹底すべきだ。三人以上などというみみっちい鰻屋根性が許せない。椎名誠がふと立ち寄ることを期待している。
で、肝心の味はどうだったかって。そんなの忘れた。

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