2010年09月15日

患者・体験者としての市民

一昨日、青森での乳がん講演会を紹介した中で
・・・私は「HANAさんという市民」がこういう講演会に出て話すということの
意義深さを改めて考えさせられました・・・と書いた。
このことは私が乳がん患者になり、サバイバー(体験者)として生活してきた中で
折りに触れ、考えさせられてきたことだった。

毎年新たに3万5千人が乳がん患者になるという。
これをたとえば10年累計しただけで35万人。
それだけの数の乳がん患者あるいはサバイバーが今現在この瞬間に
この日本にいることになる。

がんを告知されて死の影におびえ、手術に不安と恐怖を覚え、
抗がん剤の副作用に泣き、痛みに耐え、再発を恐れ、出産をあきらめ、
再就職に不安をかかえ、子どもの将来を憂え・・・・と
現在形で苦しんでいる女性たちがいる。
またそれらの困難を乗り越えて、(再発の不安を抱えながらも)
今は仕事に生きがいを見出したり、音楽やスポーツに元気に取り組んだり、
家族と楽しい生活を送ったり、地域の活動に精をだしたり、
病を得たからこそ新たな貴い友情を得、人生の深い意味を知り、人の愛を知り、
家族や友人とのきずなを再確認して充実した毎日を生きている女性たちもいる。
そういう女性たちが少なくとも35万人もいるのだ。

先日、「ピンクリボンキャンペーンについて考える」のエントリーで書いたことの
繰り返しになるが、予防啓発運動は重要。
だが、同時にこれらの今現在を闘っている女性たちへのケアもとても重要な
課題ではないだろうか。
 
私自身の2年前を振り返ると、私を支えてくれる家族も友人もたくさんいたけれど、
どうしても健常者とがん患者との間の認識のギャップに苦しむことがあった。
皆が私のことを心配し、理解しようとし、手を差し伸べてくれているのは
痛いほど分かっている。それでも「私の本当の気持ち」と「私が周囲に見せている
気持ち」の間にはギャップがあった。
それはほんの髪の毛一筋ほどのギャップであるし、無い物ねだりであることも
十分分かってはいても、それでも他者に分かってもらえないという不満があった。

そんな時にたどりついたのがHANAさんの掲示板だった。
そこには「乳がん」というキーワードで多くの女性たちが集まっている。
告知されたばかりの人、母親が乳がんになったという娘さん、一応の目安とされる
5年を経過した人、再発の不安におびえている人、また、乳がんのタイプ、
ステージだけでなく、年齢も職業も性格も趣味も違う人々の集まりだ。

掲示板に参加するようになってすぐに気がついたのは
ここには一つの大きな不文律があること。
それは「ここではどんな愚痴を言ってもいい、泣きごとを言ってもいい」ということ。
時には告知されたばかりの人の「血の涙で書いた」ようなトーンの投稿もある。
そういう投稿にはすぐに誰かが「私もそういう思いをしたことがあるけど、
そこを通りすぎたら元気になったよ。あなたも絶対大丈夫!」と返事を書く。

以前書いたことだが「病人根性」と言うべき心理があって、健常者に
「がんばって!」と言われるとむかっとする(笑)。
でも、同じ病の仲間から「がんばって!」と言われると、素直にがんばって
みようという気になる。

HANAさんの掲示板は苦しみやつらさを訴えた人が次には新米の乳がん患者の応援に
回っているという点が大きな特徴だと思う。
初めは自分のことしか考えられなかった人が後から来た人へのアドバイスをする。
つらいと訴える人に必ず誰かが「大丈夫よ」と声をかける。
その誰かも1年前、2年前にはきっと泣きごとを書いたのだろうと思う。

またこの不文律とともに大きな特長となっているのが「掲示板に権威者がいない」と
いうことだと思う。
管理人のHANAさんは掲示板管理人に徹していて、投稿者への「助言者」ではない。
助言者は掲示板に参加している一人ひとりなのだ。
同じ病の女性たちが本音をさらけだして語る、そのことで癒され、勇気づけられ、
立ちあがっていく。これこそまさにピアカウンセリングである。

またこのピアカウンセリングはインターネットだからこそ可能だったということも
言えるだろう。現実の生活の中では自分のがんをカミングアウトすることは
健常者が想像する以上に難しいことだ。
私のような気楽な一人暮らしならともかく、子育て真っ最中の女性たちは
特に子どもへの影響を考えて顔で笑って心で泣いての生活をしている人も多い。
まだまだ日本ではがんというのは「閉ざされた世界」の話なのだ。
だからこそ、インターネットで匿名で(匿名=いい加減ではない)赤裸々に
自分の病状や思いを話して、それをそのまま受け入れてもらえるというのは、
本当に貴重な場だと思う。
またインターネットだと全国どこからでも自分の声を聞いてもらえるというのも
大変にありがたいことだと思う。 

ところで12日のイベント報告にもなってしまうのだが、
その時にがんを含む難病患者、その家族、友人などの話をいろいろ聞いた。
その会を主催されたのはあるお医者さんなのだが、その挨拶がとてもよかった。
ほぼ同じ内容がプログラムに載っていたので以下抜粋。

「27年前、私の母はある日突然、自分ががん患者であると知らされました。
27年前の同じ日、私は突然、自分ががん患者の家族となったことを知らされました。
母も子も、先の見えない不安と苦痛にうめき、押し黙り、耐えに耐える日々が
続きました。その翌年、母は他界し、私はがん患者の遺族となりました。
私が医学部の学生だったときのことです」

そして「がん患者としてがんという病気と向き合う日々はどうのようなものなのか。
家族や友人としてがん患者を支える日々はどのようなものなのか。
そのような貴重な闘病記は出版されても、出版されること自体、
ごくごく一部の人(ポー注:有名人・タレント・普通の患者でも脚光を浴びた人
などを指していると思われる)に限られていて、その内容もむしろ例外的な話が
多いのかもしれない」
「だから自分は普通の人々の真実の言葉、真実の記録をひとつひとつ集め、
共有し、いつまでも残すということを目標としたい」

私はこの医師の考え方に深く共感した。偶然だが、この話を聞く前に
「ピンクリボンキャンペーンにタレントはいらない。普通のがんサバイバーの
リレートークのようなイベントがほしい」とこの雨上がりに書いていたのだった。

有名人のがんカミングアウトや闘病記、講演などが、多くのがん患者を励まし、
元気づけているのも事実。ただそれが全てではないと思うのだ。
上記の医師が言う「むしろ例外的な話」というのは、私見だが、
たとえば私たち一般市民は自分で病気を疑った時でも診察の予約待ち、
検診結果を聞くのも1ヶ月先・・・なのに有名人の闘病記ではすぐに診察を受け、
手術も早く受けられる、などなど、私の経験とはかけ離れていることがある。

私たちがほしいのは等身大の声、私と同じような平凡な無名の市民の思い、なのだ。そういう声であってこそ、私たちは共感しあえるのだと思う。

そしてHANAさんの掲示板の意義はまさにこの「一般市民、平凡な無名の人々の
真実の言葉、真実の記録」であるという点にあるのではないかと思う。

luckiestducky at 13:53コメント(6)病気・健康・通院  

コメント一覧

1. Posted by くりりん   2010年09月15日 20:36
ポーさん、ご無沙汰してます。

HANAさん掲示板、そして皆さんのブログに支えられて
告知以前の暮らしを3年かけて取り戻した一人です。

本当にポーさんの書かれている一字一句に頷きながら読んでいました。

おっしゃる通り、あの掲示板には嘘偽りのない、真実の言葉と、HNと同じ数だけの生き様があるように思います。
掲示板に出会っていなかったら・・・今の私はなかったかもしれません。
6月に冷麺ちゃんが旅立ち、7月には同じ病院の仲間を見送り
到底耐えられないような状況に、「やっぱり生かされてる限り生きなくちゃ」と
なんとか顔を上げれたのも、同じ空の下、わかりあえる仲間がいるから・・・ほんとにそうなんです。

がんになったからこそ知リ得た想い・・・きっと生涯心に根付くのでしょうね。
これからもよろしくです。

2. Posted by ポー   2010年09月15日 21:49
くりりんさん
わ〜、お久しぶりです〜。
ブログ閉鎖は元気になったからとのことだったので
がっかりと喜びが半分ずつでした。
> なんとか顔を上げれたのも、同じ空の下、わかりあえる仲間がいるから・・・
なるほど〜。だから「空をあおいで」なんですね。
これからも空を仰いでいきましょう。
千葉の空と箕面の空、つながってるんですよね!
(箕面でしたよね?)
3. Posted by HANA   2010年09月16日 07:08
ポーさん 
ありがとうございます。

自分のサイト(掲示板)について、みなさんが、どんな風に思っていらっしゃるのか、なんとなくはわかっているつもりでも、こうして客観的に考察していただけると、改めて、自分の立居地を認識することができました。

常に自分に自信がないので、講演を引き受けたものの、「私なんかでいいんだろうか?」「私にいったい何が語れるというのだろうか?」と、ためらう気持ちがまだありましたが、ポーさんのブログを読んで、ちょっこし自信が持てました(笑)

本当にありがとうございました。

くりりんさんもありがとう♪
4. Posted by ポー   2010年09月16日 09:34
HANAさん
おはようございます。
> 常に自分に自信がないので、
何おっしゃってるんですか!?
何であっても14年一つのことを、それも自分の趣味ではなくて
他の人々のために続けてきたってこと、それだけですごいですよ。
私は初夏に重度心身障害者施設でボランティアを始めたんですが
猛暑でギブアップ、涼しくなったら再開しようと思っていたら手術・・・。
14年という歳月は本当にすごいです!
5. Posted by りんご@2008   2010年10月03日 13:07
ポーさん

 はじめまして?
HANAさんの講演でポーさんのコメントがご紹介されて、こちらにたどりつきました。
 掲示板への想いが本当に上手にまとめられており、私自分の表現できない想いが言葉になってストンとおちて、スッキリしました。
 ありがとうございます。

私も今浮腫に悩む1人・・・・興味深く拝見させていただきました。でも、地方では出来ないのかなー・・・・
6. Posted by ポー   2010年10月03日 17:18
りんご@2008年さん
こんにちは。HANAさんの掲示板ではよくお見かけしていました。
弘前での講演会に参加できて、OFF会も出来て
何てうらやましい!と思ってましたよ〜。
よかったですね〜。
もしかしたらりんごさんも2008年の手術ですか?
私もそうです。
リンパ浮腫なんですか。手術でなくてもドレナージやスリーブなどの
療法があるから、無問題ですよ。

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