綱引きで必ず勝利をもぎ取る方法清水女流王将 vs コンピュータ: 世紀の対局を楽しむために

2010年10月05日

J-CASTのサイトに行くと、右上にコアラのマーチの天気予報というバナーがあり、その下に「地域判定技術は(株)ジェイ・キャストの特許です(PAT.3254422)」という記載がある。

実は、この特許3254422号はJ-CASTが保有する極めて強力な特許である。概要はエリア・ターゲティング事業【J-CAST/ジェイ・キャスト】に記載してあるが、簡単にいえば、クライアントのIPアドレスに基づき、クライアントのアクセス元地域を判別し、その地域に合わせたコンテンツや広告を出すという特許だ。

あどえりあの特許概要説明図より引用



この特許の利用範囲は広い(活用イメージ)。たとえば、同じサイトにアクセスしても、ユーザの住む場所に応じてその地域に関する情報を配信したり、地域企業の広告を配信したりすることができる。その際、ユーザは住所や郵便番号を登録したりする必要が無い点がポイントだ。

そしてこの特許が強力なところは、その請求項が極めてシンプルな所だ。特許を知らない人のために説明しておくと、特許は、特許請求の範囲に記載される請求項(claim)に規定される要件を全て満たした場合に初めて抵触する。請求項に規定の要件の一つでも満たさなければ特許は回避できるので、シンプルな請求項ほど強力な特許と言える

特許3254422号の請求項1は次のとおりだ。

【請求項1】 通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供方法において、ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別ステップと、前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択ステップと、前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信ステップと、を有したことを特徴とするウェブ情報提供方法。

「おいて」の前はインターネットでは当たり前の話である。結局この方法は、

  1. クライアントのアクセスポイントのIPアドレスから、地域を割り出す。
  2. 割り出した地域に応じた広告を選択する。
  3. 選択した広告をクライアントに送信する。

の上記3ステップのみで構成されている。このように、余計な限定が全く含まれていないので、IPアドレスに基づく地域依存広告(エリア・ターゲティング)をしようと思うとこの特許を使わざるを得ない(携帯電話の基地局情報に基づいた地域依存広告なら抵触しない)。

ちなみに請求項2はIPアドレスの代わりに、APの電話番号から地域を判別する方法、請求項3ではAPの郵便番号から地域を判別する方法がクレームされている。

もちろん、方法クレームだけではなく装置クレームも請求項6として記載されている。

【請求項6】 通信ネットワークを介して、ウェブ情報をユーザ端末に提供するウェブ情報提供装置において、ユーザ端末に接続されたアクセスポイントが該ユーザ端末に割り当てた前記アクセスポイントのIPアドレス、およびIPアドレスとアクセスポイントに対応する地域とが対応したIPアドレス対地域データベースを用いて、前記ユーザ端末に割り当てられたIPアドレスを所有するアクセスポイントが属する地域を判別する第1の判別手段と、前記判別された地域に基づいて、該地域に対応したウェブ情報を選択する第1の選択手段と、前記選択されたウェブ情報を、前記IPアドレスが割り当てられたユーザ端末に送信する送信手段と、を有したことを特徴とするウェブ情報提供装置。

請求項6によってIPアドレスベースの地域判定を行う広告配信サーバも本特許の対象となる。

このように本特許は、極めて基本的なところを押さえており、回避も困難であると考えられる電通もあきらめたJ-Castの位置情報特許をめぐる熾烈な攻防では独自の特許価値評価指標であるパテントスコアでA+と極めて高い評価を行っている。2009年には特許無効審判を起こされるものの、有効との審判となり、もはや他社は諦めてJ-CASTのこの特許を使わざるを得ない状況にあるといえる。

2009年、J-CASTは電通と共同で株式会社あどえりあという本特許の管理会社を設立、2010年9月には博報堂DYメディアパートナーズとADKからの出資を受け入れ、その規模を大きくしている。あどえりあの事業内容は、この特許3254422号のライセンス許諾だけだ。本特許1つだけで会社ができる、そんな特許なのである。

ライセンス料金表を見ると、アドネットワーク事業社および広告代理店に関しては、登録料10,000円に加えて、広告費の1.5%ないしASP型サービス売上の3%を徴収する仕組みとなっている。特許3254422号を用いた広告を使うたびに、その一部があどえりあに支払われるのだ。特許3254422号の出願日は1998年10月26日。特許の有効期限は出願から20年、すなわち2018年なのでまだ当分の間有効だ。

特許制度は、特許権によって発明の保護と利用を図ることにより、発明を奨励し、また産業の発達に寄与することを目的とするとされている(特許法1条)わけだが、こうした極めて単純なアイデアが、高額なライセンス料を払わなければ使えない状況は、かえって産業の発達を阻害していないだろうか?

以前、『Appleの強力な特許群はAndroid端末/電子書籍端末の脅威になるかも知れない』でも紹介したように、ソフトウェアで攻撃に利用される特許の多くは、本当に特許すべきものか怪しいような極めて基本的なアイデアである場合が多い(もしくは規格特許)。そうした基本的な特許を回避するために、利用者の利便性を犠牲にして、機能を削ったり改悪したりする例はいくらでも挙げることが出来る。

もっとスマートなやり方はないものだろうか?

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この記事へのコメント

1. Posted by Herve Leger   2011年06月03日 12:51
その一部があどえりあに支払われるのだ。特許3254422号の出願日は1998年10月26日。特許の有効期限は出願から20年、すなわち2018年なのでまだ当分の間有効だ。

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