2012年02月13日

D.A.ノーマンが『誰のためのデザイン? 』で紹介した概念、アフォーダンス(affordance)は、UIデザインにおける基本的な考え方として受け入れられてきた。UIに関する書籍を紐解けば、アフォーダンスに関する解説を見つけることができるだろう。率直に言ってアフォーダンスの考え方を知らないUI屋、デザイナーはもぐりと看做してよい。

デザイン界におけるアフォーダンス

デザイン界においてアフォーダンスは、製品などのモノが、どのように扱われるべきか、どのような性質を持つものかが、ユーザに一目でわかるように付与された(主に)視覚的なサインの意味で使われる。わかり易い例を挙げると、アフォーダンスとは、踏んでは倒せないノコノコにトゲを付けるようなこと、と説明されている(下図)。トゲゾーはトゲという視覚的なサインによって、踏んではいけないというアフォーダンスをユーザに与えているのだ。

アフォーダンスを活用したデザインの例

しかし、実はこの用法は完全に間違っている。ノーマンは自身の最新刊『複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦』においてデザイン界におけるアフォーダンスという言葉に関する混乱を憂い、新たな用語を利用することを提唱している*1

複雑さと共に暮らす


知覚されたアフォーダンス

ノーマンが導入したアフォーダンスという概念は、もともと視覚認知学者であるJ.J.ギブソンが展開していたアフォーダンスの概念とは齟齬があった。ここで、J.J.ギブソンが提唱したアフォーダンスについてご存じない方は、以下に進む前に次の過去エントリを参照してもらいたい。世の中の見方を変える概念に触れることができるだろう。

アフォーダンスは、環境が動物に与える(afford)「価値」のことである。環境中のあらゆるものはアフォーダンスをもち、動物は環境からアフォーダンスを検索してピックアップすることができる。アフォーダンスは環境中に無限に存在し、それに気づくかどうかは個人の個性化した知覚システムに依存する。

一方、ノーマンはアフォーダンスがユーザに知覚されない限り存在しないも同然であるとした。そのため、デザイナーはユーザがアフォーダンスを知覚できるように「アフォーダンスを付ける」といった言い方をするようになった。これはアフォーダンスの本来の意味を考えると誤った用法である(アフォーダンスは必ずしも知覚可能である必要はなく、デザイナーがやったことは既にあるアフォーダンスを視覚化しただけである)。

ノーマンは自分の失敗を認め、本書において、デザインにおいて意味を成す「知覚された」アフォーダンスに対して「シグニファイア(signifier)」という言葉を提唱している。ノーマンは、アフォーダンスとシグニファイアを区別して利用することで、デザインの用語をより正確にすることを強く要請している。

シグニファイア

シグニファイアはそれが意図的かどうかに関わらず、ユーザを適切な行動へ導く知覚可能なサインである。デザイナーはシグニファイアを使うことで、ユーザと自然な形でコミュニケーションすることができる。シグニファイアは世界の中に自然な形に溶け込んでいるので、ユーザはコミュニケーションに苦労することが無い。ユーザは実世界の中からシグニファイアをピックアップし、意識せずともそれを正しく使うことができるのだ。

デザインの分野においては、もはやアフォーダンスという言葉は使わないほうが良い。デザイナーは知覚されたアフォーダンスだけに関心があり、それこそがまさにシグニファイアなのだから。もちろん、移行期には分かりやすさを考慮してアフォーダンスという言葉を使うのも良いだろう。しかし、UXなどに関する解説や講義、教科書などにおいては、アフォーダンスの代わりにシグニファイアという言葉を使う事が望ましい。

先のトゲゾーのデザインは、トゲというシグニファイアをうまく活用した例だ(アフォーダンスといいう言葉はもはや適切でないので、シグニファイアに変えて再掲する)。デザイナーは、踏んだら怪我をするトゲというシグニファイアを通して、ユーザに自然にトゲゾーを踏んではいけないという事を伝えることに成功している。文字が読めない子供にも伝えることができるという点で極めて優れたサインだと言える。

シグニファイアを活用したデザインの例

適切なシグニファイアを与える技法は、デザインの中で重要な位置を占める。優れたデザインとは、美的にも機能的にも洗練されているだけではなく、適切なシグニファイアによってユーザができる行動の範囲を伝えるもので無くてはならない。優秀なデザイナーはシグニファイアというコミュニケーションツールを用いて、ユーザと自然に誤解なくコミュニケーションが取れる人の事を指すのである。

シグニファイアという言葉は、アフォーダンスに代えて、UI、UXデザインにおいて重要なキーワードとなる。UI屋はもちろん、ユーザも覚えておくと様々な場面に応用の効く概念なので、気に留めておくときっと今まで気づかなかったサインに気づくことができるようになるだろう。

脚注

  • *1: ノーマンは、『複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦』において、複雑さをいかに扱うかということをについて多くの紙面を割いている。一般的にシンプルなデザインが優れたデザインとされる場合が多いが、シンプルさも混乱を与える元となる。シンプルな操作系を体現したと言われるiPhoneは果たして使いやすいのか? 複雑さと共に暮らすためにデザインはどうあるべきなのか、興味深い論説が展開されているので、UI屋ならずとも一度読んでみてもらいたい。

参考書籍

 

参考エントリ



lunarmodule7 at 00:10│Comments(0)TrackBack(0)││Computer Science 

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