2013年01月20日
Good UI≠Good UX
UIとUXについてはその理解について多くの議論がなされてきた。たとえば、Googleの及川氏は「写真が語るUXとUIの違い」というエントリにおいてコーンフレークの例を元にUIとUXについて説明したが、その後、ERATOの渡邊氏が「1分でわかるUIとUXをわかりやすく説明する写真とお話」というエントリにおいて、ATMを例によりわかりやすい説明を挙げている(次の写真は当該エントリからの引用)。

この例ではたとえUIが素晴らしくても、そのATMは時間がかかるため、長い待ち時間ができ、結果としてUXが損なわれる場合を示している。
しかしながら、実際にはATMの劣悪なUIが悪いUXの原因となっている可能性があり、本当にこのATMのUIは素晴らしいのかという疑問が残る。つまり「Good UI ≠ Good UX」の例になっているのかという疑問が生じるわけだ。UIとUXの良し悪しが相反するような例は無いものか、と心に留めていたところ、先日らばQでピッタリの例を見つけたので本エントリで紹介したい。
荷物の待ち時間が長いというクレームを激減させた方法
米国ヒューストン空港では、以前より手荷物引渡所(Baggage Claim)の待ち時間が長いという顧客からのクレームに晒されてきた。空港は増え続ける不平に対処するために、スタッフを増員することにより、平均待ち時間を8分までに短縮させることに成功したが、それでも苦情の数は減らなかった。
そこで、空港がとった方法は、「手荷物引渡所までの距離を延ばし、客に空港内で長い距離を歩かせるようにした」というものだ。

ヒューストン空港の新手荷物引渡所(New Baggage Claim at Hobby Airport Opensより)
最初に空港は乗客の動きを注意深く分析した。調査結果によれば、平均的な乗客たちは、到着ゲートから手荷物引渡所まで1分歩き、そこで7分待ってようやく自分の手荷物を受け取っていた。実に88%もの時間を手荷物引渡所でただ立って待つことに費やしていたのである。これが乗客の不満を増幅させていたのだ。
そこで、空港は到着ゲートをメインターミナルから離し、手荷物を最外部のコンベアに載せた。これにより、乗客は手荷物引渡所まで6分も歩くことになったが、苦情の数はほぼ0まで激減したのである。

ここで、最終的に乗客が手荷物を得るのにかかる時間は以前と全く変わっていないことに注意してほしい。それにもかかわらず、乗客の満足度は飛躍的に改善されたのだ。
UIの改悪がUXを改善
ここで手荷物引渡所というUIを考えてみると、機能自体は全く変更がなく、ただ場所が6倍も遠い場所に移動しただけだ。すなわちUIという観点から見ると、ユーザから遠くなった分改悪されたことになる(実際には電光掲示板や照明の改善がなされているが全体に占めるウェイトはわずかだ)。それにもかかわらず明らかにUXは改善されたのだ。良いUIが良いUXを実現せず逆に悪いUIが良いUXを実現する場合もあるのだ。
以下はWhy Waiting Is Tortureからの抄訳となるが、人は何かしている時(手荷物引渡所に歩いている時)には、何もせずただ待っている時(コンベアの前で立っている時)よりも、時間を短く感じる。研究によれば、人はただ待っている時間を平均で36%も長く過大評価するという。
人のこの特性は他の所でも応用されている。例えばエレベータの横に鏡が設置されている場合があるが、鏡があることで人は身だしなみのチェックなどを行うことができ、結果としてエレベータの待ち時間を短く感じる。また、スーパーマーケットのレジ前に置かれたガムなどの商品は、レジの待ち時間を短くする効果を与えると共に、スーパーマーケットに年間55億ドルもの収益を与えている。
また、人はいつまで待たされるのかわからない状況に置かれるとストレスを感じる。そのため、適宜予定待ち時間を伝えることは有効だ。更に言えば、待ち時間が想定よりも短かった場合、人は嬉しく感じる。そのため、ディズニーランドにおけるアトラクションの待ち時間は想定よりも長めに提示される。また高速道路の渋滞抜け時間も長めに提示される。人は思ったよりも早くスペースマウンテンに乗れたり、渋滞を抜けられたりすると嬉しくなるのだ。
INSEADの研究によれば、長い待ち時間の最後の瞬間が全体の印象を大きく左右するという。たとえば、うんざりするほど長い時間待たされたとしても、最後の瞬間に列のスピードが上がったりすると、人は待った経験をよりポジティブに捉える傾向があるという。一方、全体としてはましだった場合でも、最後に不快な事があれば、否定的な感情が支配的になる。
デザイナが制御可能なものはUIに限られる場合が多い。その上でUXを改善しようとすると、基本的には良いUIを提供すれば良いことになるが、ユーザが置かれている状況、コンテキストを考慮すると、必ずしも良いUIが良いUXを生むわけでは無いことがわかる。良いUIは良いUXの十分条件ではないし、必要条件ですらない場合もある。デザイナはUIを設計する際に、それがどのような状況で使われるのかを考慮し、UXを最大化させるようなUIにしなくてはならない。
参考文献
今や良いUI/UXの設計には人間の心理に対する理解が不可欠だ。インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針はインタフェースデザインに関わる心理学の知見のインデックスを与えてくれる良書である。例えば本エントリに関連する項目としては、「036:時間は相対的である」「038:人は「フロー状態」に入る」などがある。ただし、心理学という特性上、本書籍で断定的に記載されていても、それを鵜呑みにすることも危険だ。
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一方、渡邊氏に教えていただいたのだが、待ち時間革命では、待ち時間が0でもダメで、待たされ方の質が重要であるとの知見を、医療サービスのマーケティングの観点から述べている。たとえば、患者を待たせないとかえって医療技術の高さが疑われイメージが損なわれるそうだ。UXを考える上で重要な視点となるだろう。
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この記事へのコメント
UIがもたらす体験領域の話は、UIの領域内で出来ますし、そこをUXと混ぜちゃうからごちゃごちゃした結果、UXとUIの違いが分からなくなって、色んなところで何十回も解釈し直す羽目になってる様に思えます。ここでいう、UIの改悪も、普通ここまで考えてUIは作るなので『UIの改善』だと思います。
UXはUXでどういうUXがユーザーの欲求(潜在的なものも含めて)を満たすのか、UIはUIでどうすればその欲求達成のためのストレスを軽減できるか。ってところが大事で、少なくとも海外のUXデザイナーはそういう受け取り方をしてる人の割合が多く見えます。以下リンク先のDiagram、Spectrumの図がそれに当たると思います。
http://www.quora.com/User-Experience/Whats-the-difference-between-UI-Design-and-UX-Design-1