2010年09月24日


図1: ペーパークラフト作例

日本で古くから親しまれている折り紙。最近もはてなブックマークニュースで様々な折り紙が紹介されており、紙から折り出される無限の可能性を感じることができる。

折り紙に関する研究は結構盛んに行われており、折り紙幾何学を扱った集大成的なテキストとしてはGeometric Folding Algorithms: Linkages, Origami, Polyhedraが挙げられる*1。東京大学の舘助教は任意の多面体を折りだす折り紙を自動的に生成するアルゴリズムを提案している*2。曲線を許す折り方に関しても研究がなされている*3。紙の切断を許すとさらに形状は複雑となるが、今後その方面の研究も進むと見られる。

今回のエントリで紹介するのはSIGGRAPH 2010で発表されたポップアップ型のペーパークラフトを自動生成する研究"Popup: Automatic Paper Architectures from 3D Models"である*4。図1は一番左の入力の3Dモデルに対し、自動的にペーパークラフトの平面図を生成し(中央)、実際に作ってみた例(一番右)である。紙を持ち上げると、それにともなって立体がポップアップするペーパークラフトの生成が本研究の目的だ。既存手法*5では、安定した形状を保つポップアップモデルを生成することが出来なかったが、本手法ではしっかりした形状を保つペーパークラフトを自動的に生成することに成功している。


本エントリでは論文及びプレゼン資料を参照して本研究を紹介する。本エントリで利用する図表は全て前記論文からの引用である。



ポップアップ型ペーパークラフト


図2: 茶谷正洋氏による折り紙建築、Marivi Victoria Garrido Bianchini & Ingrid Siliakus

茶谷正洋氏が1980年代に考案した折り紙建築(オリガミック・アーキテクチャ)は、1枚の紙に切れ目を入れて、折り曲げることによって作成される。折り曲げられた紙を開くと、それにしたがって、3Dモデルが立ち上がるというものだ。たとえば、art in the gallery of Ingrid Siliakusには、人の手による微細極まるペーパークラフトの作例が数多く紹介されている(図2は茶谷氏及びIngrid Siliakusの作例である)。こうしたペーパークラフトのデザインにはセンスと熟練の技術が必要なのは言うまでもないが、本研究はそれを自動化することを目指したものだ。


図3: ペーパークラフト平面図とポップアップ時

図3は本研究で生成するペーパークラフトの平面図(a)とそれがポップアップした時の様子(b)を示している。ペーパークラフトは1枚の紙から構成され、紙には山折線(赤)、谷折線(青)、切込線(黒)が形成される。90度で交わる地面と背景の2つの基礎面から、所望のモデルがポップアップするわけだ。モデルを構成する各面は、ペーパークラフトの平面図上にあって、互いに交錯することも重複することもなく、基礎面と山折線もしくは谷折線を介して繋がっている。


図4: 安定な面と不安定な面

図4(a)はペーパークラフトを構成するそれぞれの面に番号を振ったものだ。本研究では簡単のために、ポップアップした状態において、モデルを構成する各面は背景P1もしくは地面P2に平行な状態で安定するように作られる。図4(a)において、各面はより若い数字をもつ面によって支えられている。

ここで、安定したペーパークラフトを実現するための条件を考えてみよう。図4(b)の階段状の形状は、図4(c)のように簡単に形を変えてしまう。図4(b)のような形状で安定させようとすると別の力を加えることが必要であるため、図4(b)(c)で示すような階段状の構成は安定でない。一方、図3(a)や4(a)は安定した形状を実現している。

厳密な証明は論文を参照いただくとして、簡単にいえば、安定したモデルを構築するには、各面が安定した別の面に支えられていれば良い。まず背景P1および地面P2は単独で安定しているとする(金属のような硬い平面だと考える)。図4(a)のP3およびP4の2つの面は背景P1および地面P2によって支えられている。直行した2つの安定した面によって連接する2面を安定的に支えることができる。これが2つの面を超えて階段状に連なると図4(b)(c)に示したように不安定になる。続いて、面P5は平行する2つの面P1およびP4に支えられている。平行した2つの安定した面によってその2面を結ぶ1つの直交面を支えることができる。結果として、ここに挙げた2種類の支え方だけを組み合わせてモデルを構成すれば、そのモデルは安定する。

生成アルゴリズム


図5: 生成アルゴリズム

図5は本研究の生成アルゴリズムの様子を示したものだ。まずユーザは図5(a)に示すように3Dモデルを入力して地面と背景を設定する。その後、以下に示す3つのステップを経て、ペーパークラフトが自動的に生成される。

  1. 折り出し可能なモデル抽出:まず入力されたモデルを折り出し可能なモデルに変換する。ここで折り曲げ角度は90度に限定しているので、XYZ平面上に格子状に仮想的な立方体が並んでいる様子を考える(デカルト格子)。格子状に並んだ立方体の集合によって、入力モデルに近い形状を構築する(図5(b))ことによって、折り出し可能なモデルを生成することができる。
  2. 安定化:生成されたモデルは形状こそ入力モデルに近いが、前節で述べたような階段状の形状を有し、必ずしも安定では無い。そこで、デカルト格子の条件を保ったままで、不安定な部分を安定になるように修正する作業を行う(図5(c))。
  3. 細部調整:最後に細かくジグザグになっているような部分を滑らかに調整することによって、全体の形状をリファインする(図5(d))。アーチ状になった部分などが修正されていることが分かるだろう。


図6: 安定な面への置換

図6は第2ステップに当たる安定化の様子を示したものだ。赤色の線で示した階段状の面Sは前述のように安定しない。そこで、地面と背景の2面で支えることが可能な、青色で示した面S0で置き換える。ここで置換前後の形状の差が最小化されるように、S0を選択するのである。


図7: 安定な面の増築

図7は安定した背景と地面から開始して安定な面を増築していくアルゴリズムの様子を示したものだ。図7(a)が上記のステップ1で構築された初期の折り出し可能モデルである。初期状態で安定と分かっているのは、図7(b)で示した背景と地面の2面となる。この2面を足がかりに、安定な面によって支えられる新たな安定な面(紫)を少しずつ増やしていく(図7(c)(d))。もしくは安定な面を横に広げて、新たな面を大きくしていく(図7(e))。このように少しずつ安定な面の増築を繰り返していくことで、最終的に安定なモデルが構成される(図7(f))。

生成結果


図8: ペーパークラフト生成結果


図9: 紙による作例

図8は本アルゴリズムによって生成したペーパークラフトの例を示している。細かな形状がよくペーパークラフトとして再現されていることが分かるだろう。図9は実際に紙を切ってペーパークラフトを作ってみた例だ。こうしたモデルを人手で作るのはある種のセンスが必要となるが、本アルゴリズムを用いれば全自動で構築することが可能だ。

図10: 基礎面を変えた例 図11: 装飾加工をくわえた例

図10はマヤピラミッドを地面、背景の基礎面の設定を変えて構築した例を示している。図11は最終的に得られたモデルに孔を開けたりスロープを設定したりして、細部を人の手で修正した例を示している。こうした修正を施しても、モデルの安定性には変化がない。


図12: 人手による作品との比較

図12は本アルゴリズムが生成した結果(左)と、人の手によって作られた洗練されたモデル(右)とを比較した様子を示ししている。人の手によるドーム部分の表現には高い技巧が駆使されており、まだそこまでの表現力は得られていないのが現状である。しかし、ペーパークラフト構築で最も困難な安定してポップアップ可能なモデルの構築をリアルタイムに行うことができる上、表現上大きな効果を有する細部の見かけ(窓の形状など)の修正は上述のように簡単に行うことができるため、本アルゴリズムは有用だと言えるだろう。

図13: 極端な形状への適用例 図14: 一般的なモデルへの適用例

図13は2つの極端なケースに本アルゴリズムを適用した結果である。図13(a)は宙に浮いている立方体で、図13(b)は半分に割ったトーラスであるがやはり無理がある。図14は建築物以外の一般的な3Dモデルに適用した結果だが、デカルト格子で表現が困難な形状はそもそも1枚の紙からポップアップさせることが難しく、複数枚の紙を組み合わせることが必要になるだろう。

おわりに

電子書籍の普及にともなって紙の書籍の行く末が心配されている昨今だが、紙もコンピュータによる支援によってこんなに面白い新たな表情を見せてくれる。Augmented Realityによる投影技術と組み合わせれば、実際に触れ合えるモデルを構築することも可能かもしれない。

本アルゴリズムを実現したソフトウェアであるDownload Paper Architecture Makerが配布されている。手近な3Dモデルを使ってペーパークラフトを作ってみてはいかがだろうか?

脚注

  • *1:DEMAINE, E., AND O’ROURKE, J. 2007. Geometric Folding Algorithms: Linkages, Origami, Polyhedra. Cambridge University Press, Cambridge.

  • *2:TACHI, T. 2009. Origamizing polyhedral surfaces. IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics 16, 2, 298-311.

  • *3:KILIAN, M., FL ¨ ORY, S., CHEN, Z., MITRA, N. J., SHEFFER, A., AND POTTMANN, H. 2008. Curved folding. ACM Trans. Graphics 27, 3, 75:1-9.

  • *4:Xian-Ying Li, Chao-Hui Shen, Shi-Sheng Huang, Tao Ju, and Shi-Min Hu. Popup: Automatic Paper Architectures from 3D Models, ACM Transactions on Graphics (Proceedings of Siggraph 2010), 29(4): article 111.

  • *5:MITANI, J., SUZUKI, H., AND UNO, H. 2003. Computer aided design for origamic architecture models with voxel data structure. Transactions of Information Processing Society of Japan 44, 5, 1372-1379.

参考書籍

Geometric Folding Algorithms: Linkages, Origami, PolyhedraGeometric Folding Algorithms: Linkages, Origami, Polyhedra
著者:Erik D. Demaine
販売元:Cambridge University Press
発売日:2007-07-16
クチコミを見る

関連エントリ



lunarmodule7 at 07:24│Comments(0)TrackBack(0)││Computer Science 

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字