2016年02月07日

フランクのピアノ五重奏曲

フランクの作品は以前からわりと苦手だったの
ですが、最近ようやく心理的な抵抗なく聴ける
ようになってきた気がします。一度苦手意識を
持つと、それを克服するまでに数年かかるのが
しんどいですね。

心理的な抵抗なく、とは言え、何でもよく
聴きますとはならず、結局有名どころばかりを
反復して聴いているという感じです。ここ
しばらくは、ピアノ五重奏曲を集中的に聴いて
いました。この曲、非常にいいです。

何がいいかといえば、ちょっと表現しづらいの
ですが、かっちりしていて、そのくせやたらと
情熱的なところですかね。なんだかとにかく
訳のわからないむちゃくちゃな盛り上がりが、
なんともたまらないというか。

曲は急−緩−急の全3楽章。ピアノ五重奏曲は
3楽章形式が主流なのか、4楽章形式が主流
なのか、今ひとつよくわからないのですが、
あまりややこしくならないという意味では、
いいのかもしれません。とはいえこの
フランクの五重奏曲は十分にややこしい曲では
ありますが。

第一楽章は序奏の付いたソナタ形式。冒頭の
弦による強奏とそれに答えるピアノの神秘的な
呟きがいきなり深い印象を与えます。それが
いくつかやり取りを繰り返したあとで、
ピアノが激しく盛り上がって、主部。

主部の展開は形式感と曲想の緊迫感が際立った、
非常に計算されたもの。いくつかの主題が
登場しますが、後々、循環主題として第2、
3楽章にも登場してくるものもあります。この
第一楽章の完成度は、フランクの交響曲を
思い起こさせるものがあります。

三部形式の第二楽章は淡々と静かに、しかし
淡い悲しみのような感情がこもった展開。
中間あたりで第一楽章の主題が挟まれ、少し
光が差したような印象を与えますが、やがて
最初の感情に戻って、静かに終わる。

この静かな第二楽章とは好対照な展開と
なるのが最後の第三楽章で、謎めいた不穏な
雰囲気の序奏から、火を吹くような激しい
展開になる。これも交響曲の第三楽章を
思わせるような、ロジックと情熱の見事な
結合ですね。第二楽章と第一楽章の主題も
絶妙に顔を出して、最後は長い盛り上がりの後
で弦とピアノが共に激しく和音を叩きつけて、
唐突に終わる。

この曲、初演は1880年で、
サン=サーンスがピアノを弾いたそう
ですが、献呈まで受けたのに、曲自体は
気に食わなかったらしいという話が伝えられて
います。その理由はわかりませんが、まあ、
サン=サーンスの芸風とフランクの芸風は、
根本的なところで合っていないような気も
するわけで。

ぼくの持っている録音は、古いのを中心に
いくつか。まあ懐古趣味みたいなものです。
録音年代順(括弧書き)でご紹介します。
この曲は、弦を主体と見るべきか、ピアノを
主体と見るべきかで、演奏の方向というか
傾向がやや異なってくるような印象があります。そ
のへんを聴き比べてみるのも、ちょっと
面白いかと。

・コルトー&インターナショナルQ(1927)
 http://www.amazon.co.jp/dp/B008V1IR4Q/
独奏は序奏ではやや抑え目ながら、
全体的には粘る感じです。弦は時代的なと
ころはありますが、わりとさっぱりで品がよい
演奏をしています。ピアノと弦が一緒になる
ところは、それほどどぎつさは感じられません。
これはコルトーが弦に合わせているということ
なのかもしれませんが。しかしこの時代の
コルトーはやはり強烈なところがあって、下から
時にずっしりと、時に寄り添うように、弦を
自在に支える感じがあります。

・シャンピ&カペーQ(1927−28)
 http://www.amazon.co.jp/dp/B000001ZFG/
カペーの澄んだ気品のある音色と、今と
なってはなかなか得難い典雅なポルタメントが
見事です。昔から評価の高い演奏ですが、
とにかくこの第一ヴァイオリンの響きが、
アンサンブル全体の響きを凛としたものにして
いるようです。とりわけ、第2楽章の静かな
張り詰めた緊張感が素晴らしい。

・カーゾン&ヴィーン・フィルハーモニーQ
 (1960年)
 http://www.amazon.com/dp/B00000E3OS/
カーゾンが思いのほか強力です。モーツァルト
演奏の可憐な演奏の印象が強いので、やや
意外でした。四重奏はと言えば、音色も
アンサンブルも実に絶妙で、室内楽的に非常に
よくまとまっている印象です。ヴィリー・
ボスコフスキーのヴァイオリンの、磨きが
かかった純粋な響きと品のよいポルタメントは、
聴いていて本当に見事です。

・ハイフェッツ&ベイカー&プリムローズ&
 ピアティゴルスキー&ペナリオ(1961)
 http://www.amazon.co.jp/dp/B00005S059/
ハイフェッツのあの独特なハードな語り口が
前面に出た、辛口な演奏です。共演者の技量は
さすがですが、しかしこれはハイフェッツの
世界かもしれませんね。全体的に弛緩する
ところがなく、要するに、聴いていて息をつく
ヒマがない感じ。しかしこれは演奏の性格と
いうだけではなく、この曲の持つ一面でも
あるわけで。

・ペルルミュテール&パレナンQ(1967)
 http://www.amazon.co.jp/dp/B00005B687/
古さを感じさせる録音で、弦はともかく
ピアノの細かなニュアンスが正確にわかるかは、
残念ながら謎です。しかし冒頭から、非常に
テンションの高い表現が聴かれる。ピアノも
このピアニストにしては異例に思えるほどの
力強さで、まさしくデモーニッシュな演奏と
言ってよいと思います。終盤の熱さは圧倒的。

・ユボー&ヴィオッティQ(1983)
 http://www.amazon.co.jp/dp/B00005HH9I/
ぼくの持っている録音では、どうもこれが
一番新しい録音のようです(笑)。冒頭から
独奏と弦の語り口と呼吸が絶妙でいきなり
聴き惚れてしまいます。ピアノは十分に力強く、
弦も芯のある毅然とした表現。最終楽章は、
激しい高揚感という点で、やや大人しかった
かもしれません。

フランクの曲でまだ手を出していないのは、
オルガン曲と交響詩かな。まあそれは
そのうちに。

最近観たアニメ。
・『ZONE OF THE ENDERS 2167 IDOLO』
 http://www.amazon.co.jp/dp/B0085Q2R3O/
 『ZONE OF THE ENDERS Dolores,i 』
 http://www.amazon.co.jp/dp/B0085Q4UHK/

2001年の作品で、今から観ると、だいぶ
古さを感じる画像ではあります。『IDOLO』は
前日譚のOVA。TVシリーズの
『Dolores,i 』の方は、全26話。

どうもゲームもあるらしく、そちらまで
含めての作品世界らしいのですが、ぼくは
ゲームはあまりしないひとなので、アニメの
方だけで。

TVシリーズ、主人公が玄田哲章さんと
いうのがなんとも渋いというか。そして
ロボットが桑島法子さんの声で最後まで
行ってしまうという、このアンバランスが
なんとも。その評価はひとによって違うかも
しれませんが、作品自体は、非常に充実して
います。

ワケありなおっさんが、突然妙な事態に
巻き込まれ、ロボットと不仲な子供と一緒に
逃避行、というのが超大雑把なストーリーで、
そこに未来世界のいびつな社会像や俗世界の
ごたごたが織り込まれ、そのうちに地球の
危機!的な陰謀やらも姿を現していく。
人間くささと、妙に壮大なスケール感が
絶妙。

OVAはこのTVシリーズに繋がる因縁話を
1時間弱で収めたもので、この一連のお話の
発端が悲劇的なものであったことをはっきりと
示します。これはTVシリーズと併せて観る
べきものでしょうね。

最近のSFロボットアニメは、どうも設定やら
道具立てやらの扱いが負担になって、
ストーリーがだんだんとあっぷあっぷして
いくのが見えるものが多い気がするのですが、
こういう背景設定とストーリー展開が終始
きっちりコントロールされた作品というのは、
やはり絵が多少古くても、面白いです。
SFアニメはこうでないといかんという感じ。

玄田氏の声の渋さとコミカルさも出色で、
それに加えて桑島法子の女子声が妙にはまって
います。個人的には、OVAとTVシリーズ
後半から出てくる榊原良子さんの声が、なんとも
懐かしいというか、凛とした大人の女性声とは
こうでないといかん、というある種の原像の
ような風情があります。とにかく久々に
ハマーン様の声を聴いたなあ。

最近読んだまんが。
・辻灯子『敗者復活戦!』第1巻、芳文社
 http://www.amazon.co.jp/dp/4832254561/
 (元OL&女子高生古本屋まんが。
 相変わらず微妙に ネタがわかりにくかったり
 するのですが、不思議な 安定性のある作風の
 まんが家さんです。にしても このひとの作品、
 そろそろ何か新刊でるかなと思いつつ 本屋に
 行ったらあったという不思議に絶妙な
 タイミング。)

フランクで録音紹介一つ忘れてましたので、
追記。(2016.3.6)

・フランソワ&ベルネードQ(1970)
 http://www.amazon.co.jp/dp/B004258ATM
フランソワの珍しい室内楽録音です。
第一楽章からテンポをじっくりととった、
非常に濃密な演奏。フランソワは合わせもの
だとそれほどやりすぎないというか、さすがに
アンサンブルを考えた弾きぶり。ピアノは
独特に粘るし、弦もそれに引っ張られる格好
なのですが、意外なほどに絶妙な
アンサンブルです。とにかくフランソワの
ピアノの響きがなんというか、まさに
フランソワ的な眩暈のするような鮮烈な輝きを
放っています。魂を持って行かれそうな演奏。
ちなみに録音はピアニストの突然の死の
数ヶ月前。貴重な記録。

m-90_44975 at 23:27コメント(0) 
趣味的及学問風雑記 

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